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第79回:2万5千分の1地形図に代わる新たな“基本図”

「電子国土基本図」ネットで試験公開


 国土地理院は、インターネット上で「電子国土基本図(地図情報)」の試験公開を開始した。電子国土基本図とは、国土地理院が提供している「電子国土構想」の基本図という意味を込めて名付けられた地理情報で、「地図情報」「オルソ画像」「地名情報」の3種類がある。

 「地図情報」は、これまで広く使われてきた2万5千分の1地形図に代わる新たな“基本図”として位置付けられており、国土の開発や地域政策、防災対策などへの活用を目的としている。縮尺レベル2万5千の精度に限定せず、精度の高い情報を含んだベクトル形式のデータとなっている。

 今まで2万5千分の1地形図の修正作業は、空中写真や測量図面などの公共測量成果が使用されていたが、これからは電子国土基本図(地図情報)が主要な更新情報として使用されて、既存の2万5千分の1地形図の修正は、電子国土基本図(地図情報)の内容をもとに次期刊行のタイミングで反映されていくことになる。

 「オルソ画像」は1万分の1および2万分の1の縮尺で撮影された空中写真と標高データの情報で、基盤地図情報などを整備する際に空中写真と同じように利用できる。また、「地名情報」は山や河川、地名などをデータ化した情報で、位置検索をする際にキーとして利用するためのもだ。

 今回、試験公開された電子国土基本図(地図情報)は、「電子国土ポータル」にて閲覧できる。同サイトにアクセスしたら、トップページ左上の『地図を「見る」』をクリックする。地図画面が表示されるので、ページ右に縦に並んだタブの中から「地図切替」を選択してみよう。

 縮尺メニューが表示されたら、「中縮尺地図切り替え」のプルダウンメニューの中から「電子国土基本図(試験公開)」を選択すると、電子国土基本図(地図情報)の画面となる。デフォルトでは縮尺が小さいので、地図を拡大して9000分の1くらいにしてみよう。地図の拡大・縮小は、地図上部のメニューの中から「拡大縮小」を選択すると、ホイール操作により切り替えられる。

 試しに東京・上野駅周辺の様子を見てみよう。


2万5千分の1地形図 上野駅周辺電子国土基本図(地図情報) 上野駅周辺

 一見して異なるのが配色だ。2万5千分の1地形図に比べて電子国土基本図の方が色数がかなり多い。全体的に明るく感じられるのは、「普通建物」がオレンジ、「堅牢建物・上部建物」がピンクと、都市部に多い建物を明るい色で表現しているせいだ。


電子国土基本図(地図情報)の凡例(http://www.gsi.go.jp/common/000051367.pdf

 地図上に記載された文字の色も、住所は黒、施設名は青、駅名や高速道路などは緑に色分けされている。このようにさまざまな色が使われているのは、電子国土基本図が紙ではなく電子媒体による提供を主体としているためだ。PC上では色数の制限がないことに加えて、印刷技術が向上して多色でも4色分解で印刷可能になったことが理由で、このように色数を増やしたという。

 ただし2万5千分の1地形図に比べて全面的に見やすくなったかといえば、必ずしもそうではない。地図を見るとわかるが、随所に複数の施設名が重なっている部分が見受けられるからだ。このあたりは、2万5千分の1地形図の方が紙での配布を前提にしているだけあって読みやすく配慮されている。

 このほかの違いは、線路の踏切を示す記号が掲載されていることや、地下鉄が点線から2本の実線になったことが挙げられる。また、国道名の表示が従来の括弧表記に比べて大きく見やすいものとなり、縮尺を小さくしてもすぐに判別できるようになった。


2万5千分の1地形図 日本橋周辺電子国土基本図(地図情報) 日本橋周辺

 さらに、河川に表示する市区町村界も、太くてわかりやすい表示となっている。ただし市区町村界については現在のところ表示の有無の切り替えができず、市区町村界の多い山間部では視認性が悪い。


市区町村界が太すぎるためにその下の情報が見づらい

 山間部についてもう少し詳しく見てみよう。北アルプスの立山・黒部アルペンルートで有名な室堂平の様子を表示させてみた。


2万5千分の1地形図 室堂平(9000分の1)電子国土基本図(地図情報) 室堂平(9000分の1)

 上の2枚は縮尺が9000分の1の地図だが、最も大きな違いは等高線だ。2万5千分の1地形図の方は、10mごとの主曲線(基準となる等高線)に加えて、50mごとに計曲線(主曲線の5本ごとに入る太い実線)が入っているのに対して、電子国土基本図(地図情報)の方は主曲線と計曲線が区別されていない。また、電子国土基本図(地図情報)に「砂礫地」を示す細かい点が全面的にちりばめられているのに対して、2万5千分の1地形図の方はこの縮尺だと「砂礫地」が表示されない。

 今度は縮尺をもう一段大きくして4500分の1にしてみよう。


2万5千分の1地形図 室堂平(4500分の1)電子国土基本図(地図情報) 室堂平(4500分の1)

 ここまで拡大すると、電子国土基本図(地図情報)の計曲線も太く表示されて、2万5千分の1地形図には砂礫地の記号が入る。

 このほかの違いとしては、ミクリガ池の周囲の様子が挙げられる。2万5千分の1地形図の方は、凹地を示す方向線が入っているが、電子国土基本図(地図情報)の方には入っていない。このように、電子国土基本図(地図情報)には、細かな部分で2万5千分の1地形図から削除されたり、統合されたりした項目がある。

 例えば宗谷岬の地図を比較してみよう。


2万5千分の1地形図 宗谷岬電子国土基本図(地図情報) 宗谷岬

 電子国土基本図(地図情報)では、「記念碑」や「電波塔」が削除されていることがわかる。このほか、「輸送管」「送電線」「植生界」「採石地」「珊瑚礁」なども、さまざまな理由で削除された。反対に追加された項目としては、前述した「踏切」に加えて、「画像基準点」「特別標高点」「グリッド標高点」などがある。

 今回の公開はまだ試験段階であり、ユーザーである国民から広く意見を集めることを目的の1つとしている。国土地理院としては、まだ改良すべき点が残っており、今後の調整作業で改善していくとのことなので、意見がある人は国土地理院のWebサイトからフォームなどで問い合わせてみるといいだろう。

 基本図として長い歴史を持つ2万5千分の1地形図に代わって、新たな基本図となる電子国土基本図(地図情報)。地図好きな人は、正式公開前にぜひチェックしていただきたい。


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2010/1/28 06:00


碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース、コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。