山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国のインターネット利用者は3億6000万人に ほか
2009年11月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

2009年9月末の時点でインターネット利用者は3億6000万人に

年に一度開かれる中国互聯網大会。中国IT業界では重要なイベントで、各ポータルサイトが特設サイトを開設する

 11月2日と3日の両日にわたり、中国の著名インターネット企業や、政府のインターネット関連省庁などのトップが一堂に会する「中国互聯網(インターネット)大会」が北京で開催された。

 大会において、省庁のひとつ、工業和信息化部の電信管理局局長の韓夏氏は、2009年第3四半期末の時点で中国のインターネット利用者は3億6000万人(うちブロードバンドユーザーは3億4000万人)に、インターネット普及率は27.1%に達したと発表。第2四半期末の時点で同利用者は3億3800万人であったことから、3カ月で2200万人利用者が増えたことになる。

 また、全行政地域のうちの95.6%の地域でブロードバンドインフラが、99%の地域でインターネットインフラがひかれていると語った。中国小売商品市場額の9.7%がオンラインショッピングでの消費となったことなど、オンラインショッピングの成長も話題になった。2008年時点で、オンラインショッピングをはじめとしたインターネットによる仕事に1000万人が従事しており、インターネットが職業機会を増やしたとしている。

 一方で、政府関係者や企業トップの多くが今後の課題として挙げたのが、「信用できるインターネット」だ。セキュリティやネット上の不良情報からオンラインショッピングでの信頼できる商品の取引まで、さまざまな信用が不充分だとすることから、今後は企業・団体・政府それぞれが中国的な「信用できるインターネット」の構築を目指すことになる。

 そうした動きのひとつとして、同大会の閉幕数日後には、ポルノ画像掲載により低俗なサイトと認定された41サイトが閉鎖され、また、オンラインショッピングサイト最大手の淘宝網(TAOBAO)は評判の悪い販売者のアカウントを一斉に削除した。

オンラインゲーム市場順調に拡大も、なおリアルマネートレードに課題

 4日、中国のリサーチ会社「iResearch」は第3四半期のオンラインゲーム市場についての統計を発表した。第3四半期の中国オンラインゲーム市場規模は、前年同期比34.5%増、前期比6.3%増の71億7000万元(約930億円)となった。iResearchは2009年の1年で275億元程度(約3550億元)の市場規模になるのではないかと予想している。

 またCNNIC(China Internet Network Information Center)は24日、MMORPGなどの「大型オンラインゲーム(原文を直訳)」についての調査結果を記した「中国網絡遊戯(オンラインゲーム)市場研究報告」を発表。利用者は6931万人で、男性が6割強を占め、年齢別では10代が46.1%、20代が35.5%、30代が13.6%を占める結果に。

 利用者の月収は「無収入」が全体の28.5%、「1000元(約1万3000円)以下」が全体の12.5%、「1001~2000元(約1万3000~2万6000円)」が25.5%、「2001~3000元(約2万6000~3万9000円)」が18.8%を占める。利用者が若年層に偏っていることもあり、中国人全体の収入からみれば低めとなっている。

 その一方で、約4割の利用者が「有料サービスを利用している」とし、平均で月165元(約2150円)を支払っている。中国政府当局が頭を悩ませるバーチャルアイテムなどをリアルマネーでユーザー間で取引する「リアルマネートレード(RMT)」については、利用率は減少したものの、現在も4人に1人が利用しており、そのほとんどが18~30歳の男性という結果が出ている。

 リアルマネートレード(RMT)のほかにも、中国政府はオンラインゲームの問題があると認識しているようだ。20日には中国政府文化部がオンラインゲーム制作の指針を示す「関于改進和加強網絡遊戯内容管理工作的通知」を発表。

 その通知の内容は、オンラインゲームベンダーに対し、「敵を倒し続けることでレベルアップするシステム」「プレーヤー同士が闘うシステム」「プレーヤー同士がバーチャルで恋愛をするシステム」といったシステムを作らないように指導するというもの。

 この通知からは、中国政府が現存のこれらシステムが利用者に悪影響を与えていると認識しているといえる。

MMORPGなどのオンラインゲームの月収別利用者の割合MMORPGなどのオンラインゲームの年齢別利用者の割合
MMORPGなどのオンラインゲームの利用時間オンラインゲームの有料サービスに支払う月の利用額
リアルマネートレードの年齢別利用者の割合遊んでいるオンラインゲームタイトル数

