清水理史の「イニシャルB」

これからはスマホもDraft 11ac対応が当たり前 「AtermWF800HP」で家庭の無線LANを快適に

 NECアクセステクニカから、スマートフォン・タブレットでの利用に最適な無線LANルーター「AtermWF800HP」が発売された。最大433Mbpsのドラフト版IEEE 802.11ac Draft(以下Draft 11ac)に対応しながら、リーズナブルな価格とコンパクトなデザインを採用した製品だ。その実力を検証してみた。

最新スマートフォンの実力を発揮できる環境を

 スマートフォンやPCの進化を考えると、そろそろ家庭内の無線LAN環境を見直してもいいタイミングと言えそうだ。

 2013年3月末に、国内でも80MHz幅を利用したDraft 11acの利用が可能となり、家庭内の無線LAN環境は一気にギガビット時代へと突入した。新規格ということで当初はハイエンド志向の製品から発売されたが、現在では一般的な家庭で利用するのに適したリーズナブルなDraft 11ac対応の無線LANルーターも店頭に並び始めている。PCやスマートフォンでも、標準でDraft 11ac対応の無線LAN機能を内蔵する製品が増えてきた。

Draft 11acに対応したGALAXY S4とAtermWF800HP。スマートフォンで高速な通信を楽しめる

 実際、すでに発売されている携帯電話事業者各社のスマートフォンのラインナップを見てみると、以下のように、すでにDraft 11ac対応の無線LANを搭載した機種が多くラインナップしている。

【Draft 11ac対応の無線LAN搭載スマートフォン】
NTTドコモGALAXY S4 SC-04E
AQUOS PHONE ZETA SH-06E
ARROWS NX F-06E
MEDIAS X N-06E
AQUOS PHONE si SH-07E
Disney Mobile on docomo F-07E
らくらくスマートフォン2 F-08E
auAQUOS PHONE SERIE SHL22
ソフトバンクAQUOS PHONE Xx 206SH
ARROWS A 202F

 同じく2013年夏に発売されたNECのLaVie Lシリーズ、AppleのMacBook AirなどもDraft 11ac対応の無線LANを標準で内蔵しており、気がつかないうちにDraft 11ac対応製品を使っているという人も少なくないことだろう。

 このように、スマートフォンやPCで高速な通信環境が整いつつある一方で、家庭内の無線LAN環境を見直してみると、もはや混雑し過ぎてまともに実力を発揮できない2.4GHz帯にしか対応していない製品が現役だったり、通信速度が54Mbps止まりのとんでもなく古い製品を現在も使い続けているケースも少なからず存在する。

 せっかく、スマートフォンやPCなどさまざまな機器が、空いている5GHz帯を利用可能となってきて、実効速度でも数百Mbpsを超える通信が可能であるにもかかわらず、家庭内に存在するたった1台の無線LANルーターが対応していないことが原因で、複数の端末の実力が発揮できないとすれば、これは実にもったいない話だ。

 確かに無線LANルーターは、あまり目立たない裏方の存在だ。しかし、その一方で、家庭内の通信の屋台骨を支える重要な存在でもある。わずかな投資で、この屋台骨をしっかりとしたものに置き換えることができるようになってきたのだから、そろそろ本格的に投資を検討すべきだろう。

リーズナブルなDraft 11ac機が登場

 このような状況の中、今回取り上げるのが、NECアクセステクニカから発売された「AtermWF800HP」だ。

 Draft 11ac対応の無線LANルーターだが、機能を必要なものに絞り込むことで実売価格で9000円前後というリーズナブルな価格を実現しており、2.4GHzにしか対応していない無線LANルーターや150Mbps以下の無線LANルーターなどからの買い換えに適した製品となっている。

 もちろん、機能が絞り込まれていることで、同じNECアクセステクニカ製の「AtermWG1800HP」のようなハイエンドのDraft 11ac対応製品と比べると、スペックで見劣りする点は少なからず存在する。

 たとえば、無線LANは、2.4GHz帯が300Mbps(IEEE802.11n/40MHz幅/2ストリームMIMO)、5GHz帯が433Mbps(Draft11ac/80MHz幅/シングルストリーム)となっており、5GHz側はアンテナが1本となることからIEEE 802.11 n/a通信時もシングルストリームの150Mbpsとなる。また、有線LANもWAN×1、LAN×3と、LAN側がハイエンド製品に比べて1ポート少ないほか、対応する速度も100Mbpsとなっている。

