第411回:インターネット経由での印刷も可能に
新ファームで進化した米CloudEngines「Pogoplug」


 米CloudEngines社製のNASアダプタ「Pogoplug」にプリンタ対応の新ファームが登場した。日本語対応、iPadアプリ、SeagateへのOEM供給など、Pogoplugの今をあらためて紹介しよう。

日本語で使えるようになったPogoplug

 以前、本コラムでレポートした米CloudEngines社製のNASアダプタ「Pogoplug」が、バージョンアップによって大幅に使いやすくなった。

 「クラウド」と言うだけあって、サービスのバージョンアップは頻繁に行われており、レポート当時英語のみだったUIは、若干ほほえましい表記こそあるものの、日本語化されたうえ、9月の始めにiPad用のアプリ(Pogoplug HD)がApp Storeで公開されたり、10月の新ファームウェアでプリンタの共有にも対応した。

 このほか、Seagate製のネットワーク対応メディア共有デバイス「FreeAgent GoFlex Net」にも採用されたり、「Pogoplug Biz」と呼ばれる企業向けの製品(アクセス履歴の取得やUIカスタマイズに対応)も登場するなど、着々と進化を遂げている。

 中でも、ハードウェアのアップデートにより実現されたプリンタの共有機能はなかなか面白く、インターネット経由での印刷やメール経由での印刷が可能なうえ、完全な対応とは言えないもののiPhoneやiPadからの印刷なども可能となっている。

 日本からもAmazon.comに出店している店舗などでインターナショナルシッピングに対応しているショップを選べば購入できるので、こういった国内のNAS製品にはない機能を使ってみたい人は試してみると良いだろう。

米CloudEngines社製のNASアダプタ「Pogoplug」OEMされたPogoplugと同じエンジンを搭載したSeagate製のFreeAgent GoFlex Net。2.5インチのHDD2台を脱着可能

使いやすくなったiPad版アプリ

 では、実際に進化した点を紹介していこう。

 まずは、iPad用のアプリ「PogoplugHD」だ。iPhone用のアプリは今年の4月から公開されていたが、ようやくiPad用が登場した。高解像度の恩恵で、左側にライブラリ、右側にファイルを表示できるようになった恩恵は大きく、iPhone版に比べるとファイルへのアクセスが容易となった。

iPad用のアプリ。高解像度を活かして、操作しやすい画面レイアウトを実現している

 もちろん、アプリを使わずにブラウザを利用してPogoplugにアクセスすることもできるのだが、アプリを利用するとPDFやOffice文書を一旦サーバー側で変換せずに直接表示することができるのがメリットだ。iPhone版では表示できなかったdocxやpptx、xlsxなどのOffice 2007以降の形式で作成したファイルもそのまま表示可能だ。

 さすがに編集はできないが、ビューワーとしてiPadを使えるようになったのは、非常に大きなメリットだろう。

 なお、従来のiPhone版アプリ同様、事前にトンランスコードした映像を再生することも可能だが、画面の大きなiPadで見ると、画面の荒さが目立つようになってしまった。せっかくなので、トランスコードの品質も向上して欲しかったところだ。

Microsoft Officeの2007以降の形式にも対応。日本語のテキストもUTF-8なら文字化けなく表示できるウェブブラウザーを利用してアクセスすることも可能。ただし、この場合はサーバー側で一旦変換してからファイルを表示することになる
保存した動画をバックグラウンドで自動的にトランスコードしておく設定が可能。デジタルビデオカメラのMTSなども再生できるようになる。ただし、iPhone3Gを想定した解像度になるため、iPadで見ると荒い印象がある

プリンターを認識可能に

 続いて、つい先日のアップデートで利用可能になったプリンタの共有機能を紹介しよう。プリンタの共有と言っても、いわゆるプリントサーバーとは異なり、インターネット経由での印刷ができるなど、Pogoplugならではの機能となっている。

 実は、このプリンタの共有機能の提供が明らかにされたのは、今年の8月なのだが、開発の遅れに加え、Pogoplugのファームウェアのアップデートが同社からのプッシュ配信という方式で行われることから、順番待ちで、ようやく10月始めに使えるようになったという経緯がある。

 また、冒頭でSeagateのGoFlex Netを紹介したが、こちらには同ファームは配信されていないようで、筆者宅にある端末は印刷未対応の古いファームのままの状況だ。

Pogoplugでは同じアカウントでアクティベートした複数の機器をまとめて管理可能。Pogoplugが最新の2.5.3になっているのに対して、GoFlex Netは2.1.4のままとなっており、プリンタ共有は使えないSeagateのGoFlex Netでは、Pogoplugには搭載されていないウィンドウファイル共有(WFS)を搭載。これはこれでLAN上での利便性が高い

 少々話がそれるが、このGoFlex Netは、本家には搭載されていないSMBによるファイル共有が実装されており、家庭やSOHOで使いやすい製品となっている。小型で、2.5インチのHDDを2台装着できるなど、なかなか完成度も高いのだが、新ファームに対応していないのは非常に残念だ。

 新ファームが提供されるかどうかは、Seagateとの契約なども依存するので何とも言えないが、現状、購入を考えている場合は、完全に同じ機能が使えるとは限らない点に注意が必要だろう。

 話を元に戻そう。このように新たに提供されたファーム(2.5.3)にアップデートされたPogoplugを利用すると、プリンターが共有できるようになる。もちろん、あらゆるプリンターというわけにはいかず、2005年以降に発売されたHP、およびEPSON製のプリンタが対応しているが、USB接続だけでなく、ネットワーク経由での共有も可能だ。

