趣味のインターネット地図ウォッチ
第166回
ウェブマップの未来を考える「第11回ジオメディアサミット」
(2013/7/25 06:00)
日本最大の位置情報メディア向けフリーカンファレンス「ジオメディアサミット」の第11回が、東京大学・駒場リサーチキャンパスにて7月19日に開催された。今回のテーマは「ウェブマップについて語り尽くそう!」。もともとは地図や位置情報が好きな人たちが「緯度・経度を肴に飲める」会として始まったというこのカンファレンス、過去には位置情報メディアのマネタイズやO2O、地域メディア、ゲーミフィケーションなどさまざまな話題がテーマとなったが、今回は同カンファレンスの原点に立ち返り、ウェブマップそのものがテーマとなった。
基調講演に先立って、まず運営チームのメンバーであり司会の関治之氏(Georepublic Japan)があいさつした。「位置情報技術というのは広範囲に浸透していて、もはや『業界』というのは存在しないのではないか、と思っています。“Next Big Thing”が何かということも今ひとつ整理しきれていない状況ですし、今回のテーマ選びには悩みました」と関氏。同カンファレンスのFacebookグループで質問してみたところ、「原点回帰で“地図”の話を!」という票が一番多く、それで今回のテーマに決まったという。「“地図”というのは位置情報メディアを牽引してきたものであり、切り離せないものです。しかも“地図”はまだ枯れていない技術だと思いますので、今の地図、そしてこれからの地図について登壇者の方々にお話を聞きながら、ゆるく楽しくやりたいと思います」と語った。
地図とSNSはスマホ時代のプラットフォーム
基調講演の1つ目はヤフー株式会社CMO室の河合太郎氏。旧アルプス社で地図ソフト「プロアトラス」シリーズなどを開発し、その後ヤフーで「Yahoo! Open Local Platform」や地図実験サイト「LatLongLab」の企画運営に携わってきた同氏は、「ウェブマップとスマホの先にあるもの」と題して、デジタル地図の現状分析および「スマートフォンの先にある地図はどうあるべきか」というテーマについて語った。
河合氏は「スマートフォンの登場によって、デジタルデバイスが常時、人間のそばにいて外部ネットワークにつながり続けるという状況が実現し、それがすべてを変えてしまった」と現状を解説。スマートフォンの登場により、これまでは観測できなかったアクティビティが記録・流通可能になってきたと同時に、チェックインなどの新しいアクティビティが創出されたことについても触れた。そして「ありとあらゆる行動が位置情報となる“位置情報のカンブリア爆発”のような状況が起きている」と現状を分析した。
一方で、「情報が多ければいいのかと言えばそうでもなくて、価値ある情報が何かを考えるのが大切。そこでフォーカスしたいのは、ビッグデータ的な使われ方よりも、個人にとって価値ある情報とは何かということ」と前置きした上で、ヤフーが8年前に提供した「みんなで作ろうYahoo!地図」を例に出した。同サービスは新しい店舗や施設をユーザーが投稿し、地図の注記を修正する試みで、正確性を担保するために投稿者以外の確認を必要とした。これには年間16万件の投稿が得られたが、ユーザーの少ない地域では投稿があっても確認してくれる人がいなかったり、需要のない一地方の情報だけが異様に充実してしまったりといった現象が起こった。
このような失敗から、河合氏は「“正しい情報をください”という直接的なインセンティブはなかなか機能しにくい」という実感を得た。そしてFoursquareなどのチェックインサービスの成功などから、「“ユーザーの承認欲求やコミュニケーション欲求を満たすために、自分のために行った行動”には偽りはなく、価値ある情報とは“誰かが自分のために行った行為の結果”である」という結論に至ったという。そして「“誰か”をつなぐものがアカウントであり、スマホ時代のデータをハンドリングする2つの軸は“アカウント”と“位置”。つまり、SNSと地図こそがスマホ時代のプラットフォームとなる」と語った。
