第447回:驚異のバッテリー駆動時間と意外に快適なキーボード ASUSTeK Computer「Eee Pad Transformer TF101」


 ASUSTeK Computerから、モバイルキーボードドックが付属したAndroid 3.0タブレット「Eee Pad Transformer TF101」が発売された。キーボード付きAndroid端末は、ノートPC代わりとしても使えるのか、その実力を検証してみた。

キーボードのある安心感

 やっぱりキーボードがあると何かと便利。そう考えてしまうのは、筆者が世代的にパソコンで育ってきた年齢層だからだろうか。興味本位で買ったASUS TeK Computerの「Eee Pad Transformer TF101(以下TF101)」だが、現時点で、筆者が所有するサブマシンの中では、もっとも稼働率の高い端末になっている。

 詳細なスペックなどについては、PC WatchのHotHot REVIEW!が詳しいので、そちらを参照して欲しいが、TF101は、10.1型ワイド(1280×800)の液晶を搭載したAndroid 3.0タブレットだ。プロセッサにNVIDIAのTegra2(デュアルコア,1GHz)、1GBのメモリ、32GBの内蔵ストレージ(eMMC)を搭載した製品となっており、IEEE802.11b/g/nのみに対応したWi-Fiモデルとなっている。

ASUSTeK Computer「Eee Pad Transformer TF101」。モバイルキーボードドックが付属したAndroid 3.0タブレットとなっている
モバイルキーボードドックに装着した状態で閉じたところ単体でタブレットとして利用する場合

 サイズは幅271×奥行き177×高さ12mmで重量約680gとなっており、スペックやサイズ的には、モトローラのXOOMやエイサーのICONIA TAB A500(ストレージは16GB)とほぼ同等となっている。

 しかしながら、このTF101には、「モバイルキーボードドック」と呼ばれるキーボード、タッチパッド、USB2.0×2、SDメモリーカードスロット、バッテリーを一体化したドックが付属しており、ここにタブレット本体を装着することで、ノートPCのように利用できるようになっている。

 「Transformer」というほど大げさではないが、要するにタブレットとしても、ノートPCとしても使える非常にユニークな製品に仕上がっているわけだ。

 筆者もそうだが、「タブレット」は確かに手軽なものの、文字入力が難点で、ビューワーとして以外に使う気に気になれない……、と考えていた人にとっては、まさに待望のAndroid 3.0端末ということになるだろう。

 

作りは確かにしっかりしているが……

 では、実際の製品について見ていこう。まずは、外観だが、作りは高級感があって悪くない印象だ。メタリック調のブラウンのカラーに、表面に加工された細かな模様による独特の触感を持つデザインは、落ち着いた雰囲気があり、安っぽさはみじんも感じられない。

 このサイズのASUSTeK製品と言うと、少し前のネットブックを連想するかもしれないが、質感としてはネットブックよりもワンランク上と言えそうだ。

 モバイルキーボードドックとのドッキングは、手軽にできるようになっており、キーボードの上部にある開閉ヒンジを兼ねたコネクタにタブレットを差し込み、上からグッと押し込むと、ヒンジ部分にあるロックが自動的に移動し、固定される。取り外すときは、ロックをスライドさせ、上に引き抜くという感じになる。

 モバイルキーボードドックを装着した際のサイズは、タブレット2枚分と考えるとわかりやすい。幅271×奥行き185×高さ28mmと奥行きが8mm、高さが16mm増え、重量も1.3kgとなる。

モバイルキーボードドックのヒンジ部分にタブレットを差し込むことでノートPCのように利用可能ドッキングさせると厚さは2倍程度になり、重さも1.3kgとなる

 10.1インチのノートPCとして考えると、若干重く、手に持った際の感覚も、タブの軽快感とはかけ離れたズッシリとした塊感となるが、ドッキング部分のガタツキもなく、かなりしっかりしている印象だ。

 アイソレーションタイプのキーボードは、キーストロークが浅めのため、好みは分かれるかもしれないが、しっかりとした打鍵感があるうえ、キーピッチも広めに確保されているので、操作感は良好だ。

