趣味のインターネット地図ウォッチ
「Recon JET」を試してみた――自転車乗りとランナーのためのサングラス型端末
地図上に現在地を表示できるHUD付き
(2015/7/9 06:00)
Intelが6月18日、カナダのRecon Instrumentsという企業を買収したのをご存知だろうか? Reconはスポーツやトレーニング向けのHUD(ヘッドアップディスプレイ)技術を持つ企業で、HUDを搭載したウェアラブル端末を提供している。本連載ではこれまでにも同社のHUD付きスノーゴーグル「Recon SNOW2」などを紹介してきたが、同社が今春に発売した最新のスマートグラスが「Recon JET」だ。今回、このRecon JETを借りられる機会を得たので詳しくレビューする。
小型ディスプレイを搭載したサングラス型端末
Recon JETはAndroidベースのサングラス型ウェアラブル端末だ。価格は正規輸入元である株式会社美貴本の直販サイト「ミキモトビーンズストア」にて8万8800円(税別)。最大の特徴は、レンズ右下に配置された小型のワイドディスプレイ(WQVGA)で、このディスプレイは約2mの距離から30インチHDディスプレイを見る感覚を再現する。アイウェア用の小型ディスプレイは同社が従来から販売しているゴーグル型ウェアラブル端末「Recon SNOW2」にも搭載されており、このディスプレイには移動速度や移動距離、地図などのさまざまな情報を映し出すことができる。
SNOW2がスキーやスノーボードで使うことを想定しているのに対して、JETはサイクリングやランニングでの使用を想定している。SNOW2には無い機能として、静止画および動画を撮影可能なカメラが搭載されていることにも注目だ。さらに、これらの各種機能を操作する入力デバイスとして、光学式タッチパッドも新たに採用した。このタッチパッドは全天候に対応しており、グローブを着用していても操作可能。このほか、2ボタン式のスイッチも搭載している。なお、本体は防水・防塵仕様となっている。
CPUはデュアルコアARM Cortex-A9(1GHz)、メモリは1GB、ストレージは8GBで、GPSのほか3D加速度計や3Dジャイロスコープ、3D磁力計などのセンサーを搭載している。無線通信はBluetooth 4.0およびWi-Fi(IEEE 802.11a/b/g/n)に加えて、スポーツウォッチ用の心拍センサーや自転車用のケイデンス(1分間のクランク回転数)センサーとの接続が可能なANT+にも対応している。筆者が使っているGARMIN製のANT+対応スピード/ケイデンスセンサーとのペアリングを試してみたところ、問題なく接続することができた。
標準ではスモークレンズが装着されているが、オプションでクリアレンズ(税別9400円)も用意されており、スモークレンズは昼用(晴天用)、クリアレンズは夜用(曇天用)として使い分けられる。また、充電・データ通信用のMicro USBケーブルや、マイクロファイバークロスも付属している。フレームカラーはホワイトとブラックの2色から選択できる。
バッテリーは簡単に取り外し可能
JETの本体は、ディスプレイや各種センサー、カメラ、CPUやメモリなどを搭載した本体(Reconはこれを「エンジン」と呼んでいる)をレンズ右側に、バッテリーユニットをレンズ左側に装着して使用する。重量は約85gと軽量で、重さのためにぐらついたり、ずり落ちたりすることもなかった。
エンジンとバッテリーはレンズに取り付けることで、レンズ上部の内部配線で電気的につながる仕組みになっているため、エンジンとバッテリーの両方をレンズに装着しないとエンジンは起動しない。また、バッテリーの充電はエンジン先端部のMicro USBポートにUSBケーブルを接続して行うのだが、充電する際もバッテリーを取り付けておく必要がある。
バッテリーはリチウムイオン電池を採用しており、エンジンから独立しているためにスペアバッテリーと簡単に交換できる。充電時間は約1時間で、駆動時間は最大4時間。自転車のツーリングなどで丸一日使うことを考えると容量は物足りないが、バッテリー交換が簡単なことがこの点を補っている形だ。ちなみにバッテリー単体の価格は「ミキモトビーンズストア」にて7800円(税別・送料別)となっている。
エンジンおよびバッテリーを取り外すと、レンズ左右の電気接点が剥き出しになるが、汗などで濡れた場合は水で洗うことも可能で、水滴を拭いて乾かせば問題なく使える。また、電気接点は定期的にアルコールで洗浄する必要がある。
JETのエンジンは右側下部に取り付けられており、視線を少し下げるだけで簡単にディスプレイを見ることができる。そのために注意散漫になってしまう恐れもあるため、使用には十分な注意が必要だ。説明書にはこの点についてかなり長文で安全上の注意が記載されている。
