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IoTで紛失物が本当に見つかるの? 「MAMORIO」は“落とし物発見期待個数”16万個、1日平均80個が見つけられている
2017年10月12日 06:00
小型のBLEタグを内蔵した紛失防止デバイス「MAMORIO」を提供するMAMORIO株式会社。同社は2015年にMAMORIOを発売して以来、鉄道会社との提携や保険サービスの提供など、さまざまな施策を次々に展開しているほか、最近では認知症の人向けの外出支援ツール「Me-MAMORIO」も発売した。同社CEOの増木大己氏に、これまでの取り組みとともに、BLEタグを使ったクラウドトラッキングサービスの可能性について話を聞いた。
機能を絞って“世界最小”を目指した“クラウドトラッキング”のBLEタグ
GPSと3G/LTE通信機能を使ってモノの居場所を把握できる「GPSトラッカー」は、車両の動態管理サービスなどで使用されているが、サイズも大きく消費電力も大きいため、財布や鍵束などの小物に取り付けて日常的に使うのは難しい。
そこで、シンプルなBluetooth Low Energy(BLE)タグを使うことにより、スマートフォン経由で位置を把握できるようにしたのが、MAMORIOだ。タグのサイズは35.5×19×3.4mm(縦×横×厚さ)、重さは3gと小型・軽量で、小物に取り付けてもかさばらない。iPhone/Androidスマートフォンとペアリングすることで連携可能で、スマートフォンと離れた場合はアラートを通知することで置き忘れを防止する機能も搭載している。
もしMAMORIOを取り付けたアイテムを紛失してしまった場合は「追跡サービス」を利用できる。手元から離れたMAMORIOのタグと、MAMORIOの専用アプリをインストールしたiPhone/Androidスマートフォンを携帯したほかのユーザーがすれ違うと、スマートフォンがタグを検知し、その場所を持ち主へ自動的に知らせるという仕組みだ。
デバイス自体に測位機能を持たせるのではなく、ほかのユーザーが持つスマートフォンを活用することで紛失物を見つけ出すこのようなサービスは、一般的に“クラウドトラッキング”と呼ばれており、近年、MAMORIO以外にもさまざまな会社が参入している。MAMORIOの特徴は、数あるクラウドトラッキングサービスの中でも、デバイスが極めて小型・軽量である点だ。
「MAMORIOを立ち上げるときに、すでに海外でクラウドトラッキングサービスが先行し始めていたので、それらに勝つためには小ささや薄さなど、見た目のインターフェースにこだわる必要があると思い、“世界最小”を目指すことにしました。」
世界最小サイズを実現するために行ったのが、徹底した機能の絞り込みだ。紛失防止タグの中には、スマートフォンのアプリから操作することで音や光を発して場所を知らせる機能を持つものもあるが、そのような機能は省くことにした。また、軽さと小ささを優先するため、電池も内蔵式にすることで、バッテリーの寿命(約1年)が尽きた場合は新たなデバイスに買い換えてもらうことにした。
このように小型・軽量を追求したMAMORIOのタグは人気を集め、2017年1月には、スタートアップ商品を扱う「Amazon Launchpad」でも販売を開始し、同店において上半期の売上1位を達成したという。ラインアップも、発売当時は黒色のみだったが、現在は5色に増えている。小型・軽量という特徴を生かして、パルコとの協業により、MAMORIOタグを内蔵した手袋「MAMORIOグローブ」も発売された。
鉄道会社と連携、MAMORIO付きの落とし物が駅に届くとユーザーに通知
もう1つ、MAMORIOがほかのクラウドトラッキングサービスと異なる点として、鉄道会社との連携が挙げられる。