 ただ、筆者の購入した個体がいわゆるハズレだったようで、モバイルキーボードドックが若干たわんでおり、右手前側のゴム足が常に浮いている状態になってしまっている。キーを打つときは、パームレストに重量がかり、しっかり固定できるのが、パッドで軽く操作する場合など、本体がズレることがあるのが少々残念だ。

 本製品では、タブレットをドッキングさせるヒンジ部分が奧側で本体を支える足の役割を果たしてるが、ここが床と設置する部分がゴムではないため、ツルツルしたテーブルなどで若干滑りやすい。手前のゴム足がしっかり密着していれば問題ないのかもしれないが、この部分は若干改良の余地がありそうだ。

キーボードの操作性は良好

 

Android 3.0側もキーボードを想定した対応を

 実際にキーボードとパッドを使った操作感は、予想以上にイイ。

 マウスを使ってプログラムを起動し、「半角/全角」キーで日本語入力に切替えて、キーボードから文字を入力。「Ctrl+I」でカタカナに変換したり、「Shift+カーソル」で文字範囲を指定して、「Ctrl+C」でコピー、「Ctrl+V」で貼り付けたりと、とにかく、普段使っている操作が、そっくりそのまま利用できる。

 もちろん、画面をタップしたりフリックすることもできるうえ、キーボードにはAndroidならではの「ホーム」キーや「戻る」キー、「メニュー」キーなども用意されているので、これらのキーを使ってAndroidならではの操作もできる。

 このほか、マウスの右ボタンが「戻る」キーの役割となっていたり、二本指でパッドをフリックすることで画面をスクロールできるなど、Androidならではの操作が、うまくキーボードとパッドに置き換えられている。

 同様の工夫は、NECから発売されているAndroid 2.2搭載などでも施されていたが、ここまでキーボードとパッドで操作できれば、実用性は十分だ。

PCと同様のキーボード操作ができるため、長文の入力がとにかく楽

 しかしながら、惜しいことに、OS、そして何よりアプリ側で、まだキーボードやパッドを使うことが想定されていないため、まだ画面タッチやフリックに頼らざるを得ないケースもある。

 たとえば、ホーム画面の移動だが、カーソルキーを使って左右に移動することもできるが、画面上のアイコンにフォーカスがある場合は移動できない。パッドを使う場合もデスクトップをドラッグして左右にフリックすることで移動できるが、これらの操作は決して快適ではないので、どうしても画面をサッとフリックしてしまう。

 もちろん、タブレットなので、画面タッチを併用できることこそメリットなのだが、キーボードに慣れてしまうと、「ホームキー+カーソル」で一発でホーム画面を左右に移動できるなれば良いのに……、などと欲が出てくる。

 アプリを利用している場合も同様だ。文字を直接ドラッグして選択したくてもできないうえ、右クリックでメニューを出して操作しようとすると、前述したように「戻る」キーの動作が発動してしまう。

Office系ソフトとしてPolaris Officeがインストールされているが標準ではフォントがイマイチせっかくPogoplugを活用しようと思ったのに、強制縦表示(TF101から見ると横表示)になるため、操作に手間取ってしまう

 また、アプリによっては強制的に縦表示になってしまったり、せっかく長文がバリバリに打てるのにオフィスソフトの動作が今ひとつな場合もある。たとえば、前述したように、キーボードでもかなりの操作ができるので、長文メールや議事録などのメモ、文書作成などにもバリバリに使えるのだが、ふとした瞬間にタブレットとしての素性が垣間見えてしまい、そこに萎えてしまう場合がある。

 標準でも、ファイルマネージャーやDLNAクライアント/サーバーなど、いくつかのオリジナルアプリは搭載されているが、メール、文書作成など、もう一歩踏み込んだところまでキーボード操作前提としたアプリを提供して欲しかったところだ。いや、まだ遅くない。有料アプリで良いので、ぜひキーボードとパッド前提のアプリを提供して欲しいところだ。

オリジナルのアプリもいくつか搭載されている。SDメモリーカードなどのファイルを表示するためのファイルマネージャー
DLNAクライアント/サーバー機能を提供する「MyNet」オンラインストレージサービス(標準では60GBを1年間)利用できる「MyCloud」

 

