趣味のインターネット地図ウォッチ
第178回
スマホライクな操作性を実現、GARMINのハンディGPS「Oregon 650TCJ」
(2014/1/9 06:00)
最近は登山やハイキングなどでスマートフォンを使用する人も増えてきたが、その一方で単体のハンディGPSを使い続けている人も少なくない。ハンディGPSには、バッテリーの持続性能や過酷な環境でも耐えられるタフ性能、グローブを着けた手での操作を考慮したUIなど、スマートフォンにはないメリットがいくつかあるからだ。中でも人気なのはGARMIN製のGPS。GPS専業メーカーであるGARMINはさまざまなハンディGPSを用意しているが、大きめのタッチパネルを搭載し、スマートフォンユーザーにも違和感なく使えるモデルが「Oregon」シリーズだ。今回は同シリーズの最新モデルである「Oregon 650TCJ」を紹介したい。
静電容量式のマルチタッチ対応ディスプレイを採用
GARMINのハンディGPSというと、クリックスティックを搭載した「eTrex」シリーズが知られているが、Oregonはタッチ式ディスプレイを採用しているシリーズだ。従来のOregonは、多くのスマートフォンで採用されているような静電容量式のタッチパネルではなく、グローブを装着しても使える感圧式のタッチパネルを採用していた。しかし今回発売された650TCJは静電容量式のマルチタッチスクリーンとなり、ドラッグスクロールやピンチイン/アウトなど“スマホライク”な操作が可能となっている。しかも静電容量式でありながら、グローブをはめた指でも反応しやすいというスマートフォンにはない特徴を持っている。ディスプレイのサイズは3インチで、解像度は240×400ピクセル。
気になるタッチスクリーンについて実際に試してみたところ、確かにふつうのグローブでもきちんと操作に反応する。厚手のサイクル用グローブやランニンググローブなどさまざまな素材で試してみたが、いずれも操作可能だった。ただしこれはディスプレイ内の1カ所しかタッチしないシングルタッチ操作の場合においての話で、ピンチイン/アウトなどのマルチタッチ操作となると、ふつうのグローブを装着した状態では使えなかった。ただし、最近増えてきたタッチスクリーン対応グローブを使えばマルチタッチ操作も可能だ。
なお、地図の拡大・縮小はピンチイン/アウトのほかに、地図上の「+」「-」のシングルタッチでも行えるので、マルチタッチ操作が行えない場合でも拡大・縮小の操作を行うことは可能だ。一方、ドラッグスクロールについてはタッチスクリーン対応グローブ以外でも行えるものの、反応が鈍い場合もたまにあった。
もう1つの特徴は、低消費電力通信規格「Bluetooth Low Energy」に対応していることを示す「Bluetooth SMART」の機器となったこと。iOS用アプリ「BaseCamp Mobile」との連携使用が可能で、この連携機能を使えば、Oregon 650TCJで記録したログをすぐにiPhone上で確認できる。iPhoneの地図ならば航空・衛星写真上でログを確認することもできるので、見ていて楽しい。また、GARMINのクラウドサーバーからiPhoneを経由して、PC用のソフト「BaseCamp」で作ったルートデータを外出先でOregon 650TCJに転送することも可能だ。
SOSパターン点灯が可能なフラッシュ搭載カメラ
本体のサイズは114×61×33mm(高さ×幅×厚さ)、重量は209.8g(電池込み)。以前から発売されていた「Oregon 550TC」(114×58×36mm、196g)のサイズに比べて高さは同じだが幅が3mm広がり、厚さが3mm薄くなった。試しに従来のOregonシリーズ用のホルダー(RAMマウント製)に装着してみたが、そのまま使うことができた。なお、防水性能は日常生活防水(IPX7)となっている。
内蔵カメラは550TCが3.2メガピクセルだったのに対して、650TCJは8メガピクセルと解像度が大きく向上するとともに、フラッシュも搭載された。このフラッシュには常時点灯や点滅、モールス信号のSOSパターン点灯など、アウトドアで非常時に活用できる機能が付いている。もちろん撮影した画像には位置情報(ジオタグ)を付加することも可能だ。
ストレージ容量は550TCの4GBから650TCJでは8GBへと向上し、このほかにmicroSDメモリスロットを搭載している。PCとの接続はUSBで行い、バスパワー駆動も可能。電源は単3乾電池2本で約16時間駆動できる。バッテリーに汎用電池を使うのはGARMIN製ハンディGPSの特徴の1つで、予備を何本も用意すれば長期の山行にも対応できる。また、冬山などに使う場合は単3形のリチウム電池(一次電池)を利用すれば耐寒性能を大幅に向上させることができる。さらにGARMIN純正の専用充電池を使えば、USBバスパワー給電により、電池を取り出すことなく充電することも可能だ。
このほか、気圧高度計や電子コンパス(3軸タイプ)を搭載しているほか、「ANT+」に対応したハートレートセンサー(心拍計)やスピード/ケイデンスセンサー(ケイデンスのみ)、外部温度計にも対応する。また、近日発売予定のGARMIN社製アクションカメラ「VIRB」のリモートコントロール機能も搭載している。
