山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

五カ年計画でネット強化、ビッグデータで国民の行動評価へ ほか~2015年10月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

五カ年計画でネット強化、ビッグデータで国民の行動評価へ

 10月末に第13次五カ年計画についての会議が開かれ、11月3日に発表された。全方面にわたった国家計画が書かれているが、28の重要項目のうちのいくつかはインターネット関連であった。新華社の発表を引用すると以下のようになる。

(2)インターネット経済空間を開拓する。「インターネットプラス」行動計画を実施する。通信のユニバーサルサービス制度を整備し、ネットワークを高速化し、費用を下げ、次世代インターネットを先んじて整備する。

(8)ネット上の思想文化陣地建設を強化し、ネットコンテンツ建設事業を実施し、積極的に向上するネット文化を発展させ、ネット環境を浄化する。従来型メディアと新興メディアの融合・発展を推進し、メディアのデジタル化を加速し、新型の主流メディアを築く。

(28)社会ガバナンスの基礎制度の建設を強化し、国家人口基礎情報ベースを構築し、社会信用コード制度と関連する実名登録制度を統一し、社会信用システムを整備し、社会心理サービスシステム、誘導制度、危機介入制度を整備する。社会ガバナンスの基礎制度の建設を強化し、国家人口基礎情報ベースを構築し、社会信用コード制度と関連する実名登録制度を統一し、社会信用システムを整備し、社会心理サービスシステム、誘導制度、危機介入制度を整備する。

芝麻信用

 簡単に解説すると、(2)の「インターネットプラス」とは、インターネットが進出していない業界でもインターネットを活用し、便利な世の中にするということ。(8)に関しては、ネットを主戦場として国産コンテンツを推進し、海外のコンテンツ流入の枠組みをより小さくするのではないか。また、近年のネット規制の流れからみても、よりネット言論をコントロールしやすくも、基本的には中国人同士が繋がり、彼らがネットライフを満喫できるメディアを推奨していきそうだ。

 (28)の「社会信用システム」だが、これは今年登場した、中国の3大ネット企業のうちの2企業「阿里巴巴(Alibaba)」と「騰訊(Tencent)」らによりリリースされた独自のネットユーザー信用スコア判定システム「芝麻信用」のようなものになると、いくつかのメディアは分析する。芝麻信用は、ビッグデータでオンラインショッピングでの購入記録、お金の出し入れ、SNSから分析しスコアを計測。スコアが高ければ「金融機関で融通が利く」「国際空港のパスポートチェックで専用優先レーンが通れる」といったもの。中国国内だけにとどまらず、シンガポールやルクセンブルクを筆頭に諸外国にビザが取りやすくなるなど、中国国外にも影響を与えている。

 この芝麻信用を拡大したネットユーザー信用スコア判定システムを導入するとなれば、ネットユーザーが起こした行動が好ましければスコアが上がり、よくない書き込みや人間関係があるなど、好ましくなければスコアが下がる。優良ユーザーは生活が便利となり、不良ユーザーはネットサービスでの恩恵が受けられなくなるのではないか、といくつかのメディアは予想している。

約2兆6600億円をかけて農村ブロードバンド普及計画

 国務院は、1400億元(約2兆6600億円)をかけて、2020年までに約5万はある農村のブロードバンド未開通の区域にブロードバンドインフラを設置し、農村部でのブロードバンドインフラ普及率を98%まで上げると発表した。これにより3000万戸以上の農村家庭が恩恵を受ける。担当者は「投資の回収目的ではなく、電信サービスの義務として行う」と説明している。2014年からあまり普及していない内陸の四川省・貴州省・雲南省・陝西省・甘粛省・内モンゴル自治区での農村部のブロードバンドインフラを設置。現在、農村部のブロードバンド普及率は30%となっている。

農村部でもITは普及しつつある

iOSの新機能「Apple News」、中国では使えず

 ニューヨーク・タイムズは、iOS9の新機能「Apple News」が中国版では使えないということを掲載。これは、米国で登録したユーザーが中国に行き、Apple Newsが使えないことで発覚したもの。Appleのサイトにおいても、日本向けサイトや、多くの国向けのサイトでiOS9の新機能でApple Newsを紹介しているが、中国版サイトだけは、そこで通常の機能の説明を入れている。つまりApple Newsが中国版にはなく、あっても中国では検閲制度のため中国国内では使えないわけだ。

iOS9の中国版サイト
iOS9の英国版サイト
iOS9の日本版サイト

進むネット業界再編、阿里巴巴と騰訊の接近

 企業同士の合併が続く。10月上旬には、クーポンサイト最大手の「美団(meituan)」と口コミサイト最大手の「大衆点評」が合併。下旬には旅行予約サイト最大手の「携程(ctrip)」と旅行価格比較サイト最大手の「去〓儿(qunar)」(〓は、口へんに那)が合併、さらに10月に動画サイト最大手の「優酷網(Youku)」と「土豆網(Tudou)」を運営する「優酷土豆」を阿里巴巴が買収するのではと噂され、11月上旬にそれが現実のものとなった。文章で“最大手”という文字が随分と出てきたが、その形容通り、ネットユーザーなら誰もが見聞きしたことあるほどの定番サイト同士の合併が続いた。

