第46回:ハードディスクもネットワークで増設する時代に
~メルコ LinkStation HD-80LANを試す~



 メルコから低価格ながら、高速かつ使いやすいNAS「LinkStation」シリーズが発売された。この製品の最大の特徴は、その性能ではなく“コンセプト”だ。果たして、どのようなコンセプトのもとに開発された機器なのか、その実態に迫ってみよう。





潜在的な家庭内LAN市場をにらんで

 ADSLやFTTHなどのブロードバンド環境の普及によって、家庭内でLANが構築されることも珍しくなくなってきた。しかし、現状、家庭内に構築されているLANは、あくまでもADSLモデムやルータを接続するためのインフラでしかなく、それがファイル共有などに利用されているケースはまだまだ少ない。いわば「潜在的な家庭内LAN」だ。

 これは、PC周辺機器メーカー、および家電メーカーから見るとおいしい市場だ。これまでのネットワーク機器市場は、主にネットワークを構築すること自体を目的とした製品で展開されていた。NICであり、ハブであり、ルータがそうだ。もちろん、ハブやルータなどの市場もまだまだ成長は期待できるが、これらの製品だけ展開していたのでは、今後、家庭内LANが普及しきったときに遠からず市場の縮小が訪れる可能性が高い。しかも、NICやハブ、ルータなどの機器は、低価格化が著しい。市場が大きい間は低価格で利幅が少ない製品でも十分商売になるが、市場が縮小すれば、うまみは少なくなる。

 しかし、ここに来て、この状況が変わりつつある。前述したように潜在的な家庭内LANの普及により、このような機器はすでにユーザーの手元にある程度存在するようになりつつある。つまり、単純にネットワークを構築するための機器だけでなく、すでに構築されている家庭内LANというインフラを利用して、さまざまなソリューションを展開できるようになってきたわけだ。

 実際、家電メーカーなどは、いち早くこの状況に気づいており、HDDレコーダーのネットワーク対応、ホームサーバーという新しいソリューションの提供など、積極的な製品攻勢をかけはじめている。また、ネットワークでファイルを共有するための「NAS(Network Attached Storage)」もPC周辺機器メーカーから、数多く登場してきている。ネットワークは、すでに構築するだけの時代から、活用する時代へと移行し始めているわけだ。





NASとは呼ばないで

 今回、取り上げるメルコのLinkStationも、まさにこのような市場をにらんだ製品と言える。ジャンル的に分類すれば、NASと言うことができるが、個人的にはこの製品をあまり「NAS」とは呼びたくない。これは決して悪い意味ではない。確かにLinkStationは機能的に見ればNASだが、その製品コンセプトはどちらかと言えば外付けハードディスクに近い。というか、外付けハードディスクそのものだからだ。


メルコのLinkStation HD-80LAN(80GBモデル)。実売で32,800円とかなりお手頃な価格。NASというより、ネットワーク接続の外付けハードディスクというイメージだ

 実際、LinkStationのパッケージには、NASという言葉は登場しない。製品自体の説明として使われているのは「外付けLANハードディスク」であり、パッケージには「ネットワークにみんなで使えるデータの引き出しをつくろう!」、「家族みんなの容量不足を解消!!」といったコピーが並んでいる。こういったユーセージ(usage)を主体としたコピーを使うこと自体もPC周辺機器としては画期的だが、LinkStation自体をNASとしてではなく、ネットワーク接続の外付けハードディスクと定義しているあたりも絶妙だ。

 NASという言葉は、あくまでもネットワークの知識をある程度持っているユーザーの発想だ。前述した潜在的な家庭内LANのユーザーにとって見れば、ネットワークはあくまでもADSLなどを使うためのケーブルや機器でしかない。もしかしたら、自分がネットワークを使っていると意識さえないと言える。ここに、「NAS」や「ファイル共有」といった言葉を持ち込んでも、それはユーザーに理解されにくい。

 しかしながら、単にインターフェイスにネットワークを採用した外付けハードディスクだと訴求すれば、初心者層のユーザーにとってこれほど理解しやすいものはない。他社製の同様の製品も同じようなコンセプトが見え隠れするが、ここまで初心者層を意識したマーケティング方法には、実に感心させられた。

