俺たちのIoT

第22回

家庭向けIoTの集大成!? “スマートホーム”を携帯キャリア各社が手掛ける意味とは

 IoTは個人・法人や業務形態を問わず活用できる概念ですが、最近では家庭向けのIoTはが大きなトレンドとなっています。これまでの連載で紹介したIoT製品も、その多くが一般の人が一般家庭で利用できる製品でした。

 こうした家庭向けのIoTを統合し、自宅のさまざまなシーンでIoTを活用しようというのが“スマートホーム”です。スマートホームについてはさまざまな企業が取り組みを進める中で、最近では携帯電話会社などのキャリアが積極的な取り組みを見せ始めました。今回は、家庭向けIoTの集大成とも言えるスマートホームについて、キャリアの取り組みを中心に紹介します。

KDDIは「au HOME」、今後「Google アシスタント」へも対応予定

 携帯電話3キャリアのうち、IoTに積極的な姿勢がうかがえるのがKDDIです。スマートフォンと連携して天気予報やごみの日を教えてくれる傘立てやゴミ箱を販売したり、トイレの空室状態を管理する「KDDI IoTクラウド ~トイレ空室管理~」が小田急電鉄に採用されたりと、IoTに関する取り組みを多数行なっています。

 そんなKDDIが発表したスマートホームが、「au HOME」です。「au ひかり」に加入していれば誰でも加入できる一般向けのサービスとして、490円の月額利用料に加えて、「au HOMEデバイス」という対象機器を購入することで利用が可能です。

 利用できるのは、窓の開閉状況や温度、湿度、照度、人感センサー、鍵の開閉状況といった自宅の見守り系センサーなど5種類で、今後、対応機器は拡充していく予定。また、スマートフォンのように対応機器を24カ月の分割購入で利用できる「おすすめセットプラン」というプランも提供しています。

 利用者には無線規格「Z-Wave」を搭載したUSBアダプターが提供され、このアダプターをau ひかりのホームゲートウェイに装着し、対応のセンサー類と通信。機器類の管理は、専用アプリ「au HOME アプリ」から一括して行うことができます。

「au HOME」のデバイスラインアップ。このほかに、赤外線リモコン、スマートプラグが今秋以降に発売予定だ

 センサー1つ1つはすでに提供されている“見守りIoT”機器とさほど変わりませんが、今後はGoogleのアシスタントサービス「Google アシスタント」への対応を予定。Google アシスタントは、自然な会話で話し掛けるだけで回答を表示してくれる、いわばiOSにおける「Siri」のAndroid版、とも言えるサービスですが、au HOMEがGoogle アシスタントに対応することで、対応機器を声でコントロールすることが可能になります。

NTTドコモ、and factoryや横浜市と共同で「未来の家プロジェクト」

 NTTドコモも、IoT製品を集めたスマートホステルブランド「&AND HOSTEL」を展開するand factoryや横浜市と共同で「未来の家プロジェクト」という実証実験を実施。こちらもKDDIと同様、自宅の見守りが基本コンセプトとなっており、自宅に設置したさまざまなIoT機器をスマートフォンアプリから一元管理できます。

 実証実験には、住宅の室内を再現したトレーラーハウスの中にIoT機器を配した「IoTスマートホーム」を活用。このトレーラーハウスには活動量計や開閉センサー、スマートロックなど16の機器が搭載されています。未来の家プロジェクトは、横浜市が展開するオープンイノベーションプログラムの一環として提供され、2年をかけて実証実験を行なっていく予定。

 実証実験に採用された機器は、フィリップスのスマート電球「Philips Hue」、スマートロック「Qrio」など、市販の機器が用いられていますが、これらの機器を一元的に管理できるAPIとして、NTTドコモが開発した「デバイスWebAPI」が採用されている点が特徴。デバイスWebAPIはNTTドコモ、AT&Tなどが推進している国際標準化規格の「GotAPI」に準拠しており、NTTドコモではIoTスマートホームでの提供に加えて、セミナーなどを通じて中小企業にもこの技術を提供、普及を図っていくとしています。

ソフトバンク、「Connectly App」アプリをとリノベると共同開発

 ソフトバンクは、リノベーション事業を手がけるリノベると、スマートホームの専用アプリ「Connectly App」を開発。このアプリはソフトバンクが新たなビジネスの創出を目指すために開催した「SoftBank Innovation Program」の第1回で採択されたもので、住宅向けのIoT機器やサービスをスマートフォンから管理することができます。

 Connectly Appの対応第1弾としては、ユカイ工学のロボット「BOCCO」に対応しており、帰宅または外出するタイミングの時刻や天気をBOCCOが自動的に音声で教えてくれるよう設定できます。ほかにも、スマート照明の「Hue」の初期設定、寺田倉庫が運営する保管サービス「MINIKURA」への荷物の預け入れや預けた荷物の確認といった機能に対応しています。

東電の「TEPCOスマートホーム」、Xperiaを手掛けるソニーモバイルがサービスを共同開発

 携帯電話キャリアだけでなく、東京電力もスマートホームに取り組んでおり、2017年8月から「TEPCOスマートホーム」の提供を開始しました。このサービスは誰でも利用できる一般向けサービスというだけではなく、東京電力のエリア外でも利用が可能です(沖縄県・離島を除く)。

