山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国政府がGoogle Map/Earth対抗の「天地図」開始するも批判の嵐 ほか~2010年11月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国政府がGoogle Map/Earth対抗の「天地図」開始~盗用疑惑など批判の嵐

 中国政府国家測絵局は10月、「天地図(http://www.tianditu.cn/)」という地図サービスを開始した。基本は地図+航空写真+3D地図。オフィシャルサイトの情報によれば、同サービスの最大の特徴であるGoogle Earthに似た「3D地図」の衛星写真について、中国以外における解像度は500m、中国国内は15mとなっているが、中国全土の300以上の都市で60cmの画像が使われていて、データ総量は30TBに及ぶという。

天地図。まだ非常に重い天地図3D

 サービス開始後まもなく、掲示板やブログなどで「Google MapとGoogle Earthのパクリだ」「航空写真自体を勝手に他国から拝借しているのでは」「データがあまりに古すぎる」といった指摘が書き込まれ、同様の指摘を含む記事が国営の新華社のサイトをはじめさまざまなネットメディアで掲載された。3D地図利用にはIE用プラグインが必須であり、他のブラウザー用のが用意されていないのも批判の対象となった。

 また、「天地図」においては複数の国・地域が領有権を主張する西沙諸島と南沙諸島が中国の領土とされていることにベトナムが抗議した。

 なお、中国の地図サービスは免許制であり、地図サイト運営のライセンスを取得・更新しない限り地図サービスを運営することはできない。Googleによる地図サービスのライセンス更新はないとされている中で開始されたのが天地図サービスだ。ただし、報道ではGoogle外しの動きばかりではなく、地図サービスライセンスの取得期限を延長するというニュースも12月に入って報じられている。

モバイルインターネットユーザーは2億4300万人

 中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」は26日、2010年9月末における携帯電話などによるモバイルインターネットの利用者は前年同期比39%増の2億4300万人となったという調査レポートを発表した。

 この利用者増の背景として、移動電信キャリアである「中国移動(China Mobile)」「中国電信(China Telecom)」「中国聯通(China Unicom)」3社による、3Gケータイの顧客獲得競争が強化していること、また携帯電話向け金融サービスが増えたこと、スマートフォンやスレートPC等のデバイスの所有者増を挙げている。

 中国政府工業和信息化部(中国政府情報産業省)によると、同国における携帯電話は8億3330万人ユーザーが利用している。

ネット上のPRの現状をCCTVがレポート

 PR(パブリックリレーションズ)を中国語で「公共関系」というが、中国のネットにおけるPR方法がひどいとして、国営放送「中国中央電視台(CCTV)」のゴールデンタイムの報道番組「焦点訪談」で、中国のネット上のPRの現状について紹介した。

 同番組がインタビューしたネットPR会社担当者は、ネットPR会社とは「打」「推」「削」の3つが柱だと話す。「打」とはライバル会社の悪評をネット上に広め評価を下げることで相対的に依頼企業の価値を上げること、「推」とは依頼者の良い評判をネット上に出すこと、「削」とは依頼者にとって不都合な話題をなるべく早く削除することである。

 暴力的ないしポルノ的な低俗なコンテンツであればあるほど多くの人に見てもらいやすいことから、こうした内容のコンテンツで多くのネット利用者の興味を引くことにより短期間で効果を上げるという。顧客は企業だけではない。有名になりたい若者は多く、自らの評判を上げるべくネット専門PR会社に依頼するという。

 策略・企業戦略といえば響きはいいかもしれないが、こうしたネットPR会社の存在によりモラル低下がおき、各企業に対する悪い噂が連日横行し、インターネットの情報の信憑性も疑われるようになるとして行き過ぎたPRに警鐘を鳴らした。インターネットの先進都市である北京では、多くのポータルサイトや掲示板サイトが足並みを揃えて、ネットPR会社が絡む不当な商業戦争を禁止するという動きに出た。

楽天市場のようなB2Cオンラインショッピングに各社業務を強化

 中国でオンラインショッピングというと、圧倒的シェアの淘宝網(TAOBAO)が牽引する、日本でいえばYahoo!オークションのような個人対個人取引(C2C。実態はそうした場での企業対個人取引)のことを言うが、今月いくつかの企業が日本でいえば楽天市場のような企業対個人取引(B2C)のショッピングサイトに力を入れるレポートがあった。

 前述の淘宝網は、メーカーをはじめとした企業が販売するB2Cサイト「淘宝商城」をサブコンテンツとして持っていたが、11月1日には淘宝商城を独自ドメインで運用開始、2日後の11月3日には、家具やインテリアなどを販売する「家装館」をオープン、さらには3ヶ月内に淘宝商城の広告費として2億元(約26億円)を投入していくことを発表し、今後の淘宝商城への強化をアピールした。

 Amazon中国以上に人気の老舗B2Cサイト「当当網」は、12月8日にニューヨーク証券取引所に上場。先立つ11月にはAmazon中国に先駆け、中国で電子ブックコンテンツ販売をすることを発表した。Amazon中国や当当網がシェアを占めるオンラインでの書籍販売に、電器製品販売などで知られつつあるB2Cサイト「京東商城」が参入した。

