山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

GroupOn似の共同購入クーポンサイトが大増殖中 ほか
2010年9月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国在住の筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

GroupOn似の共同購入クーポンサイトが大増殖中

 当連載の5月の記事で書いたが、米国のGroupOn(グルーポン)に端を発したグルーポン系共同購入クーポンサービスは、多くの中国の企業家に注目され、デザインもそっくり真似たGroupOnライクなサイトが多数登場した。

 消費促進型の新サービスだけに、北京や上海など大都市で人気が高まっており、“2010年の最もホットな新サービス”と評する中国メディアも。そうした中、GroupOn型共同購入クーポンサービスに関するレポートが中国のリサーチ会社「iResearch」「中国電子商務研究中心」からそれぞれ発表された。

 中国電子商務研究中心のレポートによれば、GroupOn型サービスのサイトは、今年1月の53サイトから8月末には1215サイトにまで増加。サイト別では1位より順に「拉手網(20.0%)」「美団網(19.8%)」「糯米網(10.3%)」「団宝網(9.4%)」「24券(8.1%)」となった。

 シェアを見るとネットで最も先端をいく北京を制したサイトが生き残っている形だが、中国では100万都市が点在するため、広州・武漢・南京・西安などの規模の都市で一定の成功を収めるサイトもある。

 人気の商品は上位より「化粧品(20.0%)」「レストランクーポン(18.0%)」「バー・カラオケクーポン(12.9%)」「映画・娯楽施設クーポン(10.0%)」「美容院・ネイルサロンクーポン(6.5%)」。

 また、iResearchのレポートによれば、GroupOn型サービスの利用者はウェブサイト利用者の12.4%に相当する4625万人。オンラインショッピングサイト利用者に比べ、男性よりも女性、30代以上よりもそれ以下での利用率が高く、また高収入層・無収入層の両極端で利用率が高くなっている。

GrouoOn型サイトが展開する中国の都市GroupOn型サイトで人気の拉手網。北京上海以外でも展開している

中国政府、急成長する各ネットサービスに次々と認証制度導入

 上記のグルーポンサービスしかり、新しいネットのサービスが続々と中国で知られるようになる中で、後から中国政府が各サービスで法整備を着手ないし施行するニュースが9月はいくつかあった。

 まずグルーポン系共同購入クーポンサービス。中国政府商務部直属機関である中国国際電子商務中心や国家工商総局らは、共同購入クーポンサイト乱立の現状に対し、政府が共同購入クーポンサービスサイトに認証制度を設けようという意向を発表した。

 一方、中国政府新聞出版総署は、普及しつつある電子ブック市場の健全化を目指し、電子ブックを出版する企業は認証された企業のみが出版できるようにすると発表。9月30日以降、出版許可証を発行していない企業による電子ブックは、サイト閉鎖など取締りの対象となるという。

 淘宝網(TAOBAO)などオンラインショッピングサイトの普及とともに、メジャーな決済方法となった電子マネー。これもまた「第三方支付管理方法」という法律が施行されたことにより、政府未許可の企業による電子マネーの発行は禁じられることになった。

尖閣問題~熱しやすく冷めやすい中国でも引き続き話題に

 尖閣問題については、中国でもポータルサイトや動画共有サイトで大きく報じられた。各ポータルサイトは特集ページを設けて、日中双方の言い分を紹介した。

 とくに温家宝首相が登場し、尖閣諸島は中国の領土だとアピールした際には、新聞を含めた多くのメディアが報道。ポータルサイトの掲示板や著名な掲示板では反日的な書き込みが大半を占めた。ネット世論は熱くなっているが、リアルな世論としては、「中国が正しいと信じているが、面倒なことはよくわからない」というのが多くの中国人の本音だ。

 尖閣問題は10月になっても、中国のネットで引き続き話題となっている。通常中国のネットメディアは、特集ページを組むほどのニュースでも1週間経てば次の大きなニュースが取って代わる。