 サービスは自宅の様子を管理できる「おうちの安心プラン」、離れた家族の様子を見守る「遠くても安心プラン」の2種類。このうち「おうちの安心プラン」は、Xperiaシリーズなどのスマートフォンを手掛けるソニーモバイルコミュニケーションズと共同で開発、一方の「遠くても安心プラン」は東京電力の単独開発となります。

 おうちの安心プランは、家族の帰宅状況や留守中の様子を外出先から確認できるサービス。自宅にソニーが開発したスマートホームハブを設置し、開閉センサーやスマートタグの状況を一括して管理できるほか、専用アプリから状況を確認できます。スマートタグはQrioの「Qrio Smart Tag」が採用されており、スマートタグを持った子どもの帰宅または外出を通知することができます。

 遠くても安心プランは、分電盤にエネルギーセンサーを装着するという、東京電力らしい仕組みのサービスです。このセンサーで電気の使用状況を把握し、通常と異なる電気の状況を感知した場合には離れた場所に住む家族へ通知するほか、訪問サービスを依頼することができます。

 料金は、おうちの安心プランの場合月額が3280円でスマートタグが1個4320円、遠くても安心プランが月額2980円で、このほか初期費用として契約事務手数料が3000円必要です。なお、設置作業料として1万8000円が発生しますが、こちらは最低利用期間である2年間使えば無料となるほか、おうちの安心プラン、遠くても安心プランともに契約事務手数料やスマートタグ、月額料金が無料になるキャンペーンを2017年11月まで実施しています。

共通点は、“見守りIoT”を後付けで導入すること

 ここまで携帯電話会社や電力会社といったインフラ事業会社の展開するスマートホームを見てきましたが、いずれもいくつかの共通点があります。その中でも大きな共通点は、本文中でも触れている通り、ほぼすべてのサービスが“見守りIoT”を中心としている、ということです。

 各社の思惑はそれぞれあると思いますが、見守りIoTは自宅を大幅に改築する必要がなく、後付けで簡単に導入できるという特徴が大きな理由の1つでしょう。

 これまでの連載でも紹介した通り、IoTを本格的に導入するには、電源の位置が制限となったり、家電を買い換える必要があったりといくつかのハードルがあります。また、IoT対応の家電もまだ出始めたばかりの状況であり、価格も高額になりがちなほか、採用されている技術も一般化しておらず、購入したはいいものの数年後には使えなくなる、という可能性もゼロではありません。

 その点、見守りIoTに利用するセンサー系の機器は取り付けもシンプルで、コストも白物家電に比べると価格は低めです。IoTというキーワードは一般への認知も進んでいますが、対応する機器は電化製品全体のシェアから考えればまだまだ低く、スマートホームを開始したばかりの各社もまずはできるところから始めているというのが実情です。

 また、いずれのサービスも独自開発の製品ではなく、すでに市販されている製品を採用していたり、他社と共同で開発した製品やサービスを採用しています。そのため、同様のサービスを導入しようと考えたとき、これらスマートホームサービスを契約しなくても、自分が必要な製品を別途購入すればほぼ近い環境は実現できることになります。

スマートホーム=家庭に紐付くサービス=解約されにくい?

 他でも実現できるサービスを、いまなぜ、携帯電話会社や電力会社が積極的に取り組みはじめているのでしょうか。大きな理由の1つは、新たなビジネスモデルの構築です。

 携帯電話はもはや1人1台と言えるほど普及していて大幅な加入者増は見込めないほか、最近ではMVNOの登場により、月額料金も低価格化が進んでいます。電力会社も同様で、ほぼすべての人が何らかの電力会社と契約しているだけでなく、電力の自由化により契約者数も各社で獲得合戦が始まっています。

 既存のビジネスモデルが飽和しつつある中で、新たな収益源を求めて展開するうちの1つがスマートホーム事業、と言えるでしょう。

 また、個人ではなく家庭に紐付くサービスは解約がされにくい、という実情もあります。電話やインターネット、電気やガスと言った家庭向けのサービスは一度契約すると次に引っ越すまで見直すことがない、という人も多いでしょう。

 単なる機器ではなく、すべてを統合するゲートウェイ的な場所を取りにいくことで、今後普及が見込まれるIoTにおいて有力なポジションを押さえておく、というのもインフラ各社が狙う1つの目的と言えそうです。

IoT機器を一括管理できることで、ユーザーにもメリット

 こう書くとサービス提供側のメリットしかないように思えますが、ユーザー側のメリットとしては、IoT機器を一括して管理できるというメリットがあります。先ほど、同様の機能は他社製の製品でも実現できると説明しましたが、実際にはそれぞれの製品ごとにアプリを利用したり、ユーザー設定が必要だったりと手間がかかるのも事実です。

 キャリアがこれらの機器を一括提供、もしくは複数の機器をまとめてコントロールできる仕組みを提供することで、ユーザー的にも余計なアプリや設定が不要となります。また、通信料金が発生するような機器の場合、携帯電話会社の料金と合算することでより低価格でサービスを利用できる可能性もあるでしょう。

 まだ始まったばかりのスマートホームですが、どのキャリアがスマートホームの中心を押さえるのか、はたまた全く別の会社がスマートホームの中心となるのか、今後に注目です。

甲斐 祐樹

Impress Watch記者からフリーランスを経て現在はハードウェアスタートアップの株式会社Cerevoに勤務。広報・マーケティングを担当する傍ら、フリーランスライターとしても活動中。個人ブログは「カイ士伝」