中国3大電信キャリアすべてを不良情報配信元として名指し

中国移動のサイトでは、多くの日本の邦楽がアップされている

 11月25日、中国政府工業和信息化部が携帯電話向けコンテンツの自浄化を訴えると、29日には3大電信キャリアのひとつ「中国移動(チャイナモバイル)」が翌30日からWAPによる有料サービスをいったん停止すると発表した。これにより中国移動は毎日1000万元(約1億3000万円)以上の売り上げ減が予想される。

 また11月30日には、中国メディア「毎日経済新聞」が、3大電信キャリアの中国聯通(チャイナユニコム)と中国電信(チャイナテレコム)の運営するサイトがポルノ画像などの不良情報の配信元になっていて、ブラックリスト入りしていることを紹介した。

 各キャリアの価格プランを含んだ具体的なサービスについては、各省各市のキャリア子会社に任せ、その各地域のキャリアのポータルサイトもまたのキャリア子会社に一任している。実際、キャリア専用の携帯電話向けサイトやPC向けのサイトで、海賊版の疑いのあるコンテンツをはじめとしてグレーなコンテンツを配信している。

「インターネット依存症対策に体罰禁止」と国が命令

 中国政府の省庁のひとつ「衛生部」は、インターネット依存症の定義付けはできないながらも、インターネット依存症回復のために体罰を伴う治療法を施すことを禁止するという内容の「未成年人健康上網指導(未成年の健康的なインターネットの指導)」を発表。

 本連載の7月の記事「『ネット依存症に脳電流治療』を行う医師に政府がNO!」の項で、電撃による依存症治療方法を禁止したが、今回のお触れはそれを拡大したものとなる。

 その発表の後に、広西チワン族自治区南寧でインターネット依存症施設に入り命を落とした少年の両親が施設を相手に訴訟を起こしていた事件で、少年の両親に50万元(約650万円)の損害賠償が確定。少年の両親にはさらに、施設に土地を貸していた学校と、施設の広告を流したテレビ局から、今後の生活費として50万元が支払われたニュースが報じられた。

「人気SNSサイトのサイト名変更は、当局の圧力が一因」と運営企業CEO

人気のSNSサイト「人人網」。みんなの農園こと開心農場がキラーコンテンツに

 ソフトバンクが昨年春に、(当時)将来の中国でのSNS人気を見越して投資したSNSサイト「千橡互動(Oak Pacific Interactive)」。Facebookにそっくりな「千橡互動」は、当時大学生を主に対象とした「校内網(xiaonei)」という名称だったが、今年8月「人人網(renren)」と名称を変更した。

 その原因について、千橡互動のCEO陳一舟氏が「中国当局の圧力が一因にある」と、チャットソフトQQで知られる騰訊のニュースサイトにコメントした。

 騰訊のニュースによると、陳氏は「名称変更には自身の希望もあったが、それ以上にサイト名が普遍的な名前過ぎるという教育部の圧力が何度もあり、名称修正に至った」とコメント。「教育部の圧力に理解はしているが、中国政府機関が絡むSNSサイト「同学網(同学はクラスメートの意)」は変更がないというあたりに不公平性を感じる」と不満をもらしている。

 また、ソフトバンクの投資について、「当時のメディアがソフトバンクが4億3000万米ドルの投資を『千橡互動』に投資したと報道されているが、1億強を投資しただけであり、当時と比べ現在『千橡互動』は数倍に成長しているため、全株の2割弱にしか相当しない。『日本人が校内網を買収した』というトピックの掲示板のスレッドを多く見かけるが、それは誤解であることを理解してほしい」と陳氏はコメントし、読者に訴えていた。

 中国のSNS利用者数は11日のCNNICの発表によると、中国のSNSサイトの利用者は2009年末で1億2400万人(見込み)。詳しくは本誌11月16日付のニュース記事「中国のSNS、10代・20代の若者が利用者の8割超を占める~CNNIC調査」を参照してほしい。

インターネットカフェで海賊版が蔓延。海賊版利用率は約9割。

 中国のリサーチ会社「大度咨詢」とメディア数媒体が共同で「中国網〓行業影視版権状況調査報告(中国インターネットカフェ動画版権状況調査報告。〓は口へんに巴)」を発表した。これによれば、インターネットカフェを利用するインターネット利用者は前年比26.5%増の1億4300万人で、そのうちの39%が1回につき4~6時間利用するという。

 多くのインターネットカフェ内には、LAN内のPCからのみアクセスできるファイルサーバーが用意されており、そこに音楽コンテンツや映画やアニメなどの動画コンテンツが多数保存されている。同発表によれば、インターネットカフェでの海賊版利用率は89.4%であった。

