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第143回:「ジオメディアサミット」東北で初開催、震災復興などが話題に
位置情報コンテンツ(ジオメディア)のフリーカンファレンスとして定番となった「ジオメディアサミット」。この東北でのイベント「ジオメディアサミット in 東北」が8月31日と9月1日の2日間、仙台市の東北大学工学研究科・工学部中央棟にて開催された。東京をはじめ名古屋や大阪、福岡などさまざまな地域で開催されてきたこのイベントだが、東北での開催は今回が初めて。しかも、いつもは1日で終わるこのイベントだが、今回は2日間かけての開催となった。今回はこのイベントについてレポートしよう。
会場となった東北大学工学部の中央棟 |
今回の「ジオメディアサミット in 東北」は、仙台・宮城を中心としたIT企業や開発技術者のコミュニティ「Fandroid EAST JAPAN(FEJ)」と、東北大学・災害科学国際研究所が主催となって開催された。はじめにFEJに所属する原亮氏(みやぎモバイルビジネス研究会・会長)が、今回のイベントのコンセプトを説明。1)東北が持つ地域資源とジオメディアの融合で生み出せるものは何かを考える、2)東日本大震災の記録とジオメディアの関係を振り返り、ジオメディアの災害時活用について考える、3)広大な東北において、東京や大阪などの大都市圏とは異なる生活環境でのジオメディア活用について考える――と3つのテーマを挙げた。
みやぎモバイルビジネス研究会の原亮氏 |
最初のスピーカーはヤフー株式会社の執行役員・チーフモバイルオフィサー(CMO)兼スマートフォン戦略本部長の村上臣氏。村上氏はまず、震災時におけるヤフーの災害への取り組みを紹介。震災直後に取り組んだプロジェクトとして、「福島原発避難区域マップ」「計画停電マップ」「GSリアルタイム情報」「道路・鉄道路線の休止情報」「電波状況確認マップ」「リアルタイム運行情報」「道路通行確認マップ」「写真保存プロジェクト」などを紹介した。
さらに、新しい体制となったヤフーの取り組みについても触れた。「爆速」をキーワードに掲げてさまざまなプロジェクトをスピーディーに進めようとしているヤフーだが、村上氏はエンジニア出身ということもあり、エンジニアの力を結集しようとハッカソンを定期的に開催している。石巻の被災者が課題を解決するために、現地に赴いて開催している「石巻ハッカソン」などを紹介した上で、「ヤフーは社会の課題を解決する会社でありたい」と今後の抱負を語った。
ヤフーの村上臣氏 |
石巻ハッカソンの様子 |
次に登壇したのはクウジット株式会社の代表取締役社長兼空実プロデューサーである末吉隆彦氏。屋内位置測位ソリューション「PlaceEngine」や、「ロケーション・アンプ for 山手線」「大江戸妖怪集」「トーハクなび」など位置情報関連の同社の取り組みや、これまで開発したアプリなどを紹介した。さらに、復興支援として行った「SMILEサイネージ」についても紹介。デジタルサイネージ上で子どもの笑顔の上にキャラクター画像がARで表示されるという仕掛けを紹介し、人々の「笑顔」が持つ可能性について語った。
その上で、「今の社会において場所が本来持つ力は見失われがちであり、IT技術により場所に物語を語らせて、場所と時間の感覚をリアルに感じる術を提供することで、物語の主体をユーザー自身へと帰せるのではないか」と同社の活動コンセプトについて語った。さらに、「リアルとバーチャルの組み合わせは大昔からあるテーマだが、それを全体としてどのように体験・デザインするかが重要な時代に来ている。そこが新規産業の創出や地域の活性化に役に立てる領域になるのではないか」と締めくくった。
クウジットの末吉隆彦氏 |
ロケーション・アンプ for 山手線 |
3人目のスピーカーは株式会社うぶすな取締役・地財戦略研究所長の丸田一氏。前半では現在の社会変化について「空間情報化」をテーマに語り、コンテンツに緯度・経度・高度が付くことによる“空間情報・化”と、スマートフォンなどの普及がもたらす“空間・情報化”という2つの側面について解説した。
その上で、同社がこれまで取り組んだアプリを紹介。秋田市で昨年サービスインした観光アプリ「おもてナビ」や、スカイツリー周辺の観光情報を提供する「下町そら散歩」、緊急地震速報を即時表示して避難所までの経路を誘導するいわき市の防災アプリ「緊急時お助けナビ」、来訪外国人向けの多言語通訳サービスである秋田市の「言の葉ナビ」などの実例を見せながら、これらのアプリ開発によって得られた反省点や課題、今後の抱負について紹介した。
うぶすなの丸田一氏 |
おもてナビ |
下町そら散歩 |
4人目は東北大学災害科学国際研究所の柴山明寛氏。柴山氏は東北大学の震災時の状況を振り返りながら、被災直後に行った被災建築調査の活動を紹介した。これまでは紙で行っていた調査を今回タブレット端末に切り替えることにより、「直感的に入力することが可能で入力ミスが少ない」「調査中に航空写真を確認できる」「集計時間が短くなる」といったメリットが生まれたことを解説。誰でもすぐに利用できるようなUIの設計や、オフラインでも地図を使用できるようにしたこと、トラブルで端末やアプリが停止しても外部メモリから復旧可能にしたことなど、システムを構築する上で工夫したことなどにも触れた。
