清水理史の「イニシャルB」

価格もスペックも“いいところを突いた”2ベイNAS ASUSTOR「AS3202T」

 ASUSTORから登場した「AS3202T」は、ちょっと上の性能が、少しお得な価格で手に入る、いわば「いいところを突いた」NASだ。2ベイの入門用として位置づけられた製品だが、高性能なCPUや動画のハードウェアトランスコード機能、HDMI出力を備えており、価格も3万円台に抑えられている。その実力を検証してみた。

ちょい上をちょい安で

 他社製の同価格帯(3万円台)の製品(TS-231+やDS216play)と比べると、CPUなどのスペックはワンランク上。

 一方、Celeronや2GBのメモリ、ハードウェア暗号化、ハードウェアトランスコード、HDMI出力などに対応した同等の性能を持つライバル製品(TS-251やDS216+)と比べると、価格が1~2万円ほど安い。

 そんな「AS3202T」を改めてみてみると、ASUSTORは、こういった製品の立ち位置というか、ラインナップ構成が実に巧みなメーカーだなぁ、とあらためて感心させられる。

 冷静にスペックを見比べて買おうとすると、必ず候補として挙がってきて、価格で選んでも、スペックで選んでも、結果的にお得に感じられるようになっている。ASUSTOR製品のユーザー満足度が高いのは、おそらくこの点が大きく影響しているのだろう。

 他社が仮想化機能の採用などによって、ストレージから汎用的なサーバーというか、プラットフォームへと進出しつつある中、ストレージとしての基本機能やホームユーザー向けのマルチメディア機能を重視しているあたりも方向性が異なる点で、今回登場したAS3202Tも、どちらかというと動画の保存、変換、再生などのマルチメディア用途に適してた製品となっている。

 家庭で日常的に利用するストレージとしての価値を追い求めるなら、AS3202Tという製品は、さまざまな意味で「ちょうどいい」製品と言えそうだ。

ASUSTORの2ベイNAS「AS3202T」。高い性能を備えた製品でありながら、リーズナブルな価格設定が魅力の初心者向けモデル

従来モデルと共通の外観も中身は大きく進化

 それでは、製品をチェックしていこう。外観は、従来モデルとなるAS3102Tとほとんど変わらない。格子状のラインが印象的なフロントパネルのデザインも同じだが、サイズも重量もまったく変わらないうえ、搭載されるインターフェイスも共通だ。

正面
側面
背面

 ここまで同じだと、少々、面白味に欠けるが、その変わりに中身が強化されている。具体的には、CPUが従来のデュアルコアのCeleronから、クアッドコアのCeleronへと強化されている。

 これにより、従来モデルに比べて消費電力がわずかに上昇したものの、その分、マルチタスク処理やグラフィックス関連の処理性能が向上しており、4K動画の再生や動画のトランスコードなどが快適に実行可能となっている。

 また、搭載されるOSも、従来のADM2.4系からADM2.6へとアップデートされた。CライブラリとLinuxカーネルがアップデートされた点が大きなポイントだが、機能的にも強化されている。

 代表的なのは、MyArchiveのディスク数の増加だ。ASUSTORのNASでは、本体に装着したハードディスクをMyArchiveとして設定することで、必要に応じて脱着することが可能となっているが、その数が「N-1」になった。たとえば4ベイモデルであれば3つのMyArchiveを同時に作成することが可能になるのが特徴である。

 加えて、MyArchiveディスクのEXT4、NTFS、HFS+フォーマットもサポート可能になったことにより、MyArchiveディスクの汎用性を高めたり、MyArchiveディスクの暗号化時に物理的な暗号キーとしてUSBメモリをひもづけることも可能になるなど、ASUSTORならではの特徴的な機能が、さらに魅力的になった印象だ。

