触れてみよう電子工作×IoT

第2回

IoTで「パンツァー・フォー!」 1/48重戦車タイガーIを改造してスマホで遠隔操作してみた<前編>

 僚誌「AKIBA PC Hotline!」とリレー形式で掲載する本連載「触れてみよう電子工作×IoT」。身の回りのモノをインターネット化する電子工作で、IoTがどういったものか“何となく”理解していただければと思う。

 第2回は、ハードウェアスタートアップ企業「Cerevo」が販売するミニ四駆IoT化キット「MKZ4」を使用。著者はCerevoの回路設計担当者である押切眞人氏が担当する。既存のIoT化キットを流用し、アレンジも加えた電子工作を実践していく。

 記事は、前・後編の2部構成。まずは本誌「INTERNET Watch」に掲載する前編(この記事)で各電子工作のコンセプト・構想を説明、続く「AKIBA PC Hotline!」の後編で実際に制作し、前・後編を通して身近なIoT製品を形にしていく。

(編集部)

ミニ四駆をスマホで操作・方向転換できるIoT化キット「MKZ4」

 MKZ4は、タミヤのミニ四駆を改造し、スマートフォンから操作できる“ラジコン”に改造してしまうという改造キットです。一般的に知られる高速な「レーサーミニ四駆」ではなく、車体やタイヤサイズも一回り大きい「ワイルドミニ四駆」を、前進・後退はもちろん左右にも曲がることができるように改造できます。

 通常のミニ四駆はラジコンと違い、まっすぐにしか走ることができませんし、後退することもできません。そのため、MKZ4では前輪を左右に動かすためのステアリングパーツに加え、ステアリングやモーターをコントロールするための電子基板をセットにして販売しています。

 ワイルドミニ四駆を操作するためのプログラムもCerevoが無料で公開しており、MKZ4とワイルドミニ四駆、それに電子工作に必要な機器類があれば、ワイルドミニ四駆をスマートフォンで操作できるよう改造して楽しむことができます。

ステアリングパーツのほか、基板実装に必要な各パーツが一式セット

 キットには無線LANモジュール「ESP8266」を採用しています。このモジュールは500円程度の低価格でありながらCPUを搭載しており、プログラムを書き込んで電子工作を楽しめるモジュールです。有志のサポートによってArduino IDEの開発環境でもプログラミングができるようになっており、価格・技術的にもハードルが低く使いやすいです。

 電子工作に慣れていない方向けに、MKZ4のガイドブック「【Cerevo公式】徹底解説!MKZ4ガイドブック」も電子書籍で販売しており、電子工作に不慣れな方でもMKZ4による改造をお楽しみいただけます。また、「DMM.make AKIBA」(東京都千代田区)では、毎月のようにMKZ4を使ったワークショップを開催しているので、興味がある方はワークショップ情報も確認してみてください。

MKZ4を戦車に流用、スマホラジコン化&砲身発光ギミックを追加

スマートフォンからタイガーIを遠隔操作するイメージ

 本記事では、このMKZ4をベースとしたカスタマイズとして、同ガイドブックでも簡単に紹介した、ミニ四駆の代わりに戦車をコントロールする作例を紹介します。

 MKZ4のステアリングパーツはワイルドミニ四駆専用ですが、基板は、ESP8266評価ボードとして使えます。そこで、基板を小改造することでワイルドミニ四駆以外の玩具のスマホリモコン化について検討してみました。

 別の車を動かすだけではつまらないので、戦車に改造して動かしてみます。具体的には、無線通信機能は同じシステムで、タイヤ駆動とステアリングの代わりにキャタピラを駆動、砲身にLEDを付けて光らせます。

 趣味ではスケールモデルを作るわけではないのですが、戦車アニメの金字塔「ガールズ&パンツァー」を一気見した影響もあります。なので、あえて戦車も劇中に出てきた車種を選んでいます。Cerevo流IoT戦車道です。P40も候補だったのですが、プラモの方も高く、入手性も悪いため断念しました。

