第375回:新型Atomで作るホームサーバー
Intel D510MOの性能と消費電力をチェック


 インテルから、GPUとメモリコントローラーを統合した新型Atomプラットフォームが登場した。NAS製品への搭載も予定されている、本プラットフォームの家庭用サーバーとしての実力を検証してみた。

より小さく、より低消費電力へ

 インテルからGPUを内蔵した最新CPUがリリースされた。と言っても、ここで取り上げるのは「Core i5/i3」ではない。どちらかというと地味な「Pine Trail」、しかもデスクトップ向けの新型Atomとなる「Atom D510/D410」の方だ。

 これまでの「Atom 230/330」は、Windows Home ServerベースのホームサーバーやNAS製品に採用されるなど、低消費電力と低発熱、低価格を活かした展開がなされていた。そして今回の新型Atomでは、GPUとメモリコントローラーがCPUに内蔵され、小型化とさらなる低消費電力化が図られている(従来比20%ほどと言われている)。


Mini-ITXケースに組み込んだ状態のインテルの新型Atom搭載マザーボード「D510MO」背面ポートはかなり限られる。このあたりもやはりNASやホームサーバー向きと言える

 実際の製品としては、インテルやFOXCONNなどからマザーボードが発売されているが、今回試用したのはインテルの「D510MO」だ。デュアルコアとHyperThreadingの構成で、1.66GHz(2次キャッシュ1MB/TDP13W)の「Atom D510」と「NM10チップセット」を搭載したMini-ITXのマザーボードだ。また、2本のDIMMスロット(DDR2 800/667/最大4GB)と1本のPCIスロット、ギガビットイーサネット、PCI Express Mini Cardスロットなどを搭載している。

 HDMI端子を搭載していない点などは、クライアント向けの利用を考えると物足りない部分もあるが、従来のAtomでは100Mbpsの場合が多かった内蔵LANがギガビットイーサネット化されるなど、ホームサーバーやNASとして利用するには、うってつけのマザーボードとなっている。それでは、従来のAtomシリーズと比較しながら、その実力を検証していこう。

グラフィックはやはりIONか


今回のテストに使ったAtom搭載PC

 今回、比較用として用意したのは、GIGABYTEの「Atom 230」搭載マザーボード「GC-GA230D」と、ZOTACの「Atom 330」と「IONマザーボード」で構成された「IONITX-A/U」の2製品だ。

 前者の「GC-GA230D」は、筆者宅で長らく「Windows Home Server」を稼働させてきた初代サーバーマシンに使っていた製品で、後者の「IONITX-A/U」はクライアント用に以前購入した製品となる。これら製品との比較によって、初代AtomやIONプラットフォームと性能や省電力にどれくらいの違いがあるのかを検証した。


表1:テスト環境

 まずは、全体的な性能を比較するために、Windows 7をインストール後、「PCMark Vantage」を利用してパフォーマンスをチェックした。なお、「D510MO」では64bit用ドライバーが古いことが原因か(GMA3150用の64bit版ドライバは10月の日付だった)、「PCMark Vantage」がエラーで完走しなかった。このため、今回はすべての環境で32bit版を利用している点をお断わりしておく。


グラフ1:OSにはWindows 7 Ultimate 32bit版を使用

 結果をみると、なかなか良好な結果と言えそうだ。シングルコアとデュアルコアとの比較なので当然とも言えるが、「Atom 230」の結果をすべてのシーンで上回っており、MemoriesやGaminなどの項目もCPU統合の影響か値が向上している。

 とは言え、Memoriesに関しては、デュアルチャネルの「IONITX」に大きく引き離されている(Atomはいずれもシングルチャネル)。また、Gamingの項目も後塵を拝する結果となった。Productivityの結果からもわかるとおり、従来のAtomに比べると操作の軽快さなどは向上した印象があるが、それでもマルチメディア系の処理はあまり得意とは言えないようだ。

 このことから、クライアントとして利用することを考えると、現状ではまだまだIONプラットフォームの方がパフォーマンスは有利と言えそうだ。

サーバー用としてのバランスに優れる

 このように、単純にパフォーマンスを比較すると、Mini-ITXのプラットフォームとしては、まだまだIONの存在感が大きい。

 しかし、そのIONとて、本格的な映像再生や3Dゲームなどの常用を考えると、ハイエンドシステムには及ばない。特に「Core i5/i3」が低価格で登場してきた現在となっては、クライアント用としてIONを選ぶかどうかは難しい判断を迫られるだろう。

 そう考えると、小型で消費電力の少ないMini-ITXプラットフォームは、やはりNASやホームサーバーとして利用する方が向いている。そして、この用途で使う限り、グラフィック性能はあまり問題にならないわけだ。

 それでは、肝心の消費電力はどれくらいの実力となっているのだろうか。ここでは、各製品に同一のメモリー(「GC-GA230D」はDIMMスロット1本のためメモリー1本。それ以外は2本4GB)、HDD(WD10EADS)を搭載した状態で、ワットチェッカーで計測した結果が以下のグラフだ。


