清水理史の「イニシャルB」

パン・チルト対応のワイヤレスWebカメラ
アイ・オー・データ機器「Qwatch TS-WPTCAM」

 アイ・オー・データ機器から、パン・チルト機能を搭載した無線LAN対応のWebカメラ「Qwatch TS-WPTCAM」が発売された。セットアップが手軽で、スマートフォンからも簡単に映像を確認できる製品だ。nasneへの録画ファイル保存やNASのSureillance Station Proでの録画も試してみた。

欲しい機能がリーズナブルに

 無線LAN対応で設置場所を選ばず、パン・チルト対応でコントロールしたり、暗い場所でも撮影したりでき、スマートフォンからも手軽にアクセス可能で、しかも手の届く価格帯のWebカメラ。

 アイ・オー・データ機器から発売されたQwatchシリーズの上位モデル「TS-WPTCAM」は、Webカメラに欲しい機能を一通り搭載した製品だ。

 昨年末に発売されたTS-WLCAMが固定式だったのに対して、カメラ部分がモーターによる可動式となっており、左右方向(パン)で355度、上下方向(チルト)で120度の向きにカメラを動かして撮影することができるようになった。

アイ・オー・データ機器のQwatch TS-WPTCAM。パン・チルトに対応したワイヤレスWebカメラ

 留守宅の監視、ペットの見守りなど、「監視カメラがあったら便利なのになぁ」と感じるシーンは少なからず存在するが、これまではカメラの機能と価格がなかなかマッチせず、購入を見送ってきたという人も少なくないはずだ。

 これに対して、今回のTS-WPTCAMは、同社直販で2万4800円(会員登録で2480円のポイント還元あり)という価格で、冒頭で触れたような機能に対応している。できれば2万円以下、と欲を言いたくなるところではあるが、機能的に満足できる製品がようやく手の届く範囲にまで落ちてきたという印象だ。

 ちなみに、外観はプラネックスが発売している「CS-WMV04N2」にそっくりだが、CS-WMV04N2は、価格も若干高く(参考価格4万円で実売は2万5000円前後)、スペック的にも315万画素のカメラやMPEG4記録対応など、高機能となっている。画質重視ならCS-WMV04N2、価格と手軽さ重視ならTS-WPTCAMという選択肢になりそうだ。

よく作り込まれた初期設定

 TS-WPTCAMの外観は、まるで円形の座布団の上にテニスボールでも乗せたようなイメージだ。写真で見るとコンパクトなイメージがあるが、カメラ部分は、まさにボールほどの大きさがあり、設置すると、なかなかの存在感がある。

 台座部分は、各インターフェイスの接続ポートを兼ねており、背面には電源アダプタ、10BASE-T/100BASE-TX対応の優先LANポート、さらに撮影データを記録するためのSDカードスロット、IEEE802.11b/g/n(2.4GHz)対応の無線LAN用のアンテナを1本備えている。

正面
側面
背面

 無線LANに関しては、IEEE802.11n対応と言っても、いわゆる11n技術の150Mbps版で、40MHz幅には対応しているものの、アンテナが1本であることからもわかる通り、シングルストリーム対応となっている。

 もちろん、ボタン設定のWPSに対応しており、電源アダプタを接続後、宅内のアクセスポイント側でWPS設定を開始し、本製品のWPSボタンを一定時間押せば、すぐに無線LANに接続して利用することが可能となっている。

 カメラ部分に関しては、前述した通り、パン355度、チルト120度の可動式で、フルに稼働させることで、カメラの上下左右、ほぼ全周囲を撮影することが可能。カメラ自体は100万画素のCMOSセンサーで、H.264で最大1280×720/24fps、MJPEGで640×480/30fpsの映像を記録できるようになっている。また、カメラの周囲に赤外線ライトが配置されており、夜間での撮影にも対応している。

カメラ部分が可動式となっており、パン355度、チルト120度まで動かせる
可動範囲が広いので、天井からの監視も実用的。底面に付属の金具を取り付ければ天井などにも設置できる

