清水理史の「イニシャルB」

1300+300Mbpsの11ac対応無線LANルーター
アイ・オー・データ機器「WN-AC1600DGR」

 アイ・オー・データ機器から、ドラフト版のIEEE802.11acに対応した無線LANルーター「WN-AC1600DGR」が発売された。ファームウェアのアップデートにより、今後デバイスサーバー機能も搭載予定の多機能な一台だ。その実力を検証してみた。

ようやく実機が登場

 2013年3月27日のラインナップ発表から数カ月。ようやくアイ・オー・データ機器の「WN-AC1600DGR」が発売された。

 同社のDraft11ac対応製品は、親機として1ストリームMIMOで最大433Mbps対応の「WN-AC733GR」や先日、本コラムでも取り上げたUSB3.0対応の子機「WN-AC867U(2ストリームMIMO対応867Mbps)が既に発売されているが、ようやく、3ストリームMIMOと80MHz幅、256QAMの3つの柱で最大1300Mbpsを実現可能なフルスペック機が登場したことになる。

アイ・オー・データ機器のドラフト版11ac対応機「WN-AC1600DGR」

 現状、Draft11ac対応無線ルーターの市場は、先行するバッファローとNECアクセステクニカの2強の状態となっているが、Amazon.co.jpでの実売価格で比較すると、バッファローのWZR-1750DHPの17000円前後、NECアクセステクニカのAtermWG1800HPの14000円前後に比べて、実売13000円前後と若干安い価格設定がなされている。現状、1300Mbps対応機としては、もっともリーズナブルな価格帯の製品だ(2013年6月時点)。

 もちろん、価格だけなら、今後、さらに低価格な製品が登場してくることも予想できるが、本体にUSBポートを搭載するなど、機能的にも充実していながら、リーズナブルな価格を実現できているのが本製品の特徴だ。

 個人的には、IEEE802.11n対応のWN-AG750DGRと同様に、デバイスサーバー機能によって、USBポートに接続した同社製のテレビチューナーユニットを利用し、PCやiPhone/iPadでテレビを視聴できるようになることを期待していたが、残念ながら、発売時点のファームウェアではUSBデバイスサーバー機能、簡易NAS機能、リモートリンク2の機能は実装されていない。

 このため、現状は、単純に同社製でもっとも高速な無線LANルーターという位置付けになってしまったが、将来的な機能アップが期待できる注目の製品と言っていいだろう。

コンパクトなサイズに

 製品の第一印象としては、従来製品よりも若干コンパクトになったという感じだ。手元にあったWN-AG450GDRと比較してみると、幅・高さともに一回り小さくなっている。1ストリームMIMO対応のWN-AC733GRと比べると、アンテナが+2本となっている分、若干横幅は大きくなっているが、縦置き時で幅約127×奥行き100×高さ198mmと、普通に設置するには困らないサイズを実現している。

 もっとも、他社製品との比較で言えば、現状、圧倒的な小ささを誇るのはNECアクセステクニカのAtermWG1800HPとなっており、AtermWG1800HPと比べると一回り大きい。イメージとしては、バッファローのWZR-1750DHPとAtermWG1800HPのちょうど中間といったあたりだろうか。

正面
側面
縦置き用のスタンドが付属しており、背面に装着するようになっている
同社製の450Mbps対応機「WN-AG450GDR」との比較。一回り小さくなっている

 デザインは、同社製で共通のイメージが踏襲されており、本体カラーもつや消しのブラックでシンプルなイメージに仕上がっている。インターフェイス類も、正面から見て右側面にすべて1000BASE-T対応のLANポート×4、WANポート×1を備えており、前述したUSBポートも1ポート備えている。

 また、右側面最上部には、動作モードを変更するためのスイッチが搭載されいてるが、「自動」、「ルーター」、「AP」の3つのみとなっている。

 バッファローのWZR-1750HPやNECアクセステクニカのAtermWG1800HPは、本体をコンバーター、または中継機として利用するためのモード切替スイッチが搭載されているが、本製品には存在しない(ソフトウェア的にも変更は不可)。

 このため、本製品を利用する際にもっとも考慮しなければならないのは、子機選びだ。Draft11ac対応の無線LANを搭載したPCやスマートフォンは徐々に登場しつつあるが、ほとんどが2ストリームMIMOの867Mbps、もしくは1ストリームMIMOの433Mbps対応となるため、1300Mbpsを活かせる環境がない。

 かといって、同社製の無線LAN子機もUSB3.0対応で最大867MbpsのWN-AC867Uが最高となるため、1300Mbpsで通信するには、他社製品、具体的にはWZR-1750HP、もしくはAtermWG1800HPを使わざるを得ないことになる。

 実際、同社が公表している無線LANの506MbpsというスループットもAtermWG1800HPを子機として利用しており、同社製品同士の組み合わせでは実力をフルに発揮できないことになる。

