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クラウドベースで誰もが簡単に地理情報を可視化、「CartoDB」CEO初来日でイベント開催
2016年5月12日 06:00
顧客情報や取引先情報、施設情報など企業が保有するデータを地図情報に可視化し、解析する手法として有効な“ロケーションインテリジェンス”。“GISマーケティング”“エリアマーケティング”などとも呼ばれているこのサービスを、クラウドツールとしてウェブ上で扱えるようにしたサービスとして注目されているのが米国ニューヨークに本拠を置くCartoDB(カルトディービー)社だ。
2012年に創業した同社は現在、世界中にサービスを提供しており、2015年にはSalesforce Venturesなどから出資も受けている。今回、このCartoDBの創業者メンバーの1人であり、CEOを務めるハビエ・デ・ラ・トーレ氏と、同社のセールスディレクターを務めるジェイミー・デ・モーラ氏が来日し、日本におけるパートナー企業であるPacific Spatial Solutions(PSS)とともにイベント「CartoDB Japan16」およびアカデミック向けイベント「GeoGeoWest CartoDBナイト」を4月25・26日に開催した。
今回は、初日の「CartoDB Japan16」におけるハビエ氏とジェイミー氏の講演内容およびインタビューをお伝えしたい。
ハビエ氏は基調講演の冒頭で、Twitterのデータを地図上に可視化したコンテンツを紹介した。このコンテンツは、黄色い点が日の出、赤い点が日の入についてツイートした人のデータを示したもので、これはプレゼンテーションのわずか15分前に作った地図であると述べた。その上で、「CartoDBの1つの大きなゴールとして、このような地図を会場にいるすべての人、より多くの人、誰もが簡単に作れるようにすることを大きな目標としています」と語った。
ハビエ氏は、CartoDBを創業する前は科学者で、主に気候変動に関する生物情報について研究していた。かつて研究中に、全世界で知られている種をすべて、およそ500万のポイントを地図上に落とす作業が必要となったが、当時はそれを可能にする技術はなく、彼にとってはそれがCartoDBを立ち上げる大きな理由となったという。同社はもともとスペインでスタートした企業だが、現在は本部をニューヨークに移しており、従業員は95人にまで成長している。
「CartoDBのユニークな点は、オープンソースのプログラムとして作られている点で、自分でインストールして使いたい人は無料で自由に使えます。その上で、CartoDBを使ったソリューションの構築やサポートの提供など、プロフェッショナルサービスを提供するのが私たちの仕事です」とハビエ氏は語る。
「最近の大きなトレンドとして、データ量が非常に大きくなってきていることが挙げられており、中でも位置情報が付いたデータの増加は特に進んでいます。なぜなら、すべての事象はどこかの“場所”で起きているからであり、すべてのデータのうち、約80%には何かしらの位置情報が付いていると私たちは考えているからです。位置情報が付いているデータには、GPSのログをはじめ、住所やIPアドレス、郵便番号などさまざまなものがありますが、多くの企業はそれらのうち10%くらいしか活用できていません。その理由の1つに、空間情報に関する技術が難しいことが挙げられます。CartoDBの目標は、そのようなデータに誰もが簡単にアクセスできるようにすることです。」(ハビエ氏)
さらにハビエ氏は、配車サービスのUberを例に挙げた。「Uberはすでに、地図上で需要が期待できるエリアを分析し、そのエリアでUberのサービスを強化する取り組みを行っています。地図上で位置を解析することで、地域ごとに、タクシーやバスなどさまざまな交通手段のニーズを検討できます。マーケットを分析する上で、『どこで起きるか』『どこでアプリを開いたらいいのか』『どこの人たちが一番影響を受けるのか』など、『どこで』という問いがとても重要なのです」と語り、ロケーションインテリジェンスの重要性を強調した。
