第224回:他機器との組み合わせや分電盤の影響など特性を知ることが導入の鍵
松下電器産業の高速PLCアダプタ「BL-PA100」をテスト
松下電器産業から、国内初の高速PLCアダプタ「BL-PA100」が発売された。実際にどれくらいの速度で通信できるのか、どのような状況で使うと十分に性能を発揮できるのかを筆者宅でテストした。
●電力線を使ったLANを構築可能
BL-PA100 |
松下電器産業のHD-PLCの実力は相当に高いものだ。現状、家庭内のネットワークインフラとしては、いわゆる有線LAN(イーサネット)や無線LANが主流だが、電力線というこれまでになかった通信媒体を使いながら、これらのインフラとほぼ同等、状況によってはそれ以上の実力を発揮できるようになっている。
高速PLC、特に松下電器産業が提唱するHD-PLCについては、「松下電器産業、家庭向け高速PLC製品を12月9日に発売」、さらには「国内初の高速PLCアダプタ「BL-PA100」の機能をチェック」を参照していただきたいが、簡単に説明すると家庭内に敷設されている電力線を使って高速な通信を実現する製品だ。
最大の特徴は手軽さで、PCのLANポートとPLCアダプタをLANケーブルで接続後、PLCアダプタを家庭内の電源コンセントに接続する。これによって、PLCアダプタによって変換されたデータがコンセントから電力線を通じて家庭内に伝送され、ほかのコンセントに接続されているPLCアダプタ経由でルータなどの通信機器やほかのPCとの通信が可能になるという仕組みだ。
実際の利用方法も簡単で、2台のPLCアダプタが出荷時状態で設定済みとなっているスターターキットの場合、箱から出して接続するだけで即座に利用できる。アダプタを追加する場合、AESによる暗号化の設定を行なう必要があるが、これも親機となるマスターと子機となるターミナルの両方のボタンを押すだけで自動的に設定が完了するなど、非常に手軽に導入できる製品だ。
●実効50Mbpsでの通信にも成功
今回発売された松下電器産業の「BL-PA100」は、こうした手軽さからも大きな注目を集めているが、やはり気になるのはその速度だろう。BL-PA100の理論上の最大速度は190Mbps(LANポートが100BASE-TXのため実質的には100Mbps)となっているが、実際に家庭内で利用した場合に、どれくらいの速度で通信できるのかが大いに注目されるところだ。
というわけで、まずは最大速度を計測してみた。電源タップを利用してマスター(親機)とターミナル(子機)を近くに接続した状態で、FTPによる速度を計測したのが以下の表だ。FTPによる計測で60Mbps(PUT時)と、かなり高い値を実現できている。100BASE-TXの有線LANほどではないが、IEEE802.11a/gの無線LANをはるかに凌ぐ値となっており、電波状態が良いケースのMIMO/Draft11nの無線LANと互角の性能となっている。
製品 | GET値 | PUT値 |
汎用電源タップ | 49.7Mbps | 62.1Mbps |
サージプロテクター付きOAタップ | 49.7Mbps | 59.4Mbps |
※サーバーにはアイ・オー・データ機器 HDL-GT1.0を使用 ※クライアントにはCore Duo T2300E、RAM1.5GB、HDD160GB、Windows XP SP2搭載ノートを使用 ※コマンドプロンプトからFTPを起動し、3回計測した平均を記載 ※マスターとターミナルをタップに接続して計測 |
サージプロテクターやノイズフィルターの影響を受けるのは、PLCが利用する2~30MHz(HD-PLCの場合は4~28MHz)の周波数帯がフィルタされてしまう場合だ。オーディオ機器向けのOAタップの場合、1.5~100MHzとまさにPLCが利用する高周波をカットするような製品も存在するため、このような製品でPLCを利用することは不可能だが、主にサージ対策に主眼がおかれたOAタップでは、この周波数帯をカットするフィルタが搭載されていない場合もあるので、一概にOAタップが使えないというわけではない。OAタップ側のスペックをよく確認してから使うと良いだろう。