 試しに、筆者が普段利用しているHPのネットワーク対応インクジェット複合機「Officejet Pro L7580(2007年製)」と同じネットワークにPogoplugを接続後、プリンターの検出を有効化したところ、設定画面の一覧に「Officejet Pro L7500 [000000]」と問題なく表示された。

 初期設定もそうだが、こういった設定がとにかく手軽なのは、Pogoplugの大きな特長の1つだろう。つなぐだけ、設定が必要でもチェックボックスをクリックするだけといった手軽さにはいつも感心させられるところだ。

 ちなみに、画面でも確認できるが、筆者宅で利用しているアイ・オー・データ機器のデバイスサーバー「ETG-DS/US」も認識されているが、これは利用できない。印刷しようとすると未対応のプリンターであるというメッセージが表示されてしまう。やはりHPやEPSONのプリンターを用意するのがよさそうだ。

HPのネットワーク対応インクジェット複合機「Officejet Pro L7580」。2007年製なのでPogoplugから利用可能プリンターをPogoplugと同一ネットワーク上に設置後、設定画面でチェックを1つ付けるだけでプリンターを利用できるようになる

Pogoplug経由で印刷してみる

 実際の印刷方法は、プリントサーバーやNASなどとは少々異なり、PCから直接印刷するのではなく、Pogoplug経由で行うことになる。

 PCからの場合であれば、ブラウザを起動し、WebベースのUIを表示する。これまで通り、接続されているハードディスクにアクセスし、ファイルを選択すると、新たにプリンターのアイコンが表示される。これをクリックしてコピー枚数、印刷ページ、用紙サイズなどを設定すれば、Pogoplugからプリンター経由で印刷ができるというわけだ。

 PogoplugのUIはインターネット経由でのアクセスとなるが、データはPogoplug上にあるうえ、プリンターも直接接続されているので、印刷自体はローカルで行われることになる。

 このように、Pogoplugの印刷は、プリントサーバーなどのように、USBプリンターをネットワーク対応にして、家庭内のPCで共有するというイメージとは少々異なる。あくまでも、Pogoplugで印刷するためにプリンターを利用するというイメージだ。

ブラウザでPogoplugにアクセス後、印刷したいファイルを選択するとプリンターのアイコンが表示されるアイコンをクリック後、部数やページ、用紙サイズなどを設定。ページ設定の「From/To」が「差出人/送信先」と誤訳されているあたりはご愛敬

 このため、PogoplugのUIにアクセスできる端末であれば、PC以外の端末からも印刷できる。iPhoneやAndoroid、iPadなどからも、ブラウザを利用してUIにアクセスし、印刷したいファイルを選択、もしくはプレビューしてから、印刷を実行すれば、プリンターから出力されることになる。

 この機能を利用すると、iPadやスマートフォンをビューワーとして使うメリットがさらに高くなる。ちょっとした文書などであれば、iPadで確認して、そのまま印刷してしまうことができるわけだ。もちろん、どこまでニーズがあるかはわからないが、外出先から直接自宅や会社のプリンターに印刷するという使い方もできるだろう。

 このほか、Pogoplugでは、メール経由での印刷もサポートしている。Pogoplugに登録したメールアドレスから、「print@mypogoplug.com」宛に印刷したいファイルを添付して送信すると、それが自動的にプリンターで出力される。

 iPhoneやiPad用のキャプチャ機能を組み合わせれば、ブラウザやアプリの画面も印刷可能だ。画面をキャプチャ後、写真アプリからメールを送信すれば、それがプリンターで出力される。こちらはメール経由になるため、若干時間がかかるかと思われたが、画面キャプチャ1枚程度であれば、送信後、数秒で印刷が開始されるので十分実用範囲だろう。

 なお、前述したiPhone/iPad/Andoroid用アプリに関しては、現状は印刷機能はサポートされていないようだ。アプリからの印刷ができるようになれば、カメラロールを参照して内蔵カメラで写真を撮影後にすぐに印刷するといったことも不可能ではなそうなので、対応が待ち望まれるところだ。

iPhoneからPogoplug上のデータを指定して印刷することができる
iPadからもブラウザ経由でアクセスすれば印刷が可能メールでの印刷にも対応しているため、キャプチャした写真をメールで送れば、そのまま印刷できる。もちろん、iPhoneのカメラで撮影した写真なども印刷可能
【動画(FLV):クリックで再生】
メール経由での印刷の様子。3G経由でExcelのファイルを開き、印刷を実行。印刷自体はローカルで行われるので印刷は高速

今後も楽しみ

 以上、Pogoplugの新ファームを試してみたが、WebUIやメール経由での印刷というのは、なかなか面白い機能と言えそうだ。個人的には、アプリから直接印刷できるようにして欲しかったところだが、そう遠くない時期に実現されるのではないかと思われる。

 また、今回のアップデートで日本で利用している場合でも問題なくプッシュのアップデートが受けられることがわかったのも朗報だ。おそらく今後もさらに機能が追加されていくことと思われるが、将来的に追加される機能も使えるなら、わざわざ海外から購入する甲斐もある。

 本製品もそうだが、海外製品には国内のNASや通信機器ベンダーが未搭載の機能やサービスがまだまだ存在する。特に、ハードウェアとサービスが直接的、かつシームレスに連携する世界は、今後の注目の分野だ。個人的には、Pogoplug Bizの機能に魅力を感じる点も多いので、購入可能になったらあらためてレビューすることにしよう。


関連情報


2010/10/12 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。