山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

オンラインゲーム実名制が仮スタート。ユーザーは引き続き匿名で利用~2010年8月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

オンラインゲーム実名制が仮スタート。政府もユーザーも「不安なし」

 8月1日より、オンラインゲーム実名制度「オンラインゲーム暫定管理ルール」が仮スタートした。

 オンラインゲームは多くの人が利用する人気サービスだけに、各中国メディアも施行以降の様子やユーザーの本音を報道していた。共通するユーザーの回答は、身分証明書データ発生ツールなどで容易にハッキングできるというもので、実名制施行も恐れるに足らずの態度をとっている。

 ユーザーが実名制施行後も、建前では従えど実際は匿名で利用しようとする理由は、政府の方針嫌いというだけでなく、オンラインサービスのアカウントが日常的にクラッキングされる中国において、万が一ゲームのアカウント情報が盗み取られ、連鎖的に個人情報が漏洩したらたまらないという理由もある。

 そうしたユーザーの意見を汲み、ユーザーに不評の実名制を導入して顧客を減らしてはならじと、オンラインゲーム利用時の実名登録を強制しないインターネットカフェも多数存在する。

 一方で「暫定管理ルール」の施行後、これを管理する中国政府の一省庁である文化部は中国メディアの取材に対して、「最初にルールを確定し後でどうにでも従わせる」と言明。半年後を予定する実名制正式施行に自信を見せた。

Googleの利用者と広告収入、大幅減

 前回、Googleが中国政府にサイト運営ライセンス更新を拒まれたことを紹介した。その後、9月1日現在も「google.cn」でも「g.cn」でも、Google.hkへのリンクが張られたままとなっているが、音楽捜索や買い物検索、それに地図サービスと翻訳サービスのサイトはcnドメインのまま運用されている。

現在もcnドメインで運用されているGoogleの音楽検索同じくcnドメインで運用されているGoogleの買い物検索

 当初のリダイレクトから、.hkサイトへリンクをはる方法に変えた影響はアクセスにも表れている。中国のリサーチ会社「iResearch」が8月11日に発表したレポートによれば、2010年第2半期の中国国内での検索回数は590億7000万回で、うちGoogleのシェアは前期比で4.3ポイント減となる14.1%となった。Googleを尻目に百度のシェアは80%をはじめて超えた。

 Googleの中国市場における市場シェアは大幅にダウンしている。中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」が発表した「2010年第2四半期中国検索市場レポート」によれば、検索サイトの広告収入において、Googleのシェアは第1四半期の31%から24.2%へと大幅減となった。代わりにトップの百度のシェアは70%とはじめて7割を超える結果となった。

 こうした状況下、オンラインショッピング市場で圧倒的シェアの淘宝網(TAOBAO)の親会社であるアリババホールディングスは、中国3大老舗ポータルサイトのひとつ「捜狐(SOHU)」の検索サイト「捜狗」の運営会社が発行する株式の16%を購入、共に検索サイトでトップの百度の牙城を崩すべく提携した。捜狗のシェアは、2010年第2四半期において検索回数では1.7%(iResearch)、広告収入では0.8%(易観国際)。

捜狗捜狗の動画検索

百度、地図サービスに3D地図を付加し強化

 結果的に検索サイト市場でより圧倒的なトップシェアを得た百度は、8月27日より同社の地図サービス「百度地図」に、3D地図サービスを付加し、地図サービスを強化した。

 9月1日現在で、北京、上海、広州、深センの4都市で新規サービスが利用可能となっている。中国のGoogle Mapと百度地図では共に基本の地図サービスに加え、大都市限定だが道路交通情報も付加されている。今回のアップデートにより、百度地図がひとつ機能数で上回ることになった。

 クォータービューの3D地図は、既に「e都市」と「都市圏」の2サイトで提供されている。特にクォータービュー3D地図の先駆けとなったe都市は2004年からとリリースは早い。詳しくは「お隣中国の地図サイト事情~Google Mapsより人気の地図サービスとは(http://internet.watch.impress.co.jp/cda/special/2007/05/17/15731.html)」の記事を参照してほしい。

百度のクォータービュー地図百度の道路交通情報地図

奇虎360が百度のソフト削除を勧告~ネットユーザーは奇虎360を支持

 中国の企業同士の中傷・訴訟合戦は、以前にも増してよく見かけるようになっている。

 5月の記事で「企業同士がミニブログで舌戦」を紹介した。奇虎360がリリースするユーティリティソフトは、キングソフト(金山軟件)のファイアウォールソフトを危険と判断しアンインストールする仕様としたことから、両社の間で非難の応酬となったという話だ。

 さてその奇虎360が8月末、同社のソフトをインストールする際に、百度がリリースした2ソフトを「悪評のソフト」として削除をすすめる処置を行った。

 奇虎360のリリースするユーティリティソフトをインストールすると、百度の2ソフトについて「PCに危害を加えるのでアンインストールをしましょう」と勧告、ユーザーがそのアンインストールに対し拒否しない限り、奇虎360のソフトは百度の2ソフトをアンインストールするというものだ。

 これに対し、百度は1000万元(約1億3000万円)の損害賠償を請求し、さらに奇虎360のトップページと、ポータルサイト「新浪」および法制日報、北京青年報、北京晩報の3新聞のわかりやすい位置で謝罪声明を出すことを要求した。

 また、さかのぼること8月6日、奇虎360は百度に対し5400万元(7億円強)の損害賠償請求を行っている。奇虎360の訴えによれば、百度は奇虎360の製品を、奇虎360は百度の製品を相互にPRしていくという契約をしておきながら、百度が履行しなかったというのだ。

