山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国の子供はスマホのカメラ機能で難題を解決 ほか~2016年9月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にも分かりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国の子供はスマホのカメラ機能で難題を解決

 阿凡題は、「00后」と呼ばれる2000~2009年生まれの中国の子供とインターネットの利用状況についてまとめた「中国00后互聯網学習行為報告」を発表した。都市部におけるこの世代のスマートフォン普及率は82%で、米国(72%)や英国(68%)よりも高く、この世代の1日平均のスマートフォン利用時間は2時間15分、近視率は60%と子供の近視でも世界一だという。好きなスマートフォンのブランドは「小米(シャオミ)」「Apple」「華為(ファーウェイ)」の順で、iPhone普及率は大人の世代の倍であるという。

子供の各種ネット用途利用率と日平均利用時間

 用途は利用率の高い順に、「写真を撮影して難題を解決」(65%)、「動画視聴」(51%)、「SNS」(43%)、「ゲーム」(42%)、「情報検索」(37%)、「音楽」(34%)となった。ここでいう「写真を撮影して難題を解決」とは、問題文を撮影してアップすると画像検索し、画像で一致した問題の解答を表示するというもの。こうしたサービスが複数登場し、学生の間で普及しているのだ。親世代はこうしたアプリに対し、77%が利用を反対するものの、反対する親の31%は「親と同伴ならOK」というスタンスだ。

問題捜索アプリ

 また、この世代の92%が「ネットでの1対1の補習がやりやすい」とオンライン補習に積極的で、その結果、それ以前の世代よりも広い中国での地域格差が減少しているという。

 スマートフォンで遊ぶことから、親世代と異なり、学校が終わると家に直帰する傾向にあり、普段は娯楽で活用するアプリについて8割が「中間期末テスト(中国では小学校からある)前に削除して勉強に集中する」と回答している。

ネットスーパーに、ECの「京東」と「天猫」が本気

 中国ではブルーオーシャンのネットスーパーの領域にEC(B2C)最大手の京東と天猫が市場作りに本腰を入れ始めた。それまでは両社のネットスーパーの「京東超市」と「天猫超市」は様子見ともいえる状態だったが、両社が一気に動き出した。

京東超市
天猫超市

 EC(B2C)第2位の京東(jd)は8月31日、同社のネットスーパー「京東超市」が3年内に中国のスーパー(オンライン/オフライン含む)市場で販売額・市場シェア・満足度ともにナンバー1になると発表した。さかのぼること1カ月前には、ECトップで阿里巴巴(アリババ)系の天猫(tmall)のネットスーパー「天猫超市」が3年内に中国のスーパー市場で最大シェアをとると発表。天猫超市は京東超市のリリース発表後、北京と上海で毎日10万点のディスカウントを発表し対抗した。阿里巴巴CFOの蔵衛氏は「ライバル企業がネットスーパーに10億元を投資するというなら、我々はその数倍を投資する」というコメントを発表していた。京東超市がウォルマート中国と提携すれば、天猫超市はウォルマート中国の副総裁を天猫超市のトップ兼阿里巴巴の副総裁にした。

 近年ネット企業大手が資本を注力し、スタッフや店舗を増強したり、利用者に割安でサービスを提供するときは、企業が市場獲得に本腰を入れるときである。ネットスーパーについての調査レポート「中国網上超市購消費者行為専題研究報告(2016)」によれば、ネットスーパーを利用するのは、「理性的」「高収入」「新世代」がキーワードの1980年代・1990年代生まれの人々だ。これまでの新しいネットサービスに飛びついた層と一致する。

 昨年の段階で天猫超市は31の省・市・自治区の340都市2600県をカバー。昨年の11月11日のオンラインショッピングの日「双十一」には、天猫超市の注文数が100万を突破。今年の双十一にはネットスーパーのシェア獲得に両社が動き、ネットスーパーが台風の目となり、一気に普及が進んでいくかもしれない。

農村部のネット利用、利用端末や用途で都市部と差

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、農村部のインターネット利用状況についてのレポート「2015年農村互聯網発展状況研究報告」を発表した。

 2015年末時点での中国農村村民規模は1億9500万人で、うち携帯電話やスマートフォンの利用者は87.1%にあたる1億7000万人。インターネット普及率は都市部が65.8%であるのに対し、農村部は31.6%にとどまる。

都市部と農村部のネット利用者数と農村部の割合

 農村部は都市部と比べて、ノートPCやタブレットの普及率が低く、インターンネットカフェや会社や学校などでのネット利用率が低い。利用時間は都市部が週27.2時間に対して、農村部は23.8時間と短い。また、利用用途においても、オンラインショッピングやオンラインバンキング、旅行予約などのEC系サービスで利用率が15~20%低いという結果が出た。前年度比ではこれらサービスの利用者は増加が目立っているが、都市部とは大きな差がある。