 実際問題として、WN-1600DGR+AtermWG1800HPという組み合わせで購入するということは考えにくいため、1300Mbpsで今すぐ通信したいわけではなないが、将来も見据えて、なるべく高速な無線LAN環境を構築したいという人向けの製品と考えるべきだろう。

切替スイッチ。APかルーターとしてのみ動作可能で、コンバーターとしては利用できない
1300Mbpsで通信するには他社製のコンバーターとの組み合わせが必須。写真はNECアクセステクニカのAtermWG1800HP

パフォーマンスは十分

 気になるパフォーマンスだが、前述したように同社製の子機が存在しないため、今回はAtermWG1800HPを子機として測定した。以下が、筆者宅でのテスト結果となる。
   

【表1】iPerf速度(TCP Window Size 256K)
親機 子機 使用周波数帯・速度
UP DOWN
AtermWG1800HP AtermWG1800HP 5GHz(1300Mbps) 1F 283 338
2F 229 317
3F 223 286
WN-AC1600DGR AtermWG1800HP 5GHz(1300Mbps) 1F 275 284
2F 232 210
3F 186 163
  • PC1:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • PC2:Intel DC3217IYE NUC(Core i3、128GB SSD、メモリ4GB)
  • サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t60 -i1
  • サーバーとクライアントを変更してUPとDOWNを計測
【表2】iPerf速度(TCP Windows Size 256K、Parallel 3)
親機 子機 使用周波数帯・速度
UP DOWN
AtermWG1800HP AtermWG1800HP 5GHz(1300Mbps) 1F 494 445
2F 383 340
3F 322 331
WN-AC1600DGR AtermWG1800HP 5GHz(1300Mbps) 1F 491 409
2F 362 250
3F 260 174
  • PC1:VAIO Z VPCZ21(Intel Core i5-2410M 2.3GHz、メモリ4GB、128GB SSD、Windows 7 Professional 64bit)
  • PC2:Intel DC3217IYE NUC(Core i3、128GB SSD、メモリ4GB)
  • サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t60 -i1 -P3
  • サーバーとクライアントを変更してUPとDOWNを計測

 iPerfを利用したテストで、3スレッド時で491Mbps、1スレッド時で最大275Mbpsを実現できた。参考として、AtermWG1800HP同士の速度も、あらためて測定してみたが、近距離ではほぼ同等の速度を実現することができた。

 ただし、AtermWG1800HP同士の時に比べると、2階、3階での速度の落ち込みが若干目立った。このあたりは他社製との組み合わせでは、やはり最適化がなされていないという印象だ。とは言え、3階でも実効で150Mbps以上の速度が実現できているのだから、やはりDraft11acの実力は高いと言っていい。

 今後、PCやタブレット、スマートフォンなどでも使えるようになれば、快適な無線LAN環境が実現できるだろう。

QRコードで設定可能

 使い勝手の面では、WPSに対応したクライアントであれば、本体のボタンを押すことで設定可能となっており、WindowsやAndroid 4.xでは、この方法で接続することができる。

 MacOSXは手動で接続するしかないが、iOSでは、QRコードを利用した接続設定が利用可能となっており、あらかじめアプリをダウンロードしておく必要があるものの、付属のシールからQRコードを読み取ることで手軽に設定できる。このあたりは従来機種から変わらず、使いやすい印象だ。

 設定画面は、伝統的なスタイルで、左側のメニューから項目を選び、タブで詳細な機能を切替えながら設定するというスタイルになっている。一応、「モバイル表示」としてスマートフォン向けの設定画面も用意されているが、機能的には「ステータスの確認」、「かんたん接続」、「ECO」、「iobb.net」と設定可能な項目は限られる。

 バッファローなど、グラフィカルなUIにシフトする傾向も見られるが、無線LANルーターの設定画面は、頻繁に設定するものではないので、本製品のようにシンプルなものでも特に問題ないだろう。

QRコードを読み取ることでスマートフォンから設定可能
機能は限定されるがスマートフォン用の設定画面も用意される

ファームウェア更新を待ってからでも遅くない

 以上、アイ・オー・データ機器のDraft11ac対応無線LANルーター「WN-AC1600DGR」を実際に使ってみたが、リーズナブルな価格設定で購入しやすいものの、実際に購入するのはファームウェアのアップデートを待ってからでも遅くはないという印象だ。

 同社製のテレビチューナーユニットなども利用可能なデバイスサーバー機能を使える点が、アイ・オー・データ機器製の無線LANルーターの特徴の1つと言えるが、現状の本製品では、この機能が利用できない。このため、競合製品と比べたときに、積極的に本製品を選ぶ理由が価格以外にない状況だ。

 基本性能は必要十分なうえ、使いやすさも兼ね備えているので、選択肢としては悪くはないが、個人的には、ファームウェアのアップデートを待ってから購入しても遅くはないという印象だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