俺たちのIoT

第2回

IoTって一体なに? ネット接続が当たり前じゃなかったモノが「つながる」こと

 第1回では、インターネットとつながらないものでも、何かに「つながる」ことでIoTと呼ばれている製品を紹介しました。一方、インターネットにつながっているものにもIoTとは呼ばれない機器も数多くあります。

 インターネットにつながるのにIoTとは呼ばれない代表例はPCです。黎明期のころはいざ知らず、最近のPCはインターネットにつながることが大前提ですが、PCがIoTと呼ばれることはありません。

 また、最近ではPCよりもパーソナルなコンピューターとなりつつあるスマートフォンもインターネットにつながり、さまざまな機能を利用できますが、こちらも同様にIoTと呼ばれることはありません。

 さらに最近ではテレビやレコーダーも、すべての製品というわけではありませんが、インターネットに接続できる機種が数多く発売されています。インターネットを利用してテレビで動画が見られる「アクトビラ」が始まったのは2007年と、もう9年近く前のことですし、インターネット経由でテレビ番組を録画予約できるレコーダー向けの周辺機器として、「ブロードバンドレシーバー」といった製品も、10年以上前から存在していました(2003年4月22日付記事『松下電器ほか、携帯電話からHDDレコーダーの録画予約サービス』参照)。

松下電器産業が2003年4月に発売したブロードバンドレシーバー「DY-NET2」(「ケータイWatch」2003年4月22日付記事『松下、携帯電話で録画予約できる「ブロードバンドレシーバー」』より)

 インターネットに接続できるテレビやレコーダーはまさに「モノのインターネット」ではありますが、こちらもPCやスマートフォンと同様、IoTと呼ばれることはありません。インターネットにつながらないIoTがあれば、つながるのにIoTではないものもある。これがIoTをより難しくしている要因かもしれません。

ネットに接続するのが当たり前だったから? PCやスマホがIoTと呼ばれない理由

 では、インターネットにつながるのになぜIoTと呼ばれない製品があるのでしょうか。その理由の1つは、「IoT」という言葉が大きく話題になる前からインターネットに接続することが当たり前だったから、という分類ができそうです。

 PCやスマートフォンはもちろん、テレビやレコーダーも、インターネットに接続するようになったのはそう新しい話ではありません。つまり、「インターネットがつながることが当たり前」になってしまっているため、インターネットにつながることが特徴にはなりえず、結果としてIoTとして認識はされないようです。

 さらにもう少し踏み込んで考えるなら、テレビやレコーダーがインターネットに接続してできるようになったことは、基本的にテレビやレコーダーの延長線上でもあります。テレビ放送以外の番組をテレビで見たり、レコーダーの録画予約を外出先からできるようになる、というのは確かに便利なのですが、体験として新しいものではなく、「IoT」という言葉を冠した新しい概念として捉えにくいのかもしれません。

 インターネットにつながることが当たり前だったり、昔からインターネットにつながっていたものはIoTと呼ばれない。ということは、逆に考えるなら「今までインターネットにつながらなかったものが何かにつながること」がIoTと呼ばれている、と言うこともできるでしょう。

 そのいくつかの例として、IoT製品の中では人気の製品ジャンルとも言える「スマートロック」を見てみましょう。スマートロックとは、従来のように物理的な鍵で開閉するのではなく、スマートフォンやウェブを経由して開閉できる鍵システムの総称です。機能に違いはあれど、国内ではフォトシンスの「Akerun」、Qrioの「Qrio Smart Lock」、ライナフの「NinjaLock」など多くのスマートロックが展開されています。

Akerun
Qrio Smart Lock
NinjaLock

 もちろん、単にスマートフォンで鍵を開けるだけ、であれば、物理鍵とさほど利便性が変わるわけではありません。しかし、スマートフォンに対応することで、物理鍵ではできなかったことも多く実現できるようになります。

 例えばホームパーティーで友達を呼ぶときには、スマートロックで鍵を渡しておけばその日だけは友達が自由に自宅へ遊びに来たり、途中で買い出しに行くこともできます。ホテルに導入すれば、わざわざ鍵をフロントで管理することもないですし、酔っ払って鍵をどこにしまったか忘れてしまう、なんて心配もありません。さらには家の鍵が1日に何回開閉されたのか、ということを把握して自宅のセキュリティを高めることもできます。

Akerun

 3年以上も前に発売され、スマート電球としては定番的な存在とも言えるフィリップスの「Hue」も、今までにないIoT要素を持っています。スマートフォンから電球のオン/オフができるのはもちろん、自宅を離れたら照明を消す、メールが届いたら特定の色に光るなど、自分の生活に合わせて照明が変わることで、さまざまな情報を照明から入手することができるようになりました。

Philips Hue

身の回りは未接続なものだらけ……「つながる」ことでモノに新たな価値

 鍵や電球。これまでは単純にオン/オフするだけの物理的な存在が、IoTに対応して何かとつながることで今までにない価値を手に入れました。その一方、身の回りにあるものでIoTに対応していないモノはまだまだ数多くあります。むしろIoTに対応しているもののほうが全体からすると少ないと言えるでしょう。

 実はこれこそがIoTの大きな魅力の1つです。まだまだIoTに対応していないものだらけだからこそ、IoTで「つながる」ことで新たな価値を手に入れられる。しかも前述のスマートロックのように、電化製品ではないものですらIoT化することができることを考えると、IoTの可能性は無限に広がっているとも言えます。

 先ほどはインターネットに対応したテレビやレコーダーはIoTと呼ばれない、と述べました。けれどテレビも、テレビ放送を見るという体験以外の機能や体験を提供することで、IoTとして呼ばれる日が来るかもしれません(余談ですが、第1回で紹介した「Nest」は自動で温度管理をコントロールすることでIoTと呼ばれているのに、人感センサーを搭載して電源を自動でオフにできるテレビがIoTと呼ばれないというのは皮肉なものですが)。

 枕、布団、鏡、下駄箱、ドア。人は朝起きて家を出るまでのわずかな時間にも多くのモノに触れています。さらに通勤経路、オフィスの中、仕事帰りに立ち寄った居酒屋まで考えれば、普段から接するモノの数は飛躍的に広がります。これらがIoT化したらどんなことができるのか、どんな世界が待っているのかを想像してみるのも面白いかもしれません。

※次回掲載は、11月15日の予定です。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」