ログ記録のスタート/ストップを制御できる新メニュー
測位システムはGPSとGLONASSに加えて、QZSS(準天頂衛星)の「みちびき」補完信号にも対応。地図データは等高線入りの「日本登山地図(TOPO10MPlus)」と、ルート検索およびナビゲーションが可能な「日本詳細道路地図(シティナビゲーター)Ver.14」、1/20万DEMデータ付きの「日本全国概略図」が付属している。地図画面はスマートフォンのように、モーションセンサーで縦横表示を自動的に切り替えられる。デジタル標高データ(DEM)にも対応しており、対応地図により山を立体的に表示させることが可能だ。日本登山地図には水場や山小屋の情報も収録しているのでとても使いやすい。
メニュー画面は従来は階層が1つだったが、650TCJでは2つに分かれて、メインメニューに「地図」「目的地検索」「コンパス」「トリップコンピュータ」の4つが並び、残りはサブメニューにまとめられた。目的地検索は、登録したポイントや写真を撮影した地点、軌跡ログ、座標のほか、全国の施設情報も収録されており、現在地周辺の施設を調べられる。目的地までのルート検索を行ってナビゲーションする機能も搭載されているが、地図上に矢印や道路名などが表示されるだけで、音声案内機能は持たない。カーナビ専用機と比べると機能的には見劣りするが、簡易ナビとして自転車やバイクで使う分には十分だ。
サブメニューの中には従来にはなかった「現在の軌跡」というアイコンが加わった。これまで軌跡ログのオン/オフや記録方法などを設定するにはメニューの「設定」で行っていたが、650TCJでは「現在の軌跡」上で軌跡ログの記録方法を設定することが可能で、記録スタート/ストップの操作も簡単に行える。記録中の地図や高度変化、経過時間などもこの「現在の軌跡」できるため、従来よりもずっと分かりやすい。
このほか、GPSを使った宝探しゲーム「ジオキャッシング」のサイトからキャッシュ(宝)の設置ポイントをダウンロードして保存・閲覧できる機能を搭載していることに加えて、記録したログや写真をほかのユーザーと共有できる「アドベンチャー」というクラウドサービスにも対応している。
ユニークな機能としては、航行中のボートから落水したクルーを救助するために使う「救助ナビ」という機能がある。この機能を開始すると、開始した時点の位置を目的地としたナビゲーションをすばやく行える。このほか、撮影した写真を管理できる「フォトビューアー」では、撮影した写真を地図上で確認することも可能だ。
山岳地・市街地いずれも安定した軌跡を記録可能
それでは軌跡ログを見てみよう。今回比較に使ったのは、GARMINの「eTrex 20J」とアップルの「iPhone 5s」。東京西部の高尾山を登った結果と、東京都内の市街地を自転車で走行してみた結果をGoogle Earth上に表示した。いずれも空中写真上の赤い線がOregon 650TCJ、水色の線がeTrex 20J、黄色い線がiPhone 5s(ロガーアプリはGPS-Trkを使用)となっている。ログの記録間隔は5秒おきとした。
なお、自転車で走行する際は交通法規に則り、原則として車道左側端を走行し、路上駐車を避ける時だけ一時的に車道中央寄りを通った。ログの一部で車道の反対側の車線や歩道に入り込んでしまっている部分があるが、これはGPSの誤差によるものであり、実際の走行軌跡とは異なるものであることを断っておきたい。
高尾山では、テストに使用する3機をパイプフレーム付きザックに固定した。図の右端が山麓で、左端が山頂となっており、往路は上側の軌跡で、沢沿いを歩く琵琶滝コースから頂上付近で稲荷山コースに合流した。復路は下側の軌跡で、尾根を歩く稲荷山コースとなっている。
いずれの機器も、復路の稲荷山コースは尾根歩きのため衛星電波を受信しやすく安定した軌跡となった。違いが出たのは見通しの悪い沢沿いの往路で、大きな曲がり道の部分で誤差が大きくなっている。ただし、ところどころでOregon 650TCJだけ外側に膨らんだり、内側に入り込んだりする部分が見受けられるものの、それほどブレは大きくない。
市街地のコースは、長方形の右上の地点からスタートして反時計回りに進んでいる。高尾山のログと同様に、Oregon 650TCJはeTrex 20Jに比べて全体的にカーブの外側に膨らむ傾向があるが、上野駅と御徒町駅間で首都高速の高架に沿って走行した際もブレが小さく、全体的にきれいな軌跡を描いている。山岳地・市街地いずれのシチュエーションでも誤差の少ないログを記録できるだろう。
マルチタッチスクリーンを搭載し、スマートフォンのような操作性が可能となったことに加えて、Bluetoothでスマートフォンとの連携も簡単になったOregon 650TCJ。eTrexシリーズよりも大きなディスプレイを搭載し、日本詳細道路地図もインストール済みということで、登山だけでなく自転車やバイク、マリン用ナビとしても最適だ。スマートフォンとは違って汎用電池が使用可能で、防水・防塵・耐衝撃性が高いというメリットに価値を感じる人にとっては魅力的な製品と言えるだろう。