PCもタブレットもまるごとおまかせ! QNAPではじめるデータ管理術
Part 1:高性能をコンパクトに凝縮した「QNAP TS-470」登場!
(2013/9/24 06:00)
QNAPから、Turbo NASシリーズの新製品「TS-x70」シリーズが新たに登場した。10Gbit Ethernetにも拡張可能な製品として注目されているが、QNAPならではの高いパフォーマンスや使いやすさ、豊富な機能に磨きをかけた新製品だ。その実力を検証してみた。
ハイエンドクラスの性能を4ベイに
個人での利用にはちょっと贅沢かもしれないが、それでも「いいなぁ」と思わせられるあたりは、さすがQNAPといったところか。
今回、新たに登場したTS-470は、見た目こそ従来のTS-469とほとんど変わらぬ4ベイのNASだが、CPUが新たにIntel 2.6GHz Dual Core CPUへと変更され、背面に用意された拡張スロットに2ポートのGiabit Ethernet(PCIeカード)が搭載されたNASだ。
一見、地味な変更に思えるかもしれないが、CPUが変更された影響は大きい。従来モデルのTS-x69シリーズは、2.13GHz駆動のATOM(Dual Core)を採用していたが、今回のTS-x70シリーズでは、正式な名称は公開されていないものの、Core i/Celeronシリーズ系のCPUへと変更されており、ワンランク上の性能を得ている。パフォーマンスについて詳しくは後述するが、実際、QTS4.0のグラフィカルな設定画面の操作も快適そのもので、初期設定で少し触っただけでも明らかな高速化を感じることができた。
ATOMシリーズ搭載のTS-x69シリーズでは4GBまでしか搭載できなかったメモリも、今回のTS-x70でCPUやチップセットが変更されたことで、最大16GBまで搭載可能(標準は2GB)となり、QNAPならではの豊富なアプリをリソースを気にすることなく動作させられるようになった。
前述した背面の拡張スロットを利用して、10Gbit Ethernetにネットワーク機能を拡張することも可能となっているうえ、8ベイ以上の特定のモデルではSSDを利用したキャッシュにも対応(v4.0.3(Beta含)から実装を予定)しており、高いパフォーマンスが求められる大規模な環境や仮想環境などでの利用にも対応できるようになっている。
通常、ここまでのスペックは、8ベイ以上のハイエンドシリーズやラックマウントでないと得られないが、今回のTS-470の登場で、4ベイのコンパクトなNASでも高度な使い方ができるようになったわけだ。
環境によっては、さほどストレージ容量は必要ないものの、とにかく高いパフォーマンスが欲しいというケースも珍しくない。そう考えると、中小規模のファイルサーバーとしてだけでなく、アプリケーションの利用や仮想環境、動画編集などでの利用など、実に幅広い用途に対応できる製品と言えそうだ。
4つのLANポートを利用可能
それでは、製品を詳しく見ていこう。今回、試用したTS-470は前述したとおり4ベイのデスクトップ型となっており、サイズは高さ177×幅180×奥行き235mmとなっている。サイズ的には、さほど大きくないので、デスクの下やラックの端など、置き場所に苦労することなく運用できる。
フロントには、動作状況やIPアドレスなどを簡単に確認できる小型のディスプレイが搭載されており、その下にカートリッジ式のHDDベイが用意される。カートリッジは昔ながらのネジによる固定式だが、3.5インチ、2.5インチの両方に対応しており、SSDを装着することも可能になっている。もちろん、ホットスワップに対応しており、万が一、HDDが故障したときなどでも稼働させた状態で脱着可能だ。
このほか、電源ボタンの下にUSBコピーボタンを備えており、直下のUSBポートに装着したUSBメモリーなどから、ファイルを自動的にNAS上にコピーすることも可能となっている。
一方、背面は、いくつかのインターフェイスが追加されている。まず目に付くのは、拡張スロットに増設された2つのLANポートだ。右下にすでに2つのLANポートを搭載しているため、合計で4つのLANポートを利用できることになる。
障害対策としてLAN接続を多重化しておくもよし、セグメントごとに利用するLANポートを分けるもよし、複数ポートを同時利用してパフォーマンスを上げるもよし、とさまざまな使い方が可能となっている。
たとえば、LAN1とLAN2は、ファイル共有に同じネットワークに接続し、どちらか一方が通信できなくなったときでも通信できるようにしておき、拡張スロットの2つのポートはポートトランキングでサーバーと直結し、iSCSIを1000Mbps×2の帯域で通信できるようにするなどといった活用ができる。2つだと、用途が限られてしまうが、4つあることで、かなり応用が効くようになったと言えそうだ。
