清水理史の「イニシャルB」

1台からスタートしてカメラもHDDも徐々に拡張可能
QNAP Turbo NASで始める監視ソリューション

 ネットワークカメラとの組み合わせにより、手軽に監視ソリューションを構築できるQNAPのTurbo NAS。その魅力は、初期コストを抑えた最小限の構成から、徐々にシステムをアップグレードしていける点にある。ノンストップでの運用を見据えながら、カメラの追加やデータ保存先のRAIDの拡張を試してみた。

カメラもHDDも1台からスタートできるのか?

 店舗や事務所の監視にどこまでコストをかけるか? 特にスタートアップ間もない小規模な企業の経営者にとって、これはなかなか悩ましい問題だ。

 損失を防ぐために最初から万全の体制を整えておきたいと考えても、初期コストを大きく割くわけにはいかない。理想は、企業の成長や店舗の拡大に伴って、徐々に監視できる場所を増やしていくことだが、既成のビデオ監視システムでは、後からシステムを拡張する方がコストがかかってしまうケースも少なくない。

 そこで、注目が集まっているのが、市販のNASとネットワークカメラを利用した監視ソリューションだ。QNAPのTurbo NASシリーズでは、最新のファームウェア3.8.x以降で、監視用ソリューションの強化が図られており、Surveillance Station Proで監視可能なカメラのライセンスが1台分が無償で利用可能となり、利用可能なカメラの機種も増えた。

 機能の詳細については、以前に本コラムでもレポートしたが、今回、注目したいのは、機能そのものではなく、その拡張性だ。

 たとえば、カメラ1台、HDD1台といったように、初期費用を抑えた監視ソリューションとして導入を始めた場合でも、果たして後からカメラの台数を増やしたり、高品質で大量のデータを長期間保存できるようにするためにストレージを手軽に拡張することができるのだろうか? その具体的な方法を検証してみた。

QNAPのTurbo NASシリーズと市販のネットワークカメラを利用した監視ソリューション。初期投資を抑えながら、徐々に構成を拡大することが可能点が魅力だ
正面
側面
背面

ONVIF対応で汎用的なカメラを利用可能

 まずは、最小構成でセットアップしてみた。NASには5ベイモデルとなるQNAPのTS-569Lを利用し、2TBのHDD(Samsung HD204UI)を1台搭載してシングルドライブとして構成。ここにパナソニック製の監視カメラ「DG-SP102」を接続した。

 カメラの接続に関しては、今回利用したDG-SP102は、TS-569Lに標準搭載の監視ソリューション「Surveillance Pro」で正式に対応したカメラとなっているが、海外モデルの型番で設定する必要があり、カメラブランドで「Panasonic iPro」を選択し、機種で「Panasonic iPro SP102」を選ぶことで、認識させることができた。

 今回の新ファームでは、対応するカメラの機種が増えているのが特徴で、実に1400を越えるモデルをサポートしている。

 ブランド名や機種名のドロップダウンボックスを見ても、そんなに数はないんじゃないか? と思うかもしれないが、「ONVIF(Open Network Video Interface Forum)仕様」に対応しているのがポイントだ。

ONVIF対応のカメラであれば、設定で「ONVIF Cameras」を選択することで、自動的に設定可能。1400を越えるモデルを認識させることができる
Panasonicなど有名メーカーのカメラであれば、製品リストから選択して設定することもできる

 このため、前述したPanasonic DG-SP102のようにONVIFに対応しているカメラ製品では、ブランド名や機種名を個別に選択しなくても、ブランド名で「ONVIF」、機種名で「ONVIF Cameras」を選択することでも、問題なく認識させることができる。

 これまでの市販のNASの監視ソリューションでは、対応するカメラがある程度限られていたことが、欠点の1つであったが、今回のONVIF対応によって、汎用的なカメラであれば、ほぼ認識させることが可能になったわけだ。

 これにより、高性能なカメラだけでなく、安価なカメラなど、幅広い機種が使えるようになり、用途によってカメラを使い分けたり、初期費用を抑えることが可能となったわけだ。