 実際に使ってみて感心したのは、初期設定の手軽さだ。前述した通り、家庭内のネットワークにはWPSを利用して接続可能で、接続が完了すると、本体にプリセットされた情報を元に、自動的に同社が提供するダイナミックDNSサービス「iobb.net」への接続を確立し、同時にUPnPを利用して外出先からのアクセスに必要なポート(HTTP用の12626とRTSP用の12712)を自動的にポートフォワーディングに追加する。

 つまり、ユーザーは設定画面に一切アクセスすることなく、外出先からのアクセス環境が自動的に整うわけだ。

 この状態で、スマートフォンに「LCAMView」というアプリ(Android/iOS対応)をダウンロードし、パッケージに同梱されているQRコードを読み取って、カメラの情報を登録すれば、即座にライブ映像を確認することができるようになる。

 このため、ルーターなどの相性の問題さえなければ、「電源オン→無線接続→アプリダウンロード→アプリ設定」という、わずか4ステップで設定が完了する。これまでのネットワークカメラでは考えられないほどの手軽さだ。

設置後、背面のWPSボタンを使って無線LANに接続するだけ。本体の設定は基本的には不要
本体設置後、スマートフォンから見えるようにする。まずはアプリの「LCAMView」をダウンロード
付属の設定用シートを使って、QRコードから設定情報を読み込む
問題なければ、すぐにカメラの映像を表示できる

 ダイナミックDNSの設定を機器ごとにきちんと個別にプリセットしている点、アプリ側の設定に必要なホスト名やアカウント情報などの個別情報もきちんとQRコードで用意するという配慮は、すばらしいの一言に尽きる。

 しかも、設定画面にアクセスするためのパスワードに機器のmacアドレスを利用し、機器ごとに個別のものに変更しているうえ、映像を表示するためのユーザーアカウントのパスワードも個別に設定されている。つまり、手軽でありながら、セキュリティもきちんと考慮されているのだ。

 このほか、スマートフォンが同一LAN上に接続されている場合はQRコードを使わずに自動検出することができたり、PCからもMagic Finderと呼ばれる検出ユーティリティを利用して簡単に機器を発見できるなど、とにかく設定に関する配慮が万全に整えられている。

 手軽さを優先して、パスワードをなしにしたり、すべての機器で共通にしてしまうメーカーがある中、このような工夫と手間を惜しまない姿勢は高く評価したいところだ。

スムースなパンチルト調整

 気になる映像だが、スマートフォンなど回線を問わずスムーズに再生できるものの、標準では、MJPEG、VGA、品質普通、フレームレート15に設定されているため、さほど画質は高いとは言えない。

 ただし、実際に監視目的で使うのであれば、このレベルで十分で、録画したときの容量も抑えることができる。もう少し、画質を高くしたいのであれば、画質を最高にして、フレームレートを30まで上げるといいだろう。これなら、ペットなど、動きのある対象をリアルタイムで見るという用途でも十分な画質となる。

MJPEG、VGA、15fps、標準
MJPEG、VGA、30fps、最高
H.264、1280×720、24fps、3Mbps

 もちろん、より高画質を望むのであれば、H.264の1280×720での記録に切替えるといいだろう。最高で3Mbpsのビットレートとなるため、スマートフォンでの再生時は、回線環境によっては品質に難ががあるが、細部まできっちりと確認できる映像品質を得ることができる。

 暗い場所での品質も良好で、標準では明るさを検知してモードが切り替わるため、電気の消えた室内などでも、被写体を十分判別できる品質で撮影することができる。

 本製品の特長の1つでもあるパン・チルトだが、これもかなり快適だ。スマートフォンの場合は、画面上のアイコンをタップして操作モードに移行後、画面を上下左右、見たい方向にフリックするだけでカメラの動きをコントロールすることができる。