スマートフォンの充電にも使える脅威のバッテリー駆動時間

 このように、高い操作性を実現したTF101だが、モバイルキーボードドックのおかげで、他のタブレットにはないもう1つ、強力な武器を手に入れている。驚異的とも言えるバッテリー駆動時間だ。

 TF101は、タブレット部分に2.44Whのリチウムポリマーバッテリーを搭載しており、カタログスペック上、タブレット単体で9.5時間の動作が可能と公表している。この値は、タブレットとしては一般的だが、注目はモバイルキーボードドック利用時の駆動時間だ。

 国内サイトではモバイルキーボードドックのバッテリー容量は公表されていないが、海外のサイトを見ると、本体と同じく2.44Whのバッテリーが内蔵されていると記載されており、合計で最大16時間の駆動が可能とされている。

 実際、モバイルキーボードドックを装着し、満充電の状態から、Tegra2向けのゲームアプリのデモを再生し続けたときの様子が以下のグラフだ(バッテリーモニターウィジェットを利用しログを記録)。

バッテリーモニターウィジェットを利用してバッテリーの残量と経過時間を計測

 モバイルキーボードドックを装着した場合、モバイルキーボードドック側のバッテリーから消費するようになっており、計測開始から8時間5分でモバイルキーボードドック側のバッテリーを使い尽くし、その後、内蔵バッテリーを消費しながら動作し続け、最終的に16時間55分の動作を確認できた。

 計測の際、無線LANを有効にし、画面の輝度もオートで一般的な明るさで点灯したままにしていたことを考えると、驚くほどの長時間駆動と言える。1~2日程度の出張なら充電なしで乗り切れるのではないかと思えるほどだ。

 もちろん、モバイルキーボードドック側のUSBポートを利用すれば、モバイルキーボードドック側のバッテリーを使って、スマートフォンやモバイルルーターなどを充電することもできる。

 これまで個人的に持ち歩いていたeneloop mobile booster KBC-L2Bの容量が19Wh(3.7V/5000mAh)なので、これより容量の大きな充電用バッテリーを持ち歩いていると考えれば、モバイルキーボードドックの存在がいかに心強いかがわかるだろう。

 同社のWebサイトでは、「家ではキーボード付きノートPC、外ではタブレット端末にトランスフォーム」というキャッチコピーが記載されているが、個人的には、逆の使い方でも良さそうに思える。つまり、家ではビューワーとしてタブレットで気軽に利用し、外では、バッテリーを気にせず、しかも他の機器の充電にも使えるパワフルなノートPCとして使うというスタイルだ。

 誤解を恐れずに言えば、メールチェックや文書作成にも使える4.88Whの大容量バッテリーを持ち歩いていると言っても過言ではないだろう。

 

Android文化が周辺機器を受け入れるかの試金石

 以上、ASUSTeK Computerのモバイルキーボードドック付きAndroid 3.0端末「Eee Pad Transformer TF101」を紹介したが、この端末は、Androidという文化が異質なモノをどう取り入れていくかという試金石になりそうな気がする。

 ご存じの通り、Android 3.0はタブレット向けに開発されたOSだ。このため、今回のEee Padでは、かなり快適に利用できるようになっているとは言え、まだまだキーボードやパッドをシームレスに使える環境が整っているとは言いがたい。しかし、このような状況が、今後も、このままで良いとは言えないだろう。同じことはキーボードやパッドだけに限らず、プリンタ、ストレージ、家電など、あらゆる機器に言えるからだ。

 今後、Androidが、PCに取って代わる、もしくはPCが占めていた一部の用途の一角に食い込むには、こういった周辺機器との接続が1つの課題になることは間違いない。つまり、ハードウェアだけでなく、OSそのもの、そしてアプリを開発するデベロッパーまでもが、より幅広い機器とAndroidを連携させることを想定しなければならない時代が近づきつつあるというわけだ。

 Windowsは、このようなエコシステムをうまく構築できたが、Androidは果たしてどうだろうか? 今後、Androidが、それもタブレット系のデバイスが、どこまでその世界を広げられるかは、ここにかかっているとも言える。

 個人的には、TF101のような機器が多数登場し、そこからユーザーの声として、周辺機器への対応やOS、アプリの改善を望む声が盛り上がることを期待したいところだ。


関連情報

2011/7/5 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。