俺たちのIoT

第14回

忘れ物を防ぐIoTアクセサリー製品、課題は紛失してしまったあと?

 前回のIoTトイレに引き続き、今回は多種多様な製品が登場しており、IoT製品の1つのカテゴリーとして確立しつつある「紛失防止アクセサリー」をテーマに、その仕組みや特徴を考えていきたいと思います。

 紛失防止アクセサリーは、正確に表現するなら「紛失を防ぎたいものに装着しておくことで紛失を防ぐことができる」小型のガジェットです。アクセサリーそのものはあくまで紛失防止の脇役であり、紛失したくないものが主役であるということもあって、一緒に持ち歩いたり取り付けたりすることが邪魔にならないよう、非常に小型かつ軽量な製品がほとんどです。

紛失防止アクセサリー「Wistiki by Starck“ヴォワラ!”」

 紛失防止のための技術としては、第5回で紹介したBLEを採用しています。スマートフォンとアクセサリーがBLEで接続し、接続が続いている間は身の回りにある、接続が切れた場合には身の回りにない、つまり紛失と判断し、スマートフォンに通知を送るという仕組みです。

 また、紛失したわけではないけれど、身の回りでどこにいったかが分からなくなるというときには、BLEを通じてスマートフォンからアクセサリーを鳴らすことで、どこにあるかを確認することもできます。自宅の鍵をどこに置いたか忘れたというときに、スマートフォンからアクセサリーを鳴らせば、部屋のどこにあるかが分かる、という使い方です。また、逆にスマートフォンがどこにあるかが分からないときに、アクセサリーからスマートフォンを鳴らす、ということもできます。

 製品によって搭載している機能に違いはありますが、「接続が切れたときに通知する」「アクセサリーを鳴らす」「スマートフォンを鳴らす」といった機能が、紛失防止アクセサリーの基本的な機能と言えるでしょう。

クラウドファンディング発で、多くの紛失防止アクセサリーIoT製品登場

 紛失防止アクセサリーはIoT製品の中で非常に種類が多く、国内だけでなく海外でも多くの製品が発売されています。ここで紹介した製品のほとんどがクラウドファンディング発の製品であるというのも特徴の1つです。

「Qrio Smart Tag」
「MAMORIO」
「Wistiki by Starck“アッハ!”」
「TrackR bravo」

国内のPC周辺機器メーカーでは、以前から紛失防止アクセサリー販売

 また、クラウドファンディングの普及前から、BLEを活用した紛失防止アクセサリーは国内のPC周辺機器メーカーを中心に販売されていました。バッファローは「BSHSBTPT01BK」、ロジテックは「ぶるタグ(LBT-MPVRU01)」、サンワサプライは「400-BTSL001」という製品を2012年から2013年にかけて発売しましたが、いずれの製品も現在は販売が終了しています。

「BSHSBTPT01BK」
「ぶるタグ(LBT-MPVRU01)」

iPhone 4S専用探せるキーホルダー「BSHSBTPT01BK」(バッファロー)

http://buffalo.jp/products/new/supply/2012/03/990/

「ぶるタグ(LBT-MPVRU01)」シリーズ(ロジテック)

http://www.logitec.co.jp/press/2012/0329.html

iPhone用置き忘れ防止Bluetoothアラームタグ(サンワダイレクト)

http://direct.sanwa.co.jp/ItemPage/400-BTSL001

「BLEの切断を紛失と判断する」と割り切ることで仕組みがシンプルに

 なぜこれほどに忘れ物防止のアクセサリーは数が多いのでしょうか。その理由の1つとして、これらアクセサリーは非常に仕組みがシンプルということが挙げられます。

 前回のIoTトイレが「扉の開閉を在室と判断する」と割り切ることで手軽な在室管理を実現していたように、紛失防止アクセサリーは「BLEの切断を紛失と判断する」と割り切ることで紛失防止を実現しています。また、トイレと違って紛失の可能性があるような持ち歩くものすべてに取り付けられる可能性があるため、利用シーンに広がりがあることも理由の1つでしょう。