クラウドトラッキングは、デバイスの位置情報をほかのユーザーのスマートフォンを通して取得するというその仕組み上、まだユーザーが少ない時期は位置を特定することは難しい。この課題を解消するため、同社は2017年春から、首都圏の鉄道各線と次々に提携。駅の遺失物センターに、MAMORIOのタグを感知するIoTゲートウェイ「MAMORIO Spot」を置くという取り組みを行っている。これにより、MAMORIOタグが付いた落とし物がMAMORIO Spotのある遺失物センターに届くと、遺失物の保管場所が自動的に落とし主のスマートフォンへ通知される。
この「お忘れ物自動通知サービス」は現在、東急電鉄、京王電鉄、小田急電鉄、西武鉄道、東武鉄道、東京メトロ、東京都交通局、京成電鉄、相鉄グループ、江ノ電など、首都圏の私鉄各線の主要な駅に導入されている。なお、MAMORIO Spotに使用しているIoTゲートウェイには、ぷらっとホーム株式会社の「OpenBlocks IoT EX1」を使用している。
「駅へのMAMORIO Spot設置を始めたきっかけは、東急電鉄のイノベーションプログラムに採択されたことでした。まず実験的に始めてみたところ、予想以上に顧客や鉄道会社に好評で、その実績をほかの鉄道会社に伝えたところ、『それならうちでもやってみましょう』と、当社のビジョンに共感していただける会社が増えていきました。」
MAMORIO以外のクラウドトラッキングサービスで、鉄道会社と連携してIoT端末を設置している例はほとんどない。最近は駅だけでなく、イベント開催時に期間限定でMAMORIO Spotを設置するケースも増えてきており、今年夏に開催された隅田川花火大会にも導入された。また、8月には、MAMORIOのタグをペットに付けることを想定して、横須賀市の動物愛護センターにMAMORIO Spotを設置した。
「当社では、1カ月間に街中を行き交うユーザーのスマートフォンとすれ違ったMAMORIOタグの個数と、提携先のMAMORIO Spotにおける遺失物発見数の月間平均を足したものを“落とし物発見期待個数”として、紛失時の見つかりやすさの指標として公開しています。この発見期待個数の推移を見ると、2016年7月には1万個以下だったのが、2017年7月には16万個を超える数へと急激に伸びています。この発見期待個数の半数を占めるのが提携先のMAMORIO Spotです。」
なお、落とし物発見期待個数としてカウントされるのは、紛失したあとのタグを検出した回数ではなく、ユーザーが携帯した状態でほかのMAMORIOユーザーのスマートフォンとすれ違った場合も含む延べ回数だ。MAMORIOタグの総出荷数は公表されていないため、実際に紛失物を発見できる確率がどれくらいなのかは分からない。とえいえ、ユーザーが増加し、提携先も増加することで、検出される機会も増えてきたことから、MAMORIOによって“落とし物が発見される期待”は確実に高まってきていると言える。
このような取り組みが功を奏してか、実際に紛失物が見つかるケースもかなり増えてきた。現在、平均すると1日に約80個の紛失物がMAMORIOのタグによって発見されているという。
「当社がモニタリングしている中でも、紛失物が見つかったとみられるケースは確実に増えています。中には、自転車に取り付けていたおかげで、盗難された自転車を発見できたというお礼の言葉をいただいたこともあります。MAMORIOの発売当時は、『本当に見つかるの?』といった声がよく聞かれたのですが、ここ半年の発見期待個数の伸びを見ると、クラウドトラッキングが普及する展望はかなり開けてきたと感じています。」
紛失や盗難に対応した保険サービスも提供
MAMORIOは保険サービスに力を入れているのも特徴だ。同社はau損害保険株式会社の協力のもと、紛失まで補償範囲を拡大した盗難保険が付帯されるオプションサービス「MAMORIOあんしんプラン」を2016年10月から提供している。この保険では、1デバイスにつき年間1000円(税別)を支払うことで、財布の場合は最大3万円、鍵や鞄、電化製品の場合は最大2万円が補償される。