「ロケーションインテリジェンスで行うのは“最適化”と“予測”の2つです。この分野は今、急速に変化しつつあり、3つのことが同時に起きています。1つめのキーワードはテクノロジーの“民主化”です。GISの専門家だけでなく、より多くの人が自分が持つ疑問について解決したいという要求を持っており、そのために誰もが自分のやりたいことをするための民主化が必要となりつつあります。2つめはデータ量の増加です。モバイルデータやIoTから日々、ビッグデータが発生しています。また、OpenStreetMap(OSM)など、クラウドソーシングによって膨大なデータが日々蓄積されています。3つめは、クラウドコンピューティングです。現在のクラウド技術により、デスクトップのマシンでは扱えないような大きなデータを扱うことが可能になり、複雑な解析も可能になりました。この3つが、CartoDBが生まれる基盤になりました。」(ハビエ氏)
続いて、営業責任者のジェイミー氏が、「CartoDBの今とこれから」と題した講演を行った。ジェイミー氏は、2012年に始まったCartoDBのエディターを紹介。最初にリリースしたものは開発者向けのツールであり、以降、より多くの人が使いやすいように少しずつ進化していったと語り、現在のCartoDBはおよそ20万のユーザーが使用していると語った。
その上で、2カ月後に登場する新たなエディターについて紹介した。「新しいバージョンはディープインサイトに基づいた機能を搭載しています。情報を地図上に見せるだけでは足りないというユーザーの要求に応えたものであり、データの解析機能を強化しました」と語った。新しいエディターには3つの機能があるという。1つめは、ユーザーがインタラクションする部分である「CartoDB Dashboard」で、これは地図上に表示されるデータにどのようなデータが含まれているのかを解析する機能を備えている。例えば「若い人で収入の高い人」に絞りたいと思った時に、フィルターを作動させることができる。
2つめの機能は、「CartoDB HPA(High Performance Analytics)」で、ビッグデータを見せるだけでなく、戦略を講じる上で、アクションの最適を探ることができる分析も可能な機能を有したツールであると語った。3つめは「DATA Augmentation(データ強化)」で、これは自分が保有するデータとは異なる他のデータを使って自分のデータを強化できるツールであり、人口統計データや経済データなど、さまざまなデータを組み合わせて使用することができるという。
今後のロードマップとしては、2016年中に、CartoDBのモバイルSDKのリリースや、新しいエディターのリリース、ベクトルタイルの採用などを行うほか、ほかのデータベースとの接続も容易になると語った。ジェイミー氏は、「CartoDBは、誰でも大きなデータを使って情報を簡単に引き出せるようにしたいと考えています。昔は専門家しかできなかったような複雑なことも普通の人ができるようにしたいですね。今後は経済学や不動産など、さまざまな分野に合わせたアルゴリズムを作りたいと考えています。ビッグデータの時代はピークを過ぎ、これからはロケーションインテリジェンスや機械学習の時代になります。これからの将来は面白く楽しい世界がやってくるでしょう」と語った。
なお、CartoDBの日本のパートナー企業であるPSSは、今回のイベントに合わせて、CartoDBの日本語サービス「地図DB」(http://chizudb.jp/)を提供開始した。PSSはCartoDBを日本語で利用する際のサポートとして、CartoDBを日本語化するためのGoogle Chrome用プラグインを無料で公開している。また、日本語によるCartoDBの情報提供やメールによる日本語テクニカルサポート、日本円による決済、請求書発行、講習会の開催、CartoDBのアカウント作成などさまざまなサービスを提供する。将来的には、シフトJISファイルの変換サービスなども提供する予定だ。
さらに、CartoDBのオンプレミス版やエンタープライズ版の導入、地図を活用したウェブサイトの開発、クラウド空間データベースの活用による業務の効率化、既存GISとの統合、オリジナル背景図の提供など、さまざまなコンサルティング業務なども展開する。
続いて、ハビエ氏にインタビューも行ったので、その模様をお送りする。
――CartoDBがGoogle MapsやArcGISなど既存のGISサービスと異なる点は?