 本連載の第5回で紹介した通り、BLEは消費電力を非常に抑えられる技術というのも重要なポイントです。せっかく紛失機能を搭載していても、いざというときにバッテリーが切れて動かない、というのでは意味がありません。これら製品はBLEを採用することで、小型ながらも半年や1年にわたってバッテリー交換の必要がありません。

 仕組みがシンプルなため開発コストや運用費も非常に少なくて済みます。BLEはペアリングの接続や切断のみを判断すればよく、BLEで接続した上に何かデータをやりとりする必要はありません。対応機器もAndroidやiPhoneがBLEを標準サポートしているため、BLEとアラーム、バッテリーを搭載したデバイスと対応アプリがあれば基本的には実現できるというシンプルな構成になっています。

実際に紛失してしまったあとでは役に立たない?

 小型でバッテリー消費も少なく、仕組みもシンプルというメリットを持つ一方、これらアクセサリーは実際にはいくつかの課題があります。一番大きな課題は、実際に紛失してしまった場合に、その位置を特定することが困難ということです。紛失防止アクセサリーはBLEが切断されることで「近くにアクセサリーがない」ことは把握できても、「どの場所で紛失したか」を確実に特定することができないからです。

 iPhoneやAndroidでは、スマートフォンを紛失した際にウェブから場所を特定できる機能を実装していますが、これらの機能は位置を特定するGPSやインターネットに接続できる4G/3G回線を利用しており、こうした機能を搭載すると紛失防止アクセサリーは高額かつ大型化してしまいます。また、これらの機能は消費電力も大きいため、紛失防止アクセサリーのように長期間持ち歩くデバイスに搭載するには不向きという点もあります。

 こうした課題を解決するために、いくつかの製品では、スマートフォンのGPSを活用し、BLEの接続が切れたタイミングがどの位置だったのかを記録することで、大まかな場所を特定する機能を備えています。また、Qrio SmartTagやMAMORIO、Wistiki、TrackRといった製品は、自分が紛失した製品の付近に、同じ製品を持つユーザーが現れた場合、その地点を通知する機能を搭載することで、「どの場所で紛失したか」を特定できる仕組みを搭載しています。ただし、これらは周囲に同じ製品を持っているユーザーがいることが必要なため、製品が大幅に普及している必要があります。

 バッテリーと大きさの問題も課題の1つです。紛失防止アクセサリーは、紛失を防ぎたいものに取り付けるという脇役的な存在のため、あまり本体が大きいと邪魔になる可能性があります。一方で、本体が小さいとバッテリーも小さくなるため、利用できる時間が短くなってしまいます。バッテリーに対する考え方はメーカーごと異なっており、世界最小クラスを謳うMAMORIOはバッテリーを交換不可とすることで小型化を実現。一方でQrio Smart Tagはサイズは大きくなるものの、CR2032という一般的なコイン電池を採用しており、自分で電池を交換することが可能です。

 バッテリー消費の面では、常に通信を行うためにスマートフォンのバッテリーも消費します。BLEという消費電力の低い技術を利用しているとはいえ、いざというときに備えて常に通信を行う仕組みのため、スマートフォンのバッテリー消費量は通常に比べるとどうしても大きくなってしまいます。

鉄道駅が紛失防止アクセサリーに対応すれば、忘れ物が早く見つかる可能性も

 機能がシンプルであるがゆえに制限もあるこれら紛失防止アクセサリーですが、大事な物を紛失するということは、後から後悔しても取り返すことはできません。すべての身の回りの品に取り付けるのは現実的ではないにせよ、鞄や財布など重要度の高い製品には、こうしたアクセサリーで紛失時の損失を防ぐというのも1つの対策として重要でしょう。

 また、各メーカーが独自に対策しているユーザー間の発見機能も、ユーザーが増え、対応エリアが増えることでメリットが増していきます。MAMORIOは試験導入ではあるものの、東急線渋谷駅にも導入されており、こうしたエリアが増えることでこの仕組みはより便利になることでしょう。さらにはメーカーごと独自の仕組みが相互に連携するということが可能になれば、対応エリアも格段に広がることが期待できるでしょう。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」