さらに、このような“スマホ時代”において地図はどうあるべきかを考えるにあたり、以下のような課題を挙げた。
1)アクティビティ志向
地図はもっとアクティビティ志向であるべきで、「先週SNSの友だちがチェックインしたカフェにはどう行くの?」とか、「先月、自分が『いいね!』したバーはなんという店だっけ?」という要望に簡単に応えられるようなUIが必要である。
2)オープンデータへのコミット
上記の話は地図の外の話だが、地図の中ですら「さっき見てた地図の場所はどこか」という要望に十分に応えているとは言い難い。例えば検索エンジンでは「戻る」ことが簡単にできるのに、地図の場合は自信満々に“飛ばす”くせに、「戻る」というインターフェイスが用意されていない。ユーザーのアクティビティをもっと価値あるものとして扱えるようになれば、地図はSNSとは別の軸のプラットフォームになれる。
そしてそれを実現するための方法としては、オープンデータへのコミットが有効。「そこに店がある」という公知のレベルで覇を競うのはもうやめて、ユーザーのアクティビティを結び付ける先があればもっと多様な市場になる。例えば面白いサービスを思い付いたとしても、それを実現するためのデータを収集する段階で足踏みしてしまうのはもったいない。もし信頼できるオープンなリポジトリがあって、その上にいろいろなサービスを乗せていけるのだとしたら、もっと新しく有益で面白いサービスが生まれるかもしれない。
そのために現在、位置情報サービス研究機構「Lisra」において、オープンな位置情報リポジトリを育てていくための「オープンPOI」のワーキンググループに取り組んでいる。地図サービスの提供会社はできるだけオープンなデータのリポジトリへの参照を増やし、そちらにフィードバックすることでオープンデータを育ててもらえると、もっと競争も盛んになってよい世の中になる。
3)多層構造へのシフト
例えば新宿のロータリーなどの入り組んだ構造物や建物内のアクティビティをハンドリングするには2Dだけでは難しく、それならばフル3D化すればいいのかというとそうでもない。スマートフォンのアクティビティはいつでもどこでも発生するので、地球を2Dで投影することばかり考えるのではなく、“建物をどう投影するか”を真剣に解決する時期に来ている。今あるツールが2Dベースなので難しいかもしれないが、みんなで勇気を出して前に進むことが大切だ。
上記の3点を課題として挙げた河合氏は、最後に「スマホ時代は地図の時代」とまとめた上で、「今挙げたようなことが解消された上で、ユーザーには“地図を使う”ことを意識させないようにするべきだ」と締めくくった。
電子国土の課題は災害時の帯域減少対策やプッシュ通知
次に登壇したのは国土地理院の地理空間情報部・情報普及課長の藤村英範氏。「地図インフラのAPIからの独立について」と題して講演を行った。藤村氏はまず国土地理院の取り組みを紹介。“国土地理院をドライブするCODE(規定)”として、「国土交通省設置法」「測量法」「地理空間情報活用推進基本法」の3つを挙げた上で、同院が提供している地図サービス「電子国土Web.NEXT」や、さまざまな地理空間情報を提供する「地理空間情報ライブラリー」について紹介した。
さらに、「電子国土Web.NEXT」上で閲覧できるコンテンツとして、「明治前期の低湿地」「火山基本図」「電子基準点」などを紹介した上で、タイルデータのKML配信や旧版地図・空中写真の閲覧サービスなども紹介。また、「電子国土Web.NEXT」上で見ている場所と同じ地点を「いつもNAVI」や「Mapion」などほかのウェブ地図でワンクリック見られる機能などにも触れた上で、ほかの地図へのリンク掲載も募集中であるとアピールした。
