趣味のインターネット地図ウォッチ

高速道路は全国つながっている――「Yahoo!道路交通情報」でシームレスに表示、路線図のデザインは延伸予定区間も見据えて

ヤフー 地図/カーナビ作りの現場を訪ねて名古屋・東京〜第2回

 インターネットの地図サービスとして長い歴史を持ち、ウェブの地図サイトおよびスマートフォン向け地図アプリの双方で大きな存在感を放つ「Yahoo!地図」。2014年には新たにiPhone/Android向けカーナビアプリ「Yahoo!カーナビ」も無料で提供開始するなど、ヤフー株式会社では地図を活用したユーザーの課題解決に積極的に取り組んでいる。

 今回は、そんな同社の地図/カーナビの企画・開発部門(メディアカンパニー 生活メディア事業本部に所属)を取材した。そのレポートを3回に分けてお届けする。


ヤフー株式会社の地図/カーナビ企画・開発部門は総勢100名を超えており、その拠点は東京・名古屋・大阪と3都市に分かれている。その中でも中心的な役割を担っているのが名古屋支社だ。写真は、名古屋支社が入る名古屋プライムセントラルタワー

全国の道路交通情報をシームレスに表示

 前回は「Yahoo!地図」のデータ更新作業と、アプリ/ブラウザー向けサービスのUIやデザインに関する話を聞いたが、今回は7月にリリースしたばかりのブラウザー向け新サービス「Yahoo!道路交通情報」の開発者へのインタビューをお届けする。また、Yahoo!地図を統括するサービスマネージャー、マーケティングを統括する部長の2名にも話を聞いた。

「Yahoo!道路交通情報」

 前回、地図の図式を担当する星名努氏(企画部・クリエイティブリーダー)を紹介したが、その星名氏が最近手がけたプロジェクトが「Yahoo!道路交通情報」だ。同サービスは、全国各地の道路交通情報を略地図の上に表示するサービスで、高速道路上の電光掲示板などを通じて配信されている渋滞や規制情報をウェブ上で入手することができる(「ケータイ Watch」2015年7月31日付記事『高速道路の渋滞・規制情報を確認できる「Yahoo!道路交通情報」開始』参照)。

 道路交通情報の入手にあたっては日本道路交通情報センター(JARTIC)と契約を結び、“二次配信事業者”として配信している。道路交通情報はJARTICのウェブサイトでも配信しているが、それにもかかわらず、なぜヤフーは独自サービスを作ったのだろうか。同プロジェクトのマネージャーである諸岡達也氏はこの点について、「高速道路は全国でつながっているので、道路交通情報も全国をシームレスに確認できた方が便利だと思いました。また、スマートフォンで情報をチェックする機会も増えていることが推測されるので、スマートフォン向けサイトも必要性が高まってきているはずだと考えました。このようなニーズに応えるために作ったのが『Yahoo!道路交通情報』です」と語る。

日本全国の道路交通情報を配信
拡大していくとIC名やSA/PA名などが細かく表示される
首都高速
最も拡大した状態
スマートフォンでの表示にも最適化

 渋滞や規制等の情報をより分かりやすく・見やすく提供することを目指した「Yahoo!道路交通情報」では、普通の地図サイトと同様に、マウスのホイール操作やスマートフォンのピンチイン/アウト操作によって拡大・縮小が可能で、小縮尺では情報が間引いて表示され、拡大するごとに細かいIC名やSA/PA名が見えてくる。さらに、首都高速道路や阪神高速道路などの都市高速道路についても、拡大していくことでシームレスに詳細を見られる。

 「普通のデザイナーが作るとJARTICのサイトのようにエリアを分けるのが自然かもしれませんが、地図のデザイナーとしては、全国をつなげて『小縮尺で大まかな位置を把握し、拡大することで詳細を見られる』という作りにしたいと思いました。これによって、エリア別に提供されていた道路交通情報を使っていてストレスを感じていたユーザーの課題を解消できると考えていますし、私自身としても、最初のデータ入力の段階から作り上げた力作だと思っています」(星名氏)

諸岡達也氏
星名努氏

延伸予定の道路を“見えない線”でつながるようにしたデザイン

 星名氏が設計したデザインをもとにデータの変換や描画の仕上を行ったのが、エンジニアの平野昭雄氏だ。「『Yahoo!道路交通情報』の縮尺は6階層に分かれていますが、拡大・縮小しても略図の大まかな形状を維持させるのが難しかったです。縮尺を切り替えたときに文字が重ならないようにしながらも、各縮尺の地図を破綻なく、6階層すべてきれいに見えるような作りにする必要があります。また、東名高速や中央道では、左右にルートが分かれている箇所がありますが、そのようなところもきちんと表現しています」(平野氏)。