グラフ2:起動後数分経過後とPCMarkVantage計測中の最高値をワットチェッカーで計測。OSは「Windows 7 Ultimate 32bit」を使用。「IONITX-A-U」はACアダプタ仕様のため、電源はほかと異なる

 結果は、さほど差がないという印象だ。「Atom 230」に関しては、シングルコアであるにもかかわらず省電力が高く、さらにアイドルとピークの差があまりない。これと比較すると、「Atom D510」はかなり省電力化されているが、「ION」とはほぼ互角になっている。

 ただ、このグラフはアイドル時とピーク時(ベンチ中のCPU稼働率100%時点)だけを抜き出したものであるため、正確な判断はできない。ワットチェッカーの値を眺めていると、「Atom D510」のシステムは40Wを超えるのはシステムに高い負荷がかかったときのみと非常に限られており、通常の使用ではほぼ35~36W程度であまり変動しない。

 このため、長時間の駆動などを考慮すると、「Atom D510」のほうがトータルの消費電力は低い可能性もある。もちろん、実際に長期的なテストをしないとはっきりとした判断はできないが、こういった点も常時稼働に適していると判断できそうだ。

ファイルサーバーとしての実力

 続いて、ファイルサーバーとしての実力を検証してみよう。各システムに「Windows Home Server」をインストールし、クライアントで共有フォルダをドライブにマウント後、「CrystalDiskMark2.2」で転送速度を計測した。

 なお、「GC-230D」に関しては、オンボードのLANが100BASE-TX対応となるため、PCIスロットにギガビットイーサネット対応のボードを装着してテストしている。従来のAtomでは、このようにギガビットイーサネット化に一手間必要だったが、その手間がなくなった点も新型Atomシリーズの魅力だ。


グラフ3:OSにはWindows Home Serverを、クライアントには「ThinkPad X200(Core2Duo P8400/RAM4GB/X25-M/Windows 7 Ultimate 64bit)」を使用

 結果は、「Atom D510」のシステムが書き込みで若干高い値を出しているが、ほぼ互角と考えて良いだろう。ファイルサーバーとして利用する場合、ネットワークやHDDの性能が影響しやすく、CPUの違いはあまり影響しない。この結果を見ると、なるほど従来のAtomの性能と同等で構わないので、とにかく消費電力を抑えようという新型Atomの方向性がよく理解できるところだ。

新型Atomでホームサーバーを

 以上、インテルから登場した新型Atomの実力をサーバー用途の面から検証してみたが、なかなか使い勝手のよさそうな製品だ。

 単純なパフォーマンスではIONが有利だが、今回使用したインテルの「D510MO」の実売価格は8000円前後と、ION搭載マザーボードの半額(場合によっては3分の1)程度とかなり低価格で入手できる。メモリーとケース、HDDを揃えても、4~5万円もあればNASやホームサーバー向けのシステムが組み上がる。

 Thecusが発売するNASケース「N4200」のように、市販製品でも新型Atomを採用している製品も存在するが、コストパフォーマンスや消費電力を考えると、今後、小規模環境や家庭用のサーバー/NASプラットフォームとして主流になることは間違いなさそうだ。

 なお、実際にインテルの「D510MO」を運用する際の注意を1点紹介しておく。このマザーボードは大型のヒートシンクが搭載されたファンレスのマザーボードとなっているが、そのままMini-ITXケースなどに入れて運用すると、温度がかなり高くなる傾向にある。

 ケースのエアフローがじゅうぶん確保されており、ヒートシンクにエアーがとおるケースであれば問題ないかもしれないが、小型のケースでは通常エアフローがあまり好ましくない。このような場合、あっという間にCPUの温度が上昇してしまい、常用に支障が出る可能性がある。以下は筆者宅の環境で、ファンレスとファンを装着した場合のCPUのコア温度の違いだ。


グラフ4:100×100×12mm/1000rpm(Scythe KAZE-JYU)を吹きつけで使用し、「CPUID Hardware Monitor」にてCPUのCore Tempを計測(高い方のコア温度)。ケースは「Scythe SCY-402-ITX-BK」、HDDは「Seagate ST31000333AS」を使用。温度は負荷によって34~38度付近で一定

「CPUID Hardware Monitor」の表示。左がファンなし、右がファンあり

 手元にあった薄型の低回転ファンを使用してみたが、少し風を吹きつけるだけで、大きくCPUの温度が下がることがわかった。新型Atomはもともと低発熱であることも特徴だが、ファンをつけるとその特徴が如実にわかる。


ファンをつければ温度が大きく下がる。常時稼働には必須

 低騒音のファンを使えば、ファンレスと変わらない静音性も得られるはずなので、24時間稼働サーバーとしての利用を検討している場合は、ぜひファンをつけての運用をおすすめしたい。


関連情報

2010/1/19 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。