 カメラの機種を選択できれば、あとは自動的に録画が実行させるようになる。ただし、標準ではカメラの解像度やフレームレートが最適化されていないので、Surveillance Station Proの「録画設定」で、ビデオ圧縮の方式(Motion JPEGかH.264)、解像度(VGA/320×180/640×320)、画質(256kbps~4096kbps)を設定しておくといいだろう。

 ここまで設定できれば、あとはNASの「Recordiongs」フォルダに、自動的に録画ファイルが保存されていく。標準設定では、5分ごとに1ファイル作成し、ディスク残量が5%になると、古い録画フィルから上書きする設定になっている。

ビデオ圧縮方式やサイズ、画質などを細かく設定可能

停止を最小限にとどめながらRAID5へ移行

 実際に録画を試してみると、H.264/VGA/30fps/4096kbpsの設定にした場合、作成されるファイルの容量は、5分間で150MB前後となった。

 計算上は、1時間で1.8GB、24時間で43.2GBといったところなので、2TBのHDDであれば40日以上は、データを保持できる計算になる。

 出入り口など、1カ所を監視できればいいのであれば、これでも十分だが、NASをファイル共有などの用途などにも併用することを考えると、容量的に物足りない印象がある。そこで、HDDを2台プラスして、RAID5の構成へと移行してみることにする。

 QNAPのTurbo NASシリーズでは、オンラインでRAIDを移行するための機能が搭載されており、シングルからミラー、ミラーからRAID5など、その構成を変更することも可能となっている。

 方法は簡単で、ホットスワップで新しいHDDを2台装着後、設定画面の「RIAD管理」から、既存のシングルボリュームを選択。「移行」ボタンをクリック後、新しく追加したHDDを選択して、RAIDの方式でRAID5を選択すればいい。

シングルボリュームで初期設定したTS-569LにHDDを2台追加
ボリュームの移行機能を利用して、RAID5へと移行することができる

 RAIDが構成されるまでの数分ほど、すべてのサービスがストップするが、しばらくするとバックグラウンドで移行処理が実行され、NASは普段通り利用することが可能となる。

 もちろん、この間、Surveillance Station Proで録画を実行させたままでかまわない。RAIDの構成が行なわれる数分(5分以下)ほど、保存先にアクセスできなくなるため、録画は実行されないが、すぐに録画可能な状態に戻り、バックグラウンドでRAIDの移行作業が行なわれながら、同時に録画も実行された。

 データの安全性を考慮すれば、事前に既存のデータをバックアップすべきであるうえ、利用者がいない夜間や休日などに移行作業を実行すべきだが、実質的な作業時間は30分もかからないため、気軽に保存先の容量を拡大することができるだろう。

 また、RAID5への移行後に、ディスクを追加して、容量を拡張していくことも簡単にできる。同様にHDDを装着後、設定画面の「RAID管理」から「ハードドライブの追加」をクリックし、装着したHDDを既存のRAIDボリュームに追加すると、自動的に容量が拡張される。

 QNAPのNASは、ディスクレスのキットモデルで販売されるケースが多いため、このようなディスクの構成は、ユーザー自らが、規模やコストに併せて、自由に選択することが可能というわけだ。

 今回利用した5ベイのTS-569Lでも、利用するディスクを選べばかなりの拡張が可能だが、環境によっては、8ベイのTS-879Pro、10ベイのTS-1079Proシリーズなどを最初に用意しておけば、将来的に規模が拡大していっても安心だ。

後からHDDを追加して、RAID5の容量を拡張することもできる。録画データが貯まった段階で容量を追加できるのは魅力だ

ライセンス追加で複数台カメラを接続可能

 続いて、カメラの増設について検証してみよう。QNAPのTurbo NASシリーズに搭載されているSurveillance Station Proでは、標準で1台のカメラを登録できるライセンスが無料で付属しており、必要に応じて簡単にライセンスを追加することができる。