 実際に使ってみても、この訴求方法が的確だということがよくわかる。メルコは、比較的手軽なセットアップ方法の提供やマニュアル作りのうまさでは定評のあるメーカーだが、この製品も例に漏れない簡単さを備えている。本体はブラウザによって設定可能だが、高度な使い方が不要ならこの設定も不要だ。共有フォルダは標準で誰もがアクセスできるもの(Win/Mac共)と、Macでのみ共有できるものがあらかじめ作成されている。また、IPアドレスもDHCPサーバーから自動取得するように設定されており(ユーティリティを使って固定で割り当てることも可能)、ワークグループ名さえ問題なければ、つなぐだけですぐに利用できる。しかも、付属のユーティリティを利用してPC側でセットアップを行なうと、LinkStationの共有フォルダがネットワークドライブとして自動的にマウントされる。この一連の動作は、まさに外付けハードディスクに他ならない。


付属のユーティリティを利用することで、数ステップでセットアップは完了。このときPCに設定されているワークグループ名がLinkStationに自動設定され、同時に共有フォルダがネットワークドライブとして割り当てられる

 ネットワークドライブとしてマウントするなど、ネットワークの知識があるユーザーにとってみれば取るに足らない機能かもしれない。しかし、このようなちょっとした工夫でも初心者にとってみればありがたいものだ。なにより、このようなネットワークドライブへの割り当てをユーザーに意識させない形で、自動的に行なうあたりが心憎い。増設用ハードディスクとして購入したが、気がついたらネットワーク経由で他のPCからも使えたというイメージに近い。


ネットワークドライブとして割り当てられたLinkStationの共有フォルダ。使い勝手としては、やはり外付けハードディスクに近い

 ちなみに、このマーケティング方法は、他のネットワーク機器にも応用できるはずだ。たとえば、プリントサーバーなどを同じ手法で販売するのも面白い。プリントサーバーというとどうしても難しいイメージが払拭できないが、プリンタ用LANアダプタというコンセプトにし、より使いやすくすれば、それはそれで需要があるかもしれない。





性能も文句なし

 気になる性能面だが、同社が「最大スループット72.5Mbpsの高速アクセス」と言うだけあって、速度的な不満は一切ない。念のため、ファイル転送のテストを実施してみたが、実測値でも最大64Mbpsとかなり高速だ。1ファイルの転送だけでなく、複数ファイルの転送ではかなり速度が低下するが、これは通常のPCでファイル共有した場合も同様の傾向が見られるので、PCサーバーと比べても性能的には遜色ないと言えるだろう。

 200MB 1ファイル転送200MB 複数ファイル転送
PC to PC書込み(クライアント→PCサーバー)6.45MB/s(51.60Mbps)1.96MB/s(15.68Mbps)
読み込み(PCサーバー→クライアント)8.00MB/s(64.00Mbps)1.76MB/s(14.08Mbps)
LinkStation書込み(クライアント→LinkStation)6.89MB/s(55.12Mbps)1.87MB/s(14.96Mbps)
読み込み(LinkStation→クライアント)4.76MB/s(38.08Mbps)1.21MB/s(9.68Mbps)
USB2.0 HDD書込み(PC→HDD)18.18MB/s(145.44Mbps)3.44MB/s(27.52Mbps)
読み込み(HDD→PC)16.66MB/s(133.28Mbps)2.15MB/s(17.20Mbps)
※クライアントにはPentium4 3.06GGz、メモリ1GBのPCを、PCサーバーにはPentiumIII 733MHz、メモリ512MBのマシンを使用。
※PCサーバー、クライアント、LinkStationは、100BASE-TX/10BASE-Tのスイッチングハブを経由し100Mbpsにて接続。
※コピーに要した時間を手動で計測し、容量から速度を計算。このため、値には多少の誤差が含まれる。

 ただし、USB2.0で接続した外付けハードディスクと比べると、かなり速度は落ちる。USB2.0接続のハードディスクの速度は最大で145Mbpsと2倍以上も速い。複数ファイル転送であれば、その差を縮めることもできるが、やはり速度的にはかなわない。100BASE-TXの速度的な限界がある以上、これと比較するのは酷だろう。

