趣味のインターネット地図ウォッチ

スマホの加速度センサーでトンネル内も自車位置に追従、「Yahoo!カーナビ」に搭載予定の新機能を実走車両でテスト中

ヤフー 地図/カーナビ作りの現場を訪ねて名古屋・東京〜第3回

 インターネットの地図サービスとして長い歴史を持ち、ウェブの地図サイトおよびスマートフォン向け地図アプリの双方で大きな存在感を放つ「Yahoo!地図」。2014年には新たにiPhone/Android向けカーナビアプリ「Yahoo!カーナビ」も無料で提供開始するなど、ヤフー株式会社では地図を活用したユーザーの課題解決に積極的に取り組んでいる。

 今回は、そんな同社の地図/カーナビの企画・開発部門(メディアカンパニー 生活メディア事業本部に所属)を取材した。そのレポートを3回に分けてお届けする。


「Yahoo!カーナビ」のスタッフを多く抱えるヤフー株式会社の東京オフィス

「Yahoo!カーナビ」の開発チームが多く在籍する東京オフィス

 ヤフーの地図/カーナビ部門の拠点は、東京・名古屋・大阪の3都市に分散しており、第1回第2回では、この中で最大規模を誇る名古屋支社の取り組みを紹介した。一方、このほかのオフィスではどのような業務を行っているかというと、東京本社には「Yahoo!カーナビ」の企画・開発チームと、「Yahoo!地図」の検索データベースのチームが在籍しており、大阪支社にはAPIおよび描画エンジンの開発チームが在籍している。今回、「Yahoo!カーナビ」のスタッフを多く抱える東京本社にも取材した。

カーナビ関連の部署

 「Yahoo!カーナビ」がリリースされたのは2014年7月31日のこと。お盆休みの直前ということもあり、ダウンロード数は急激な伸びを見せて、リリースから23日目となる同年8月22日には早くも100万ダウンロードを達成した(本誌2014年7月31日付記事『ヤフー、VICSに対応した無料アプリ「Yahoo!カーナビ」、Google Mapsに対抗』、2014年8月25日付記事『無料アプリ「Yahoo!カーナビ」が100万ダウンロード突破、公開から23日で』参照)。

 「Yahoo!カーナビ」の最大の特徴は、多機能にもかかわらず完全無料で利用できる点だ。GoogleマップやiOSの標準マップアプリ(Apple Maps)を除くと、多くのカーナビアプリはアプリ自体が有料か、またはアプリ内課金を支払って利用する形態となっているが、「Yahoo!カーナビ」はVICS交通情報も含めて無料となっている。同アプリは2015年5月にはVICSに加えて新たにプローブ情報を活用した渋滞情報にも対応したほか、2015年8月にはオービス情報にも対応するなど、さまざまな機能強化を図っている。ダウンロード数は2015年9月現在で500万に達しているという(本誌2015年5月14日付記事『「Yahoo!カーナビ」でユーザーの走行ログを収集して渋滞情報を提供、まずはAndroid版で開始』、2015年8月5日付記事『「Yahoo!カーナビ」にオービス通知機能を追加、地図と音声でお知らせ』参照)。

「Yahoo!カーナビ」
バードビュー表示
高速道路上では分岐の案内イラストや規制情報を表示
ETCのレーン情報も表示

 「Yahoo!カーナビ」で使用している道路ネットワークデータや施設検索データ、ルート検索エンジン、家形(建物の形状)データなどは、「Yahoo!地図」の地図データとは別のものとして運用されている。第1回で紹介したように、「Yahoo!地図」の地図データはゼンリン製のデータを使用しているが、「Yahoo!カーナビ」の地図データおよびナビゲーションエンジンは住友電工システムソリューション株式会社が提供している。

 なお、住友電工システムソリューションが提供する地図データは、地図アプリ「MapFan」の提供会社であり、パイオニアのグループ会社であるインクリメントP株式会社が整備しているデータを使用している。

 地図データの更新についても基本的には住友電工システムソリューションが行うが、新規開通道路や新規施設のオープンなどに合わせて、「オープン当日にすぐ使えるようにしてほしい」とヤフー側が要望を出して整備してもらうといった取り組みは行っている。施設の到着地点情報について、ユーザーから「ルート検索を行ったら、施設の入口から遠く離れた場所に案内されたので修正してほしい」という要望が寄せられた場合、ヤフーが独自にデータを修正することもある。