 尖閣問題の後には、月探査衛星「嫦娥2号」の話題、10月1日からの建国記念日こと「国慶節」の話題など、尖閣問題の話題を追い出せるほどの国威発揚系の話題があった。しかし、日中首脳会談、福岡での街宣車による中国人観光客囲い込み事件、日米軍事演習の噂などにより、ニュースサイトでも引き続きこの問題がたびたび取り上げられている。

 とくに、船長解放前後や温家宝首相のアピール前後では最高潮と言える盛り上がりを見せ、当時は怒りや憤りにまかせて書いた文章や日本叩きの文章が大量にコピー&ペーストされ、どこでも同じ文章が並んでいた。しかし、10月になるとネット世論は沈静化に向かい、尖閣問題絡みのブログ記事は引き続き次々と投稿されているものの、その内容は基本中国政府を支持するが、やみくもに中国支持と反日を訴えるプロパガンダをコピーした文章ではなく、ブロガー自身が問題を考えた文章となっている。

引き続きポータルサイトの目立つ位置で紹介される尖閣問題1

淘宝網(TAOBAO)、格安航空券予約サービスに本格参入

 オンラインショッピングサイト最大手の淘宝網(TAOBAO)が、格安航空券予約サービスに本格的に参入することが中国メディアの間で報じられた。

 中国の格安航空券予約サイトは多数あるが、これまでずっと「携程旅行網(ctrip)」と「e龍」の2社が大きなシェアを占めていた。しかし、淘宝網の本格参入でシェアの変動が起きるのではと、中国メディアは淘宝網を加えた3社のシェア争いによるサービス向上に期待した。

 ちなみに、携程旅行網の大株主は千橡互動(Oak Pacific Interactive)であり、その千橡互動の大株主はソフトバンクだ。

 多くのメディアやネットユーザーは淘宝網の参入について、「淘宝網はオンラインショッピングサイト運営のノウハウから、低価格を武器にできるだろう。しかし、オンラインショッピング詐欺が絶えないことや、専業サイトのようなカスタマーサービスがないことがマイナスだ」と分析。

 淘宝網は信頼度がマイナス要素とはいえ、過去に携程旅行網も航空保険料金を水増ししていた過去もある。携程旅行網だけでなく、小さい旅行代理店も含め、販売された格安航空券の4割が航空保険料金を水増ししていたという報告もある。

 CNNIC(中国インターネット情報センター)によれば、今年6月末時点でインターネット利用者4億2000万人の8.6%にあたる3600万人しかオンライン旅行予約サービスを利用していない。潜在的需要はあると思われるので、淘宝網の本格参入を契機に、オンライン旅行予約サイトが信用されるサービスとして、水増し請求などの悪印象を払拭できれば、利用者増・市場拡大につながるだろう。

ミニブログ利用者は2010年末に4600万人に

 中国のリサーチ会社「DCCI」は、中国におけるミニブログに関する調査レポートを発表。2010年までにミニブログのアクティブユーザーが4600万人に、2011年には1億人を突破すると予想。上記のギャザリングサイト同様に、インターネットの新サービスに敏感な“80后”と呼ばれる1980年代生まれや、“90后”と呼ばれる1990年代生まれの男性の利用率が高い結果となっている。

 ミニブログは現在の心情をつぶやくものとして、友人に日記を紹介するSNSとは使い分けるユーザーが多数いることを同レポートでは指摘。また、SNSは各サイトに個性がなく、ユーザーが利用サイトを鞍替えできる環境にあるのに対し、ミニブログは「旧友と繋がろうとする利用者が多い」「新しい友人を作ろうとする利用者が多い」「心情を綴る利用者が多い」など各サイトで特徴が異なるため、他サービスへ気軽に移転するユーザーは少なく、ユーザー離れが起きにくいという。