 今なら1/35ペーパークラフトが収録された「ガールズ&パンツァー ペーパークラフトブック」があるのでそれで試すのも面白いと思います(別途1/35用キャタピラが必要です)。

まずはMKZ4の仕組みをおさらい、モーターをWi-Fiで制御するための仕掛け

 まず初めに、MKZ4の仕組みを解説します。ブロック図を見てください。

MKZ4ワイルドミニ四駆のブロック図

 MKZ4は、図のようにCPU搭載Wi-Fiモジュールを中心に、さまざまなデバイスが接続されて動作しています。CPUで制御している内容は大きく分けて4つの機能があります。

1)モータードライバー DRV8830の制御:I2C
2)ステアリング、サーボモーター制御機能:PWM
3)スマートフォンとの通信機能:無線LAN(Wi-Fi)
4)ソフトウェア書き込み機能:UART

1)モータードライバー

 ワイルドミニ四駆を含むミニ四駆は、通常は前に進むことしかできませんが、MKZ4で改造したワイルドミニ四駆は前進に加えて後退もできるようになります。この前進・後退をコントロールするのが「モータードライバー」です。MKZ4では基板からモータードライバーを通じてモーターを制御することで、ミニ四駆を動作させています。モータードライバーとは文字通り、モーターをドライブさせる(動かす)回路のことです。

 モータードライバーとCPUはI2Cという通信方式で、CPUが決められたコマンドを送ることで、モータードライバーが解釈して前後など任意のモーター動作をします。

モータードライバー「DRV8830」

2)ステアリング、サーボモーター制御

 モータードライバーを搭載することでMKZ4は前進と後退ができるようになりますが、さらに左右へ曲がるための制御に使うのが「サーボモーター」です。サーボモーターとは一定の角度範囲(0~180度など)で正確に回転させたいときに使うモーターで、一定の周期でサーボモーターに送る信号の幅を調整することで、サーボモーターの角度を制御できます。この、信号の幅を変えることで対象をコントロールすることを「PWM(Pulse Width Modulation)制御」と言います。

ステアリング
サーボモーター

 ESP8266からはPWM制御で任意の信号を送り、サーボモーターに付いているサーボホーンを左右に回転させることでステアリングを切ります。 I2Cと異なり、コマンドではなく、PWMで直接ステアリングが動作します。

3)Wi-Fiモジュール「ESP8266」

 Wi-Fiとは、パソコンやスマートフォンなどに搭載されているワイヤレスの通信規格です。正確には「Wireless LAN(無線LAN)」という呼び名が正しく、Wi-Fiという名称は「Wi-Fi Alliance」という団体による認定を受けた製品のみが名乗ることができるのですが、最近では無線LANそのものが「Wi-Fi」と呼ばれるケースが増えています。そのため、本記事でも無線LANについては「Wi-Fi」と記述していますが、本章では「無線LAN」として説明します。

Wi-Fiモジュール「ESP8266」

 MKZ4では、ESP8266は無線のウェブサーバーとして機能させて、ブラウザーに表示させる文字(HTML文書)はESP8266が出力します。スマートフォンはクライアントとなり、受け取ったHTMLに応じて画面にUI(ユーザーインターフェース)を表示し、ユーザーが画面をタップした値をESP8266に返します。ESP8266は、受け取った値に応じて、モータードライバーとサーボモーターを制御して、ミニ四駆を走らせます。

4)ソフトウェア書き込み機能

 CPUの内蔵メモリに、ソフトウェアを書き込まないと何も動きせん。MKZ4では専用ライター「MKZ4WK」を用意しており、UART(Universal Asynchronous Receiver-Transmitter 、日本語では汎用非同期送受信回路経路)で書き込みを行います。

書き込み基板「MKZ4WK」

 UARTは、非常に多くのデバイスでサポートされており、現状では世界標準と言えるでしょう。

 UARTには、電源、GNDの他にTXD(送信)、RXD(受信)の専用線があり、4本で通信します。今回使用しているESP8266の電源は3.3Vなので、UARTシリアル変換モジュールの電圧も3.3Vにしてあります。TXD、RXDはCPU側から見ての送信・受信なのか、UART変換モジュール側から見ての送信・受信か向きが分かりにくいので、信号を追う場合は注意が必要です。

