山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

B2Cサイト「天猫」で不正発覚、新型スマホの予約数を3倍に水増し表示 ほか~2014年10月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

香港雨傘革命で、画像識別などネット規制をさらに強化

 香港のセントラルなどで雨傘革命が引き続き行われ、ネット検閲体制はさらに厳しくなっている。

 9月30日、新華社は、FacebookやYouTubeに有害情報があると削除依頼をかけたが削除率は非常に低く消極的だ、という記事を掲載。それに先んじて、最高人民法院(最高裁)と最高人民検察院と公安部が、あらゆるネットサービスにおいて国家分裂を故意に伝播したものは有罪という、「関于方理暴力恐怖和宗教極端刑事案件適用法律若干問題的意見」という規定を発表。前もあったが、より強化され、中国が有害だと認定する情報発信が有罪につながりやすくなった。

 10月1日の国慶節から盛り上がって以降、検索サイトの「百度(Baidu)」のイメージ検索や、インスタントメッセンジャーの微信(WeChat)で雨傘革命関連の画像が見られなくなった。多数のネットユーザーが、その挙動から「10月2日以降、画像内の文字を識別して、画像内の文字にNGワードがあった時にフィルタリングを行っているのでは」と分析している。

「法律法規政策により、一部の結果は表示されない」と表示される

検索ポータル以外での検索利用率、スマホがPCを上回る

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、今年上半期の検索についてまとめた調査結果「2014年中国網民搜索行為研究報告」を発表した。

 検索利用者は5億749万人、スマートフォンなどモバイルでの検索利用者は4億583万人で、全体でもモバイルでもインターネット利用者の約8割が検索を利用している。この割合は数年前から大きな変化はなく、インターネット利用者の増加に比例して検索サービスの利用者も増加している。また。検索ユーザーの43%が地図検索を利用している。

地図検索で利用する地図サービス。グーグルは6.8%(CNNIC)

 百度やGoogleなどの検索ポータルの利用では、PCからの利用率がモバイルよりも高い結果となったが、動画サイト、ショッピングサイト、微博、旅行サイトなど、その他の検索サイトにおいては、いずれもモバイルからの利用率がPCからの利用率よりも高い結果となった。

 今年5月末からGoogleの各サービスが完全に利用できなくなったが、それ以前も含めた今年上半期のGoogleの認知率は41.7%(モバイルに限れば33.1%)で、「最も常用する検索サイト」ではわずか2.2%であった。認知されている検索サイト(複数回答可)では、百度が97.4%、捜捜・捜狗が43.6%、その後にGoogleなどが続き、最も常用する検索サイトでは、百度が88.7%で、やはり圧倒的シェア。続いて、「360捜索」(4.7%)やGoogleなどが続く。

 また、スマートフォン向けアプリの検索では、Google Playの利用率は14.5%と低く、対して中国の「安卓市場」(53.0%)、「360手机助手」(43.8%)、「騰訊助手」(38.6%)、「百度手机助手」(37.8%)の利用率がより高い結果に。なお、App Storeに関しては、Jailbreak率が高いものの、39.6%となった。

アプリ検索時に利用するアプリストア(CNNIC)

 さまざまな検索サービスの利用時に出てくる広告については、「信用しない」などネガティブな意見が多数派を占めた。

教育サイト、乱立へ。英語学習はフィリピンとの提携

 10月23日、米国のベンチャーキャピタル「Sequoia Capital」が英語学習サイト「51talk」へ、5500万ドルの投資を行った。51talkは、フィリピン人の英語教師とオンラインでレッスンできるのが特徴だ。英語話者が多いフィリピンでは、現地の人々の間でリアル/オンライン問わず、外国人向けの英語教育が認知されていて、英語教師で生計を立てていこうとする人が多い。

51talk

 51talkに限らず、2013年から今年にかけて、オンライン教育サービスへの投資は30件以上、金額にして2億ドル以上あった。一方でサクセスストーリーが報じられる中、教育サイトが1日平均で2.6サイトというスピードで登場し、乱立している。その中には教育の経験が一切なく、ただ金目当てでとりあえず作ったような粗悪なサービスのサイトも多く含まれる。また、トップシェアの結婚仲介サイト「世紀佳縁」の立ち上げ人が手掛けた2つの教育サイト「梯子網」「那好網」が今秋閉鎖するなど、容易ではない。

 調査会社の易観国際(Analysys International)によると、2013年のオンライン教育市場規模は897億元で、今年は1000億元を超え、1069億元になると予想されている。一方で、乱立した結果、かつて乱立して淘汰されたクーポンサイトがそうだったように、多数の企業が淘汰されるだけでなく、利用者が増えず業界への投資が止まるのではないかと危ぐされている。

B2Cサイト「天猫」で不正発覚、新型スマホの予約数を3倍に水増し表示

 中国の新興スマートフォンメーカー「錘子科技」が、B2Cサイト「天猫(Tmall)」で新型スマートフォン「(4G版)Smartisan T1」の予約販売を行ったところ、不正が発見され話題となった。