ただし、JETのエンジンは視界をなるべく遮らないように右の下部に配置されてはいるものの、それでもエンジンのない左側と比べると、右眼には多少の見えづらさはある。日本では自転車は道路左側を走行するよう決められてるため、走行中に安全確認をする際は右後ろに振り返る機会が多い。しかしJETを使っていいると、振り返る時にエンジンによって視界右下の一部が遮られてしまう。
これは眼の位置やサングラスのかけ方によって個人差があるので一概には言えないが、筆者の場合は「多少の見えづらさは感じるが、我慢できないことはない」という感想を持った。人によっては許容できない人もいるかもしれないので、購入する前には、可能であれば試着してみることをお勧めする。これについては、できればエンジンが左側にあるモデルが欲しいところだ。なお、ランニング用途ならば車道は走らないので、この件についてはあまり気にする必要はない。
PCやスマートフォンと連携可能
JETはPCやスマートフォン/タブレットと連携して使うことを前提としている。ストレージが8GBと限られていることもあり、地図データについては必要なエリアを選択してあらかじめインストールして利用する。PCやスマートデバイスとの連携には「Recon Engage」というクラウドサービスが用意されており、同サービスを使用するためのウェブブラウザー用プラグインおよびiOS/Androidアプリが用意されている。
Recon EngageはJETやSNOW2で記録したアクティビティ(移動速度や移動距離、GPSログ、心拍数など)のデータを管理することも可能で、ウェブブラウザー上で確認できる。また、アクティビティ記録中にHUDへ表示する項目(スピードや移動距離など)を選択したり、表示項目の配置を変更したりすることもできる。
Recon Engageは使用開始時に独自アカウントを作成できるほか、Facebookアカウントでもログインできる。PCとUSB接続し、ウェブブラウザーからRecon Engageにログインすると、登録した使用エリアなどをもとに地図が表示され、そこからエリアを選んでRecon JETにインストールする。JETを使用後に接続すると、記録したアクティビティを同期することができる。
スマートフォンとの連携はBluetoothで行う。iPhone/Androidスマートフォンと連携することにより、スマートフォンにメッセージが届いたり、電話がかかってきた際に告知される。また、Facebookでログインすることにより、Recon Engageに登録している友人を発見し、その友人が公開しているアクティビティをチェック(Activity Feed)したり、現在地を把握(Friend Tracking)したりすることもできる。
なお、JETはAssisted GPS(AGPS)に対応しており、PCやスマートフォンとの接続時に衛星位置情報がJETに転送されることにより、測位時間を早めることができる。実際に使った時も、衛星位置情報を転送した状態で測位を開始したところ、ほとんど待つことなくすぐ使用を開始することができた。
建物の形などは描かれないシンプルな地図
JETの操作は、エンジンの下部に配置された「BACK/POWER」「SELECT」の2つのタッチボタンと、サイドに配置されたタッチパッドで行う。タッチパッドは前後(左右)のスワイプで水平メニュー項目の切り替え、上下のスワイプで垂直メニューの切り替えを行える。このタッチパッドはスワイプするとスピーカーから小さくクリック音が鳴るもので、ハードウェアボタンのような操作感覚だ。グローブを装着した状態での操作も試してみたが、素手で操作する感覚とほとんど変わらない。
基本的にはタッチパッドでメニューを切り替えてSELECTボタンで選択というパターンで操作する。タッチパッドは反応しないことがごくまれに発生するが、ほとんどの場合は正常に動作した。操作中は「BACK/POWER」「SELECT」の位置がどちらなのか忘れて混乱することがあったが、しばらく使っているうちに慣れた。なお、メインメニューのほかにはSELECTボタンの長押しで表示できるショートカットも用意されており、これを使うことでカメラや通知などにすばやくアクセスできる。
内蔵カメラによる撮影機能については、メニューから「My Apps」>「Camera」を選択することにより利用できる。静止画および動画(720p)を撮影することが可能だ。撮影モードに切り替えるとディスプレイ上にカメラで捉えた映像がリアルタイムに表示されるため、フレーミングをチェックしながら撮影できる。動画の記録時間は1回につき、15秒が経過すると自動的に撮影停止する。動画と静止画のいずれも画質はあまり期待できないので、走行中のメモ代わりとして考えたほうがいいだろう。
プリインストールアプリには、このほかにスマートフォンの音楽再生をコントロールできる「Music Player」や、地図を見られる「Maps」がある。Mapsを使うには、前述した通りあらかじめ表示させたいエリアの地図データをインストールしておく必要がある。インストールして最初に起動する際は、地図の初期化作業に2~3分ほどかかる。なお、地図はサイクリングやランニングなど、アクティビティの記録中にも起動可能で、走行速度や移動距離などを表示させた状態からタッチパッドをスワイプすることで地図画面に切り替えられる。