 残念ながら、今回取り上げたAS3202TではMyArchiveを使用することはできないが、例えば同じ2ベイのAS6202T(クアッドコアCeleron Braswell、4GBメモリ搭載)は、2ベイながらハードディスクにフロントアクセス可能となっていることから、前述したUSBキーによる暗号化など、ADM2.6のメリットが生きる構成となっている。データを安全かつ効率的にアーカイブしたいという用途にはAS6202Tが向いているだろう。

初期設定も簡単

 初期設定も簡単だ。ハードディスクは、ケースを開けて装着するタイプとなるが、背面のネジを2か所外せば簡単にケースが開けられるうえ、ハードディスクを固定するネジを含め、すべて指で回せるハンドスクリュータイプとなっているため、手間なく構成可能となっている。

ハードディスクはケースを開けて装着するタイプ。ネジがハンドスクリュー式なので簡単に装着可能

 初期設定は、付属のCD、インターネットからダウンロードしたツール、もしくはスマートフォン向けのアプリから可能となっている。

 スマートフォンユーザーも強く意識している影響か、スマートフォンのアプリからの設定が簡単な印象だ。「AiMaster」というアプリをダウンロード後、自動検出でLAN上のAS3202Tを登録すると、初期設定が実行される。

 「ワンクリックインストール」でデフォルト値で構成すると、HDDがRAID0で構成されてしまうのは相変わらずなので、ぜひ「カスタムセットアップ」でRAID1を選択してほしいが、そのほかは特に注意するような点もなく、初心者でも簡単に設定することができる。

初期設定はスマホ向けアプリの「AiMaster」を使うのが楽。自動的にネットワーク上のAS3202Tを探し出して初期設定を実行できる
ワンクリックセットアップはRAID0の構成になるので注意
カスタムセットアップでも、基本的な項目は標準設定のままでOK。RAID1に変更することを忘れずに

LooksGoodを利用する

 ASUSTORのNASは、標準設定ではファイルの共有のみが可能なシンプルな構成となっている。このため、写真や動画などのデータを保存するだけなら、単純に共有フォルダーに保存するだけでいいが、保存した写真や動画、音楽などを管理するには、別途、アプリの追加が必要となる。

 今回は本製品の特徴の一つでもある動画関連の機能にフォーカスして機能を実際に試してみよう。

 動画関連のデータを扱うのに必要なアプリは「LooksGood」だ。「AppCentral」からインストール後、アイコンをダブルクリックして起動すると、「TV録画」「メディア エクスプローラー」「メディアコンバーター」という3つのメニューが表示される。

動画関連のデータを扱うための「LooksGood」。メディアの再生やトランスコードを実行できる

 TV録画は本体に接続したチューナーを利用してテレビ番組を録画する機能だが、海外向けの機能となるため、国内ではこの機能は利用しない。

 NASに保存した動画を再生するには「メディア エクスプローラー」を利用する。クリックすると、共有フォルダーの一覧が表示されるので、標準で作成された「Video」フォルダーをクリックして開く。

 あらかじめ、この共有フォルダーに動画を保存しておけば、ファイル名が表示されるので、再生したいファイルをクリックすればブラウザ上で動画が再生されるしくみだ。

 試しに3840×2160のH.264動画を再生してみたが、特に映像の乱れや途切れなどなく快適に再生することができた。

 もちろん、動画をトランスコードしながら再生することも可能だ。再生画面の右下の「PQ」ボタンをクリックして、「1080p」「720p」「480p」「360p」「240p」を選択すれば、ほとんど待つことなくトランスコードされた動画が再生される。

 無線LAN経由でのアクセスするときなどは、この方法でトランスコードすれば低い帯域でも快適に動画を再生できる。

 スマートフォンでも再生可能で、スマートフォンに「AiVideo」アプリをインストールすれば、同様にNAS上の動画を再生可能だ。スマートフォンの場合は、動画ファイルをタップした直後にトランスコードするかどうかの選択が表示されるので、無駄に大きなファイルを開いてしまうようなこともない。