Smartisan T1

 問題の不正は、10月18日のSmartisan T1発売を前に、10月1日に天猫で予約を開始したが、予約ページでの予約数は、実際の予約を3倍にした数字が出力されていた、というもの。あるネットユーザーが天猫の該当ページを見たところ、ソースコードで予約数を3倍する処理が書かれていて判明した。予約販売で盛り上げる手法は、四半期で中国市場でトップシェアとなった「小米」がその先駆けだが、小米のネットでの販売イベントでページビューの数字を改ざんしたニュースが報じられている。

 天猫は、「淘宝網」同様、アリババが立ち上げたオンラインショッピングサイトで、「だまされないECサイト」をコンセプトにリリースされているため、それを裏返すようなこのニュースは多少話題に。アリババは天猫の管理職4人を降格、ソースコードを改ざんした2人を解雇した。が、この事件により、スマートフォンの予約販売手法にしろ、天猫にしろ、信頼に傷が付いたといえる。

有力B2Cサイト「京東商城」、修理サービスや郵便局との提携で「天猫」を追う

 「天猫(Tmall)」に続く、第2のB2Cショッピングサイト「京東商城」が、同社サービスを強化する2つの発表を行った。

 1つは中国郵政との提携だ。中国郵政は郵便局を中国全土に展開し、そのうちの13省の各郵便局の商品販売サービス「恵民優選」で、京東のデジタル製品や家具、化粧品などを販売する。現状では小都市以下での有力なオンラインショッピングのプラットフォームになるとし、将来的には中国全土でサービスを行うとしている。

中国郵政の「恵民優選」

 もう1つはデジタル製品の修理サービスだ。修理が必要な場合、消費者が外出することなく、京東商城の提携スタッフが無料で家まで故障品を受け取りに来て、各メーカーから認定された修理のプロが修理するという。すでにソニーやレノボなど40社と提携し、こちらは北京・上海・広州・成都など大都市で修理センターを立ち上げた。中国の都市のサポートセンターは、日本と比べると少ない。

 天猫との差別化とはなるが、強くアピールしない限り認知されることはなく、付加価値ではなく、価格だけでの勝負は続くだろう。

中国の宅配企業、国際航空便業務を強化。海外専門ECサイト開設か

 中国国家郵政局によると、今年初めて中国の宅配物が年間100億個を超えた。言わずもがな、オンラインショッピングの普及が大きく影響している。

 また、昨年より輸出入の需要が増え、空白だった市場が拡大し注目されている。中国政府商務部の統計では、国際EC交易額は2013年では3兆1000億元、2016年には6兆5000億元になると予想している。こうした中、有力な宅配業者の「順豊」は、中国の国内配達だけでなく、国を越えるニーズに応えるべく、ボーイング757とボーイング767を中古で追加購入し、貨物機に改造して利用することを発表した。一部のメディアの報道では、順豊自身が、個人輸入が可能な海外商品のオンラインショッピングサイトを立ち上げるという話も出ている。

 9月には順豊は上海で冷凍・冷蔵便をスタート。宅配のさまざまなサービス追加とともに、オンラインショッピングサイトも対応したサービスを拡充していくだろう。

最大のスマホ向けポータルが事業縮小、モバイルオンリーのポータルサイトの終焉へ

 2004年に立ち上がった最大のスマートフォン・携帯電話向けポータルサイト「3G門戸」のスタッフの大規模なリストラがあったと報じられた。また、同サイトの複数のチャンネルが閉鎖したほか、編集長も辞職した。運営する久邦数碼はナスダックに上場しているが、すでに同社の主力は3G門戸ではなく、スマートフォン向けユーティリティアプリ「GO卓面」に移っていて、6月末の時点で4億3600万人が利用している。

 現在は、ポータルサイトのスマートフォン版サイトや、ポータルサイトのスマートフォン向けアプリでのニュース閲覧がメジャーだ。フィーチャーフォン時代に携帯電話でニュースを見る習慣が根付かなかったため、軌道に乗らなかった可能性はある。

モバイル電子マネー、オンラインショッピング以外にも利用が広がる

 調査会社の「iResearch」は、モバイルでの電子マネーの支払についての調査結果「中国移動支付用戸報告」を発表した。現在、淘宝網や天猫などと相性がいい、アリババの「支付宝」と、「微信(Wechat)」を活用した騰訊(Tencent)の「微信支付」が2大サービスとなっている。沿岸部の大都市の若い世代で普及しているなど、両サービスが普及している地域や年齢層は変わらない。ユーザーにとっては、あえて比較すれば支付宝の方が「より安全」だと信頼されているようだ。

 スマートフォンなどでの電子マネーの利用用途としては、「オンラインショッピング」(63.2%)が最も多く、2位以下は「銀行への振込み」(36.3%)、「クレジットカードの返済」(31.2%)、「公共サービスの支払」(25.2%)、「宝くじの購入」(16.4%)、「投信など投資商品の購入」(9.3%)、「アプリ購入」(9.1%)、「リアルショップでの利用」(8.7%)となった。

モバイル向け電子マネーサービスの利用頻度
モバイル向け電子マネーサービスは上海周辺での利用率が高い

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。