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激甚災害時のネットワーク復旧に新技術、NII、NTTら、世界初の波長変換を含む光波長パスの自動切替・追加技術に成功
新たな予備経路を対策して切り替える「リストレーション」切替が短時間で可能に
2025年12月22日 07:00
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)、NTT株式会社、NTT東日本株式会社は共同で12月18日、激甚災害時の通信障害を想定し、光伝送レイヤーの設計・制御を自動化することで、10分以内のトラフィック迂回や回線追加に世界で初めて成功したと発表した。
NIIが構築・運用する学術情報ネットワーク「SINET」は、400Gbpsの超高速回線で日本の学術研究を支えている。SINETでは近年のデータ量増加に伴い、災害時でも途切れない通信の維持が課題で、光ファイバー断線時の復旧には、あらかじめ準備していた予備経路へ即座に切り替える「プロテクション」だけでなく、障害の長期化時などに、新たな予備経路を対策して切り替える「リストレーション」も期待される。しかし、実際のリストレーションでは、波長リソースや設備準備、伝送経路の評価・選定を手動で行うため、復旧までに数時間を要していた。
今回、NTT東日本の商用光ファイバーケーブルと、NTTの伝送装置、APNコントローラー、波長変換器、光トランシーバーを実装したスイッチ装置を用いて構築した光伝送ネットワークに、NIIのIPコントローラーおよびデータ転送サーバー(MMCFTP)を組み合わせ、2つのコントローラーによるマルチオペレーション連携を実現した。
同研究は、都内の3つのデータセンター(A/B/C)を光ファイバーで接続した光伝送ネットワーク環境において、以下の2つのユースケース検証を実施した。
実験1:光波長パスの経路切替(高速なリストレーション)
激甚災害により先端研究用トラフィックが流れる伝送経路が寸断されたケースを想定し、経路切替を自動で実行して復旧させるシナリオを検証。実験の結果、経路切替の操作開始から10分以内に全トラフィックが復旧した。
- 光伝送ネットワークの経路障害(A-C間)を模擬
- 迂回経路のルートを自動設計し、伝送特性・光信号レートを事前診断
- 診断結果に基づき、光信号レートを200Gbps(A→C)から100Gbps(A→B→C)に変更した光波長パスを迂回経路として自動設定し、伝送経路を切り替える
- 変更後の光信号レートに合わせ、IPコントローラーがスイッチ装置へのトラフィック制御を実施し、一部のトラフィックを回復
- 光信号レートを下げた分を補うため、経路上で波長変換を行った100Gbpsの光波長パス(A→B→C)を追加で自動設定
- IPコントローラーがスイッチ装置へのトラフィック制御を解除
実験2:要求に応じた帯域拡張(オンデマンド増速)
研究の実施状況に応じて、通信帯域を拡張するオンデマンド回線の増速の自動化を検証した。結果、増速した光波長パスにより全トラフィックの転送が確認された。
- IPコントローラーが100Gbpsから200Gbpsへの増速要求を送出
- APNコントローラーが100Gbpsの光波長パスを追加で自動設定
- IPコントローラーがスイッチ装置にトラフィック分散制御を実施
実験を支えた3つの技術
以上の実験を支えた技術のポイントとして、次の3点が挙げられている。
オンデマンドでの光波長パス設定を可能にするAPNコントローラー
従来の光波長パスの開通や増速には、設備情報や波長リソースの確認、伝送経路の選定、光ファイバー条件を踏まえた伝送到達性の評価など、複数の工程を手動で行う必要があった。今回の実験では、エンドツーエンドで波長リソースが確保できない場合でも、波長変換器を含む最適なルート、波長、伝送方式などを自動かつ一元的に設計し、光波長パスの迅速な開通や経路切替を実現できた。
波長変換技術
光波長パスの設定では、エンドツーエンドで同一の波長を確保する必要があるが、激甚災害発生時などで多数のオンデマンドな迂回経路を設定する必要がある場合は、これが難しい。今回の実験では、同一の波長でなくとも異なる波長に切り替えることができ、経路変換に伴う遅延や消費電力を最小限に抑えた光波長パスの設定が可能となった。
多様なサービス提供形態を実現する制御権限分離技術
光トランシーバーの小型化により、ルーターやスイッチに収納して、直接APN網に接続できるようになるが、そのために必要な設定のため管理が複雑化する懸念がある。今回の実験では、ルーターやスイッチ装置が本来有するレイヤー2/3機能と、APN接続に必要な光レイヤー機能の制御権限を分離し、APNサービス提供事業者が保有するAPNコントローラーから光トランシーバーを制御することで、複雑化せずに高速・低遅延な伝送サービスの利用を可能にできる。
今回の実験で、NIIはデータ転送サーバーとIPコントローラーの開発、NTTはAPNコントローラーと波長変換技術及び制御権限分離技術の開発、NTT東日本は敷設済みの商用光ファイバーケーブルを用いた光ネットワークの構築を担った。
今後、NIIはSINETの高速・大容量性、高信頼・安定性向上に、NTTは「IOWN APN」の普及拡大にそれぞれ今回の技術を活用するという。NTT東日本も、大容量・高信頼な光伝送ネットワークを活用したサービスの実現に向けて検討を進めていくとしている。




