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国土地理院の地図作製現場をレポート、「地理院地図」はこうして作られる

 国の基本図である「電子国土基本図」の作製・更新・管理を行うとともに、ウェブ地図サービス「地理院地図」を提供している国土地理院。国土交通省の特別の機関として、地理空間情報に関するさまざまな業務を行っている同院では、地図データをどのように管理し、更新しているのだろうか。同院で地図データを扱っている部署である基本図情報部を取材し、話を聞いた。

国土地理院

ウェブ地図サービスを支える「電子国土基本図データベース」

 国土地理院が提供するウェブ地図サービス「地理院地図」は、2003年に「電子国土Web」として提供開始したのが始まり。その後は「電子国土Web.NEXT」という名称を経て、現在の「地理院地図」へと続いている。“電子国土”とは、国土に関する地理空間情報を位置情報に基づいて統合し、コンピューター上で再現する理念のこと。これに基づいて、国土地理院が整備した地理空間情報のデータベース(現在は「電子国土基本図データベース」と呼ばれている)をウェブブラウザー上で表示するサービスが「地理院地図」だ。

 電子国土基本図データベースは、大きく分けて「電子国土基本図(地図情報)」「電子国土基本図(オルソ画像)」「電子国土基本図(地名情報)」の3種類がある。「地理院地図」のサイトではこのほかに「災害復興計画基図」「色別標高図」「明治期の低湿地」「火山基本図」などさまざまな付加情報を重ねることができるが、そのベースとなる基本の地図データは上記の3種類だ。

「地理院地図」
「電子国土基本図(オルソ画像)」

 「電子国土基本図(地図情報)」は、従来の国の“基本図”であった紙の地図“2万5千分1地形図”をデジタル化したデータに、位置の基準である「基盤地図情報」を統合したもので、日本全域の地形や植生、土地利用の状況を表すベクトル形式の基盤データとなる。精度は都市部では地図情報レベル2500以下で、それ以外は地図情報レベル25000以下の情報を含んでおり、大縮尺から縮尺2万5千分1の中縮尺程度までのさまざまなデータが1つのデータベースに統合されている。現在のデータベースの整備が完了したのは2013年だ。

 なお、「基盤地図情報」とは、電子地図上における位置の基準(測量の基準点、海岸線、道路縁、行政区画の境界線および代表点など)を整備したもので、都市部では地図情報レベル2500相当以下で2011年までに、それ以外の地域は地図情報レベル25000相当以下で整備した。このデータのもとになっているのは、地方公共団体が整備している「都市計画基図」や管理者が整備している「道路台帳図」、「河川基盤図」などだ。

 「電子国土基本図(オルソ画像)」は、航空写真(空中写真)で生じる歪みを修整して正しい位置情報を付与した画像のこと。また、「電子国土基本図(地名情報)」は市町村名や住所表示等の住居地名、山名や川名、湖や海の名称などの自然の地名を整備したデータベースのこと。地理院地図でフリーワード検索を行う場合は、このデータベースをもとに行われる。

2000年度にスタートした地図データのベクトル化

 国土地理院が地図データのデジタル化を開始したのは1994年以降で、地図をデジタルで修正するためスキャナーを使って地形図の原図をラスターデータ化し、当初はこのラスターデータを地形図編集ソフトで編集するシステムを構築した。ラスターデータ化が完了したのは1998年だが、その2年後にはフルベクトルデータ化の整備が始まり、現在の「電子国土基本図データベース」へと続いている。

 「電子国土基本図データベース」は、現在、茨城県つくば市にある本院で管理されており、これが国土地理院の広域ネットワークで接続されるシステムになっている。また、本院の災害などによりデータベースが使用できなくなることも想定し、月1回データベースのバックアップを遠隔地(札幌、福岡)へ送付して保管している。

 更新作業は、本院の基本図情報部と日本各地に存在する地方測量部などの地図修正担当が実施している。更新作業の多くは民間の測量会社に外注しているが、更新に緊急性が求められる場合や複雑な場合は国土地理院のスタッフ自らが実施している。地図を更新するにあたっては、道路や施設に関する最新情報の収集が必要となるが、これについては日本各地にある地方測量部等が中心に情報収集を行っている。

本院の基本図情報部

 また、「電子国土基本図データベース」をもとに紙の地形図を作製している部署から「データがおかしい」という指摘があった場合にも、その情報を反映する。等高線のつながりがおかしかったり、注記の位置が違ったりといった問題点をその都度、データベースにフィードバックすることで品質を高めているのだ。