汎用的なタップとサージプロテクター付きのOAタップの両方を使い比べてみたが、今回の製品では大きな差は現れなかった。ただし、オーディオ向けのノイズフィルター付きタップは要注意 |
●接続地点や他の機器の影響を避けて使う工夫を
続いて、実際に筆者宅の各部屋のコンセントで速度を計測した。マスター(親機)にNASを接続し、PCに接続したターミナル(子機)を家庭内のさまざまなコンセントに接続してFTPによる速度を計測したのが以下の図版だ。なお、PLCアダプタはすべて壁のコンセントに直結しており、タップは利用していない。
筆者宅でのPLCのテスト結果。分電盤で分配されている2系統の配線をそれぞれ赤と青のコンセントで表示。また同一コンセントに家電などが接続されている場合は、可能な限りON/OFFした状態での速度を計測している |
まず、全体的な考察だが、最大速度はGETで41.7Mbps、PUTで53.9Mbpsを実現することができた。前述したタップの隣接コネクタ接続時に比べると結果は劣るが、それでも実効で40~50Mbpsという結果はかなり優秀だ。ただし、この結果は同一コンセントの別口に接続された洗濯機が稼働していないときの結果だ。洗濯機を稼働させると速度はGETで20Mbps、PUTで30Mbps程度まで低下した。同様に2Fの2-1、2-4、2-5でも速度低下を確認できたので、少なからず家電の影響を受けることはありそうだ。
家電製品が別口に接続されている場合は要注意。家電製品を稼働させることで速度が低下する場合もある |
●分電盤の影響を考慮してコンセントを選ぶ
続いて注目したいのが、図中で赤と青に分けたコンセントの結果だ。全体的に青のコンセントに接続した場合の値が高く、赤のコンセントに接続した場合の結果がふるわないことに気がつくだろう。
結論から言うとは、これは家庭内の分電盤の影響だ。通常、外から引き込まれてきた電気は、分電盤によってブレーカーなどを経由して2系統に分けられ、それぞれが別々に各部屋へと配線される。要するに、物理的につながっていない2系統の配線が家庭内に存在し、この間をまたがるような通信は速度が低下するということだ。
筆者宅の分電盤。上と下で各部屋へと分配されている電気の配線が異なる。この上下をまたがる通信の場合は著しく速度が低下する |
筆者宅3Fのコンセントは、場所によって系統が異なる。写真右下など一般的なコンセントと写真左上エアコンが接続されているコンセントは別系統となっている |
筆者宅は各部屋への配線を一度変更しているためにあまり一般的ではないのだが、通常は電力の集中を避けるために、部屋の下の方にあるコンセントとエアコンを接続するためのコンセントを別系統にするといった工夫がなされている。上記の筆者宅の図版では3Fがまさにそうで、3-1の青のコンセントは壁の下の方に用意された通常の家電を接続するためのもの、3-2の赤のコンセントはエアコン用のコンセントだ。
このように、電力の集中を避けるために、同一室内のコンセントでも、別系統となっているケースも少なくない。このため、PLCを利用する場合は、どのコンセントがどのコンセントと同じ系統になっているかを確認し、同一系統でネットワークを構築できるように工夫することが重要だ。
たとえば、今回のテストではマスターを青のコンセントに接続しているため、同一配線上となる同じ青のコンセントに接続した場合は高い速度が実現できたが、赤のコンセントで高速な通信をしたければマスターを同じ赤のコンセントに接続する必要があるということになる。ただし、残念ながら筆者宅のように、1Fに赤のコンセントがないため青を使わざるを得ないようなケースもある。このあたりは、家の配線状況によって大きく左右されるため、工夫したくてもどうしようもない(電気工事をすれば改善できるが……)場合もあることを覚悟しておこう。
●携帯電話の充電器に要注意
前述したように、PLCの速度は近くのコンセントに接続されている機器の影響を受ける場合がある。そこで、どのような家電で、どれくらいの影響があるのかを調べてみたのが以下の表だ。
製品 | GET値 | PUT値 |
ノートPC | 49.3Mbps | 59.0Mbps |