 インターネットを利用しない理由としては「ネットがよく分からない」(60.0%)、「年齢が高すぎる・低すぎる」(30.8%)が理由に挙がった。「パソコンやスマートフォンがない」(9.4%)、「居住地ではネットに接続する術がない」(3.4%)という回答は少数派にとどまった。

都市部と農村部の年間個人所得(1元=15.5円)

阿里巴巴系の金融会社、KFCのヤム・ブランズ中国事業を取得

 阿里巴巴(アリババ)系の金融会社の螞蟻金服(アント・ファイナンシャル・サービス)と、阿里巴巴上場前の同社主要投資者である春華資本が、ヤム・ブランズの中国業務(百勝中国)に対し4億6000万ドルを投資すると発表した。ヤム・ブランズは、ケンタッキーフライドチキンやピザハットなどのブランドを抱える。中国でのこれらチェーン店が阿里巴巴に加入したことにより、阿里巴巴の新サービスが積極的に活用されることが予想される。

「WeChat」や「QQ」の騰訊、時価総額トップに

 9月5日、「微信(WeChat)」や「QQ」などで知られる騰訊(テンセント)の時価総額が1兆9820億香港ドル(約26兆5000億円)を記録し、阿里巴巴(アリババ)や中国移動(チャイナモバイル)、国有企業を抑えて中国、ひいてはアジアの時価総額でトップに。

 8月17日に発表した2016年上半期の決算報告においては、同社の上半期の収入は前年同期比48%増の676億8600万元、利益は同41%増の201億4800億と好調だった。ユーザー数は微信が前年同期比34%増の8億600万、QQが同7%増の8億9900万。同社の売上は微信やQQの有料サービスと、オンラインゲームが大きな割合を占めている。

字幕を付けてアップロードする「字幕組」逮捕が中国で話題に

 「字幕組」と自称する、日本のアニメなどさまざまなコンテンツに中国語字幕を付けて中国のサイトに無断アップロードする中国人2人を京都府警が逮捕した。字幕組の逮捕は初めて。このうち1人は7月、「アルスラーン戦記 風塵乱舞」を、もう1人は8月、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ ドライ!!」を、不特定多数と共謀してネット上に公開したとしている。

 かなり正規版は増えてきたものの、いまだ字幕組によるコンテンツは多く、特に外国のコンテンツが好きな中国人にとっては字幕組は身近な存在だ。それだけに、字幕組の逮捕に中国の日本コンテンツが好きな界隈では、大きな反応が見られた。

 また、10月中旬には字幕組逮捕に反対し、釈放を求めるアニメファンらによるデモが香港で行われた。

評価アップ代行店、4社の売上は1億2000万元

 浙江省工商局は、ネットでの評価アップ代行店(中国では「刷客」といわれる)を半年間で4店取り締まったと発表。4店とはいえ、淘宝網や天猫などで1万8600店の顧客を抱え、1億2000万元(約18億6000万円)を売り上げていたことが判明した。複数の報道によると、評価アップ代行店では、所有する多数のスマートフォンを使って物量で評価を上げる作業を内部で行っているといわれている。これにより短時間で評価が上がるが、こうした行為が蔓延しているため、SNSや口コミでの評価やフォロワー数の信用がいつまでもされないという問題を抱える。

淘宝網で売られる外売評価操作

出前「外売」、衛生面がひどいと問題視

 中国中央電視台の報道番組で、近年、大都市で普及している「外売」と呼ばれるネットの出前の現状をレポート。出前をするにも飲食関係の衛生許可証が必要となるが、多くの店が近所のスターバックスをはじめとしたカフェや食堂などの衛生許可証を勝手に拝借しているという実態を紹介した。さらに、実際に調理を行っている民家を訪問すると調理場はひどい衛生状態だったと報じた。また、地元行政や外売のサイトのチェックも甘く、かつ外売の各サイトは日々広告枠を販売し、衛生面がおざなりの中で広告費だけ投じて画面の目立つところにさえ店舗が表示されれば儲かるという状況を紹介している。

 こうした問題は3月から問題視されていた。こうしたことを受けて10月1日からは、ネットで販売する食品についての法律「網絡食品安全違法行為査処方法」を発布。百度、美団、餓了麼、到家美食会などのサイトが違法な店舗閉鎖への対応に追われた。

多くの食堂・レストランがさまざまな「外売」に対応する

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。