その上で、電子国土の役割は“迅速更新”を実現するためのものであり、今後は道路について道路整備者・管理者と調整した上で更新を実施したり、公共施設や大規模な港湾施設を対象に迅速更新する方針であると語った。また、災害対応も迅速に行い、緊急撮影・現地調査した上でウェブマップで公開し、院外のさまざまな情報もウェブマップ上で共有できるようにしたいと語った。そのためにはスケーラビリティが重要であり、災害時の帯域減少対策やプッシュ通知の実現、リッチな書き込みを可能にすることなどを課題として挙げた。
次に電子国土Webのシステムの変遷について紹介。最初はベクトルデータで、次に高緯度ほど南北に長い長方形タイルになり、現在では正方形タイル(ウェブメルカトル)になったことなど今までの経緯を紹介し、今年秋の正式公開に向けて随時調整中であると語った。また、このようにシステムが変わったことにともなって利用規約も変更したことも紹介。これまではAPIに対して利用規約を付けていたのが、タイル画像に利用規約を付けることに変えたことを説明した。このほか、「電子国土Web.NEXT」の右クリックメニューの標高表示機能からスピンオフした「標高API」および「標高タイルデータ」も紹介した。
まとめとしては、「APIで取っていたインターフェイスを正方形タイルインターフェイスにすることにより、アプリケーションを自由に作ってもらえるようになったので、技術の連携が幅広く迅速に行えるようになった」とアピールした。
少し先の地図のあり方を考えるパネルディスカッション
基調講演の次には、第二部のパネルディスカッションが行われた。「2015年のデファクト地図のあり方を占う」と題したこのセッションでは、ゴーガの小山文彦氏がモデレータとなり、パネリストには前述の2名に加えて、ゼンリンデータコムの持地麻記子氏、オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパンの古橋大地氏、エクサのGoogle Developers Expert(GEO担当)の安藤幸央氏が加わり、計5名による活発な議論が展開された。
小山氏は冒頭で、Google マップやヤフー地図、いつもNAVI、Bing Maps、Mapion、iOS6 Maps、Amazon Maps APIなどさまざまな地図の画面を紹介した上で、「今回、ウェブマップの未来を占うというテーマにしたのは、ここに来てまた地図の選択肢が増えてきていて、“この先のデファクトが動いていくのではないか”という状況にあると思ったのも1つのきっかけです」と語った。
ディスカッションで話し合われたのは主に以下の6つのお題で、それぞれの話題について各パネリストが語った言葉をまとめてみた。
1)現在の地図サービスの完成度を100点満点で表すとどの程度か?(各パネリストが提供しているサービスの評価でも、地図サービス全体の評価でもどちらでもOK)
河合氏:業界的に50%(50点)くらい。基調講演で挙げた課題をはじめ、現状は問題が山積みで“道半ば”である。ここまで歩いてきていい感じできていたが、再び道半ばに引き戻された感じ。
藤村氏:災害対応などの課題が不十分なので、20点。
持地氏:住宅地図などはかなりよくできていると思うが、コンシューマー向けのサービスとしては半分(50点)くらい。
古橋氏:現在の状況に“3D”と“時間”の概念が組み合わさって、やっと50点に到達するくらい。
安藤氏:Google マップに限って言えば、“テストで正解をすごくたくさん書けたんだけど、名前を書き忘れちゃって0点”という感じ。Googleとしては、地図のために何かをやっているわけではなく、すべてのイノベーションを統合するためのプラットフォームとして地図に力を入れているだけ。それを考えるとまだまだいっぱいやることはあって、“合格”するためにはたくさん勉強しなければならない。例えば地図上で検索は簡単にできるけど、瞬時に脳が把握できるような領域には達していない。そして地図は3次元に“時間”の概念も加えて4次元に進化しなければならない。過去をアーカイブするとともに未来も表現する必要がある。
2)今後求められる機能は?