 このゴタゴタのニュースの感想掲示板での反応だが、「確かに百度のソフトは使えない」や「百度が嫌い」といった意見が多数派を占めた。また、比較的にヘビーなインターネットユーザーが集うポータルサイト網易(NetEase)が実施した、どちらの企業を支持するかという2者択一のアンケートでも百度は不人気であった。

 なお、本連載の7月分で「チャットソフト「QQ」の騰訊(テンセント)にPC誌が辛口批評」という話題を紹介したが、結局この結末はPC誌が誌面で謝罪文を掲載することで一旦は終幕している。

アンケート「百度と奇虎360とどちらを支持する?」計算機世界の謝罪の原因となった雑誌計算機世界の謝罪文

オンラインショッピング市場、市場規模は拡大も個人輸入に新たな壁

 中国のリサーチ会社「易観国際(Analysys International)」によれば、2010年第2四半期のオンラインショッピング市場は、前年同期比倍増、前期比22.3%増となる1173億4000万元(約1兆5500億円)。4半期の市場規模が1000億元を超すのははじめて。

中国オンラインショッピング市場(易観国際調べ)

 市場は急拡大を続けている中、オンラインショッピングに携わる人もさらに増加している。オンラインショッピングの利用率が最も高い都市のひとつである北京では、1000万人強の人口のうち、10万人を超える人々がオンラインショップ運営に携わり、月収1000元(約1万3000円)以上稼いでいるという。また包装や配送やカスタマーサービスなどオンラインショップに間接的に携わる人口は300人を超えるまでに至ったという。

 中国国内だけでなく、日本など中国国外でも、中国国外のよい製品を求めるニーズに応え、多数の在外中国人がオンラインショップ運営に携わっている。

 そんな中で、「500元以内の製品が入る小包に関して免税」という中国税関のルールが、9月1日より「50元以下の個人の小包に関して免税(2010年第43号公告)」と改変された。

 これにより、中国人留学生など転売に携わる人々は転売ビジネスで大きな打撃を受けることになった。9月1日の規定変更前に、淘宝網では早くも外国の商品の値段が上昇。特に粉ミルクは中国産の商品が消費者に信頼されておらず日本製を求める消費者が多く、IT系メディアも粉ミルクの値段上昇について記事で取り上げている。

中国オンライン広告市場、半期で100億元を突破

 中国のリサーチ会社「易観国際」は、2010年上半期のオンライン広告市場レポートを発表。2010年上半期は前期比14.7%増となる101億300万元(1300億円強)となった。半期で100億元を超えるのは今期が初めて。

 ベンダー別では、百度(30.9%)がトップシェアで、以下Google(12.4%)、新浪(Sina、8.6%)、アリババホールディングス(7.7%)、捜狐(SOHU、6.6%)、騰訊(Tencent、6.0%)、網易(NetEase、1.2%)、その他(26.6%)となった。淘宝網が好調なため、親会社のアリババホールディングスは一気に4位に浮上。2010年下半期には新浪を上回ると易観国際は予測する。

未成年の日記やチャットログの閲覧禁止を明記した条例が重慶で実施

 重慶の人民代表大会常務委員会(略称:人大常委会)第18次会議で可決された「重慶市未成年人保護条例」が9月1日より施行された。中国IT系メディアで注目されているのは、「あらゆる組織や個人においても、未成年の手紙・日記・電子メール・チャット記録・携帯電話のショートメッセージなどの個人情報を見ることは、プライバシーを侵害する行為として禁止する」と規定された条例39条。つまり両親が子供のチャットログや、携帯電話のショートメッセージなどを見るのも違法となる。

 同条例では他にも、小中高校の周囲200m以内にインターネットカフェを開くことを禁止すること、青少年宮と呼ばれる公共施設で無料インターネットカフェを開放すること、14歳~18歳の少年犯罪の審議を非公開にし、メディアに個人情報も含め、未成年の犯罪情報を公開しないことが記載されている。

超級網銀(スーパーネット銀行)がスタート

 中国中央銀行による複数の銀行アカウントをひとつにまとめられる「超級網銀(スーパーネット銀行)」が一部の都市で8月末にスタートした。超級網銀の特別なサイトはなく、対応都市で各銀行のオンラインバンキングのページにログインすると、画面内に他行のアカウントを管理するメニューが新たに表示され、他行の口座の残高を確認したり、他行の口座にクイック振込ができるようになる。

 網易(NetEase)が実施した、「超級網銀を利用してもよいか?」という質問には、60%強が「利用してもよい」と回答、40%弱が「利用したくない」と回答している。

中国本土の国外ブロードバンド速度は2.34k

 各都市で4Mbpsのブロードバンドプランがあり、中国国内の動画サイトが利用できるほどの回線速度となっているが、中国国外への回線速度はよろしくないようだ。

 8月に主要インターネットベンダー経営者や政府関係者が集結した「中国インターネット大会(中国互聯網大会)」において、「中国インターネットユーザーの中国国外への平均回線速度は2.34kbpsで、2007年の香港の20kbpsの10分の1に過ぎない」と中国工程院副秘書長の〓賀銓氏がコメントした(〓は鳥へんにおおざと)。

 ちなみに中国内陸部に滞在する筆者宅から日本の各回線速度測定サイトで計測してみると結果はまちまちで、USENで0.004Mbps(4kbps)、価格.comで下り3.8Mbps・上り0.4Mbps、gooで1.86Mbps、ブロードバンドスピードテストで下り1.4Mbps、上り350kbpsとなった。


関連情報

2010/9/8 06:00


安達崇徳
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。