4K動画もスムーズに再生。リアルタイムトランスコードで変換しながら再生することもできる

 もしも、スマートフォンから再生することがあらかじめわかっているなら、オフラインでトランスコードしておくのが効率的だ。

 LooksGoodの「メディアコンバーター」メニューからファイルを指定して、トランスコードすれば、スマートフォン向けの360pの動画などを自動的に生成できる。

 ハードウェアトランスコードが可能なおかげで、変換は非常に高速で、試しに3840×2160のH.264で収録された2分ほどの動画(180MB)を360pに変換してみたところ、1分40秒ほどで変換が完了し、25MBほどのファイルに縮小することができた。

 NASのオフライントランスコード機能は、使い始めると結構便利で、個人的にもビデオカメラで撮影した子供の動画をLINEで実家の親に送るときなどに活用している。もともと、保管用に動画はNASに保存されているので、アプリから変換を指定するだけなので、とても手軽だ。数十MBほどになった動画なら、LINEに貼り付けて送っても、Wi-Fi環境ならさほど負担にならない。

 今まで、PCに動画ファイルをコピーして、動画変換ソフトを立ち上げ、時間をかけて変換していたのがウソのようだ。

オフライントランスコードも実行可能。ハードウェアトランスコードのおかげで高速に変換することができる

HDMI経由でテレビに表示する

 NASに保存した動画は、DLNA対応のテレビを使ってネットワーク経由で再生することもできるが、本体にHDMI端子が用意されているのだから、これを活用したほうが効率的だ。

 ちなみに、本製品ではDTCP+対応のsMedio Serverアプリが利用可能となっており、レコーダーやnasneなどDTCP+に対応した機器から録画番組をムーブすることが可能となっているが、このアプリのライセンスは標準では提供されない。アプリをダウンロード後、ライセンス($8.50)を購入する必要がある。

sMedio Serverのライセンスを購入すれば、nasneなどから録画番組をムーブすることが可能

 話題を元に戻そう。HDMI経由で画面を表示するには、「ASUSTOR Portal」というアプリが必要になる。このアプリをインストールすると、HDMI経由で出力された専用画面からNetflixやYoutubeなどのサービスを利用したり、Chromeを使ってWebページを表示することなどができる(キーボードやマウスも利用可能可能)。

 NASに保存した動画を再生するには、さらに「KODI」というアプリを追加する。インストールするとASUSTOR Portalの画面にKODIが追加されるので、起動してVideoフォルダを参照すれば、動画を再生できるというわけだ。

 試しにH.264やH.265の4K動画を再生してみたが、さすがローカルでの再生だけあって非常にスムーズに再生することができた。

 快適に操作するには、オプションのIRリモコン(AS-RC10)が欲しいところだが、動画配信サービスや自前の動画を再生するための環境としては、なかなか快適だ。

AppCentralから「ASUS Portal」をインストールするとHDMI出力が可能。動画再生にはさらに「KODI」が必要
HDMIで接続したテレビにGUIが表示され、マウスやオプションのリモコンでいろいろな操作ができる
動画を再生するには、ASUS Portal経由でKODIを起動する

メディアの管理におすすめ

 以上、ASUSTORのAS3202Tを実際に使ってみたが、高性能になったCPUの恩恵もあり、かなり動画の管理環境として魅力的になった印象だ。

 今まで、NASはどちらかというと家庭内の目立たない場所に設置されることが多かったが、本製品なら積極的にテレビの横に置いて使いたい印象だ。

 もちろん、今回はあまり触れなかったが、データのバックアップ機能も充実しており、PC向けのソフトウェアを利用することで、定期的なバックアップやリアルタイムでのデータ同期も可能になっている。また、OneDriveとNASの間でデータを同期するためのアプリ(DataSync for Microsoft OneDrive)も提供される。

 以下の画面のように性能も高く、一般的なデータ保管やバックアップ用としても十分な機能を備えているので、動画以外での利用にも適した製品だ。価格やスペックを考えても、かなりお買い得な製品と言っていいだろう。

CrystalDiskMark5.1.2の結果。100MB/s超えなのでかなり高速
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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。