カーナビアプリ開発スタッフの1人、北川哲氏
今年8月に出稿した「Yahoo!カーナビ」新聞広告(名古屋オフィス)
フィールドテストに使用する車載クレードル(名古屋オフィス)

テスト車両はカーシェアリングで用意

 地図データやルート検索などの基本機能は社外で整備している一方で、描画エンジンやUIなどはヤフーのスタッフが企画・開発を行っている。もちろん、VICSやプローブ情報、オービス情報などの便利な新機能を追加することも重要な役割の1つだ。

 このような機能強化の取り組みを支えているのは、開発スタッフによる入念なフィールドテストだ。新機能のリリース時だけでなく、新OSや新機種がリリースされた場合も動作チェックは必要であり、名古屋オフィスではiOS、東京オフィスでAndroidの動作検証作業を行なっている。

 検証作業にあたっては、専用車両を保有しているわけではなく、カーシェアリングを活用する。車両はプリウスやインサイト、デミオなど小さな車を選択することが多い。これにドライバー、スマートフォンを操作する人、デバッグを行うエンジニアなど計3〜4人が乗って街中を走り回ることになる。テストは複数台のチェックを同時に行うため、多数の端末をクレードルで固定する。利用する車種は毎回異なるため、セッティングにはかなりの手間がかかるという。機種ごとの挙動の違いをチェックするほか、到着予定時刻の精度など、他社のナビアプリとの比較を行うこともある。

 テスト時は、昼ごろから夕方にかけて、休憩時を除いてずっと走り続けていることもある。ときにはカーシェアリングを利用せず、バスに乗って検証を行うときもあるそうだ。バスのときはクレードルで端末を固定することはできないので、端末をずっと手に持ったままアプリの挙動をチェックすることになる。

テスト時の様子
後部座席でエンジニアがデバッグを行なう

スマホの加速度センサーを利用してトンネル内での自車位置を表示

 今回の取材では、このフィールドテストに同行するとともに、カーナビサービスマネージャーの兵藤安昭氏に話を聞いた。このときのテスト内容は、移動する自車の位置をトンネル内でも表示する新機能の検証作業だ。「Yahoo!カーナビ」では現在のところ、トンネルなどに入ってGPS電波が届かなくなると、自車位置のアイコンがGPS電波の途切れた場所で動かなくなってしまうが、これを改良し、トンネル内でもスマートフォンの加速度センサーを検知して、自車アイコンがそのままトンネルの中に入って進んでいくようにする。

 「以前から、『トンネルの中に入ると自車アイコンがストップしてしまうのでなんとかしてほしい』という要望が多くのユーザーから寄せられていたので、これを改良したいと思っていました。トンネルに入る前の進入速度をもとに、マップマッチングを行って道路に沿って自車アイコンを動かすわけですが、進入速度だけでは、もしトンネル内に渋滞が発生した場合に、自車アイコンが勝手に動いてしまうことになります。これを避けるために、加速度センサーによる速度検出を行い、トンネル内で車両が停止した場合も、それを検知できるようにしようと考えています。」(兵藤氏)

 六本木のオフィスを出発したテスト車両は、まず乃木坂トンネルに入り、次に五反田に出てから首都高速中央環状線に入り、山手トンネルへと進んで池袋まで進んだ。トンネルの中では随所に渋滞が発生し、トンネル内の挙動をチェックするのには最適な環境となった。Android端末は機種によってそれぞれ加速度センサーの特性が異なるため、調整が難しい。デバッグ担当のエンジニアである北川氏がノートPCのディスプレイをじっと見ながら作業を続ける。

 実はこの機能は当初、今年8月にリリースする予定だった。慎重なテストと調整を重ねたため、提供開始が遅れているが、今秋にはリリースする予定だ。このような細かい検証作業を積み重ねることにより、ナビアプリとしての使い勝手の良さを追究している。「将来的には、OBD(On-board diagnostics)に接続する端末を用意し、Bluetoothでスマートフォンと接続することも考えています」(兵藤氏)とのことだ。

兵藤安昭氏
トンネル内でも自車位置を正しく表示

30kmの走行でグリコの「ジャイアントコーン」がもらえるキャンペーン

 このような新機能の追加は、ユーザーから寄せられる要望をもとに導入する優先順位を決めており、これまでにもプローブ情報やオービス情報などさまざまな強化を図ってきた。

 「今年7月でリリースから1年が過ぎたわけですが、これまでの1年間はとにかくユーザーを増やしていくことを目標としていました。そのため、プローブ情報やオービス情報などを追加することでカーナビとしての機能を充実させるとともに、品質向上を追究しました。これにより、かなりユーザーも増えてきましたので、今後いろいろとビジネス的にも仕掛けていこうと考えています。」(兵藤氏)