淘宝商城当当網

 京東商城と言えば、B2C強化とは話がずれるが、ある消費者が夏に購入した新品ノートPCの中に最初から180GBものポルノコンテンツが入っていたとして「京東商城は新品と称して中古品を販売した」と訴えたニュースが多数のメディアで報じられた。ひょっとしたら前述したような、ライバル会社による中国流PR作戦かもしれない。

 B2Cに話題を戻すと、オンラインショッピング市場拡大で潤う宅配業者がB2Cオンラインショッピング市場に参入との噂が流れ、多くのインターネット利用者がそれを歓迎したほか、中国でも金持ちの間で人気のアルマーニも中国オンラインショッピング市場に参入の意思を発表した。

 来年はB2Cオンラインショッピングが大きく変わるかもしれない。日本から直輸入の商品が品質が高いと好評だが、楽天の中国版「楽酷天」や、「佰宜杰.com(バイジェイドットコム)」など日本関連のB2Cサイトはこの流れに乗ることができるか。

海賊版文書コンテンツを流し続けた百度と淘宝網、改善の方向へ

淘花網

 当当網が電子ブック販売に取りかかる一方、テキストファイルやHTMLファイルやPDFファイルによる海賊版電子ブックが溢れていて簡単に入手できる状態にある。特に海賊版コンテンツを多数抱え放置している百度(百度文庫)と淘宝網配下の「淘花網」に対し、11月13日、中国の作家22人が「中国文学が危機にさらされる」と両社を訴えた。

 これに対し淘花網は即座に謝罪を表明し「既に数万の海賊版コンテンツを削除した」と発表。遅れて11月下旬に百度も「海賊版は文学コンテンツのうちの8%にすぎない。通報を受ければ48時間以内に削除する」と発表した上で謝罪を表明。同時に同社のmp3関連サービスのように「広告モデルを確立することで、無料で文書コンテンツをユーザーに利用することを検討している。既に21社との提携が実現した」とアピール。

 筆者が確認したところ、淘花網では日本の書籍の海賊版は確認できなかったが、百度のサービス「百度文庫」では多数の日本の海賊版が閲覧できることが確認できた。日本のコンテンツホルダー企業の法務担当者はこれらサイトで、自社コンテンツが無断配信されていないか確認したほうがいいだろう。

動画共有サイト「YOUKU」、米ナスダックに上場準備で、海賊版アメリカドラマ一斉削除

 米国株式市場に上場したのは当当網だけではない。12月8日には、中国で人気の動画共有サイト「優酷(YOUKU)」が米ナスダックに上場した。同社は3大通信キャリアの1つ中国電信と提携し、同社モバイル向けサイトのオリジナル動画コンテンツサービスの運営を任され、さらに経営を拡大している。

 優酷網は上場に先立つ11月17日、突然アメリカドラマがほぼ全て削除された。11月12日には動画コンテンツを管理する機関である中国政府広電総局が、「広播影視知識産権戦略実施意見」という海賊版動画コンテンツ粛正の通知を出したのでその影響もあろう。しかし中国メディアすら、今年8月に人気動画共有サイトの1つ「酷6網」が米ナスダックに上場したが、やはり上場前に米国産コンテンツが一掃されていたという前例を挙げ、「上場時に潔白をアピールするための処置」と分析する。

QQと360、中国政府が喧嘩両成敗とするも未だ両社折れず

 「とにかく中国人は謝らない」と言われるが、先月紹介した中国PC普及の牽引役のチャットソフト「QQ」と、QQを悪意のあるソフトとしてアンインストールを強く勧める「奇虎360」の間で、11月も中傷合戦が延々と続いた。いっこうに収まる気配がない中傷合戦に、ついに中国政府公安部や内閣にあたる国務院が仲介役となり、「お互い謝罪してこれ以上の中傷の仕合はやめるように」と指示。中国では絶対のお上の指示にも関わらず、両社は指示後も互いに相手への中傷発言をやめず裁判所に損害賠償請求を提訴。連日メディアに掲載され誌面を賑わせている。

5~15歳のインターネット利用者は9000万人弱

モバイルインターネット利用者の推移。単位は万人

 2010年6月末でのインターネット利用者は4億2000万人(CNNIC調べ)だったが、調査会社「iResearch」の発表した「中国児童網民規模及上網行為調査報告2010年(中国児童ネットユーザー及びネット利用用途調査報告)」によれば、5歳から15歳までのインターネット利用者は8958万2000人と試算、特に10歳以上の利用者の割合が高いという。

 都市別利用率では上海が最も高く72.3%、北京が70.9%、広州が67.3%、杭州が58.4%、成都が44.0%と、大都市であるほど利用率が高い結果に。

 最も多い利用用途はゲームなど娯楽目的で学習用途は二の次だが、それでも9割以上の両親が子供のインターネット利用に賛成している。


関連情報


2010/12/13 13:44


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。