デスクトップPC | 49.7Mbps | 61.9Mbps |
ドライヤー | 49.7Mbps | 59.0Mbps |
携帯電話充電器 | 34.6Mbps | 17.7Mbps |
ゲーム機充電(Nintendo DS Lite) | 37.6Mbps | 39.5Mbps |
携帯電話+ゲーム機 | 37.9Mbps | 21.3Mbps |
※サーバーにはアイ・オー・データ機器 HDL-GT1.0を使用 ※クライアントにはCore Duo T2300E、RAM1.5GB、HDD160GB、Windows XP SP2搭載ノートを使用 ※コマンドプロンプトからFTPを起動し、3回計測した平均を記載 ※マスターとターミナルを汎用タップに接続し、その間に上記の機器を接続して計測 |
結果を見ると、デスクトップPCなどノイズのかたまりのような機器の影響はほとんどなく、世間で言われているようなドライヤーもほとんど速度に影響はなかった。PCに関しては、ノイズが出ているとしてもPLCに影響を与えるノイズとは異なる周波数のノイズ(もっと高い)であることが幸いしていると考えられる。一方のドライヤーは国内の家電製品はノイズ対策がしっかりできているため、これも影響がないと考えられる。
意外だったのは携帯電話の充電器やゲーム機の充電アダプタだ。これらをPLCと同じタップに接続してみたところ、速度は一気に低下し、ひどい場合は約60Mbpsの最大速度が17.7Mbps(PUTの場合)まで低下している。なぜ、ここまで顕著に速度が低下するのかという原因はわからないが、とにかくこれらの機器はPLCにとって天敵ということになる。同一タップへの接続を避けるのはもちろんのこと、可能ならまったく別のコンセントに接続した方が良いだろう(可能なら別系統が理想)。
携帯電話の充電器はPLCへの影響が少なくない機器の1つ。同一コンセント、同一タップへの接続は避けるべきだろう |
●集合住宅を想定して複数マスターを設置
最後に複数台のPLCアダプタを利用した場合の影響を調べてみた。まずは複数台の機器をPLCで接続する場合を想定したテストだ。ターミナルを1台から3台まで増設した場合の速度を計測してみた。
ターミナル | GET値 | PUT値 |
1ターミナル | 50.0Mbps | 62.9Mbps |
2ターミナル | 33.6Mbps | 35.3Mbps |
3ターミナル | 27.6Mbps | 27.2Mbps |
※サーバーにはアイ・オー・データ機器 HDL-GT1.0を使用 ※クライアントにはCore Duo T2300E、RAM1.5GB、HDD160GB、Windows XP SP2搭載ノートを使用 ※コマンドプロンプトからFTPを起動し、3回計測した平均を記載 ※すべてのマスターとターミナルを汎用タップに接続し、その間に上記の機器を接続して計測 ※他のクライアントでDVDのisoイメージをダウンロードしながらFTPで速度を測定 |
結果を見ると、ターミナルが増えれば増えるほど速度は低下することがわかる。もちろん、単純に増設しただけでは速度は低下しない。Windowsの場合、定期的にブロードキャストを投げるため、その影響がないわけではないが、表のように著しく速度が低下するのは同時に通信した場合、それも帯域を大幅に消費するようなダウンロードや高品質映像のストリーム再生した場合だ。
HD-PLCは、MAC層の通信方式に無線LANと同じCSMA/CAを採用している。これは複数端末が同一伝送媒体を共有する場合に通信の衝突を避けるための方式だ。具体的には通信前にほかの端末が通信していないか、自分宛の信号が伝送されていないかを調べる。その結果、伝送媒体が空いていれば信号を送信し、伝送媒体が埋まっている場合は一定時間待機してから信号を再送する(運悪く同時に送信が衝突したら再送する)。
つまり、電力線という同一媒体を複数端末で共有する以上、その媒体をほかの端末が使っている可能性が高くなり、その分、待機時間が増えて速度が低下するということになる。イーサネットのようにスイッチを利用できれば話は別だが、同一電力線を利用する以上、台数が増えるほど帯域が減るのは仕組み的に致し方ないだろう。