紙の地形図での指摘もデータに反映
さまざまな修正

更新方法は大きく分けて2つ

 「電子国土基本図データベース」の更新方法は、大きく分けて、一定の地域の情報を面的に更新する「面的更新」と、特定の施設や道路の変化部分を更新する「迅速更新」の2種類がある。

 「面的更新」は、都市計画区域などでは地方公共団体が保有する「都市計画基図」のデータを活用し、それ以外の地域では空中写真を撮影して、それをもとに更新作業を行う。都市部の更新は都市計画基図が更新されるタイミングにあわせて行われるが、前回の更新から15年が経過している場合は都市計画基図の有無にかかわらずその時点で必ず更新する。都市部以外については、変化の大きいエリアの中で、更新年が古い区域から優先的に更新していく。

 「迅速更新」は、地図の鮮度に対するニーズが近年高まっていることから行っている取り組みで、国民の利便性の向上や効率的な公共施設の管理、防災対策の推進などにかかわる情報について優先的に更新する。この中で最も重視されているのが道路の更新で、特に防災上重要な道路については、できるだけ早く更新するよう努めている。高速道路や国道などで大規模な変化があった場合は、供用と同時に更新しているという。

 空中写真については、地方公共団体が撮影したものなど、既存の写真で精度が担保できるものがあればそれを使用し、もし無い場合は、国土地理院が保有する測量用航測機「くにかぜ」を使用したり、民間の測量会社に撮影を外注したりして独自に空中写真を調達する。なお、「くにかぜ」は現在のものが3代目となる。初代のものはつくば市にある本院の建物に隣接する「地図と測量の科学館」に展示されている。

「地図と測量の科学館」に展示されている「くにかぜ」初号機

 空中写真の撮影は、測量用航空カメラでシャッター間隔を短くしながら、隣り合った写真が60%程度、重なるようにオーバーラップして撮影する。同時に、地上においては、駐車場や横断歩道の白線の角など、明瞭に見える場所の正確な位置座標を測量し、これをもとに撮影した写真に正確な位置情報を付与する。また、空中写真からでは判読が難しいものについては現地で確認したり、図面など資料の収集を行ったりすることもある。

隣り合った写真が重なるように撮影(出典:「地図と測量の科学館」内の展示映像)

新しい道路の図面は公的機関からCADデータを入手

 「電子国土基本図データベース」のベクトルデータは、ポイント(点データ)、アーク(線データ)、ポリゴン(面データ)の3つで構成されていて、それぞれに属性と座標が付いている。道路や建物などの種類別にレイヤー構造になっていて、データベースの総容量は日本全国で約120GBとなる。基本図情報部の笹嶋英季氏(管理課・課長補佐)によると、「データ構造については2000年度にフルベクトルデータ化がスタートして以来、基本的なことは変わっていませんが、取得項目を増やしたり、編集ソフトを改修したりと、細かい点は変わっています」とのこと。

基本図情報部の笹嶋英季氏

 編集ソフトについては、以前は「新地形図情報システム」という独自ソフトを使っていたが、現在は株式会社マプコンのGISソフト「PC-MAPPING」をカスタマイズしたものを使用している。

 道路の更新については、国交省や地方整備局、NEXCOなどと連携して、道路図面のCADデータを共有する枠組みを構築しており、収集したCADデータを直接取り込んで座標を入力し、図面の中から取得基準に合った道路縁をピックアップして地図データに反映していく。

 国土基本情報課・課長の門脇利広氏に、この作業の難しさについて聞いた。

 「国交省や地方整備局などのさまざまな組織からCADデータを入手するわけですが、これらのCADデータのデータフォーマットはすべて同じというわけではなく、細かな違いがあります。また、CADデータの中から地図を修正するのに必要なデータのみを抽出する必要があるため、CADデータを取り込む際は、すべて自動ではなく手動で行う場合もあります。さらに、既存データとの接合についても、CADデータとの測量精度の相違などによって微妙にずれてしまうことも多く、その部分をきちんと調整してつなぐ必要があります。」

入手した図面(左)を既存のデータベース(右)に反映
修正前のデータ(左)と修正後のデータ(右)
データベースは多数のレイヤーで構成されている
ポイント、アーク、ポリゴンなどオブジェクトごとに属性が付与されている

地物のトレースには3Dの数値図化システムを使用

 道路の高速道路、国道、都道府県道などは、CADデータを入手できる体制が整っているが、ショッピングセンターなどの民間施設の場合はデジタルデータが手に入らない場合もある。このような場合は空中写真を使って建物の形状をトレース(数値図化)することになる。この作業は、アジア航測株式会社の三次元数値図化システム「図化名人」を使って行われる。以前はアナログの「ステレオ図化機」という特殊な機材を使用していたが、この作業をデジタル化することにより、市販のPCと3D液晶ディスプレイを使うことが可能となり、導入コストが抑えられている。