安藤氏:YelpやFoursquareなど、地域や位置情報に合致したサービスは数多く出てきているが、まだウェブの地図でブレイクスルーはないと思うのは“ガイドブック”。人それぞれ趣味嗜好がある中で、探せばなんでも見つかる時代だが、ガイド的なものはまだブレイクスルーがない。これについてはこれから広がっていくと思う。
古橋氏:時間の機能。地図を見てお店に行って閉まっているとショックなので、営業時間情報などは充実させていく必要がある。
持地氏:“シチュエーション”という概念。「子供を連れていて雨が降ったらどうする?」とか、自分の状況に合っていて、かつその場所に紐付いた情報を検索せずに入手できる機能が実現できていない。
藤村氏:地図上で情報がもっと整理されることが必要。まだ地図に載っていない情報はたくさんあって、それらを単に載せるのではなく、役に立つ情報を載せることが大事。
河合氏:今はどんなデータも、緯度・経度を使って地図に載せることでマッシュアップされる。緯度・経度の代わりに店という単位があればそこに時間とかいろいろ載せられるが、そのような共通のものが今はないので、載せる先がない。地図をマッピングするようにいろいろな店の情報を載せていくということができない状況で、まずはアンカーとなるベースの情報を作る必要がある。そのためには緯度・経度とは別の新しい考え方に変えなければいけない。
古橋氏:時間情報については、1つの考え方として情報の“鮮度”が重要となる。今の街の状態を記録する頻度を上げて鮮度を上げていけばいくほど、時間の断面を記録し、アーカイブすることができる。まずはそれぞれのやり方で鮮度を上げていって、アーカイブするという“時間断面の蓄積”が大事だと思う。
河合氏:ヤフーでもLatLongLabにおいて、1999年と2009年の地図を比較する「Tokyo Decade」というサービスを提供しているが、実は1999年の地図というのは社内でもデータが無くて外部から調達した。基本的に地図サービスはデータの上書きで今までやってきたが、これからはアーカイブにも取り組んでいく必要がある。
3)地図サービスで意外と知られていない便利機能を教えて!
古橋氏:OSMをやる人は紙地図も好きな方が多い。我々は更新は基本的にウェブでやっているが、紙地図に持っていきやすい仕組みもいくつか用意されていて、おすすめなのはサードパーティが提供している「Field Papers」。このサイトでOSMの地図上で範囲を指定すると、PDFファイルで出力できる。そこには2次元バーコードが付いていて、そこにメモを書き込んでデジカメなどで写真を撮ってサーバーに送ると、自動的に位置情報を与えてくれて、ほかのユーザーがそれをもとにまた地図に落とし込める。
持地氏:「いつもNAVI」のサイトの左メニューに「ラボサービス」というコーナーがあり、そこに「ビルからテナント検索」というサービスがある。このサービスでは、地図上でビルをクリックするとビルがせり上がって、そこに入っているテナントの情報が見られる。このほか、エリアの混雑度が1年前に比べてどう変化しているのかを見られる「にぎわい変遷マップ」というサービスもある。
藤村氏:「地理院マップシート」というサービスを昔から提供している。これはアドレスマッチングのサービスをExcelファイルで提供するもので、帳票情報を電子地図上で展開できる。
河合氏:Yahoo!地図は“橋名”で検索することができる。あとはPC用サイトでは、なぞった線や囲った円の中の施設を検索できる「道沿い検索」なども利用可能。
4)スマホ地図とPC用地図の関係は今後どうなる?
河合氏:スマホもPCも本質的な区別はない。逆に言うと、区別されているようではだめで、シームレスかつ自然に両方使えるような状況が理想。
藤村氏:我々、国土地理院自身が用途別に提供するというよりも、さまざまなプラットフォームにおいてタイル配信を幅広く使ってもらえるような形を作っていきたい。
持地氏:最適化の問題だけだと思う。以前はPCとスマホで地図を使い分けていたが、今は大体が出先でスマホを操作することで済んでしまう。
古橋氏:昨年10月に「PushPin」というiPhoneアプリがリリースされた。このアプリはもともとOSMの編集用に作られたものだが、結局編集するには今の状況を確認する必要があり、「今の状況をまるごとダウンロード」というボタンが用意されている。つまりビューアーとしても便利なアプリといえる。OSMのスマホ用アプリは昨年くらいからジワジワと出てきている状況で、今年から来年にかけてさらによい物が出てくるのではないかと思う。
安藤氏:一昔前はPCで地図を調べてそれをプリントアウトして持って行くという状況だったが、今は待ち合わせ場所を細かく決めることすらせず、「じゃあ渋谷で会いましょう」と大まかに決めるだけで、着いてから電話で連絡するという人も多い。このようにユーザーの使い方がスマホを基準に変わりつつあるので、PCとスマホとの連携よりもさらに一歩進んで、その先の使い方を提案する必要がある。基本的にユーザーは地図を見たいのではなく、とにかく目的地に着きたいだけだ。地図好きの人は地図にこだわりたがるが、「地図は何に役に立つのか」というのを、PCやスマホ、テレビなどデバイスが増えてきた今、もう1回見つめ直す必要がある。
5)SNSと地図とのかかわりについて。SNSと地図がうまく組み合わさるようなプレイヤーはこの先、誕生するのか?