 手順としては非常に簡単だ。まず、国内販売店のAmazon.co.jpからライセンスキーを購入する(7980円)。

 すると、ライセンスキーが発行されるので、これをTS-569Lに登録する。TS-569Lの設定画面から、「アプリケーション」-「Surveillance Station Pro」をクリックし、「ライセンス管理」を開いて、「ライセンスインストール」をクリックして、取得したライセンスキーをオンラインでアクティベーションすればいい。

カメラを追加するためのライセンスキーはAmazon.co.jpで手軽に購入できる
購入したライセンスキーをアクティベートすると、新しいカメラを追加できるようになる
同時に複数台のカメラを利用可能。複数の場所の録画データをTS-569L一カ所に集約できる

 その後、Surveillance Station Proの設定ページを開くと、カメラが追加できるようになる。1台目と同様にカメラの機種やIPアドレスを設定すれば、TS-569Lから複数台のカメラを同時に制御することができるようになる。

 このように、新たな場所の監視が必要になった段階で、ライセンスを購入し、簡単にカメラを追加することができるので、企業の規模や監視場所の広さ、セキュリティレベルによって、必要最低限のコストで監視対象を広げていけるのが特徴だ。

 なお、同時に管理できるカメラのチャンネル数は、TurboNASシリーズのモデルごとに異なる。今回利用したTS-569Lは、最大16チャネルをサポートするミドルレンジの製品となるが、8チャネルしかサポートしない機種や逆に40チャネルもの大量のカメラを管理できるモデルもある。

 通常は16チャネルで十分だと考えられるが、大規模な店舗やより高いセキュリティレベルが求められる現場では、40チャネルまで拡張可能なハイエンドモデルの導入を検討した方がいいだろう。

 また、TS-1079 Proなど、エンタープライズ向けの製品では、カメラの映像を録画するために必要なマルチメディア機能が標準で無効になっている。TS-x79シリーズでは、「システム管理」の「一般設定」からマルチメディア機能を有効/無効の設定ができるので、無効になっている場合はチェックを外して有効にしておこう(今回使用したTS-569Lなどでは、この設定自体がないので特に設定変更の必要はない)。

機種とチャンネル数の一覧表
タワー型
8チャンネルTS-112、TS-212、TS-412、TS-119PII、TS-219PII、TS-419PII
16チャンネルTS-269L、TS-469L、TS-569L、TS-669L、TS-869L、TS-269Pro、TS-469Pro、TS-669Pro、TS-869Pro
40チャンネル(※)TS-879Pro、TS-1079Pro
ラック型
16チャンネルTS-469U-RP、TS-869U-RP
40チャンネル(※)TS-879U-RP、TS-1279U-RP、TS-1679U-RP、TS-EC879U-RP、TS-EC1279U-RP、TS-EC1679U-RP
※40チャンネルの8機種は、マルチメディア機能がデフォルト無効になっているので注意
エンタープライズ向け製品では、カメラの映像を録画するために必要なマルチメディア機能が標準で無効になっている。「システム管理」の「一般設定」でチェックが付いている場合は外しておこう(TS-x79シリーズで要確認)

無理せず使える監視ソリューション

 以上、QNAPのTurbo NASシリーズを使った監視ソリューションの拡張性を実際に検証してみたが、監視対象の規模やレベルに併せて、コスト的に無理せずスタートできるうえ、必要になった段階で、カメラもストレージも簡単に拡張していくことができる点に感心した。

 これまで監視ソリューションというと、専用のハードウェアを業者に依頼して設置してもらうイメージが強かったかもしれないが、これなら、市販の製品だけで簡単に始めることができるので、自前で無理なく環境を構築することができるだろう。

 カメラの高画質化や低価格化も進んできて、いろいろな機種が選べるようになってきたが、QNAPのTurboNASなら、ONVIF準拠製品であれば、汎用的に扱えるため、機種選びに困ることもない。これから監視システムの導入を検討している企業にとって、うってつけのソリューションと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。