 スマートフォン経由の場合、若干のタイムラグがあるうえ、カメラを動かすためのモーターの「ウィーン」という音を拾ってしまうが、反応自体はスピーディで、見たい場所にストレスなくカメラ方向を合わせることができる。

赤外線ライトでの撮影。暗くてもきちんと判別できる
スマートフォンの場合、右上の方向アイコンをタップ後、画面上をフリックするとパン・チルト操作が可能

 また、パトロール設定が可能となっており、あらかじめセットした4つの位置を巡回するように自動的にカメラ位置を移動しながら撮影することが可能となっている。この場合、自分でカメラをパン・チルトすることなく、必要な場所、もしくは周囲をグルリと自動的に監視することが可能だ。

 予算の都合などで複数台のカメラを用意できない場合に重宝しそうだ。また、ペットなど、その時々で居場所が変化するような対象を監視するときに便利だろう。

 このほか、動作検知機能も搭載しており、ユーザーが指定した任意の範囲(3範囲まで設定可能)に変化があった場合に、自動的にスナップショットを撮影したり、メールで送信することが可能となっている。

 ただし、動作検知は、映像の撮影モードがMJPEGのときのみ有効となっており、H.264に設定した場合は利用できない。H.264の場合は、後述するような方法で常時映像を録画しておくといった使い方になるだろう。

パトロール設定では、4つのパターンを定期的に巡回させることが可能。スケジュール設定も可能
3カ所まで範囲を指定して動体検知をすることが可能

nasneやSurveillance Station Proにも録画可能

 映像の録画(手動、スケジュール録画)に関しては、標準では背面に装着したSDカードに保存する形式となっているが、これはNASに変更することが可能だ。

 ただし、公式に対応しているのは、同社製のLAN DISKシリーズとなっており、一般的なNASの場合、利用できるかどうかは機種によって異なる。

 実際に試してみたところ、Synology DS1512+、NETGEAR ReadyNAS 102を指定した場合、「空き容量がありません」というエラーが表示され、録画先として設定することができなかったが、nasneに関しては、問題なく録画機として登録できた。

 どういう条件で設定できるのかは不明なので、確実にNASに録画したい場合は同社製の製品を利用するといいだろう。

nasneを登録してみたところ問題なく録画先に設定できた。ただし、市販のNASはつながらない可能性もあるので要注意

 また、Synology DS1512+のアドオンとして提供されているSurveillance Station Pro(以下SSP)でも設定してみたが、こちらは条件付で設定可能だった。SSPでは、利用するカメラをメーカーや機種を指定して設定する必要があるが、登録されているのは主に海外製の製品となるため、本製品はリストには存在しない。

 汎用的なONVIFなどを設定しても登録することができなかったため、苦肉の策として、ユーザー定義で、「ポート:12626」、「ソースパス:/snapshot.cgi」として設定することで登録ができた。

 この場合、SSPで録画を実行できるが、カメラのコントロールは一切不可能となるため、設定やパン・チルトなどは、カメラ側の設定画面を利用することになる。1台のみの場合はこれでもかまわないが、複数台カメラを利用する場合はSSPから一括してカメラを管理できないので不便だ。

 できればメーカーに対応をお願いしたいところだが、あくまでも個人ユーザー向けの製品という位置づけなので、このあたりは厳しいかもしれない。

Surveillance Station Proでの録画も可能。ただし、機種選択からは認識できないので、映像表示用のURLを手動で設定。録画は可能だが、SSPからのコントロールはできない

Webカメラ入門用に最適

 以上、アイ・オー・データ機器の「Qwatch TS-WPTCAM」を実際に使ってみたが、とにかく手軽に扱える点に感心した。これまでのWebカメラは、どちらかというと法人用途やマニア向けの製品といった印象で、とにかく設定などがわかりにくかったが、本製品は、はじめてWebカメラを使う人でも簡単に扱うことができる。

 スマートフォンやタブレットからの利用も便利なので、留守宅の監視やペットの見守りに最適な製品と言える。機能的に考えても、十分に投資する価値のある製品ので、おすすめしたい製品と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。