三次元数値図化システム「図化名人」
3Dメガネ
昭和30年〜60年ごろまで主に2万5千分1地形図作成に使用していたアナログのステレオ図化機(「地図と測量の科学館」に展示)

 地物の形状を空中写真でトレース(数値図化)する場合、写真中心から外側に向かって発生する歪みを補正した「オルソ画像」を使用することが多いが、国土地理院ではオルソ化されていない空中写真を直接使用して、ソフトウェアの三次元編集機能を使ってトレース(数値図化)も行う。高さのある地域の道路や地形を計測する場合などは、オルソ化した空中写真をトレース(数値図化)するよりも、三次元数値図化システムを使った方が正確に計測ができるのがその理由だ。

 この時、作業者は3Dメガネをかけて立体視を行いながら作業を行う。作業を行うPCには、一般的なマウスとキーボードのほか、高さを調整するためのZ盤(回転盤)や位置を調整するためディスクの左右に手回しハンドルもある。Z盤は足で回しながら高さを調整する。そしてハンドルを回しながらクリックなどの操作が行えるように足元にはフットスイッチがある。なお、道路や建物などの地物のトレース(数値図化)のほか、等高線を描く作業にも同ソフトウェアを使用している。

地物に沿って線を引いていく
トレース(数値図化)したデータを表示

 基本図情報部の茶谷隆行氏(国土基本情報課・データベース係長)は、同システムの操作について以次のように説明する。

 「ハンドルで標高を合わせてペダルで位置を確定しながら地べたに線を引いていくわけですが、森林地帯などの等高線を引く場合は、木の上ではなく根元部分に標高を合わせる必要があります。その場合は木と木の隙間で地面が見えている部分で木の高さを調べて、木のある箇所は木の高さを差し引いた箇所のデータを取得しています。両手でハンドルを操作しながら線を引いていく作業はけっこうコツが必要で、うまく等高線を引けるようになるまでには、ある程度時間がかかります。」

 また、「地理院地図」では地図のほかにオルソ化された空中写真を表示させることもできるが、公開を目的としたオルソ画像の作成にも同様のソフトウェアを使用している。

等高線の描くのにも使用
森林部では地表部分に合わせて等高線を引く必要がある。

 ちなみに国土地理院では、航空レーザー測量を使って計測したDEM(数値標高データ)も公開しているが、こちらは基本図情報部の別の部署が担当している。3Dのモデリングには、DEMのメッシュデータの方が使いやすいが、詳細な地形を表現するには等高線の方がよいと考えている。

 このようにして数地図化されたデータに必要な属性を付与したり、隣り合った図形同士を接続したりする編集作業を行うとともに、注記(地図上に書かれる文字)や地図記号などについて一定の図式に沿った表現に加工することで、人間が目で見ても使いやすい地図が完成し、「電子国土基本図データベース」として維持管理されることになる。

出来上がったばかりの更新スキームを維持

 以上、ウェブ地図サービス「地理院地図」で閲覧できる「電子国土基本図データベース」の地図情報の更新の流れを紹介した。更新作業の中で印象的だったのは、国交省やNEXCOなど他組織との連携を密に行うことでCADデータなどを入手して地図に反映できる体制が整っており、効率的かつ迅速な作業と精度の高い地図更新が行えることだ。また、必要に応じて空中写真を撮影し三次元数値図化システムを使用する点も、国土地理院ならではだ。

 更新作業は道路が最優先で、施設については優先度が下がる点もポイントだ。国土地理院の地形図には田畑や森林などの植生情報が描かれているが、これら植生の更新についても、以前に比べて優先度は低くなっているという。このような優先順位は、国民のニーズやコストとの兼ね合いを考えながら、時代に合わせて検討している。

 今後の展望について笹嶋氏は、「現在の更新スキームが完成してからまだ長くないので、しばらくはこれを継続すべきと考えています。もちろん今後、新たなニーズがあれば対応も必要だとは思いますが、まずは今のやり方を定着させていくことが大切だと思っています」と語った。日ごろ、ウェブ地図サービス「地理院地図」や、地理院地図のデータを使ったスマートフォンアプリで目にする地図は、つくば市にある本院や日本各地にある地方測量部等の国土地理院の更新スタッフをはじめ、民間の測量会社など、さまざまな人による緻密な作業によって支えられていることが取材を通して分かった。今後、国土地理院の地図のデータベースとその管理体制がどのように充実していくのかが実に興味深い。

地図と測量の科学館

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。