清水理史の「イニシャルB」

Anniversary Updateで追加されたEdgeの拡張機能 パスワード管理の意識が変わる「LastPass」を使ってみる

 先日リリースされたWindows 10 Anniversary Updateで利用可能となったMicrosoft Edgeの拡張機能。その中の1つとして注目したいのが、パスワード管理の「LastPass」だ。しっかり覚えておいてくれるとなると、もう少しだけ複雑なパスワードに変更しておこうかという気になるから不思議だ。

ストアで提供されるEdgeの拡張機能

 8月2日にリリースされたWindows 10 Anniversary Updateで、ついにブラウザーの「Edge」で拡張機能がサポートされるようになった。

 法人向けのオンラインバンキングとか、Intuneの管理サイトとか。個人的には、まだ使えないサイトがいくつかあるため、メインのブラウザーとして常用するまでには至っていないEdgeだが、今回の拡張機能対応によって、ユーザーのニーズに合わせていろいろな機能をブラウザーに追加することが可能になったことで、また一歩、メジャーな存在に近づいたという印象だ。

Anniversary Updateで拡張機能がサポートされたEdge

 本稿執筆時点で提供されている拡張機能は以下の12個。Edgeからは、画面右上の「…(詳細)」から「拡張機能」をクリックすることで管理できるが、拡張機能そのものはすべてWindowsストアからの提供となっている。

Edge向けの拡張機能(2016年8月18日現在)

・AdBlock:Webページ上の広告を非表示にする拡張機能
・AdBlock Plus:Webページ上の広告を非表示にする機能
・Pinterest Save Button:Webページの画像などPinterestに保存するボタン
・Translator For Microsoft Edge:Webページの翻訳
・LastPass:パスワードの記憶と自動入力
・OneNote Web Clipper:WebページのOneNoteへの保存
・Evernote Web:WebページのEvernoteへの保存
・Office Online:OfficeOnlineでの新規文書作成やOneDriveの文書を開くためのボタン
・Save to Pocket:読みたいWebページを保存して後で読む機能
・reddit Enhancement Suite:ソーシャルニュースサイトのreddit向けの拡張機能
・マウスジェスチャ:マウスジェスチャによる操作を可能にする拡張機能
・Page Analyzer:Webページの互換性などを調査するための拡張機能

 種類がまだ少なく、ようやくスタートラインに立ったという印象だが、仮に種類が多くても結局実際に使う拡張機能は限られるので、初期段階で他のブラウザーで定番的に使われている拡張機能を含めてきたことは、大いに評価すべき点と言えそうだ。

 従来のIEでは、ツールバーにしろ、ActiveXにしろ、機能を拡張する方法がいろいろあり、しかも誰もが自由に提供できる環境にあったことが、かえってユーザビリティの低下を招いたり、セキュリティリスクにつながるケースがあった。

 これに対して、Edgeでは拡張機能の提供元がWindowsストアになっていることからもわかる通り、マイクロソフトによって証明書が与えられた拡張機能のみが提供される。これにより、拡張機能の信頼性を確保し、従来のような混とんとした状況を排除しようとしているわけだ。

本稿執筆時点では12の拡張機能がストアからダウンロード可能となっている

パスワード管理が可能な「LastPass」

 今回提供が開始された拡張機能のうち、中でも注目したいのは「LastPass」だ。いわゆるパスワード管理サービスで、各種Webサービスを利用する際に入力するIDとパスワードを記憶させ、次回以降、サインインする際に自動入力させることができる拡張機能となっている。

パスワード管理用の拡張機能「LastPass」

 利用するには、LastPassのアカウントが必要だが、拡張機能のインストール後、初期設定の段階でアカウントを作成可能となっている。

 LastPassには、個人向けに「Free」と「プレミアム」の2種類のサービスが提供されており、無料のFreeプランでもパスワードおよびメモを無制限に保管することが可能になっている。

 一方、プレミアムプランでは、複数のPCやモバイル端末間での同期、デスクトップアプリケーションのパスワード管理などが可能になる。

 プレミアムプランの価格は年額12ドルと、さほど高くない。このため、複数台のPCを使い分けているような人は、すべてのPCでパスワードを同期できるプレミアムプランの利用も検討するといいだろう。

LastPassのプラン。フリー版では同期できる端末数などが制限される

使い方やパスワードに対する意識が変わる

 実際に使ってみると、確かに快適だ。たとえば、Gmailを使うために、Gmailのメールアドレスとパスワードを入力してサインインすると、そのことをLastPassが検知してIDとパスワードを保存するかどうかを画面上部に表示する。

