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第147回:「みちびき」にも対応、「Nexus 7」を地図好きの目からチェック


 いよいよ日本国内でも店頭に並ぶようになったAndroid 4.1搭載タブレット「Nexus 7」。クアッドコアCPUや1.2メガカメラなど高いスペックを誇りながらも1万円台で購入できるこの製品、基本的な機能や総合的なパフォーマンスについてはすでに各所でさまざまなレビューが書かれているので、今回は普通のレビューではあまり触れられることのないGPSの性能や地図/位置情報関連アプリについてレポートしてみたい。

Nexus 7

 地図好きにとってのNexus 7の魅力のひとつは、なんと言ってもGPSを搭載している点だ。iPadの場合はWi-FiモデルにGPSが付かないので、地図/位置情報関連アプリを利用するには3G通信の契約をするか、Wi-Fiモデルに外付けのGPSを装着しなければならない。これは24日に発表されたばかりのiPad miniでも同様だが、コストを抑えたい人にとっては少し手を出しづらい。

 Android端末ということで、Google マップが使える点も魅力だ。現状ではiOS 6のApple Mapsは品質が悪く、代替アプリを使っているユーザーも多い状況だが、Nexus 7ならモバイル Google マップを使えるし、Google マップを利用したナビゲーションアプリ「Google マップ ナビ」(ベータ版)も標準搭載。インドアマップ(屋内地図)も収録しているし、ストリートビューや渋滞情報も見られる。

モバイル Google マップGoogle マップ ナビ

ナビゲーション画面屋内地図

 単体のアプリとしてGoogle マップが用意されているだけでなく、他社製の地図/位置情報関連のアプリにおいてGoogle マップが使えるのも魅力だ。iOS端末では、iOS 5.x以前でGoogle マップを使っていたアプリもiOS 6上で動かすとApple Mapsに切り替わってしまう。

 例えばAndroid用の古地図アプリ「東京古い地図」などでは、古地図とGoogle マップを切り替えながら現在と過去を比較できる。このようなアプリでは地名や施設名、スポットの位置などの正確さが大事になってくるので、信頼性の高いGoogle マップが使えるのはありがたい。

 もちろんGoogle マップの利用にはオンライン環境が必要となるが、テザリングが可能なスマートフォンと組み合わせる手もあるし、最近はコンビニが無料のWi-Fiサービスを提供するケースが増えてきているので、街中で地図を見たい場合にもそれほど困らないだろう。

東京古い地図

オフラインで利用できる地図アプリやナビアプリの充実に期待

 一方、オフラインで使える地図アプリというと、iOSでは「MapFan for iPhone」が有名だが、Androidでは今ひとついいものがない。どうしてもという人は、「地図ロイド」などの地図をキャッシュとして保存できるアプリを使うのも手だ。「地図ロイド」の場合はGoogleマップのキャッシュは保存できないものの、「Yahoo!」の地図や国土地理院の「ウォッちず」の地図は保存できる。

 カーナビアプリについても、Nexus 7に対応しているものはまだ少ない。筆者が動作を確認できたのは「NAVITIMEドライブサポーター」と「ドライブシンクロナイザーG:O」。ただし、ドライブシンクロナイザーG:Oはアプリおよび地図データをダウンロードする際に何度も止まり、そのたびにダウンロードを再開させる必要があった。また、ダウンロード後も検索を呼び出す際の動作が遅くなってしまう。

 ドライブシンクロナイザーG:Oではさらに、詳細図の情報量が乏しく街歩きの地図としては物足りないという問題もある。しかし価格が1000円と安いので、オフラインで使える簡易地図として割り切って使う分にはいいと思う。ちなみに同アプリは、オプションの周辺施設表示で「コンビニ」を選択するとコンビニのアイコンが地図上に配置されて現在地を確認しやすくなる。

 このほか、オフラインで利用できるナビアプリについては「カーナビタイム for Smartphone」や「いつもNAVI[ドライブ]」が未対応でダウンロードできず、「NAVIelite」はインストールできるが起動不可で、現在のところはいずれもNexus 7では使えない。NAVIeliteのような人気のオフラインナビアプリがNexus 7に対応すると、カーナビ用としてもかなり魅力的な端末になると思うので、早期の対応に期待したい。

地図ロイドドライブシンクロナイザーG:O

準天頂衛星「みちびき」に対応

 次にNexus 7の測位性能に注目してみよう。Nexus 7に搭載されているというGPSチップ「BroadcomのBCM4751」が準天頂衛星(QZSS)の「みちびき」に対応しているということで、ネット上ではみちびきの測位信号を利用して測位が行われているのではないかという説が流れていた。この点について製造元であるASUSに問い合わせたところ、「Nexus 7は、みちびきを利用して測位しています」という正式な回答が得られた。

