インターネットはこうして創られている~IETFの仕組み

第4回:標準ができるまで


 前回はRFCの読み方を紹介したが、このRFCになるまで――つまり標準ができるまでの手続きにも約束がある。この手順もRFCに規定されている。標準化プロセスの基本部分を規定しているのはRFC2026であるが、これに加えて知的所有権に関わる追加事項が書かれているRFC5378とRFC3979、また個人提案をRFCとするための手順RFC3932が用意されている。ここでは、基本的な標準化の手順について紹介しよう。

標準化までのプロセス

適当な既存グループがなければワーキンググループ作りから

 標準としたい技術があるときに、それをRFCにする出発点は2つある。1つは、標準化したい技術と関連するワーキンググループで提案する方法であるが、適当なワーキンググループがない場合はワーキンググループを作るところからスタートしなければならない。

 ワーキンググループを作るためには、提案しようとする技術に興味があるメンバーを集めることからスタートすることになる。IETFの標準は単にインターネットに関連する技術というだけではだめで、現在のインターネットにおいて広く必要とされている技術であることが求められる。その証として、組織や国を超えて多くの人が興味を持っており必要としていることを示さなければならない。

 IETFに参加すると、公式なプログラム以外にBar BOFと呼ばれる集まりがあるというアナウンスが出ることがある――Bar BOFは公式なプログラム以外の時間にバーやレストランで行われるミーティングで、BOF=birds of a featherは特定テーマに興味を持つ有志の集会のこと、Barは非公式であることを意味する。こうしたBar BOFで新しいワーキンググループを作ろうというメンバーを募ったりしているのである。

 ワーキンググループを新しく作ろうというメンバーが集まったら、IESGに提案を行うわけであるが、ここでさまざまな議論をIESGと行うことになる。

 技術の必然性、多くの人がその技術を必要としていること、準備状況などの検討が進められ、OKとなったら、まずどのエリアに分類されるかが決められる。これは、IESGのエリアディレクタが割り当てられることを意味し、以降エリアディレクタとともに提案者(議長となる)が議論を進めていくことになる。

まずはBOFとしてミーティングを持つ

 こうしてOKとなったグループは、いきなりワーキンググループになるのではなく、BOFとしてミーティングを持ち、ワーキンググループで議論する話題を決めることからスタートする。今回のIETFでも、「Application Protocols for Low-power V6 Networks BOF」や「Broadband Home Gateway BOF」など9つほどのBOFが予定されている。

 これから必要とされる技術の動向を見たりする上では、役に立つことが多いので興味がある方は参加してみると良いであろう。BOFで議論されることの多くは、チャーター(憲章)と呼ばれるワーキンググループで標準化しようとする技術の範囲を決めることである。何を取り扱って、何を取り扱わないかをしっかり定義するとともに、マイルストーンといういつまでに何をするかを決めることになる。

 また、扱おうとする話題がそもそもIETFで議論すべきことであるかということも議論される。こうしたBOFを2回開催して、合意が得られると晴れてワーキンググループとなるのである。

ワーキンググループができてから

 ワーキンググループができあがると、そこにInternet Draftを提案し議論を進めることとなる。ワーキンググループの議論は、IETFのミーティングでの議論だけでなく、メーリングリスト上で活発に進められていくことになる。

 こうした議論を経てInternet Draftは更新されていき、十分に議論をし尽くしたとなったらワーキンググループでの合意を取ることとなる。これをWorking Group Last Callといい、大きな反対がなければ合意されたと見なされる。ここで合意されたInternet Draftは次にIESGの評価を受けることとなる。

 IESGでもOKとなれば、最後にIETFに関わるすべての人々が所属するメーリングリストに対してIESG Last Callと呼ばれるアナウンスが流され、最後の意見聴取を行うこととなる。ここでも特に問題がなければ、RFCの編集作業に入り、最終的にRFCとなって発行されるのである。

RFCは標準化トラックとそれ以外に大別される

 ところで、RFCにはいくつかの種類があることを前回紹介したが、これらの種類は大きく分類して2つのものに分けられる。1つは、標準化トラック(Standard Track)と呼ばれるもので、インターネットで標準として使われる技術に関するRFCであり、Standard、Draft Standard、Proposed Standardの3種類がそれに該当する。

 一方、他のRFCはそれ以外に分類される。標準化トラックのRFCは、それぞれ3つの段階となっている。標準化トラックは、インターネットで広く共通で利用される技術は、いきなり標準とするのではなく、いくつかの段階を経て標準となるべきであるという考えに基づいている。

 まず、標準化される技術としてワーキンググループでの議論を経てはじめてRFCとなったものが、Proposed Standardである。ワーキンググループでの議論の過程でも、実際に動作する技術であることの検証は行われるが、Proposed StandardとなったRFCを広く公開することで、多くの組織がその技術の実装を進め相互に接続して運用が可能であるか(相互接続性)を検証することで、RFCの記述の正確性を検証している。

 Proposed Standardは、少なくとも2つ以上の独立した実装による相互接続性のテストを経ることで、間違いの修正や、曖昧性の排除、必要な記述の追加などが行われて修正されたものが、続いてDraft Standardとなる。

 最後に、多種の実装が広く使われ、運用されていくことで最終的にStandardとなりインターネットで利用される標準技術となるのである。ただし、実際にStandardとなっているRFCは少なく、新しいプロトコルの標準化プロセスはDraft Standardで止まっているものも多い。これは、Standardとなるための条件が厳しく、その前に普及することが求められるためDraft Standardとしておいて、活動は普及へと進んでいくためである。

IETF広島、11月8日(日)よりいよいよ開催

 さて、いよいよこの週末の日曜日、11月8日から広島でのIETFがスタートする。いろいろと最後の準備を進めているのだが、参加される方々も「どのワーキンググループに参加するか?」など準備を進められていることと思う。

 IETFに初めて参加される方は、まずは日曜日の15:00~16:50に予定されている「Newcomer's Training」に参加してみていただきたい。初めてIETFに参加される方へのチュートリアルで、日本語で説明される。初回参加の方には必ず役に立つと思われる。では、広島でお会いしましょう。


関連情報

2009/11/2 14:14


砂原 秀樹
(すなはら ひでき) 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授/奈良先端科学技術大学院大学情報科学科学研究科教授(兼任)。慶應義塾大学の村井 純教授が主宰するWIDEプロジェクトでボードメンバーを務める。