清水理史の「イニシャルB」

Evernoteからの完全移行は無理でも併用の検討も Synology「Note Station」

 SynolgyのNAS向けに提供されている「Note Station」は、EvernoteやOneNoteのように使えるオンラインメモ機能だ。Evernoteからのデータインポートもサポートしており、Evernoteからの移行もしくは、併用に適した機能となっている。

質より量

 正直、最先端の機能で完全武装されたEvernoteやOnenoteと比べると、機能的には物足りない部分もある。

 しかし、容量や月額料金に悩まされずに済むこと、データを自分の手の内で管理できることを考えると、SynologyのNASに搭載されている「Note Station」は、利用を検討する価値があるサービスの1つと言えそうだ。

 Note Stationは、EvernoteやOnenoteと同様に、テキストや画像、音声、動画などのデータをメモとして手軽に記録することができる機能だ。

 SynologyのNASに追加可能なパッケージとして提供されており、NASのユーザーであれば台数を問わず無料で利用できるうえ、その容量もNASに搭載されているストレージを上限として基本的に制限なく利用することが可能。

 Chrome向けとなるが拡張機能によるWebクリップが可能だったり、スマートフォン(iOS、Android)向けのアプリも提供されたり、タグによる管理や共有が可能など、アイデアのメモや情報収集、ToDo管理などに活用できる機能を一通り備えている。

SynologyのNAS向けに提供されているアプリ「Note Station」。EvernoteやOneNoteライクに使える

 実際に使ってみると、写真撮影した書類の検索や文字認識ができなかったり、ノートに直接手書き入力できなかったり(別画面で手書きして貼り付ける)と、若干、残念な部分は見えてくるのだが、単純なメモを書き溜めるには十分な機能を備えている。

 先般、無料プランで同期できるデバイスが2台に制限されたり、有料プランの料金が実質的に値上げされたりと、Evernoteのサービス内容が改定されたこともあり、その移行先を探しているユーザーも少なくないだろう。

 もちろん、移行先の最有力候補はOneNoteになるかと思われるが、OneNoteも無料アプリは商業利用不可などの制限があるうえ、OneDriveの容量も5GBと、もはや潤沢とは言えない。

 そこで今回注目したいのが、Evernoteからのデータ移行もサポートしているSynologyのNote Stationというわけだ。

Note Stationを使ってみよう

 Note Stationは複数のアプリによって構成されるサービスだ。

 核となるのは、「パッケージセンター」からインストール可能なパッケージで、これだけでも、ブラウザー経由でアクセス可能なWeb UIから、さまざまなメモを記録することが可能となっている。

 アイデアを書き留めたり、ToDoリストとして忘れたら困ることなどを記録しておきたいなら、これだけでも十分に利用可能だ。

パッケージセンターから導入可能
テキストを記録。フォントを調整したり、表やグラフを挿入したりと、結構、豊富な編集機能を備える。音声の記録や画像の挿入なども可能
ToDoリストも個別に作成できるなどかなり機能は豊富
プレゼンモードに切り替えると、メモの内容をPowerPointのように表示できる

 もしも、外出先でも活用したり、写真などを手軽に記録したい場合は、スマートフォン向けのアプリを利用すると便利だ。

 他のアプリ(DS fileやDS video)はWindows 10 Mobile向けも提供しているSynologyだけに、iOS版とAndroid版しか提供されないのは残念だが、スマートフォン向けの「DS note」というアプリを利用すると、自宅やオフィスに設置したNAS上のNote Stationとデータを同期して、端末上で参照することができる。

 もちろん、アプリを使って情報を記録することも可能で、スマートフォンのカメラで撮影した写真や動画、マイクを使って録音した音声などをテキストデータなどと一緒に記録することもできる。

スマートフォン用のアプリ「DS note」
手書きメモもできる

 このあたりは、操作性の違いはあるにせよ、EvernoteやOneNoteなどとほぼ共通だ。オフラインの状態でも、メモに直接貼り付けられた画像など、添付ファイル以外のデータはそのまま参照可能となっている。