安藤氏:SNSが得意な会社もあれば地図が得意な会社もあり、もはや「全部1つの会社で」という時代ではない。数多くの地図サービスやSNSをうまく組み合わせることが大事で、キラーサービスを生み出すのは地図の会社でもSNSの会社でもないかもしれない。だからこそ、地図の会社もSNSの会社も、いろいろな人が使えるようにオープンな姿勢でいけば、よりよいサービスが生まれる。
古橋氏:SNSの中の地図の使われ方というと、やはりスマホなどの“ふだん持ち歩く何か”に依存していくと思われる。その時に一番のキモとなるのは“オフラインになってしまう時が必ず起こりうる”という点で、これからは「オフラインを前提にしたSNS対応の地図」を出していく必要がある。オフラインでの提供は地図データのライセンス的にも、技術的にもいろいろと難しい面はあるが、トライしていかなければならない。
持地氏:ゼンリンデータコムという会社は「地図」という素材についてはいいものを持っているけど、料理はあまりうまくないという面もあるので、そこはたくさんの人たちにその素材を使っていいサービスを立ち上げていただく、あるいは一緒に何かをやるという、ともにアイデアを出しながら一緒にやっていけたらいいな、と思う。
藤村氏:我々の作る地図は普遍性を大事にしているが、SNSというのはもっと個人の顔が見えるものなので、我々の作るインフラ的な地図とSNSで使われる地図というのは直交性が高く、役割分担していく形だと思う。
河合氏:地図というのは代替可能だが、SNSのソーシャルグラフは代替できない。だから軸になるのはどうしてもSNSになってしまうが、地図業界もSNSのプラットフォームを越えてどんどんオープンにしていかなければならない。例えば現状では屋内地図はマッピングするのが大変だが、それなら天井にマーカーをあらかじめ配置するなど、逆に「地図にしやすい街を作る」という発想に変える手もある。ある新しい建物を建てる時にそういう設計にして、そこで圧倒的に便利だという体験が得られれば、それが広がっていくという未来もあるのではないか。
6)将来、地図はこうあってほしい!というメッセージ
河合氏:基本的に地図は“手段”であり、“目的”にはならないので、地図は(地図の存在を意識させないように)“溶けて”いくべきだと思う。サービス側から地図に寄ってくるのではなく、地図の方がサービスに簡単に寄れるような形の方が自然だ。ただしそれだと地図屋としては面白くはないので、新しい地図を出して、みんなをびっくりさせてやりたいという思いはある。ただその場合でもプラットフォームとしての地図ではなく、誰も思っていなかったようなソリューションとか、そちらの方向になる。プラットフォームとしての地図は“溶けて”いくのが自然で、iOSにTwitterとFacebookのアカウントが統合されて便利になったが、ああいう形になっていくべきだ。
藤村氏:ウェブに地図が溶け込んでいく中で、我々はそこで“共通する部分”をタイムリーに出していくのが大事だと思う。
持地氏:地図も大事だが、もっと重要なのは位置情報。もうすぐGoole Glassなどのメガネ型デバイスが出てくるが、膨大な位置情報、地図情報の中からいかに必要な情報が上手に溶け込んで出てくるか、というのがキーになってくる。
古橋氏:スパイ映画などでよく出てくるリアルタイムの衛星イメージというのは、なかなかできそうでできていない状況だが、一部でそういうことをやろうという動きも出てきている。衛星画像という“地図を作る元となる情報”がどんどんリアルタイムに提供されるようになると未来も変わってくる。