 また、同報告によれば、インターネットカフェだけでなく、電信企業、マンション単位で提供するブロードバンドサービス、図書館、学校、ホテル、カラオケなどの施設でも、ネットサービス利用者向けのリムーバブルディスクを用いたコンテンツサーバーを準備しているところが少なくないとしている。中国の都市部では、100億元程度の動画コンテンツが利用されているが、(中国の)版権所有者へは10億元分程度しか還元されていないという。

 一方で、この現状を逆手にとって富豪に上りつめた、権利保護を職業とする若者も出現した。11月、全国ネットの中央電視台の放送した「経済半小時」という番組内で紹介された27歳の李智勇氏は、インターネットカフェやカラオケやホテルに入り、海賊版動画を再生して録画、海賊版を配信している証拠を抑えた上で、違法配信業者を訴えて代価を得るビジネスにより、1000万元(約1億3000万円)もの年収を得た。

第3四半期における中国B2C市場規模は61億元

 中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」は、第3四半期における中国オンラインショッピング市場規模を発表した。

 同四半期におけるショップ対個人のB2C市場は前年同期比171%増、前期比33%増の61億元(約790億元)。商品ジャンル別では、PC・携帯電話・デジカメなどの「デジタル製品(44.3%)」がもっとも多く、以下「日用品(35.5%)」「出版物(11.3%)」となった。

2社がそれぞれ開発したIMEを巡り骨肉の争い

捜狐のIME「捜狗輸入法」。若い利用者が多いのでポップなスキンを多数用意している

 クラウド型のIMEソフトを開発した、ポータルサイトで有名な「捜狐」とチャットソフトQQで有名な「騰訊」がお互いに訴訟しあっている。11月16日より、捜狐が騰訊を相手に、知産権を侵害し、さらに騰訊が捜狐のIMEサーバーをたびたびクラックしたとして2051万元(約2億6500万円)の損害賠償を訴えた訴訟の審議が開始された。騰訊は捜狐の訴える不当競争行為は行っていないとし、裁判所に訴訟の請求を撤回するよう訴えた。

 一方で、15日には逆に騰訊が捜狐を不当競争行為をいくつも行っているとして提訴した。騰訊は、捜狐のIMEを使用すると毎日午後4時に修復と呼ばれるアップデートが行われ、その際に騰訊のIMEを削除させようとしたり、捜狐のサイト上で捜狐のIMEは「最も流行」「最も高い評価」「最強の機能」など過大広告をし、他人を陥れることで自らを持ち上げようとしているとし、2000万元(約2億6000万円)の損害賠償を捜狐に請求した。

「みんなの農園」にハマった夫に絶望し、妻が家に放火

 山東省の大学の45歳講師宅が22日ボヤを起こした。mixiなどでも遊べる「みんなの農園(開心農場)」にハマりすぎた夫に絶望した妻が、家に火をつけたことが原因だ。

 放火をした女性はインタビューに対し、「もともとは幸せな家庭だったが、”農園”で遊び始めてからは、家庭がギクシャクしはじめた。彼はひたすら農園のことを考え、夢の中で『葡萄は後何分で成熟するか』などと言うほどだ。農園遊びをする前は、家事を積極的に行っていたが、PCの前だけにいるようになった」と答えた。

 ボヤ騒ぎの当日も、農園のためにPCを触ろうとする夫を体を張って阻止しようとするも夫の心は変わらず、ついに女性はPCを倒して火をつけたのだという。ボヤで済んだが、その後男性は黙って仕事場に行き、農園遊びをしたという。

 これは農園にハマりすぎてニュースになった例だが、中国では多くのインターネット利用者が農園系ゲームに熱中している。

優酷網(YOUKU)、裁判で中国オンラインビデオ反海賊版聯盟に敗訴

優酷網(YOUKU)では今も日本の海賊版アニメコンテンツを配信している

 先月、ポータルサイト「捜狐(SOHU)」を中心とする「中国オンラインビデオ反海賊版聯盟(中国網絡視頻反盗版聯盟)」が、動画共有サイト「優酷網(YOUKU)」を相手取って、海賊版配信で提訴。その行く末が注目されたが、その判決が11月末に下された。

 裁判所の北京海淀法院は、優酷網(YOUKU)に対し、コンテンツホルダーである中国オンラインビデオ反海賊版聯盟の1社「優朋普楽」の47タイトルを無断配信したとして、45万元(約580万円)と訴訟準備費用を支払うよう命じた。なお、この件に関連して、優酷網に広告を出稿していたコカコーラも訴えられているが、この案件についてはまだ開廷に至っていない。


関連情報

2009/12/15 14:49


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。