さらに、震災の状況や復興の過程自身をアーカイブとして残し、今後の防災・減災に役立てる「みちのく震録伝」プロジェクトを紹介。あらゆる可能性を否定せずに幅広く収集し、アーカイブすることなど、その基本理念を詳しく解説した。
東北大学の柴山明寛氏 |
みちのく震録伝の基本理念 |
みちのく震録伝の利用イメージ |
最後は末吉氏、丸田氏、柴山氏に、ジオメディアサミット運営者の中心的人物である関治之氏が加わってパネルディスカッションを実施。FEJの原氏がコーディネーターとなり、今回のイベントの3つのコンセプトを軸に質問を展開し、活発な議論が行われた。
序盤は異業種や地域ごとの連携について議論が展開。「異業種が融合するから面白いものが生まれる。勇気を持って異業種をまたいで活動できる人材が重要」(末吉氏)、「地域が技術者とデータやソリューションを共有することにより、地域社会が復活する契機になる」(丸田氏)と、ジオメディアやITが地域にもたらす影響について語った。
また、「今年から潮目が変わり、自治体もどんどんアプリを導入しようという姿勢になってきているので、民の方もどんどん自治体と積極的に関わって、いろんな実験をやってみるのが大切」と、丸田氏が最近の動向についても触れた。原氏もそれに応えて、全国の自治体で「ご当地アプリ」が増えている状況に期待を寄せた。
震災復興については、柴山氏が「震災時に起きたさまざまな問題を解決するために、緻密なデータを検証していくことが大切」とコメント。関氏は震災後に起きたITエンジニアの支援活動「Hack for Japan」について紹介し、初期のころはフィードバックが得られないことから見当外れなこともしたという反省を踏まえながら、災害時の活動に関する課題について述べた。
1日目のパネルディスカッション |
1日目の締めくくりとして、ジオメディアサミット恒例のライトニングトークも行われた。ここでは株式会社らしくの「街ナビ」や、株式会社マピオンが提供する新サービス「キョリ録」、合同会社Georepublic Japanの「GeoFuse」に加えて、マルティスープ株式会社やNTT空間情報株式会社、株式会社ゴーガといった地図・位置情報関連サービスを提供する企業による紹介が行われた。さらに、八戸のベンチャー企業である株式会社アイティコワークによるアプリ開発の紹介なども行われた。
街ナビ |
キョリ録 |
2日目は「ジオメディア×ジオコミュニティ100人会議」と題して、IT以外の分野からも参加者が加わって講演や会議が行われた。
まず基調講演ではプラットフォームサービス株式会社・取締役会長の田辺恵一郎氏が登壇。千代田区の産業支援施設の民営化を“非営利型株式会社”で実践し、インキュベーション施設「ちよだプラットフォームスクエア」を運営している同社の立場から、地域間や異業種の連携による地域発展の可能性について語った。
次に今回のイベントを主催したFandroid EAST JAPAN(FEJ)が、これまで開発したモバイルアプリを紹介。FEJはスマートフォンアプリの開発技術者の育成や能力向上などを目的として活動しており、3年間で100本のアプリ開発を目標に掲げている。今回は観光や農業などの異分野連携により開発された仙台産アプリとして、観光コース途中に隠されたカメラのフレームを集めて伊達武将隊との記念写真を撮れる「伊達武将隊る~ぷる巡り」や、地下鉄の工事現場の写真に自分の顔を合成した写真を撮れる「伊達な東西線カメラ」といったAndroidアプリを紹介した。
後半は参加型パネルディスカッション「ジオジオ100人会議」を実施。パネリストとして、基調講演を行った田辺氏やNPO法人農商工連携サポートセンターの代表理事である大塚洋一郎氏、イー・リゾートの業務代表である剱持勝氏など非IT系の人々が参加した。さらにIT側の参加者として、総務省情報通信国際戦略局付の谷脇康彦氏や、株式会社トライポッドワークスの代表取締役である菊池務氏、有限会社マイティー千葉重の代表取締役である千葉大貴氏が参加。コーディネーターには原氏および株式会社CCL・取締役の須藤順氏が務めた。会議の内容は位置情報関連の話題からは少し離れたものの、異業種連携をテーマに活発な議論が繰り広げられた。
2日目のパネルディスカッション |
初の2日間開催となったジオメディアサミットだが、今回の東北での開催は震災復興というテーマだけにとらわれず、位置情報コンテンツや地理情報サービス、スマートフォン向けモバイルアプリなどが今後いかに地域へ貢献していくかという広い視点を持ったイベントとなった。
参加者の中には東北の人だけでなく、関東や関西、北陸、北海道など他地域から訪れた人も多く、IT関連だけでなく、行政や教育事業、ボランティアの関係者などさまざまな人が訪れた。内容的にも、ジオメディアサミットがITという枠を超えた異業種交流の場へと発展する可能性を垣間見ることができたイベントであり、今後も東北での同イベントの定期的な開催が期待される。
関連情報
2012/9/6 06:00
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