地図画面は建物の形が描かれない簡略的なもので、国道などの主要道路のみ道路名が記載されている。情報量の多い精細な地図だと凝視してしまう恐れがあるので、安全性を考えるとシンプルな地図のほうがいいのかもしれない。配色は黒バックにグレーの道路、白抜きの注記、オレンジ色の自己位置、水色の水域という組み合わせだ。JETを装着した状態では、頭が向いている方向に連動して地図が動くため、小刻みに頭を動かすとそれにつれてユラユラと動く。
ヒートマップで速度の状況が分かる
新たなアクティビティを記録する場合は、メニューから「New Activity」を選択した上で、「Cycling」「Running」のいずれかを選ぶとGPSの測位完了後にスタートする。衛星位置情報がインストールされていれば、測位はかなりスムーズだ。アクティビティの進行中は速度や距離、タイム、ペース、さらにセンサーとペアリングしていればケイデンスや心拍数なども表示される。これらの情報の表示形式はPCとの接続時にカスタマイズすることが可能で、表示項目を2つや3つに絞って大きめに表示させたり、4つに増やしたりすることができる。
アクティビティは途中で休止することもできる。終了する場合はSELECTボタンを押して保存またはシェア、削除から選択することで終了させることができる。記録したアクティビティはPCで接続すると転送されてRecon Engageのウェブサービス上で確認できるほか、スマートフォンアプリ上でも確認できる。Recon Engage上では移動距離や速度、高度などのグラフを見ることができるほか、地図上にログを表示することもできる。
このログは単に軌跡を表示するだけでなく、速度に応じたヒートマップとなっており、速度が遅いところは赤く、中くらいの部分は黄色、速いところは緑色で表示される。この機能は、信号などで立ち止まっている部分を確認したり、速度が速い区間を確認することができて便利だ。また、記録内容はGPXやkmlの形式でエクスポートすることもできる。以前、SNOW2の発売直後にレビューした時は、このエクスポートができなかったのが不満だったが、それから機能追加が図られて対応してくれたようだ。
密集した市街地では誤差が激しい
今度はログを見てみよう。市街地でのログは、東京・台東区の東京メトロ銀座線・田原町駅を基点に西方向に走り、上野駅で左折して南下し、御徒町駅付近でさらに左折して東へ向かい、国際通りを左に入って北上してゴールというルートでログを記録した。記録中は法規に従って、路上駐車を避ける時以外は車道左側端を走行した。ログの一部で車道の内側に入り込んでいる部分があるが、これはGPSの誤差によるものである。
軌跡を見ると、市街地では左右への誤差がかなり激しく、特に上野駅から御徒町駅にかけての道路では左右に激しく揺れ動いている。ビルが密集したエリアでは少し誤差の多いログとなるが、全体的には道路から大きくはみ出してはいないので、おおまかな位置の確認には使えるだろう。試しに荒川河川敷で計測してみたが、こちらは格段に誤差の少ないきれいなログが取れた。
サイクリング/ランニング中の視線移動を減らせるハイテクサングラス
Reconのプロダクトは、いずれも「スポーツをしている時に速度や距離、現在地などの情報をリアルタイムで見たい」という明快なコンセプトを持っている。JETでできることは、サイクルコンピューターやウェアラブルカメラでも同じことができるが、それをほとんど視線を移動することなくサッと見られるメリットは思いの外、大きい。
HUDとしての機能や使い勝手については、地図の初期化時間に時間がかかることと、カメラの撮影解像度が貧弱なことを除けば、ほぼ満足だ。ANT+対応の心拍センサーやスピード/ケイデンスセンサーとの組み合わせも可能なので、従来サイクリングコンピューターで確認していた情報を、そのままHUDで確認できる。欲を言えばシマノの電動シフトの段数表示にも対応してくれるといいのだが、これについては将来的に対応アプリが登場する可能性もある。ちなみにReconのアプリストアでは、GARMINのウェアラブルカメラ「VIRB」との連携アプリや、レガッタ(ボートレース)用のアプリなどが用意されている。
Recon JETの価格は決して安くはないが、スポーツやトレーニング中の視線移動を減らす効果を考えると魅力的な製品だ。Google Glassなどがいまだ一般販売されていない状況の中で、ReconのHUD端末は「スノースポーツ用」「サイクリング/ランニング用」と用途を明確にすることにより、いち早く製品として世に送り出すことができた。Intelによる買収後もReconブランドは継続する予定だが、今後どのように製品展開していくかが注目される。