安藤氏:どんなものでも未来永劫のものはないと思っていて、特にIT系の世界は移り変わりが激しいが、地図は人が移動する限り決してなくならない。個人的には緯度・経度ではない新しい表現方法が出てきて欲しい。例えばネットワークやコミュニケーションの近さ・遠さとか、流行っている・流行っていない店とか、人間が把握しやすいマッピングの新しい方式が登場してもいいのではないかと思っていて、そういう新しい概念を推し進めると地図の未来が見えてくると思う。
GPS絵画から商店街マーケティングまで、多彩な話題が飛び出したライトニングトーク
パネルディスカッションのあとにはジオメディアサミット恒例のライトニングトークが実施された。最初に登壇したのは、移動した軌跡で地上絵を描く“GPS絵画”を楽しんでいる“やっさん”。「世界一巨大なメッセージを描きたい」という思いから始めたGPS絵画で、北海道から九州まで使って描いたプロポーズのメッセージなどを紹介した。この作品はギネスにも認定されたという。
次に、Androidアプリ「道しるべMap」の開発者である高田百合奈氏が登壇。同アプリは方向感覚に関するアンケートをもとにユーザーの空間把握の違いに応じてヘディングアップ/ノースアップやルートマップ映像などの組み合わせを変えて、最適なナビゲーションを行う。実証実験によると、ユーザーターゲティングを行っていない地図と比較して、迷いに関する発言の割合が減少し、最初の道順の発見時間が短縮するなどの効果が見られたという。
このほか、明治時代の初期に作られた“迅速測図”を見られる「歴史的農業環境閲覧システム」や、地図会社のインクリメントPが提供する位置情報ゲームアプリ「ドライブにゃん賊団」および生活エリアのおすすめ情報をチェックしたりレポートしたりできるサービス「colorTown」、画面のレーダーを頼りに身近にあるクエストを探す「まちクエスト」、商店街でO2Oを実現する「商店街マーケティング支援システム」なども紹介された。
また、オープンデータやビッグデータを行政やビジネスに活用するための「ジオデータのビジュアライズワークショップ」(8月4日開催)や、オープンデータで作るデジタル教材のコンテスト「地図教材コンテスト2013」(9月1日応募受付開始)などイベント告知も行われた。
ライトニングトークが終了し、締めくくりとして司会の関氏は、「今回のテーマでは、これまでのジオメディアサミットと比べて参加者は少ないだろうと想定していたのですが、思っていたよりも人数が集まって、なかなか濃い、熱量のあるカンファレンスになったと思います」とコメント。終了後は懇親会が行われ、登壇者や参加者による活発な情報交換がなされた。
筆者はこれまで数回にわたってジオメディアサミットを見てきたが、今回のカンファレンスは地図そのものにフォーカスしたという点で実に興味深かった。特に印象に残ったのは基調講演における河合氏の「地図はSNSとは別の軸のプラットフォームになれると思う」という言葉だ。現状の地図サービスは確かにさまざまな課題を抱えてはいるが、それらを解決していくことで地図はプラットフォームとして今以上の存在に進化する可能性を秘めている。
パネルディスカッションに登壇した地図業界のキーマンたちが現在の地図サービスを評価したところ、50点を超える点数を付けた人が1人もいなかったというのにも驚いた。ユーザー側から見れば、ここ十数年の地図の進化というのは恐るべきものだったという印象だが、提供する側は現状に満足することなく、さらにその先を見据えて取り組んでいる。今後どのような点に力を入れて取り組んでいくかはそれぞれ異なるものの、地図サービスの今後に大きな期待と希望を抱くことができたカンファレンスだった。
次回のジオメディアサミットは、東京・日本科学未来館で開催される「G空間EXPO 2013」2日目の11月15日、同イベント内で開催を予定している。テーマは未定だが、次回もまた地図や位置情報に興味のある人にとっては見逃せない内容となるに違いない。