山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国の4Gは「TD-LTE」プラス「FDD-LTE」か~2013年3月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国の4Gは「TD-LTE」プラス「FDD-LTE」か

 3.9Gとも4Gとも解釈される高速なデータ通信仕様であるLTEについての発表がいくつか行われた。中国のキャリアは大きく中国移動(China Mobile)、中国電信(China Telecom)、中国聯通(China Unicom)の3社。現在3Gでは「TD-SCDMA」方式を採用する中国移動は「TD-LTE」を、「CDMA 2000」方式を採用する中国電信は「FDD LTE」を採用したいという意向を表明している。中国ではいずれも「4G」として扱われている。

 「TD-LTE」を推進し、ライセンス発行を待つ中国移動は、3月には広東省の広州や深セン、四川省の成都などでテストを行った。4月には上海でも商用テストを予定する。TD-LTEは、中国移動のほか、ファーウェイ、ZTE、大唐電信などの中国企業が関わっているためか「国産4G」と呼ぶ中国メディアもあるほど。中国政府の情報産業省にあたる工業和信息化部(略称:工信部)の発言として「年内にTD-LTEのライセンスを発行する」とも「年内にライセンスを発行するのは難しい」とも報道されており時期についてはまだはっきりしていないが、「まずはTD-LTE」という動きにはなりそうだ。

深センにて、LTEの広告
中国移動のキャリアショップ

 3Gの時には、中国主導で開発された方式「TD-SCDMA」は2008年の北京オリンピック開催前に余裕を持ってサービスを開始させ、「W-CDMA」「CDMA 2000」もTD-SCDMAの後に時間をおいて北京オリンピックに合わせて開始させる予定だったが、延びに延びて、実際にはTD-SCDMAがテスト的に使われただけに過ぎなかった。そのため、年内のサービスインに関しては、開始を期待するインターネットユーザーの間でも懐疑的な見方が大勢を占めている。

 一方、中国電信は「FDD-LTEを推進したいが、ライセンス発行が難しければTD-LTEを中国移動と共同でやっていく」との声明を発表した。

3月15日の世界消費者権利デーでは、Apple他、マルウェアなどに着目

315の特集ページ

 3月15日は世界消費者権利デー。毎年この日は中国の各メディアが、詐欺や不満や不公平感ある商品やサービスを取り上げて、メーカーやベンダーに反省を求める特集記事を掲載している。特に権威ある中国中央電視台(CCTV)が指摘した問題については、これまでほぼ例外なく指摘を受けた大企業が謝罪コメントを出し、対策を講じてきている。

 そんなCCTVの番組で、今年はAppleがターゲットに。近年、中国でステータスアイテムといっていい人気を集めているiPhoneの修理に関する企業姿勢が問題となった。「一部の国ではiPhoneが壊れた際に新品と交換するのに、中国では裏蓋だけ元の裏蓋を戻すことで、新品交換扱いではなく部品修理扱いとしている。このため、新品交換対応をしている国よりも保障期間が短くなる」という指摘だ。

 外資企業が中国以外の国で、中国向けよりも良いサービスを提供しているときや、リコール時に外国で中国よりも良い待遇をしたり、メーカーの外国向けサイトが中国向けサイトよりもページの作りが良かったりするとき、また、中国のほうが価格がずっと高いときには、中国の消費者をバカにしているとよく問題視する傾向がある。結局、4月2日、Appleは謝罪の声明を発表した。

 各メディアのインターネット絡みの問題に目を移せば、例年のように問題視されるのが「淘宝網」などでのオンラインショッピングサイトでのトラブルの多さ。毎年のように言われるのだが、商品がニセモノといった詐欺だけではなく、ライバル店に低評価を連投することによるトラブルも絶えない。

 同様に、近年台頭した「大衆点評」をはじめとしたクチコミサイト、「百姓網」など中国全土の各都市に対応した「売ります・買います・雇います・仕事します」情報を掲載する三行広告サイトにも、ライバル店を蹴落とすための悪評の書き込みが絶えない。淘宝網などでは情報の信憑性を高める努力をし評価される一方、中国政府(工商総局)も出品監視システムリリースを発表。また、口コミサイトや三行広告サイトも「情報の信憑性を高めるサイト作りをする」とコメントしている。

 そのほか、今年はマルウェアによる個人情報漏洩問題も取り上げられた。個人情報保護への意識が高まる中で、アプリのインストールで、ベンダー側に端末情報や電話番号を送るのはどうかと問題視しているわけだ。

 しかし、中国における個人情報漏洩は、海賊版によるところが大きい。PCについてはDOSやLinuxプリインストールPCへのOSを含めた海賊版ソフトのインストールなどが原因となる。また、スマートフォンにおいても、海賊版も配布される中国のアプリマーケットを利用したり、ROMの入れ替えを行ったりすることが当たり前に行われているために、多くのデバイスがマルウェアに感染すると言われている。

 ここ1年で、PCではセキュリティベンダーのPandaやMicrosoftがそれぞれの調査で、半数以上のPCがマルウェアに感染していると発表。また、調査会社のDCCIは7割近いスマートフォンがマルウェアに感染したと発表している。