Google Mapsに100のポイントを表示させることは簡単にできますが、それが1億ポイントになると難しくなります。CartoDBを使えば大量のポイントを表示させることも簡単です。ArcGISとの違いは、CartoDBはGISを専門に学んだ人ではなくても使えるようにデザインされている点です。いろいろなAPIサービスも持っていますので、プログラミングを習わなくても簡単にいろいろなアプリケーションを作ることができます。私たちのゴールは、GISの専門家のためのツールではなくて、専門家でなくても幅広い人が地理情報を使えるようなサービスを目指しています。
――CartoDBを立ち上げる時に、どのような点にこだわりましたか。
CartoDBのサービスを作ったのは、科学者時代に生物多様性の情報について大きなデータを取り扱おうと考えた時に、数億ポイントにも上る膨大な情報を地図上に載せることが可能なテクノロジーがなかったからです。それでCartoDBを作る必要に迫られたわけですが、開発中に3つのニーズに気付きました。1つめは「大きなデータがハンドリングできること」、2つめは「リアルタイムにデータを扱えること」、3つめは「美しい地図として表現すること」です。この3つのニーズを解決するための技術として、近年に2つの技術変革が起きました。1つはクラウドコンピューティングが実用化されたことにより、大きなデータを扱えるようになったこと。もう1つは、ウェブベースのソリューションが提供可能になり、誰もが簡単にアクセスできるようになったことです。この2つのことがちょうどいいタイミングで実現したことにより、CartoDBのサービスが実現しました。
――3つのニーズのうちの1つである“美しい地図”を提供するために、どのような機能を提供していますか。
CartoDBの中に地図のビジュアライズを研究する専門家がいて、その人たちがさまざまなツールを作っています。その1つが色の組み合わせを変えられる「Color Lamp」で、これを使うことで経験がなくてもきれいな地図が作れます。もう1つは、デザインが簡単に変更できたり、設定したりすることができる「CartoCSS」という機能です。CartoCSSを使うことで、デザインのプロセスをシンプルにすることでより、クリエイティビティを向上させることができます。さらにもう1つ、革新的な技術である「ベクトルマップ」が今、目の前まで来ています。ベクトルマップをCartoDB上で扱えるようになることで、これからの地図の作り方が大きく変わると思います。特にモバイル環境への適応は大きなチャレンジで、CartoDBは今後、モバイル環境において使いやすいベクトルマップをどのような形で作れるのかリサーチを行っているところです。
――今回来日した一番の目的は何ですか。
今回来日した理由は、日本におけるロケーションインテリジェンスのマーケットが今、熟し始めている中で、日本のユーザーと交流を深めるとともに、日本のパートナーであるPSSと深い関係を築きながら、より深く日本のマーケットに食い込んでいこうと考えたからです。その一環として、CartoDBの日本語化への取り組みを行うとともに、価格についても日本に対しては特別な価格を提供したいと考えています。さらに、さまざまな企業向けにしっかりとしたソリューションを提供することも、これを機会に進めていきたいと考えています。日本のパートナーであるPSSを通じ、いろいろな情報を日本語化して届けることも考えていますし、イベントを開催したり、トレーニングをしたりというサービスを今後提供していく予定です。
――CartoDBのサービスはさまざまな業種に使用されていますが、現在、十分にアプローチできていないと考えている分野はありますか。
金融業界については興味を持っていて、これから入り込んでいきたいと考えています。また、公共分野にも現在、普及していますが、より良いツールを市民に届けていく必要があると考えていて、今以上に市民と行政が良いコミュニケーションが取れるように推し進めていきたいと思います。あと、通信業界についても、彼らが保有する膨大なデータをマネタイズする取り組みが今、盛んに行われていますので、その分野にコミットしていきたい。それが来年までの大きなゴールです。
――最後に、日本のユーザーに対してメッセージをお願いします。
新しい技術が次々に生まれており、その影響を受けて産業自体も大きく変わろうとしている中で、私たちは今ほど刺激的な時期はないと思っています。日本では、CartoDBだけでなくオープンソースのコミュニティも大きく育っており、CartoDBはこれから日本に時間やお金を大きく投資して拡大していきたいと考えています。私たちが何をするのか、ぜひ注目してください!