 MKZ4WKでは、内蔵のUSB-UART変換モジュールによって、USBに接続することでPCとCPUを通信することができています。オリジナルのArduinoでも、PCからUART通信でスケッチを書き込んだり、コンソールにCPUからメッセージを表示したりすることに使っています。

MKZ4の仕組みを戦車用にアレンジするためのシステムを考えてみた

 次に、今回作る戦車について説明します。戦車のブロック図は以下のようになります。

 MKZ4によるワイルドミニ四駆の制御と、戦車の制御の大きな違いは左右の曲がり方です。ミニ四駆の場合はステアリングを左右に切ることで左右それぞれに移動しますが、戦車が左右に移動するためには、左右のキャタピラを独立に回転させる必要があります。

 また、戦車の砲身にはLEDを搭載して点灯できるギミックも搭載するのでLEDの調光も必要になります。

 MKZ4以外に必要になるものは以下になります。

1)ドイツ重戦車タイガーⅠ前期タイプ
2)2chモータードライバー
3)LEDとLED用制限抵抗(100Ω程度)
4)ポリウレタン線

1)ドイツ重戦車タイガーⅠ前期タイプ

 キャタピラ以外に戦車の外装も欲しいので、アオシマ「1/48 リモコンAFVシリーズ」の有線リモコン式戦車「ドイツ重戦車タイガーⅠ前期タイプ」を利用します。

アオシマ「ドイツ重戦車タイガーⅠ前期タイプ」

 本製品は1/48スケールに合わせてギアボックスがスリムに作られていますので、うまく組み合わせれば、他の戦車の1/48と組み合わせることもできるでしょう。

2)2chモータードライバー

 秋月電子で扱っている「DRV8835」が今回の改造には扱いやすいので、「DRV8830」の代わりに使用します。制御もI2Cからのコマンド制御ではなく、PWMを4本直接接続して制御します。

モータードライバー「DRV8835」

3)LEDとLED用制限抵抗

 秋月電子などで、好きな色のLEDと100Ω程度の抵抗を用意します。

砲身に取り付けるLED

4)ポリウレタン線

 モータードライバー基板とMKZ4基板を接続するために、別途線材が必要です。加熱することで被覆が溶けて導通するポリウレタン線が便利です。これも秋月電子などで売っています。

ポリウレタン線

 「1/48 リモコンAFVシリーズ」には操作のための有線リモコンが付属していますが、今回は有線リモコンの代わりにMKZ4基板を戦車の本体に内蔵し、スマートフォンからWi-Fiを経由してESP8266にアクセスし、無線でコントロールします。

 キャタピラ用のDCモーター2個をDRV8835の2chモータードライバーで制御し、2個同時に正転・逆転制御で前進・後進、どちらか1個だけ回転制御することで、左右に転回します。LEDはESP8266のGPIOに接続して、スマートフォンからのコマンドで発光させます。

 これでMKZ4戦車の改造準備ができました。後編の「AKIBA PC Hotline!」では、このブロック図と追加部品を使って具体的に改造制作をして動作させてみます。

IoT電子工作の制作・使用は、自己責任で行ってください。また、第三者からアクセスされない環境・設定で運用するなど、セキュリティ対策にも留意が必要です。この記事を読んで行った行為によって生じた損害は、筆者および編集部では一切の責任を負いかねます。

押切 眞人

Cerevoの電気回路設計者。MKZ4も担当。 最近はもっぱらニチアサ系(プリキュア、ライダーなどに)に詳しくなりましたが、 帰宅後、ストリーミング配信動画を見ながら電子工作やプラモを作るのが趣味です。
MKZ4はもともと弊社の「Cerevo TechBlog」での記事がきっかけになって商品化になりました。 この記事の後編はもちろんですが、2回の連載で解説しきれない内容は、TechBlogでさらに解説していくのでご期待ください!