LINE似のコミュニケーションソフト「微信(Wechat)」の有料化が論議される

 LINEと同じように電話番号と紐づけて利用する、中国で人気のコミュニケーションアプリ「微信(WeChat)」で有料化が論議され、話題になっている。微信をリリースしているのは、チャットソフト「QQ」などで8億近いアクティブアカウント(7億9820万。2012年同社決算書より)を抱える騰訊(Tencent)だが、騰訊が有料化を推進するコメントを出しているわけではなく、中国政府が「有料化しているドイツのWhatsAppにならって、中国でも有料化しよう」と騰訊や電信キャリア3社に働きかけているのだ。

 先述したAppleの修理対応の件では、消費者サイドに立って指摘したCCTVに、ある程度ネット世論も同意する動きが見られたが、微信の有料化には非常に多くの反対の声が上がっている状況だ。「中国政府は“国際標準”と“中国国情”という2つの言葉を都合のいい時だけ引っ張りだしてくる」など、辛口なコメントが目に付く。

中国女性のニーズに合った自分撮りアプリの認知が高まる

百度美拍

 SNS最大手の人人網が「美美」という自分撮りアプリを、百度が「百度美拍」という自分撮りアプリをそれぞれリリースした。2つの自分撮りアプリは、中国人のニーズに沿うべく、フォトレタッチ機能+写真を公開する専用のSNSを用意。人気を得るべく、著名人を参加させたマイクロブログ「微博(Weibo)」と同様、著名人やモデルを使って利用者を集めようとしている。パソコン向けソフトでも、美顔にするフォトレタッチ機能に特化した中国製フリーウェア「美図秀秀」が登場。中国ではフォトレタッチの代名詞になっている、(海賊版)Photoshopをしのぐ人気ソフトとなっている。

中国スマホメーカー377社のうち6割が出荷台数が年10万台未満

 スマートフォンは、都市部の若者の中ではAppleやSamsungなどが人気だが、スマートフォンに関心のない人の中ではファーウェイ(華為)、ZTE(中興)、レノボ(聯想)、酷派(Coolpad)ら中国メーカー(4社まとめてしばしば「中華酷聯」と呼ばれる)の無料~1000元(1万5000円)程度のものがよく売れている。リサーチ会社「易観国際(Analysys International)」によると、2012年に1億8900万台が出荷されたという。リサーチ会社「IDC Japan」によると、日本における年間のスマートフォン出荷台数は2848万台で、中国とは6倍以上の市場規模の差がある。

 だが、多くのメーカーが桁違いな出荷をしているわけではない。中国政府工業和信息化部電信研究院によると、中国には現在スマートフォンメーカーが377社ある。ファーウェイ、ZTE、レノボ、酷派は1000万台以上出荷しているが、246社の年間出荷台数は10万台以下だという。同研究院によると1年間に登場したスマートフォンのモデルは前年比96.1%増の1702モデルにもなる。元気な中国メーカー「中華酷聯」4社にしても安泰というわけではなく、安い端末を数多く売るビジネスが中心のため、儲からないことが問題となっている。

2012年12月にリリースした、方式別携帯電話(スマートフォン含)のモデル数
利益率の高いハイエンド機種もアピールするファーウェイ.jpg

注目のセットトップボックス2機種が発売

 Apple TVのようなセットトップボックスが数社から発売され、一部のIT製品マニアを喜ばせている。リリースされたのはコストパフォーマンスの良いスマートフォン「小米手机」で知られるメーカー「小米(Xiaomi)」によるセットトップボックス「小米盒子」と、動画サイト「楽視網」によるセットトップボックス「楽視盒子」。小米盒子については、「ネット向け動画コンテンツを許可なくテレビで配信してはならない」という理由から発売後即販売中止になった経緯があり、ネット版国営テレビ「中国網絡電視台(CNTV)」との提携で再販することが可能となった。楽視盒子も同様にCNTVとの提携がある。

 小米手机や、iPhoneとの連携を売りにしている「小米盒子」は15日から299元で販売再開し、一方の「フォックスコン製高品質」を謳う楽視盒子は「本体無料、コンテンツ・サービス提供料を半年290元、年490元」で提供する。いずれもAndroid 4.1を採用し、Apple TVよりメモリー容量など基本スペックがじゃっかん高くなっている。

楽視盒子のメニュー画面
楽視盒子
小米盒子

進まぬソーシャルレンディング(P2P金融)

 海南省の投資企業が3月上旬にオープンした、個人の貸し手と個人の借り手をマッチングさせるP2P金融サービスを行うサイト「衆貸網」。オープンから1カ月後の4月2日に破産となり、サービスを終了した。過去にSNSや動画サービスなど様々なサービスが模倣されたが、個人の貸し手と個人の借り手をマッチングさせるP2P金融サービスは、300社ほどあるといわれているが、知名度はあまりなく、毎年のように突然破産を発表しては利用者とのトラブルを起こしている。

ネット企業の人材募集枠減少

 北京商報の報道によると、今年の中国インターネット企業の上級職の求人数は前年比13%減となる一方、同職種の上級職を希望する求職者は前年比の5倍となっているという。全体的にインターネット企業に余裕がなく、わずかに大手家電量販店の「蘇寧電器(Suning)」が参戦したB2Cオンラインショッピングサイトだけは、募集が目立つ状況だ。企業が有利な買い手市場であるためか、物価や平均収入が伸びる中で、給与は据え置きとなっている。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。