 その取り組みの1つが、8月13〜17日に開催したキャンペーン「おつかれさまです! ジャイアントコーンキャンペーン」だ。これは、キャンペーン期間中に「Yahoo!カーナビ」アプリにおいて、ナビゲーション機能を利用して30km以上走行すると、江崎グリコのアイス「ジャイアントコーン」のクーポンコードをプレゼントするという企画だ。商品の引き換えはファミリーマートの店舗で行える(「ケータイ Watch」2015年8月3日付記事『30kmの走行でジャイアントコーンをプレゼント、Yahoo!カーナビのキャンペーン』参照)。

「おつかれさまです! ジャイアントコーンキャンペーン」プロモーションサイト

 「『走行距離に応じてなにかがもらえる』というキャンペーンを行ったのはこのときが初めてで、ユーザーからの反響も大きかったです。カーナビをプラットフォームとして、このようなマーケティングを行う例は少ないと思いますし、当社ならではの施策だと思います。ほかにマーケティングに使用した例としては、トヨタ自動車の新車『ヴェルファイア』の販促キャンペーンを今年2月に行いました。このときは、ナビゲーション時に自車アイコンをヴェルファイアのデザインに変更できるようにもしました。」(兵藤氏)

 このほかのビジネス展開としては、プローブ情報をビッグデータとして活用したり、ガソリンスタンドなどと連携したりすることも検討している。

お得な情報を安全に提供

 このようなさまざまな展開が考えられる「Yahoo!カーナビ」だが、その開発にあたってはどのような苦労があったのだろうか。

 「開発で苦労したのは、なんといってもUIですね。社内で何度もテストが行われて、大きく3回も変更になりました。最初は今よりも車載カーナビに似たUIになっていて、起動時には地図が表示されないし、入力には50音のボタンが表示されていました。」(兵藤氏)

 UIおよび図式のデザインを担当したのは、第1回にも登場したマップイノベーションセンターの山口匡氏と星名努氏のコンビだ。星名氏によると、カーナビのUIは、車のダッシュボードに設置した状態で、光が当たっても見やすいように、注記のフォントやアイコンを「Yahoo!地図」に比べて130%大きくしているという。また、道路の色については、高速道路は緑、国道はオレンジ、県道は黄色というのは「Yahoo!地図」と同様だが、カーナビのほうは細い道路も見やすく、(「Yahoo!地図」と比べて)濃いグレーの線を使って表現している。

 豊富な機能を搭載するとともに、それらの機能を使いやすく提供するために、UIや地図の図式にもこだわって作られている「Yahoo!カーナビ」。今後の抱負について兵藤氏は、「とにかくYahoo! JAPANらしいカーナビを目指していきたい」と語る。「ジャイアントコーンのキャンペーンは、当社でしかできないような企画だと思っていますし、このような企画を行うことで、『こんなカーナビがあるんだ』とユーザーを感動させたいと思います。ただし、あくまでも安全第一なので、運転中は邪魔にならないようなコンテンツの見せ方を行うことは当然のことで、目的地に到着するまでの間に、お得な情報を安全に提供していきたいと思います」(兵藤氏)。

“地図好き”のこだわりが詰まったサービス

 3回にわたってヤフーの地図/カーナビ部門の企画・開発スタッフに話を聞いたが、随処で感じたのは、「とにかくユーザーから寄せられる要望にはどんどん応えていこう」というスタッフの姿勢だ。「Yahoo!カーナビ」がここ1年にわたって追加してきた機能はユーザーからのリクエストが多かったものばかりだし、地図やルート検索結果でおかしいという情報がTwitterなどに投稿されれば、すばやく対策を施している。さらに、地図の更新作業についても、「Yahoo!検索」の検索キーワードランキングを参考にしている。

 ゼンリンやインクリメントPとは異なり、ヤフーは地図データやルート検索エンジンそのものは自社で整備しているわけではなく、他社が提供する地図データを活用してウェブサービスやアプリを開発しているわけだが、そこに携わるスタッフは、アルプス社の時代からずっと地図一筋で仕事してきた人たちをはじめ、地図に対して並々ならぬ情熱を持っている人たちばかり。「Yahoo!地図」および「Yahoo!カーナビ」は、そんな彼らのこだわりが詰まったサービスなのだということを再確認した次第だ。

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。