また、背面には、新たにオーディオのIN/OUT端子が1つずつ搭載された。TS-470は、本体右下のHDMIポートを利用して、ディスプレイを接続し、NAS本体に保存されている画像や映像などのメディアファイルを再生する機能が搭載されているが、このときHDMIの音声出力に対応していないディスプレイでも、この端子を使って音声を出力することが可能になった。こうしてみると、もはやPCそのものといった印象だ。
最後にファンについても触れておこう。本体背面に搭載されている9cmのファンは、従来モデルも同じだが、極めて静かで、電源投入直後に一瞬高回転になるが、その後は動作をまったく意識させない静かさで、本体に顔を近づけてようやく微かに音が聞こえる程度となっている。
もともとQNAPは静音性に優れたNASとして知られていたが、あらためて使ってみても、この静かさには感動させられる。
特筆ものの手軽なセットアップ
初期セットアップが手軽にできるのも本製品の大きな特長の1つだ。NASのセットアップ方法は、年々進化しており、従来のDVD-ROMを使う方法から、ネットワーク経由、それもインターネット経由でセットアップする方法が主流になりつつあるが、本製品でも同様の方法が採用されている。
具体的には、HDDやネットワークケーブルを装着後、電源を入れ、PCのブラウザから「http://start.qnap.com」にアクセスする。言語を日本語に切り替えた後、「クラウドインストール」を選択して、本体に記載されているQxxxx-xxxxという「Cloud Key」を入力すると、LAN上のTS-470のセットアップを開始することができる。
詳しくは次回以降に紹介するが、このセットアップは、スマートフォンやタブレットからも実行可能で、場合によっては初期設定から利用まで、PCレスで済ませることもできる。iPadやAndroidなどのタブレットが普及してきたことを考えると、そのストレージとして手軽に使えるメリットは大きいだろう。
セットアップ内容自体も簡単で、基本的には「続行」を選択していくだけで、RAID6でNASが構成される。もう、本体のIPアドレスを調べ、ディスクの設定項目を探し、RAIDの種類の違いに悩みながら、長い時間かけてセットアップする必要はないのだ。エンタープライズ向けのNASでも、ここまで手軽にセットアップできるようになったかと思うと感慨深いところだ。
もちろん、初期セットアップは、IPアドレスがDHCPからの取得になっていたり、管理者アカウントのパスワードがユーザー名と同じに設定されているなど、そのまま使うわけにはいかない部分も少なくない。
このため、初期設定が完了したら、設定画面からいろいろな設定を確認することになるが、この設定画面も特徴的だ。
TS-470には、標準でQTS4.0(4.0.2)と呼ばれるバージョンのファームウェアが適用されており、ブラウザで設定画面にアクセスすると、まるでスマートフォンやタブレットのホーム画面のような画面が表示される。
画面上に表示されているアイコンがNAS上で動作する各パッケージの機能に対応しており、ここから設定を実行したり、画面上にウィンドウ表示されたUIを使って各機能を利用することができる。長らく、NASに親しんできたユーザーには、若干抵抗があるかもしれないが、スマートフォン的な感覚になれている場合は、違和感なく使えるUIとなっている。まさに現代的なユーザーインターフェイスと言えるだろう。
NASの基本的な設定は「設定」アイコンから実行することになる。最低でも、「システム設定」の「ネットワーク」でIPアドレスを固定したり、「特権の設定」の「ユーザ」で管理者アカウントの「admin」のパスワードを変更しておくといいだろう。
さまざまなシーンで利用可能
機能的には、後から追加できるパッケージが多く用意されており、豊富すぎて把握しきれないほどだが、標準では以下のような機能が有効になっている。
ファイル共有
Windows(SMB1.0)、Mac(AFP)、NFSによるファイル共有が標準で利用可能。「Download」、「home/homes」、「Multimedia」、「Public」、「Qsync」、「Recordings」、「Usb」、「Web」の共有フォルダーにクライアントからアクセスできる。FTPサービスが標準で有効になっており、登録されたユーザーアカウントでファイルをアップ/ダウンロードすることができる。
ファイルの同期
専用クライアントをインストールしたPC(Windows/Mac)のファイルを自動的に同期させる「Qsync」が有効になっている。PCのデータをバックアップできるだけでなく、スマートフォンやブラウザから同期したファイルにアクセスすることもできる。
写真やビデオの管理と共有