同一通信経路上に複数ターミナルや複数組のPLCアダプタが存在する場合、同時通信による速度の低下はまぬがれない。ただし、これは無線LANなどの既存の通信方式でも発生する通信方式上の制限だ |
続いて、集合住宅の場合を想定して複数台のマスターがある場合のテストをしてみた。具体的には、同一タップに2組のPLCアダプタ(マスターを2台、ターミナルを2台)を接続した場合の速度を測定している。要するに、自宅に加えて、隣の部屋でもPLCを使っている場合にどのような影響があるかを調べるテストだ。
PLC系統数 | GET値 | PUT値 |
PLC1系統 | 48.7Mbps | 62.4Mbps |
PLC2系統(接続のみ) | 48.4Mbps | 62.9Mbps |
PLC2系統(Youtube動画再生時) | 49.7Mbps | 63.5Mbps |
PLC2系統(HTTPダウンロード時) | 26.7Mbps | 27.1Mbps |
※サーバーにはアイ・オー・データ機器 HDL-GT1.0を使用 ※クライアントにはCore Duo T2300E、RAM1.5GB、HDD160GB、Windows XP SP2搭載ノートを使用 ※コマンドプロンプトからFTPを起動し、3回計測した平均を記載 ※すべてのマスターとターミナルを汎用タップに接続し、その間に上記の機器を接続して計測 ※1系統目のマスターとターミナル間で通信しながら、2系統目のマスターとターミナルでFTPによる速度を計測 |
上記の結果を見ると、まず複数系統のPLCが接続されているだけでは影響はほとんどないと言える(複数ターミナルと同様の理由)。また、複数系統のPLCが存在する場合でも、他方がさほど帯域を消費していない場合(表のYoutube再生のようにさほど速度が要求されない場合)は速度の落ち込みもさほどない。しかしながら、他方がファイルのダウンロードや高品質映像のストリーム再生など、高い帯域を消費すると速度が低下することが確認できた。
実際の集合住宅では、他の部屋でPLCを利用していたいとしても、電力線の配線状況によってその影響の具合が異なる。実質的には、おそらく他の部屋の信号が減衰する可能性がたかく、ここまでの影響が出るとは限らない。また、ネットワークの利用がメールやウェブの閲覧など、さほど帯域を必要とせず、しかも連続的な転送が必要とされないケースが多いことを考えると、実質的な影響はあまり心配しなくても良いのではないだろうか。
●PLCをうまくつかうコツ
以上、あくまでも筆者宅という限られた環境でのテストに過ぎないが、これによりPLCの特性がいくつか明らかになったと言えるだろう。個人的には、以下のような点に注意してPLCを利用することをおすすめしたい。
- 家庭内の電力線配線を確認する
- 影響のありそうな家電製品があるコンセントへの接続は避ける
- 必要最低限のターミナルで運用する
家庭内の電気配線はいわゆるタコ足になっている場合が多いが、こういった環境でそのままPLCを利用することはおすすめできない。そもそも配線をスッキリさせるためのPLCでもあるので、可能な限り壁のコンセントに直結するという使い方を推奨したいところだ。
最後に、PLCに関しては、先週のニュース「高速PLCの事業認可取消を求めてアマチュア無線家など115名が行政訴訟」にあったように、アマチュア無線や短波ラジオなどへの影響を懸念している人々もいる。製品発表会の席では、HD-PLCに関してはアマチュア無線などへの漏洩対策もしてある(利用する周波数帯の信号をカットしている)との発表があったが、やはり既存の無線システムと新しいPLCがうまく共存できるようになるのが理想だろう。
ホームネットワークという観点で見ると、無線LANだけではカバーしきれない環境があるのも事実で、こういったケースではPLCの存在意義は大きい。もちろん、その一方でアマチュア無線や短波ラジオなどの重要性も無視できない。両者ともに不利益を被らない形での解決を望みたいところだ。
関連情報
2006/12/12 11:01
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