人気のミニブログ(中国語で微博)の新浪微博

奇虎360、広告非表示機能を搭載したセキュリティソフトをリリース

 新興のユーティリティソフト・セキュリティソフトベンダーの奇虎360のセキュリティソフトの最新版は、ウェブサイトの広告を非表示にする仕様となっており、物議を醸し出している。

 総じて中国のポータルサイトは1ページに大量の広告を表示しているため、消費者にとってはこのソフトは福音となる一方、中国のウェブデザインを根本から否定するものだ。NASDAQに上場している老舗ポータルサイト「新浪(Sina)」「捜狐(SOHU)」「網易(NETEASE)」をはじめとしたウェブサイト運営側から見れば、営業妨害以外の何者でもない。

 なお、奇虎360はこれまでにも、同社ソフトを原因として、キングソフト(金山軟件)や百度と訴訟沙汰になっている。

 ひとつは、5月分でお伝えしたが、ユーザーの多い同社ユーティリティソフト最新版で、キングソフトの無料ファイアウォールソフトを危険としてアンインストールさせる仕様にして、キングソフトから名誉毀損で訴えられている。

 もうひとつは、8月分でお伝えしているが、奇虎360のリリースするユーティリティソフトをインストールすると、百度の2ソフトについて「PCに危害を加えるのでアンインストールをしましょう」と勧告、ユーザーがそのアンインストールに対し拒否しない限り、奇虎360のソフトは百度の2ソフトをアンインストールするというものだ。こちらも百度が損害賠償と謝罪広告を求めて提訴している。

1日あたり263万台のPCがウイルスに感染

 奇虎360が中国における「2010年上半期ネットワーク安全レポート(2010年上半年網絡安全報告)」が発表した。発表によれば、平均して毎日263万台のPCがウイルスやトロイの木馬などのマルウェアに感染している。感染の原因は、7割がフィッシングサイトなど悪意のあるサイトへのアクセスだという。

 1月から7月までの7カ月間で、150万もの新種・亜種のウイルスが同社セキュリティセンターに登録され、毎月1万1630ものフィッシングサイトが新たに誕生しているという。

淘宝網で2万点を超える淘宝網限定商品が販売中

 淘宝網(TAOBAO)が9月に発表したデータによれば、淘宝網で売られている商品のうちの2万点を超える商品が淘宝網限定の商品だという。特にインテリア業界では、中国メーカー50社以上が争うように淘宝網限定商品をリリースする傾向にあるとしている。

 他の業界では、インテリア業界ほどネット限定商品が売られているわけではないが、メーカーの淘宝網オフィシャルショップで淘宝網特価を設定することは日常的に行われている。IT系メーカーでは、レノボが淘宝網特価の商品を出したのを皮切りに、DELL、HP、NOKIAなどが追随した。

中国政府へのネット意見箱が開設される

 8日、人民網と中国共産党新聞網は「直通中南海(http://cpc.people.com.cn/GB/191862/191863/)」というネット意見箱を開設した。サイトは少し凝っていて、サイトにアクセスすると中国の歴史的建造物の門が開きコンテンツが見られるようになる。開設から1カ月で約5万のコメントが投稿されている。

 このコメント欄も例にもれず「国家に危害を与えるコメント」「デモや結社の煽動など社会秩序を乱すコメント」「ポルノや暴力的内容のコメント」「国家を破壊する宗教や邪教迷信のアピール」といったことが禁止されている。

 ただし、不平不満コメントが禁止されているわけではないため、表示される過去のコメントは中国政府を応援するメッセージのほか、「不動産の高騰に対し国は不動産会社を取り締まるべき」「教育レベルやモラル・道徳をあげる教育改革を」「腐敗撲滅」「各地域への分配が不公平」といったさまざまな不満や要望が並んでいる。

人民網と中国共産党新聞網が開設したネット意見箱「直通中南海」トップページ教育改革や腐敗撲滅など、市民の要望が並ぶ

関連情報

2010/10/13 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。