「Photo Station」、「Music Station」、「Multimedia Station」、「File Station」、「Download Station」の各機能が有効になっており、「http://QNAPの名前:8080/musicstation/」などから、NAS上のデータをブラウザ上で再生したり、管理することができる。HDMI接続したテレビなどでメディアを再生できる「HD Station」は後から有効化する必要がある。
バックアップ
Rsyncを利用したバックアップのサーバーとして動作。外部ディスクを接続したり、Amazon S3やElephantDrive、Symformなどのアカウントを登録すればクラウドバックアップも可能。MacOSからのバックアップができる「Time Machine」は後から有効化する必要がある。また、パッケージを追加することで、DropboxやGoogle Driveとの同期にも対応。
メディアサーバー
NASに保存した写真やビデオ、音楽をDLNA対応のテレビやゲーム機で再生することができる。iTunesサーバー機能も搭載しており、ネットワーク上のPCにインストールしたiTunesからNAS上に保存した音楽を再生することもできる。トランコード機能も搭載しており、動画ファイルをスマートフォンなどで再生可能なMP4に変換することもできる。
VPNサーバー
PPTP VPNサーバー、およびOpen VPNサーバーが標準で有効になっており、外出先などから自宅のNASに暗号化された通信で安全にアクセスできる。また、LAN内から外部への接続に利用するプロキシサーバー(Squid)も標準で有効になっている。
その他のサーバー機能
LDAPによるディレクトリサーバー、MySQLによるデータベース、ログを記録するSyslogサーバー、ダイヤルイン用の認証に利用するRADIUSサーバー、TFTPサーバー、アンチウイルサーバーなどの機能も搭載。これらは標準では無効になっているが、有効にすることですぐに利用できる。
このように、TS-470では、標準で非常に多くの機能を搭載しており、ファイルサーバーやメディアサーバー、外出先からのVPN接続などの用途にすぐに利用することが可能となっている。
また、「App Center」を利用することで、オンラインで機能拡張用のパッケージをインストールすることも手軽にできるようになっている。すでにインストールされてい機能も含めて、現状で100強のパッケージが登録されており、画面上でボタンをクリックするだけで、簡単にインストールできる。
前述したバックアップの項目にあるDropboxやGoogle Drive Syncなどのパッケージに加え、AppleTVにメディアを配信できる「QAirplay」、「Wordpress」などのCMSや「Magento」などのオンラインショップのパッケージなど、さまざまなパッケージが用意されている。
はじめのうちはどの機能を使えばいいのかに迷ってしまうが、とりあえず標準で有効になっている機能から活用し、徐々に機能を拡張していくといいだろう。
パフォーマンスも優秀
最後に、パフォーマンスについても触れておこう。以下は、1000BASE-Tで直結したPCからCrystarlDiskMark3.0.2fを実行した値だ。
シーケンシャルはリードで70MB/s前後、ライトは100MB/sを超えており、1000BASE-Tの上限近くにまで達している。ランダムの速度も優秀で、NASとしては、かなり高速な製品と言える。
なお、公称値は400MB/sとされているが、これは4つのLANポートをすべて利用し、ポートトランキングした場合の値となる。PCやサーバー側でポートトランキングが使える場合は、この構成にすることで、公称値に近い値を得ることができるだろう。
また、今回の構成では、データセンターなどでも利用されるWestern Digital製の高耐久性HDDである「WD Se」を利用して計測している。利用するHDDによっては、パフォーマンスに差が出る場合もあるので、なるべく高性能かつ高耐久性のHDDを利用するといいだろう。
以上、QNAPの新型NAS「TS-470」を実際に試してみたが、ハードウェアの刷新により、単純にパフォーマンスが向上しただけでなく、最新のファームウェアであるQTS4.0の実力を十分に発揮できるようになった印象だ。これなら、さまざまなパッケージを追加して、複数の機能を利用しても余裕なうえ、NAS上でメディアファイルのトランスコードなどを実行させることも現実的になってくる。ハードウェアとソフトウェアのバランスがうまく取れている製品と言って良いだろう。
これなら、中規模以上のファイルサーバーとしての利用はもちろんだが、よりパフォーマンスが求められるビデオ編集などの用途や仮想環境での用途も余裕と言える。従来のTS-x69シリーズと見た目は変わらなくても、中身は大きく進化しているため、既存製品のユーザーは買い換えも検討していいほどだ。価格だけ見ると、手を出しにくいかもしれないが、中身を考えると、むしろコストパフォーマンスは高い製品と言って良いだろう。