俺たちのIoT

第1回

IoTって一体なに? 実は怖くないIoT――新連載「俺たちのIoT」始まります

 INTERNET Watchをご覧の皆さん、こんにちは。今回から連載「俺たちのIoT」を始めることになりました甲斐と申します。本連載ではIoTとは何なのか、IoTが何を変えるのかといったお話を、具体的な製品や技術を交えながら紹介していきたいと思います。

 筆者はもともとインプレスで記者としてニュースを書いていたのですが、それも今では10年以上も前の話。現在はCerevoという小さなメーカーで広報・マーケティング業務を担当しながらライター活動も行なっています。自分が記事を書いていた媒体で連載を持つというのも不思議なものですが、今回はご縁があってINTERNET WatchでIoTに関する連載を始めることとなりました。

 さて、本連載のテーマである「IoT」というキーワードはここ数年、特に2015年に大きな話題となったIT分野のキーワードです。Google トレンドで「IoT」を検索してみても、IoTという言葉が2015年にかけて急速に話題になったことが分かります。

「IoT」の検索数の推移(Google トレンド)

 INTERNET Watchをご覧の皆さんも、どこかで一度はIoTという単語を見かけたことでしょう。一方でこの「IoT」という言葉がいったい何なのかよく分からない、という声もよく耳にします。

 1回目となる今回は、そもそもIoTとはどういうものなのかを、「IoT」と呼ばれる製品をピックアップしながら考えてみたいと思います。

インターネットにつながらない「Internet of Things」

 まず初めに、IoT製品の例として、本誌の「やじうまWatch」で取り上げられた「leafee mag」を紹介します。これは、センサーとマグネットを利用して、自宅の窓が閉まっているかどうかをスマートフォンからチェックできるデバイスです。また、私が所属するCerevoが開発を担当している「Hint」というラジオは、ラジオ番組で紹介した情報に関するURLを、Bluetoothの技術を使ってスマートフォンへ通知できるという機能を持っています。

leafee mag
Hint

 しかし、この2つの製品は有線LANはもちろん無線LANも搭載していないため、単体ではインターネットにつながることができません。IoTは「Internet of Things」の略なのに……?と不思議に思う人もいることでしょう。

 もちろん、どちらの製品もBluetoothを搭載してスマートフォンとつながることで間接的ながらもインターネットにつながることはできる、だから一応はIoTだ、と見ることもできますが、そもそもインターネットを必要としないのにIoTと呼ばれている製品もあります。その代表例が、Googleが買収したことでも有名になった「Nest」という製品です。

Nest Thermostat

 この製品は日本ではあまりなじみのない「サーモスタット」と呼ばれる、エアコンなどの空調機器と連携して、室内の温度を最適な状態にするための装置です。Nestは、温度センサーや湿度センサー、近接場活動センサーなどさまざまなセンサーを内蔵しており、人のいる時間帯に応じて温度を調節したり、長期間不在にする場合には自動でオフにする、といったコントロールをAIが自動で判断し、設定を自動で切り替えてくれることで大きな話題を集めました。

Nest Thermostat

 Nestは無線LANを搭載しており、インターネット経由でスマートフォンから操作することもできます。その点で本製品はIoTの「Internet」は満たしているのですが、Nestが評価されているのは温度管理をAIが自動で判断することにあり、インターネットは付加価値でしかありません。仮にNestが無線LANを搭載しない製品であったとしても、Nestの魅力が損なわれることはないでしょう。

 実際、NestのFAQを見ても、「無線LAN接続は必須ではなく、あくまで付加的な機能」と説明されています。

NestのFAQには「無線LAN接続は必要ではなく、あくまでも付加的な機能」と説明されている

 「IoT」は「モノのインターネット化」と訳されますが、このようにIoTと呼ばれる製品を見ると実は本質的にインターネットが必要とない製品も多く存在するのです。

「何かとつながる」ことがIoTの魅力

 「モノのインターネット」がIoTなのに、インターネットが必要ない製品でもIoTと呼ばれている。では、IoTとは一体何のことなのでしょう。

 ここからは筆者の独断ですが、IoTと呼ばれる製品は、インターネットはもちろんのこと、その製品は「何かとつながる」機能を備えたもの、と考えています。

 前述したleafee magやHintは、Bluetoothでスマートフォンと「つながる」ことで、スマートフォンのアプリや各種センサー、さらにはスマートフォンを経由したインターネットに接続することができます。Nestも大きな意味で捉えるなら、温度センサーや湿度センサー、近接場活動センサーなどさまざまなセンサーで温度や湿度、距離といったデータと「つながる」ことが製品の魅力になっています。

 窓に設置したセンサーがスマートフォンとつながることで窓の締め忘れを防ぎ、ラジオがスマートフォンと連携することで、放送中で紹介されたアーティストやお店の情報をわざわざ検索して調べることなく入手できる。

 さらにはサーモスタットがさまざまなセンサーやAIを搭載することで、日々の暮らしでいちいち温度を管理する必要がなくなる。インターネットが必要なくても、何かとつながることは今までにできなかった新しい価値を生み出していることが分かります。

定義にこだわらず“ゆるく”考える「俺たちのIoT」

 中には、Internet of Thingsなのにインターネットにつながらないものも含むなんてけしからん、という人もいるかもしれません。しかし、そもそもの由来を離れて言葉の使われ方が変化していくことも多いものです。

 本来、ドイツで10月に行なわれていたビールのイベント「オクトーバーフェスト」は、日本では10月どころか毎月のように行なわれています。「スマートフォン」はもともと電話機としての利用がメインでしたが、機能が多彩になったことで通話は単なる1つの機能になってしまい、最近では格安SIMなどを活用することで音声通話機能をそもそも持たないスマートフォンの使い方もメジャーになってきました。

 繰り返しながらIoTという言葉の定義はさまざまで、Internet of Thingsの略であるという言葉の由来以外について、適切な定義というのは存在しないあいまいな概念になりつつありますが、だからといってIoTに意味がないわけではありません。

 本連載では、IoTの定義を「何かとつながる」と、よりゆるくとらえつつ、IoTの魅力や新たな可能性を考えていきたいと思います。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」