平野昭雄氏

 「普通の地図はリアルな形をそのまま描けば伝わりますが、略図は位置関係を保つのが難しく、できるだけシンプルなラインを結んだほうが分かりやすいです。例えば中央道では東京を出て甲府昭和ICを過ぎたあたりで北方向へ上がり、さらに諏訪を過ぎたあとに南へと下がる形で表現していますが、このような形に落ち着くまでにはさまざまな試行錯誤がありました。本当はすべて直線で描けるのであれば、それが一番見やすいわけですが、それは不可能なので、できるだけ曲がりが少なくなるように描いています。山陽道と山陰道についても、実際はクネクネと蛇行していますが、いずれも直線で描いています。」(諸岡氏)

 「もう1つ、“地図屋”としてこだわった点は、これから将来にかけて延伸が予定されている道路については、それが完成したときに自然に道がつながるように、“見えない線”でつながるようにデザインした点です。“ここの道路はいずれはこうやって接続することになるだろうから、ここにつながるように位置を合わせる”といった具合に位置を合わせました。特に環状線のイメージはとても大事にしていて、現在建設中の道路については、数年先を見据えて配置しています。『Yahoo!道路交通情報』は、最初はウェブブラウザー向けサービスとしてリリースしましたが、将来的には『Yahoo!地図』や『Yahoo!カーナビ』との連携も行っていきたいと思います。」(諸岡氏)

東名高速のルート分岐
中央道の大きな曲がり
山陽道と山陰道

テレビ会議やテキストメッセンジャーを使って拠点間でコミュニケーション

 地図データの更新に加えて、アプリ開発や「Yahoo!道路交通情報」などの新サービスの企画・開発などに積極的に取り組んでいるヤフーの地図/カーナビ部門。同部門は東京や大阪にも地図関連のスタッフを抱えており、アプリ開発などは拠点をまたがって活動している。このように地図関連のスタッフが3支社に分散していることのメリットについて、マーケティング部・部長の入山高光氏と、サービスマネージャーの二宮一浩氏の2人に話を聞いた。

入山高光氏(右)と二宮一浩氏(左)

 「拠点が分かれているメリットは、各都市でそれぞれフィールドテストを行えることですが、反面、離れたオフィスでは深いコミュニケーションを取りづらいというデメリットもあります。それを補うために、拠点間の連絡には、テレビ会議システム『Skype for Business』と、『MYM』というテキストベースのメッセンジャーを使っていて、これらを使い分けてすぐにコミュニケーションが取れる体制が整っています。」(二宮氏)

 ヤフーの社内でも、地図の企画・開発チームは人気の高い部署で、同社には社内異動希望制度「ジョブチェン」が用意されているが、この制度を利用して地図/カーナビ部門に異動を希望する人は少なくないという。中には東京本社から名古屋支社に異動させてほしいと希望する人もいるそうだ。

 「地図というのは『Yahoo! JAPAN』のトップページでカバーできない『移動支援』という領域をカバーしており、社内的にもさまざまな行動の“起点”としての役割が期待されています。社内でも地図/カーナビ部門は異色の存在ですし、『なにか面白いことがやれそう』というイメージを持っている社員は多いと思いますね。」(入山氏)

テレビ会議システム

ユーザーの課題解決が第一

 移動支援の起点として大きな存在感を持つ「Yahoo!地図」や「Yahoo!カーナビ」だが、一方で、この両サービスにおいて広告を見る機会は他サービスに比べると極めて少ない。特にスマートフォンアプリについてはほとんど広告を見る機会はないし、それにもかかわらずアプリ内課金は不要ですべて無料で利用できる。ユーザーとしては、いったいどのようにして収益を上げているのか気になるところだ。

 「スマホアプリでは、バナー広告をベタッと貼り付けるようなことはしない方針です。そんなことをしたら地図が見づらくなってしまいますからね。地図やカーナビについては、あくまでもユーザーの課題解決が優先順位としては上で、その上でマーケティングソリューションをどうするかを考えていきたいと思います。そういう意味では、短期的な売上を追求する領域ではないと考えています。」(入山氏)

 “地図の上でできることを可能な限り増やす”ための方策として大きかったのが、2年前に行ったスマートフォンアプリのベクトル化だ。それまではラスター形式だった地図データをベクトル化したことで、地図画面を回転させたり、斜め上からの視点に切り替えたり、注記の大きさを変更したり、天気情報などを重ねたりと、さまざまな機能強化が実現した(本誌2013年12月26日付記事『ラスターではもう戦えない――ベクトル化でパワーアップした「Yahoo!地図」の中の人に話を聞きました』参照)。

 「あの時期にベクトル化に踏み切ったのはベストなタイミングだったと思います。ベクトル化したことで更新の柔軟性が上がりましたし、表現力も向上しました。例えば台風のような大きな災害が発生した場合にも、ベクトル形式で描いた台風の画像をすばやく重ねることができるし、鉄道の運休などの情報もリアルタイムに入れられるようになりました。ユーザーの情報ニーズにすばやく対応できるようになったことは大きなメリットです。」(入山氏)