 中国のネット企業では「百度(Baidu)」「阿里巴巴(Alibaba)」「騰訊(Tencent)の3社が3大サイトではあり、3社が業務拡大を狙ってさまざまな企業を買収している。「携程(ctrip)」「去〓儿(qunar)」はどちらも百度配下となって百度は旅行に強くなり、阿里巴巴は優酷土豆を買収して動画に強くなった。「美団(meituan)」と「大衆点評」は阿里巴巴と騰訊双方の資本が入っていることから、今年に入ってからの両社の動きもあわせて両社が接近し、百度を突き放そうとしているのではないかと噂されている。

電子マネーが生鮮市場で続々登場

 中国では食材はスーパーも人気だが、生鮮市場もまた人気だ。生鮮市場は屋外のものと屋内のものがあり、中では肉や魚や野菜が所狭しと売られ、それらが混ざった匂いが市場全体に充満する、ITとは最も無縁そうな場所である。そこで市場内の全店舗が、ネットで流通する電子マネー兼エスクローサービスの「支付宝(Alipay)」に対応し、現金不要となった生鮮市場が中国全土に現れ始めた。つまり、売り手側がネットに繋がったスマートフォンを皆持っていて決済に活用していることを意味するわけだ。小綺麗なレストランやファストフード店やスーパーなどでは対応していたが、キャッシュレスの生鮮市場が登場したのは中国国内でもニュースバリューがある驚きの現象だった。

 初の電子マネー全店舗対応の生鮮市場は福建省温州市に9月にできたが、10月には北京を筆頭に、中国全土のおよそ50の生鮮市場で市場内の全店舗が支付宝に対応した。また、NFC内蔵のスマートフォンで支払う銀聯(UnionPay)系電子マネー「銀聯閃付」にも対応した生鮮市場が登場。キャッシュレスの生鮮市場が登場しただけでなく、電子マネー競争が生鮮市場でも起きている。

刑法改正、SNSなどのインターネットでの虚偽情報拡散で最大7年の実刑

 刑法が改正され、ニセの災害情報や事件をはじめとした虚偽情報をインターネットやその他の媒体で故意に伝播させ、社会秩序を乱した場合は3年以下の実刑となり、大きな結果を与えた場合は3年以上7年以下の実刑とするとした。このインターネットの媒体には、最も多くの人が利用している「微信(WeChat)」もあてはまるとあって、ネット上でも比較的話題に。

 インターネット上の反応では「もっと先に、いい加減な新聞報道や腐敗など処罰すべき対象はたくさんいる」といったコメントが多く見られた。

インスタントメッセンジャー作成SDK「雲信」登場

 社内や内輪のグループ内用のチャットソフトが簡単に作成できるツール「雲信」を、ポータルサイト「網易(NetEase)」がリリースした。中国のパソコンやインターネットは、騰訊(Tencent)のインスタントメッセンジャー「QQ」がキラーサービスとなって普及し、今も同社の「微信(WeChat)」がSNSで最も人気であるように、中国ではインスタントメッセンジャーはメールを超える連絡ツールで、それが比較的簡単に作れるとあって話題となった。テキストはもちろん、動画や音声チャットほか、グループチャットも可能。また、サービス登録も肩代わりする。Windows、Andoid、iOS、ウェブ版が作成可能で、雲信は網易のサーバーを活用する。

「雲信」の仕組み

微信を使って圧倒的な拡散速度で広がったねずみ講が話題に

 「微信(WeChat)」で「人を紹介すれば一部をキャッシュバック」という、ねずみ講を行った団体の5人が大連で逮捕された。「ハードルは低く、キックバックは高く、微信だから拡散速度も早い」を売り文句に、その言葉通り、わずか半月で中国国内外で64万4000人もの会員を集め、うち4分の1にあたる16万3000人がお金を支払い、170万元(約3230万円)を団体は不法に手に入れた。

クラッキングの技術を競う大会「GeekPwn」開催

 スマートフォンやネットワークカメラ、スマートウォッチなど、さまざまな製品が中国国内で続々と登場する中、それを公開の場でクラックする大会「GeekPwn」が開催された。2回目の開催となる今回は、市販されているものを対象に「普及するドローンハックし、コントロール下に置く」「ネットワークカメラをハックし、映像を見る」「支付宝(Alipay)用のカードリーダーをハックし、電子マネーをチャージする」といったお題が出て、参加者はそれら難題をクリアしていった。

中国ならではの対老人保険がネットで販売、若者を中心に購入

 10月15日に、阿里巴巴系の支付宝は、中国の特殊な老人事情から誕生した「老人保険」を販売し、ネットで大きな話題となった。この老人保険の商品についてのニュースが多くの人の目にとまっただけでなく、17日までに2万6000人、26日までに8万5000人がこの保険商品を購入した。

 この特殊な老人保険の価格はたったの3元(約57円)で1年間有効。祖父母の生命保険や障害保険ではなく、当たり屋のような老人に訴えられた時に、弁護士費用を最大で2万元(約38万円)肩代わりするというもの。近年老人が路上で倒れ、その老人を助けると、助けた人が老人に「倒された」と訴えられ、親切心で助けた若者がお金を騙しられるという事件が度々報じられた。

 元来、中国人は老人に優しいと、中国人の間で言われているだけに、この対老人保険が登場し、話題となり、多くの人が購入したことに「世も末」というネットの反応も。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。