山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中東の革命を受け、中国でネット規制強化 ほか~2011年2月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を取材拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中東の革命を受け、中国でネット規制が強化

ジャスミン革命と検索すると、法規と政策により一部の検索結果は表示できないと表示される

 チュニジアのジャスミン革命やエジプト騒乱を受け、中国でも2月20日と2月27日にtwitterなどで中国版「ジャスミン革命」の集会開催の呼びかけが行われた。

 最初の呼び掛けと前後したタイミングで、中国からアクセスできないサイトが増加。日本関係ではYahoo!ブログやamebaブログにアクセスができなくなったほか、Googleのサイトにおいてもtwitterのつぶやきを検索するリアルタイム検索が利用できない、Web検索で「革命」を含む文字列で検索すると、Googleのサイト自体にしばらくアクセスできなくなる、などの規制強化が行われた。

 これらの規制強化とほぼ時を同じくして、国営の新華社による検索サイト「盤古捜索」( http://www.panguso.com/ )が正式リリースされた。国営メディアの検索サイトはこれがはじめてではなく、人民網による「人民捜索」( http://www.goso.cn/ )がGoogle中国撤退後に登場している。

 中国国内から日本のサイトへのアクセス状況については、以前からFC2へのアクセスが遮断されていたが、それに加えてamebaとYahoo!ブログへもアクセスできなくなり、在中の日本人に影響を与えている。また、VPN接続を利用せずにtwitterの書き込みを見ることは難しくなった。

 2月17日の外交部の定例記者会見では、「法律によりネット上も含め、言論の自由は保障されている。同時に、国際慣例にのっとり中国政府は法律でインターネットを管理する。外国と共同でインターネットの発展に努めるが、いかなる国であろうと、インターネットの自由などの問題をきっかけとして中国内政に干渉することには反対する」とスポークスマンである馬旭氏はコメントしている。

 中東の革命で利用されたFacebookは、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏の恋人が華人であることに加え、中国を最近訪問したこともあり、中国人利用者は中国本土から利用できないにも関わらず年末年始の1カ月間で10万人から70万人へと急増、中国国内で中国進出待望論が出ていた。しかし、こうした時勢からか、副社長ブレイク・チャンドリー氏は中国でのサービス開始に「現在計画はない」とトーンダウンしたコメントを出した。

規制強化とタイミングを合わせるように提供を開始した、国営の新華社による検索サイト「盤古捜索」Googleの中国撤退後にサービス開始した検索サイト「人民捜索」。国営の人民網が提供する

本家グルーポン提携サイトが中国でスタート

 昨年からグルーポン似のクーポンサイトが無数に登場して盛り上がっていたが、2月28日、グルーポンと正式に提携したクーポンサイトがついに、しかしひっそりと登場した。サイト名はグルーポンに似た発音の「高朋(ガオポン)(http://www.gaopeng.com/gaopeng)」で、QQで知られる騰訊(テンセント)が運営する。

 一部のヘビーユーザーは、騰訊を「後出しじゃんけんで模倣サービスをリリースし、競合サービス利用者を総取りする企業」と認識しており、評判はよろしくない。騰訊は10億を超える強大なアカウント数、3億5000万人以上の中国チャット利用者のほとんどを抱えている。このため、高朋でも騰訊はアカウントを活用したサービス提供を仕掛けるものと見られている。億単位の顧客を抱える騰訊と、本家で信頼のグルーポンのタッグはクーポンサイト市場にどれだけ影響を与えるか。

本家グルーポン提携サイト「高朋(ガオポン)」

企業間取引のアリババ、詐欺問題未対応発覚でCEOとCEOが辞任

 中国発の、最も著名で世界で評価を受けたサイト、企業間大口取引のアリババが揺れている。

 2年間で同社の顧客のうちの2326社が詐欺行為を働き、中国国内はもちろん中東諸国をはじめとした海外のバイヤー企業が被害を受けた。詐欺を行った企業は、ある商品を大口購入したい他の企業に対し「在庫がある」と働きかけ、企業にとっては少額の頭金を支払わせて逃亡。アリババは企業認証システムの研究改善を怠ったとして非難を浴びた。

 詐欺事件の発覚と業績と株価下落の責任を取る形で、CEO「衛哲」氏とCOO「李旭暉」氏が辞任した。とはいえアリババ自身も企業認証は困難を極め、3ヶ月間で2000社しか認証作業ができなかったとしている。すべての企業をチェックして再発防止をしない限り、アリババの信用も回復しない可能性を指摘する声もある。今後この企業間取引の雄はいかにして対処するのだろうか。

オンラインショッピングにおける商品の誇大表現を政府が禁止に

2009~2010年オンラインショッピング市場規模(単位:億元)

 ECにおける信用問題は、企業対企業取引だけではない。「安さも大事だが(本物が買えるという)信用も大事」と、沿岸部の大都市を中心に、個人も出品できる「淘宝網(TAOBAO)」から、審査した企業が出店する「淘宝商城」「京東商城」「当当網」などへ、若干ではあるがユーザーがシフトしてきている。

