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第78回:立体地図キット「だんだん地図」を作ってみました


スチレンペーパーを切り貼りして作る立体地図

 Google Earthなどの3D地図を見ていて、思わず画面に手を触れたくなったことはないだろうか? 激しく隆起した険しい山岳地帯を眺めていると、直に触って凸凹の具合を確かめたくなるものだが、そんな思いを手軽にかなえてくれるのが立体地図だ。

 博物館などに飾ってある立体地図は高価なのでちょっと手が届かないが、個人で手に入る立体地図もある。株式会社ニシムラ精密地形模型の「だんだん地図」という商品がそれだ。コンター(等高線)が描かれたボードを切って、重ねて貼っていくことで、“段々”状の立体地図を作り上げるキットである。

 材質はスチレンペーパーで、カッターで簡単に切れるので誰でも気軽に作れる。自らの手で立体地図を組み立てることができるこのキット、その作り心地はどんなものだろうか。今回は、この「だんだん地図」の製作レポートをお届けしよう。


だんだん地図「箱根」。段々形状がある意味デジタル的で、写真で遠目から見ると、まるでCGの3D地図に見えなくもない?

 「だんだん地図」には、「日本全図」「富士山」「八ヶ岳・諏訪湖」「箱根」「伊豆半島」など全9種類がそろっている。「北アルプス」など数多くの名山を含む大きなものから、「淡路島」や「伊豆大島」など離島を再現した小さいものまで幅広いラインナップだ。今回挑戦するのは、この中の「富士山」。サイズは19cm×28cm、縮尺は1/20万、価格は3800円の商品だ。

 ちなみに「だんだん地図」とは別に、より小型にしてリーズナブルな価格にした「プチだんだん地図」というシリーズもある。実はこのシリーズにも富士山があるのだが、こちらはサイズが13cm×18cmで縮尺は1/25万、価格は1350円。「だんだん地図」の富士山は等高線の間隔(スチレンペーパー1段)が100mとなっているが、「プチだんだん地図」の富士山は倍の200mとなっており、完成写真を見ても「だんだん地図」のほうが明らかに精密に感じる。もちろんその分、「だんだん地図」のほうが切り貼りの手間はずっと多い。

 なお、ネットでは、楽天市場やAmazon.co.jp、MAPSHOPなどで「だんだん地図」を販売している。

「だんだん地図」のラインナップリーズナブルな価格の「プチだんだん地図」

複雑な等高線に沿ってカッターで切り抜き

 パッケージを開けると、中からは標高別の等高線が描かれたスチレンペーパーの束がゴソッと出てくる。等高線の太線に沿ってカッターで切り取り、重ねて貼っていけば完成だ。ただし言葉で言うのは簡単だが、実際にやってみるとかなり骨が折れる。複雑に入り組んだ等高線に沿ってカットしていくのが意外と難しいのだ。

 カッターも普通のものとは別に、刃先の小さいものも用意しておいたほうがいい。今回、筆者が使ったのはオルファの「アートカッター」で、細かい作業をするのに適したカッターである。これに加えて、細かいパーツを貼り付けるためのピンセットや、机に刃傷が付かないようにカッターマット、直線を切るときに使う定規などもあると便利だ。接着は木工用ボンドを使うように説明書に書いてある。木工用ボンドは乾くと透明になるので、貼り付けたときに多少はみ出しても気にしないで作業できる。

「富士山」のパッケージ等高線が描かれたスチレンペーパー

切り抜いた等高線を1枚ずつ貼り付け

 ベースとなるボードはベニヤで、表面は水色に塗ってある。水色の部分は海を表しており、ここにまず1枚目のスチレンペーパーを貼ることからスタートする。1枚目は平野部ということで色は緑で、鉄道の路線や川を表す線が描かれてる。2枚目からは黄色っぽい色となり、標高を増すごとに茶色になっていく。等高線は100m間隔で、富士山の標高は3776mだから、全部で38枚を積み上げれば終わるわけだ。

 とは言っても、標高を100m、つまりスチレンペーパーを1段積み上げるだけでもけっこう時間がかかる。最初の1枚目は海岸線だけを切るだけですぐに終わったが、2枚目からは次第に等高線が複雑になり、切り抜きの作業時間はどんどん長くなる。富士山だけでなく、周りの山々など「飛び地」になっているパーツもあり、豆粒ほどの小さな断片をいくつも切り抜かなければならない。気を抜くと刃先が滑って余計なところを切ってしまう危険性もあるので、注意深く作業を進める必要がある。

 特に標高900~1500mあたりがしんどかった。富士山自体はきれいな円錐形で等高線もそれほど複雑ではないのだが、周囲の愛鷹山や毛無山、三ッ峠山などの等高線がギザギザしていて切るのが大変なのだ。これが標高2000mを超えたあたりになると、富士山以外に高いものが無くなるので俄然と楽になる。

カッターで1枚目を切り抜く1枚目をベースのボードに貼り付けたところ
3枚目までを貼り終えたところ標高が上がるにつれて茶色が濃くなっていく

完成後に実感できる地形の学習効果

 スチレンペーパーの積み重ねが頂上に近づくにつれて高まる興奮は、登山のピークハントにも似ている。今回、この「だんだん地図」を作るにあたって、最初に挑戦したのが富士山でよかったとしみじみ思う。富士山のようにシンプルな形の山なら、終盤は切り抜くのが簡単になり、ひたすら高みを目指すべく作業に没頭できるからだ。

 スチレンペーパーをすべて貼り終えたのは、作業を開始してから約6時間後。細かい作業を続けたので腕はかなり重くなった。しかし心地よい疲れだ。細部の切り取りが雑で、われながら下手だとは思うが、それでも遠目から見れば一応サマにはなる。最後に湖のシールを貼れば完成だ。ちなみにパッケージには山や湖、市町村などの名称が書かれたシールも入っているのだが、説明くさくなるので今回は貼らないことにした。

完成間近の状態。このあたりまで来ると、かなり楽になるスチレンペーパーを貼り終えたら湖や名称のシールを貼る
ようやく完成頂上付近の様子

 作り終えて気付くたのだが、この「だんだん地図」を完成させると、作ったエリアの地形が頭の中にたたき込まれる。製作する過程で、知らず知らずのうちに等高線の形状を覚えてしまうのだ。登山が好きな人は、「北アルプス」などに挑戦すると、北アルプス一帯の詳しい地形を自然と身に付けられるのではないだろうか。

 山好きだけでなく、この「だんだん地図」は地図好きにとってもかなり面白い趣味になりうると思う。筆者のように細かい作業の苦手な人が駆け足で作ってもそこそこ達成感を味わえるし、器用な人がこだわって作れば質の高い美しい立体地図となるだろう。自分の好きな山や島の立体地図を作り上げる喜びを、ぜひ味わっていただきたい。


駿河湾上空から富士山を望む。なお、だんだん地図「富士山」では、地面の起伏をわかりやすくするために高さが2倍に誇張されている。縮尺が1/20万なので、本来は標高100mが0.5mmになるのだが、これを2倍の1mm厚のスチレンペーパーで表現しているわけだ

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2010/1/14 06:00


碓氷 貫
フリーライター/編集者。Eコマースや地図サービス、データベース、コンテンツなど、Webサイトの価値を高めるさまざまなサービスをテーマに活動している。地図やハンディGPSを片手に街や山を徘徊する一方で、通販サイトでお買い得品をチェックすることにも余念がない。