 いったん、情報を保存してしまえば、次回からLastPassを使ってIDやパスワードを自動的に入力することができる。

サイトにパスワードを入力すると、緑のバーが上部に表示され、パスワードを記憶させることが可能
次回以降は、自動入力や入力欄のアイコンからパスワードを入力できる

 同じようにパスワードを記憶する機能は、ブラウザーにも搭載されているし、サイト側でログイン状態を保持させることなどもできる。

 しかし、LastPassが便利なのは、こういったブラウザーやサイト側の機能から、パスワードの管理を独立させることができる点にある。

 具体的には、ブラウザーのキャッシュクリアなどを容赦なくできる。Edgeではまだあまり経験はないが、サイトがうまく表示できなくて、ブラウザーのキャッシュをクリアすることがまれにある。

 この際、パスワードを消すかどうか迷うが、LastPassでパスワードを管理していれば、迷うことなく、すべての情報をクリアすることができる。

 また、パスワードに対する考え方も変わる。なるべく複雑に、でも覚えやすく。これがパスワード設定のコツだが、LastPassがあれば、「覚えやすく」という2つ目の要素は無視できる。

 LastPassには複雑なパスワードを自動生成する機能も搭載されているので、主なサイトのパスワードを複雑なものに片っ端から変更してしまうのも1つの手だ。自分が覚えておく必要はないので、もちろん、複数サイトで同じパスワードを使いまわすなどということも当然なくなる。

 継続的にLastPassを使い続けるかどうかは、好みにもよるが、少なくとも自分のパスワードやサービスの使い方を見直すいい機会になるはずだ。

 このほか、付加的な機能としてIDやパスワード以外の情報も記憶させることができる。ショッピングサイトなどで入力するクレジットカード情報はもちろんのこと、定期的に変更される社内無線LANの暗号キーを覚えさせることもできる。

 また、「安全ノート」という機能を利用すると、簡易版Evenoteのように任意の情報を記憶させることができる。ソフトウェアのシリアル番号、スマートフォンの暗証番号、金庫の番号など、とにかく忘れたら困る情報を片っ端から登録することができる。

 パスワードの管理だけでなく、あらゆる情報を覚えさせられるのもLastPassの魅力と言えそうだ。

クレジットカード情報も記憶可能
Wi-Fiのパスワードなども登録できる
そのほか任意の情報を安全ノートに記憶させることが可能

スマートフォンでも利用可能

 もちろん、スマートフォン用のアプリも提供されている。

 Androidで試してみたが、通知領域にLastPassのヘルパーが常に表示されるようになり、ここをタップすることで現在表示中のサイトに登録したパスワードを入力できるようになっている(LastPass内蔵のブラウザーでもパスワード入力可能)。

 スマートフォンでは、一般的にブラウザーでサービスにサインインする機会よりも、各サービス専用のアプリを使う機会の方が多いが、そういった場合でもヘルパーを使ったサインインが可能だ。

 しかも、機種によっては指紋認証でのLastPass認証がサポートされるため、「使いたいアプリを起動→認証画面で通知領域のヘルパーをタップ→指紋認証でLastPassにサインイン→パスワードを自動入力」という流れでパスワードを一度も入力せずともWebサイトやアプリを利用可能になる。

 ただし、アプリによってはヘルパーからの入力ができない場合もある。たとえば、LINEのパスコードロックなどは、この対象外となり、ロック画面を解除するためにヘルパーを起動しても記憶させたコードを入力することはできない。

 このため、アプリ次第ではあるが、アプリに認証情報を記憶させておくことを辞めてしまうこともできる。

 スマートフォン向けのアプリの多くは、ユーザーIDやパスワードなどの認証情報の入力を省くために記憶させておくことができるが、この場合、端末のロックが破られるとアプリからいろいろなサービスへとサインインし放題となってしまう。

 LastPassを利用すれば、この間にワンクッション設けることで、アプリを窓口としたサービスへのアクセスに障壁を設けることができる。個人ユーザーなら、そこまで神経質になる必要はないかもしれないが、ビジネスシーンでスマートフォンを使うなら、LastPassの利用を検討するのもアリだろう。

Androidでは通知領域のヘルパーを使ってパスワードを入力可能

やっぱり生体認証を組み合わせたい

 以上、Edgeの拡張機能として提供されるようになったパスワード管理サービス「LastPass」を使ってみたが、無料で使えるので、一度は試してみる価値があるサービスと言えそうだ。個人的にも、当初はブラウザーの機能で十分だと思っていたうえ、パスワード管理も自分ではしっかりやっているつもりであったが、考えを改めさせられた。

 とはいえ、同様のパスワード管理については、Windows 10そのものにWindows Helloという生体認証機能が搭載されており、これがあらゆるサービスで使えるようになるのが理想だ。

 実際、Windowsストアで映画などをレンタルする際は、さっと指紋を読み取らせるだけで、パスワード入力不要で購入手続きを完結させることができる。これと同じように、あらゆるサイトで指紋認証が使えるようになれば、本当の意味でパスワードの管理から解放されることになる。そう遠くない時期に、きっとそうなるだろう。

 とはいえ、現状は身の回りに増え続けるパスワードの管理を避けて通ることができない。その1つの解決方法としてLastPassは悪くないサービスと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。