 逆に言えば、個人出品の多い淘宝網は、信頼性はいまひとつと思われていることが伺える。実際、消費者センターには、淘宝網の取引で発生した多数の苦情が寄せられている。こうした状況を打開すべく、中国政府商務部は21日「第三方電子商務交易平台服務規範(征求意見稿)」を発表。オンラインショッピングサイトで商品の色、サイズなど事実を歪曲した情報掲載を禁じることを明文化した。また販売する商品にはそれぞれ許可証が必要とした。

 これにより本物が販売され、ニセモノを販売しにくくすることはでき、販売トラブルを減らすことができよう。しかし淘宝網では、中国で認められた許可証が得られない、日本の粉ミルクやゲーム機といった海外からの個人輸入の商品も多数ある。

 ちなみに、今年も運送業界は2月3日からの春節商戦による大量のオンラインショッピング注文をさばききれず、配達まで相当な時間を要した。オンラインショッピングの問題点として指摘されたが、「京東商城」「当当網」などのサイトは自前で運送会社を用意する計画があることを発表。「ニセモノでなく本物が確実に届く」ことに加え、「確実に近日配送」という信用の点で淘宝網と差別化を図っている。

 なお、易観国際が2月に発表した調査結果によれば、2010年の中国オンラインショッピング市場規模は5203億元(約6兆5000億円)、2010年第4四半期の同市場規模は1728億元(約2兆1600万円)。

モバイルデバイスで支払い決済を行うユーザーが台頭

 中国最大のオンラインショッピングサイト「淘宝網」の兄弟会社で、淘宝網の支払方法として最も人気の第三者支払サービス「支付宝(Alipay)」。春節はリアルでもオンラインでも一年を通して最大の商戦期となるが、この時期のニュースに改めて目を通すと、今年はモバイルガジェットでオンラインショッピングを利用する人が一定数登場したようだ。

 2011年の春節期間にモバイルデバイス経由の「支付宝」の総取引数は110万取引で、前年の春節の15倍と急増。支付宝の無線事業部の諸寅嘉氏は「スマートフォン利用者の増加により、PC経由でなく携帯電話経由での利用者が増えている」と分析、また「プリペイド携帯電話のチャージや公共料金の支払い、それにお年玉の送金方法としても使われている」とコメントしている。

 同社ではAndroid、iPhone、Blackberry、Symbian各プラットフォーム向けの支付宝をリリース。同氏は「3~5年先には第三者支払サービスの3~4割の取引がモバイル経由になるのでは」と予測している。

中国政府「個人情報保護指南」を発布

 中国政府の情報産業省に当たる工業和信息化部は「信息安全技術 個人情報保護指南(信息は情報の意)」を発布した。「個人情報管理者は第三者に情報を渡してはいけない」「個人情報は正当な理由があれば削除しなければならない」「個人情報管理者は16歳未満には個人情報を求めない」といった文言が含まれる。

 近年個人情報が悪用されるというニュースが増えている。最近では百度ライブラリの中国版「百度文庫」で個人情報リストがアップされているというニュースが話題となった。

 なお、今回の「個人情報保護指南」発布の影響については、「『指南』は効力が最も弱いもので『個人情報保護法』にしないと意味がない」と効果を疑問視する声もあがっている。

中国政府、共産党・政府関連サイトのロゴを募集

 中国では、何をやるにも許可証が必要である。リアル店舗の食堂や商店などには多数の許可証が入った額縁があるが、ウェブサイトでも同様に、ネット警察公認のロゴやサイト運営許可証のロゴなどを掲示することが多く、運営許可証を取得していないとサイトが閉鎖されてしまうケースが多い。

 さて、前述の中国政府工業和信息化部が「共産党や政治機関のサイトとそうでない政府偽サイトを利用者が見分けられるべく」また「政府関連サイトの厳粛性と権威性を保証すべく」政府サイトの証明となるロゴを一般人向けに募集した。「ロゴは当然大事に使い、各サイトの目立つ場所に掲載する」とし、賞金として大賞には1万元(約12万5000円。都市部住民の半年分の収入)、ほか23作品を賞金付きの入賞作品とするとしている。募集要項では「未発表の作品で、パクリは禁止」と念を押している。

SNS大手「開心網」、海賊版音楽配信で提訴される

SNSの利用用途として、日記やアルバム以外に「音楽」「動画」などのコンテンツ系も人気

 SNSサイトではユーザー数1億5000万人超の「人人網」に続く、ユーザー数1億人超の「開心網」が海賊版音楽を配信しているとして、コンテンツホルダーの「北京龍楽文化芸術有限責任公司」「北京源泉知識産権代理有限公司」2社から中国企業に提訴された。4曲の試聴の結果として3万元強(約38万円)の損害賠償を請求した。

 海賊版配信企業に対し、中国企業は頻繁に裁判沙汰にするが、外国企業は中国に支社や提携する著作権管理会社がないために裁判にすることが極めて少ない。中国のコンテンツ配信サイトは、人気の外国産海賊版コンテンツを配信しても訴えられにくいため、海賊版コンテンツを配信しがちだ。コンテンツホルダーは文書・音楽・動画配信サイトだけでなく、SNSなどのソーシャルメディアも対象にしてチェックする必要があるだろう。



関連情報

2011/3/9 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。