 前述したように、他のサービスでは可能な画像内の文字検索などができないため、書類を写真で撮りためて保管する場合などは、テキストで情報を補足したり、タグをうまく活用する必要があるが、慣れてしまえばさほど苦にならないだろう。

 筆者などは、どちらかというとスマートフォンは閲覧用で、主にデータを記録するのはPCを使う機会が多いのだが、そういった場合はブラウザー向けの拡張機能を追加しておくことをおすすめする。

 現状は、Chrome向けのみとなるが、「Synology Web Clipper」をインストールすることで、現在、表示中のWebページを簡単にNote Stationに取り込むことができる。OneNote向けの拡張機能などと同様に複数の方法での取り込みに対応しており、「フルコンテンツ(ページ全体)」「簡易化コンテンツ(テキスト)」「ページ全体のスクリーンショット」「スクリーンショット(部分選択)」を選択して取り込むことができる。

 容量制限のあるサービスでは、「ちょっと気になる」程度の記事だと、もったいないのでクリップしておくことを躊躇するが、Note Stationでは容量をまったく気にせず使えるため、ブックマークや後で読むの変わりとしても、どんどんクリップすることができるのが魅力だ。

Synology Web ClipperをインストールするとWebページのメモが簡単にできる

Evernoteからの取り込みも簡単

 Evernoteからの移行だが、データのインポート機能を利用する。ブラウザーからNote Stationの設定ページを表示し、「インポートおよびエクスポート」で「Evernoteからインポート」を実行する。

 Evernoteへのアクセスを許可後、取り込むノートブックを選択すれば、タグなどの設定も含めて、インターネット経由で自動的にデータがインポートされる。

 筆者は、どちらかというとOneNote派だったため、Evernoteにあまり多くのデータを保存していなかったうえ、保存されているメモもテキストと写真、たまにWeb程度で、あまり凝ったものを保存していなかったので、インポートがどれくらいの精度で行われるかを正確に判断できない。しかし少なくとも、筆者の環境ではインポートに失敗したり、インポートしたデータが欠損するなどのトラブルは見られなかった。

 スマートフォン向けのアプリの操作性や機能に不満がなければ、思い切って移行してしまうのも1つの手だ。

 もちろん、どうしてもEverenoteを使いたいという人もいることだろう。その場合は、Note Stationと併用するのも一つの手だ。

 例えばWebのクリップや、動画、音声といった雑多な情報収集にNote Stationを利用し、どうしてもEvernoteでなければ困るというデータだけ、Evernoteのクライアントを利用する。

 そのうえで、定期的に、Note Stationにデータをインポートし、データをマージしておくというのも悪くない使い方と言えそうだ。

Evernoteのデータをインポート可能
インポートするノートブックを指定する
インポートしたデータ。試した限りではタグも含め正常にインポートできた

何も考えずに情報をため込める

 以上、SynologyのNASに搭載されているNote Stationを改めて使ってみたが、こういったサービスは、冒頭でも触れたとおり、質よりむしろ量といって側面もあり、何も気にせずドカドカと情報をため込んでいくことができることは、細かな使い勝手などどうでも良くなるほどインパクトがある魅力であると実感した。

 登場当初は、もっと貧弱だったNote Stationの機能も、気が付けば、商用サービスと決してかけ離れたものではなくなりつつある。クラウドほどのスピード感ではないにせよ、今後の進化も期待できるので、本格的に乗り換えることを検討するのも現実的な話と言えそうだ。

 特に企業では、メモという手軽な存在にこそ、重要なデータが紛れ込んでしまっている現状があるはずだ。会議室のホワイトボード、内々の資料の写真などがEvernoteなどの外部のサービスに保存されている状況は否定できないに違いない。

 これに対して、Note Stationであれば、データは社内で完結するうえ、本当に機密性の高い情報であれば、暗号化して記録することもできる。個人ユーザーの利用はもちろんだが、企業ユーザーの利用も現実的な機能と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。