ベクトル化によって台風情報などもすばやく配信できるようになった

 ヤフーは全社的に“爆速”というキャッチコピーを掲げているが、ベクトル化は地図上でさまざまな取り組みを爆速で行うために必要な施策だったと言えるだろう。もともと「Yahoo!地図」は、世の中で話題となっている事象をできるだけ早く地図に反映しようという姿勢が強い。例えば2013年末に小笠原諸島の西之島で新島が出現したときも、海上保安庁の調査内容を踏まえて島の概形をすばやく地図に反映したし、東京〜名古屋間を結ぶリニアモーターカーの計画路線図も、計画が発表された直後から小縮尺の地図上に点線で掲載している(本誌2014年3月11日付記事『北陸新幹線・長野〜金沢間のルート、「Yahoo!地図」に掲載』参照)。

 「地図が好きな人間ばかりが集まっているので、他の地図サービスがまだやっていないことに対しては、みんな異様に燃えますね(笑)。ヤフーには“迷ったらやる”というカルチャーもあるので、それも後押ししているのだと思います。」(入山氏)

地図が持つ“可視化する力”とリアルタイム性を組み合わせて新しい付加価値を追求

 ヤフーがもう1つ全社的に掲げていることとして“スマホファースト”というキーワードがある。その方針通り、スマートフォンアプリはベクトル化「Yahoo!地図」に加えて、2014年には無料のカーナビアプリ「Yahoo!カーナビ」もリリースした。ただし、このようにアプリに力を入れる一方で、前述した「Yahoo!道路交通情報」のようなブラウザー向けサービスの充実にも抜かりがない。

 「アプリに力を入れているからといって、ウェブ版にかける人員を少なくしているわけではありません。ウェブ版とモバイル版は適材適所で使い分けていけばいいと思います。例えばカーナビはブラウザーで提供するのは難しく、アプリだからこそできるサービスです。一方、道路交通情報はブラウザーでも十分にできるし、ブラウザーのほうがアプリのインストールが不要で手軽に使ってもらえるという利点があります。」(二宮氏)

 “使い分け”という意味では、地図アプリとカーナビアプリを分けたのも特徴的だ。GoogleマップやiOS標準の地図アプリ(Apple Maps)は地図アプリとカーナビアプリを1つにまとめているのに比べて、明らかに考え方が異なる。

 「地図アプリとカーナビアプリは、一見すると似ていますが、実際はユーザーのニーズがかなり違います。徒歩とクルマでは求める機能が違うので、それを1つのアプリで提供しようとすると100点にはならないため、2つのアプリは分けることにしました。」(入山氏)

 アプリとブラウザーの双方で進化を続けるYahoo!の地図サービス。その運営を支えるヤフーの地図/カーナビ企画・開発部門の今後の抱負を2人に聞いた。

 「とにかく地図だからこそできる課題解決にこだわりたいですね。地図には、テキストや数字などの情報をより分かりやすく提供する、つまり“可視化する力”を持っています。その可視化の力と、リアルタイムに提供される新しいコンテンツとを組み合わせることで、新しい付加価値が生まれるのではないかと考えています。」(入山氏)

 「単純に『行く先が決まったからルートを探しましょう』ではなくて、『ホテルを探したい』『予約をしたい』『どこかへ遊びに行きたい』といったユーザーの要望を、アプリごとに分けなくても、統合してワンストップで行えるようにする新機能も検討しています。」(二宮氏)

 “可視化する力”を使ったサービスとしては、9月に公開したばかりのスマートフォンアプリ向け新機能「混雑レーダー」がある。これは「Yahoo!防災速報」アプリの位置情報をもとに算出した混雑状況を、「Yahoo!地図」アプリ上でヒートマップとして表示する機能で、全国約3万施設では5段階の“混雑指数”も確認できる。他の地図アプリでは提供していないさまざまな機能を持つ「Yahoo!地図」。今後どのような機能が登場するか実に楽しみだ(本誌2015年9月24日付記事『人混みが嫌い/好きな人に朗報、「Yahoo!地図」アプリに「混雑レーダー」装備、人の多さを地図上でヒートマップ表示』参照)。

 さらに、「Yahoo!地図」のもう1つのチャレンジとして検討しているのが、“屋内”への取り組みである。名古屋支社では現在、オフィスのさまざまな場所にiBeaconを設置することで、幹部スタッフの社内の位置情報を独自アプリの屋内地図上に表示する実験を行なっている。

 「現在の屋内地図サービスは、まだ『位置が分かる』『ナビできている』ということでサプライズが起きている段階ですが、次第にそのような技術的課題もなくなり、屋内で測位できるのは当たり前という時代が来ます。そうしたら、今度はどれだけ広く早くエリアをカバーできるかという段階に移ってくるので、総合的な力が必要となります。だからこそ挑戦したい、大きなテーマの1つですね。」(入山氏)

 今後、社内で取り組んでいるこのようなチャレンジがどのように「Yahoo!地図」のサービスとして形になるのか注目される。さて、次回は、ヤフーが取り組んでいる地図関連プロジェクトの中でも特に注目を集めている「Yahoo!カーナビ」の開発現場をレポートする。

社内の各所に設置されているビーコン
スマートフォンアプリの屋内地図上に幹部スタッフの位置を表示

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。