「クラウドトラッキングだけでは、紛失してしまった損失を100%カバーすることはできないので、そこを埋めるために保険サービスを提供しています。『紛失』は『破損』や『故障』などと異なり、すべてを自己申告で行うため、保険会社は手を出しにくい領域でしたが、MAMORIOのタグを付けていればどのような状況で紛失したのかが分かるし、そもそもタグを付けていれば紛失するリスクも少ないということで、保険商品として実現することができました。」
最近では、保証書管理クラウドサービスを提供する株式会社Warranteeと業務提携し、スマートフォンアプリを使って、必要なモノに24時間単位で保険をかけることができるオンデマンド型保険「Warrantee Now」を10月中に提供開始すると発表した。この保険は、自然故障・破損・水漏れなど従来の保証内容に加えて、紛失・盗難にも対応する予定で、必要なモノに必要な期間だけ保険をかけることができる。
認知症の人向けの新サービス「Me-MAMORIO」
このようにMAMORIOのサービスが充実しつつある一方で、今年8月に新たに始めたのが、認知症の人や高齢者向けのタグであるMe-MAMORIO(ミマモリオ)だ。同製品は、MAMORIOと似たBLEタグで、認知症の人の持ち物などに取り付けておくことで、家から外出した場合に家族へ通知を送ったり、行方不明になった場合にクラウドトラッキングで居場所を把握したりすることができる。
同製品は2016年8月に製薬会社のエーザイと協力して実証実験を開始し、約1年間かけて改良などを行い、市販することになった。
「実際に認知症の人の見守り訓練などに参加し、その中で実証実験を重ねたことにより、タグの仕様やデザインなどの課題が見えてきました。Me-MAMORIOは、MAMORIOと同じBLEチップを使っていますが、バッテリー容量を増やしています。アドバタイズの間隔を短くしたことでトラッキングしやすくなってたほか、MAMORIOに比べて精度が向上しています。デザイン的には丸い形にして、帽子などに取り付けやすい形状となっています。」
タグのサイズは直径が37mm・厚みが5.8mm、重量は7gと、MAMORIOのタグよりもひと回り大きい。本体に貼るためのシールも付属しており、メッセージや連絡先などを書き込めるようになっている。バッテリー寿命についてもMAMORIOに比べて長く、1年半~2年は使える仕様となっている。
Me-MAMORIOとMAMORIOは使用するアプリも共通で、Me-MAMORIOをMAMORIOのように紛失防止タグとして使用することも可能だし、逆の使い方も可能だ。ただし、Me-MAMORIOにはMAMORIOと違って、東京海上が提供する医療相談サービスが付帯している。認知症患者の徘徊対策にクラウドトラッキングを活用するというサービスは他社でも提供しているが、MAMORIOの場合、すでに紛失防止タグのユーザーによるネットワークが存在し、それをまるごと利用できるという点で安心感が強い。
紛失防止だけでなく、医療・介護分野への取り組みも始めたMAMORIO。同社を率いる増木氏に、今後の展望を聞いた。
「当社がミッションとして掲げているのは『なくすを、なくす』であり、今後も何かを『なくしたくない』『見つけたい』というユーザーのニーズにフォーカスし続けていきたいと思います。今後は首都圏だけでなく、全国規模で各地の鉄道会社やイベントとの連携を進めたい。今はBluetoothを使っていますが、SigfoxやLoRaなどのLPWAが普及してきたら、そのような技術の導入も検討したいと考えています。さまざまなモノに当たり前のようにMAMORIOが付いているという世界を作っていきたいですね。」
本連載「地図と位置情報」では、INTERNET Watchの長寿連載「趣味のインターネット地図ウォッチ」からの派生シリーズとして、暮らしやビジネスあるいは災害対策をはじめとした公共サービスなどにおけるGISや位置情報技術の利活用事例、それらを支えるGPS/GNSSやビーコン、Wi-Fi、音波や地磁気による測位技術の最新動向など、「地図と位置情報」をテーマにした記事を不定期掲載でお届けしています。