 この件についてはネット上ですでに衛星の位置が分かるアプリを利用して検証が行われており、みちびきの測位信号を確認できたという報告も見られたので、自分でも実際に試してみた。

 Nexus 7にGPS衛星の位置が分かるアプリ「GPS Test」をインストールした上で、Windows用ソフト「QZ-Radar」でみちびきの衛星の配置を確認する。さらに今回は、みちびきに対応したGARMINのハンディGPS「eTrex 20J」でも衛星の位置を確認した。みちびきが天頂付近にある時にGPS Testを確認すると、eTrex 20Jにはみちびきを示す識別番号(PRN番号)が193番の衛星が表示された。しかし、GPS Testにはその場所に衛星が表示されない。

GPS Test(1回目)

QZ-Radar(1回目)

eTrex20J(1回目)

 次に時間を変えてから再度同じように確認したところ、今度はeTrex 20Jで193番の衛星が表示されている場所に、Nexus 7のGPS Testでは1番の衛星があった。QZ-Radarを見ても、その場所にはみちびきがいるので、どうやらこれがみちびきを示しているようだ。本来なら193番と示すところが、アプリ側の仕様で1番と表記されるらしい。

 最初に確認した時は本物の1番のGPS衛星も一緒にいて、そちらを優先したため、みちびきは表示されなかったが、次に確認したときには1番の衛星がいなくなったために、みちびきが1番として表示されたと考えられる。GPS Testのようなアプリでみちびきの存在を確認するには、アプリ側の対応が必要ということだろう。

GPS Test(2回目)

QZ-Radar(2回目)

eTrex20J(2回目)

iPhone 5やGARMIN eTrexとのログ比較

 ただし、みちびきに対応していたとしても、それだけでNexus 7の測位精度が高いと判断するのは早計だ。GPSの性能はチップの性能だけでなく、回路設計やアンテナの配置などさまざまな要素に左右されるので、総合的な性能は実際に使ってみなければわからない。

 というわけで実際に街中で取ったログを見てみよう。今回はみちびきの効果があるかどうかも検証するため、複数回のログを掲載する。測定場所は都内の市街地で、東京メトロ銀座線の田原町駅から西方向(上野駅方面)へと自転車で走り、上野駅前の交差点で左折し南下。JR御徒町駅前の交差点で左折して東に移動し、左回りで1周して元の位置へと戻っている。

左からeTrex20J、iPhone 5、Nexus 7。RAMマウントで自転車のハンドルバーにセットして計測した

 ログの赤線がNexus 7、青線がeTrex 20J、黄色の線がiPhone 5を示している。Nexus 7のロガーアプリは「山旅ロガー」で、iPhone 5は「GPS-Trk2」を使用。ログ取得間隔は、Nexus 7とeTrex20Jが4秒ごと、iPhone 5のGPS-Trk2は4秒にはセットできないので、5秒間隔としている。

(1)~(3)まではみちびきが天頂付近にある時間帯に記録したログで、(4)~(6)はみちびきが地平線付近まで下がる時間帯に記録したログだ。もし、みちびきの測位信号を利用しているとすれば、衛星が天頂付近にある時間帯の方が測位には有利なはずである。

「みちびき」が天頂付近にある時間帯のログ(1)

「みちびき」が天頂付近にある時間帯のログ(2)

「みちびき」が天頂付近にある時間帯のログ(3)

「みちびき」が地平線付近にある時間帯のログ(4)

「みちびき」が地平線付近にある時間帯のログ(5)

「みちびき」が地平線付近にある時間帯のログ(6)

 最もなめらかで実際の走行軌跡に近いログとなったのは(2)のログだが、同じくみちびきが天頂付近にある時に記録した(1)や(3)のログは(2)と違って荒れている。(2)の結果だけを見れば、みちびきの効果があると言えないこともないが、みちびきの信号を利用したからといって常に精度が高くなるというわけではないようだ。

 全体的にNexus 7のログを見て思うのは、毎回記録するたびに挙動が大きく異なり、不安定であること。iPhone 5もログを取るごとに荒れ方に差が出るが、Nexus 7の方がその違いが大きく、軌跡が左右に激しくブレている個所が多い。実際に街中を歩きながら地図アプリを見ている時にも、ときどき現在地からズレていることが何度かあった。タブレットの測位精度としては標準レベルだとは思うが、みちびきに対応しているからと言ってけっして過度な期待は抱かない方がいいと思う。

 総合的には、2万円以下という低価格でありながらGPSを搭載し、Google マップをはじめとした各種Android用地図/位置情報アプリをスマートフォンよりも一回り大きな画面で見られるNexus 7は、地図好きなら1台持っておいて損はないと思う。特に、iPhone 5を買って地図の品質に不満を感じている人には、テザリングで使える“Google マップ用端末”としても重宝するかもしれない。


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2012/10/25 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅-デジタル地図に残す自分だけの鉄道記-」がインプレスジャパンから発売中。