 ただし、実際にファイルを転送する操作をしてみても、遅いと感じることは一切なく、数値で表れるほどのストレスを感じることはない。実用的なレベルで考えれば、速度的な面で不満を感じることはないと言ってもいいだろう。





いかんともしがたいファンの動作音

 ただし、弱点もある。まずは、アクセス制御の機能が貧弱な点だ。LinkStationでは、グループ単位でフォルダにアクセス権を設定することができるのだが、ユーザーはひとつのグループにしか参加できない仕様になっている。このため、ユーザーが多いケースでは、アクセス権の制御が複雑になりがちになってしまう。

 しかしながら、この機能が必要とされるのは、主にユーザーやグループが多い企業などで利用する場合に必要な機能であり、家庭で利用する分にはあまり問題にならない。一般的な使い方であれば、ユーザーごとにひとつのグループを割り当て、各ユーザーのみがアクセスできる自分専用フォルダ、あとは必要に応じて特定のユーザーだけがアクセスできるフォルダを作成するなどの運用をすれば済む。

 そもそも複数グループにユーザーを登録するという考え方自体がNAS的発想であって、外付けハードディスクだというコンセプトを考えれば、アクセス制御に関してはここまでの機能が搭載されていれば十分と言える。よって、この点に関しては、実際にユーザーが購入する際の注意事項として留意しておけば済む程度の問題で、個人的にはあまり大きな欠点だとは認識していない。


アクセス権の制御はグループ単位に行なうが、ユーザーはひとつのグループにしか所属することはできない。このため、複雑なグルーピングによるアクセス権の制御はできない。本格的なサーバーOSの利用者にはかなり物足りないが、家庭用と割り切れば、逆にシンプルな方がわかりやすい

 むしろ、致命的なのはハードウェア的な問題だ。本製品では放熱対策として背面にファンが装着されているのだが、これが半端じゃなくうるさい。本製品に関しては、さまざまなメディアで試用した記事が掲載されており、そこでファンの音が欠点として指摘されていたのは知っていたが、まさかここまでうるさいとは思わなかった。イメージとしてはパソコンのファンの音に近いのだが、それよりも周波数が高く、非常に耳につく。正直、このファンが回りっぱなしの状態では、仮に同じ部屋で眠ることになっても安眠することはできないだろう。それくらいうるさい。

 ちなみに、あまりにもうるさいので、我が家では購入時のパッケージに本体を入れ、隙間からケーブルを出した状態で運用している。もちろん、放熱の問題があるため、読者におすすめすることはできないが、我が家では、冬のこの時期、この状態で1週間以上運用しているものの特に問題は発生していない。


あまりにもファンがうるさいため、筆者宅ではパッケージに入れて運用している。うまいことケーブルだけを出せるので、音はかなり静かになる。放熱の問題があるため、読者にすすめることはできない

 このようなファンの音の問題は、メーカー側でもすでに認識しており、同社によると、つい最近発表された新製品(HD-LAN160とHD-LAN250)では、ファンの回転数を落とすという対策がなされているとのことだ。既存モデルの80GB、120GBタイプでも改良された製品の投入を準備しているという。筆者自身、160GBモデルの音を実際に耳にしたわけではないので、どれくらい静かになっているかは不明だが、これから購入するのであれば対策されたモデルを確認して購入した方がいいだろう。





HD-160LAN(160GBモデル)限定でおすすめ

 結論としては、メルコのLinkStationは、そのコンセプト、製品の完成度共にかなり高く評価できる製品だと言える。現段階では、ファンの音の問題があるため、実質的に160GBモデルしかおすすめすることはできないが(250GBモデルは受注生産)、これもメーカー側が問題として認識している以上、他のモデルで改善されるのも時間の問題だろう。ネットワークでファイルを共有したいと考えている場合はもちろんだが、むしろ単純にハードディスクを増設したいと考えているユーザーにもおすすめしたい製品だ。


関連情報

2003/3/4 11:12


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。