 有線の100Mbpsは無線の速度を考えると少々もったいない印象はあるが、前述したDraft 11ac対応のスマートフォンも、最大速度は433Mbpsとなっており、家庭内でスマートフォンとPC、家電などを連携させるには十分な速度となっている。PCなどで867Mbpsもしくは1.3Gbpsの機器を接続したい、WAN側の通信で100Mbps以上が欲しい、といったケースでは、ハイエンドのAtermWG1800HPをオススメするが、スマートフォンやタブレットを中心とした環境では、リーズナブルなAtermWF800HPで十分だろう。

 本体もコンパクトで、デザインもホワイトを基調にグレーをあしらった清潔感のある明るいイメージに仕上がっており、家庭での利用にとても適している。

 個人的には、らくらく無線スタートやWPSを設定するためのボタンが側面になってしまった点が少々残念だが、Draft 11ac機の中でもかなりコンパクトだったAtermWG1800HPをさらに3/4程度にまでコンパクトにした点は高く評価したいところだ。

正面
側面
背面
横置きにも対応。ケーブルをたくさん接続する場合は横置きの方が安定する
AtermWG1800HPとの比較。AtermWG1800HPもかなりコンパクトだったが、AtermWF800HPはさらに一回り小さい

スマートフォンを手軽に接続可能

 このように、スマートフォンに適した433MbpsのDraft 11ac環境をリーズナブルに構築できるAtermWF800HPだが、価格だけでなく、使いやすさもきちんと兼ね備えている。

 たとえば、接続に関しては、新たに「らくらくQRスタート2」に対応した。「らくらくQRスタート」は、設定情報が記録されたQRコードをスマートフォンのカメラで読み取ることで、SSIDや暗号化キーなど接続に必要な情報を登録する機能だが、今回のAtermWF800HPでは、この機能が強化されており、アクセスポイントに接続後、回線設定が必要な場合(PPPoE接続の場合)に自動的にIDとパスワードの入力画面を表示することで、インターネット接続まで一連の流れで設定できるようになった。

 ほとんどの場合、アクセスポイントモードとして利用すると思われるので、この機能を目にする機会はあまりないかもしれないが、PCを使わずに、回線設定まで可能にしたことで、より手軽に使えるようになった印象だ。

 しかも、この「らくらくQRスタート2」用のツールは、NTTドコモとauのスマートフォンであれば、通信事業者が提供しているWi-Fi接続ツール(docomo Wi-Fiかんたん接続、au Wi-Fi接続ツール)に同梱されている。もともと、Android 4.xであれば、WPSを使ってボタン設定で手軽に接続することができるが、QRコードを使う場合でも、機種によっては特別なアプリをダウンロードしなくてもすぐに接続できることになる。

Android 4.xならWPSで接続可能
docomo Wi-Fiかんたん接続はらくらくQRスタートに対応しているため、QRコードを読むだけで接続可能
auのau Wi-Fi接続ツールもらくらくQRスタートに対応。標準ツールで手軽に設定することができる

 なお、AtermWF800HPでは、接続設定用のQRコードが本体背面に貼付されているが、このサイズが従来製品に比べて、かなり大きくなった。設定用シートが同梱される機種であれば、小さめのQRコードでも読み取りに苦労しないが、本体背面の場合、設置後に読み取ろうとすると小さくてなかなか読み取れない場合があったのだが、今回の大型化によって、設置後でも読み取りやすくなった。

 こういった細かな工夫は、ユーザーの使いやすさを重視するNECアクセステクニカ製品らしいポイントと言えそうだ。

 機能的にシンプルなため、ハイエンド機種のように凝った機能は搭載されていないが、無線LAN関連の基本機能はしっかりとおさえられており、WEPにしか対応しない端末向けにセカンダリSSIDを提供したり、複数SSID間での通信を分離するネットワーク分離機能を搭載するなど、無線LANルーターとしての基本的な機能はきちんとおさえられている。

 まさに、Atermシリーズならではの基本性能と使いやすさをリーズナブルに提供したという印象だ。

背面のQRコードが大きくなったため、読み取りがスムーズにできるようになった
設定画面は、かんたんモードと詳細モードの2種類を用意。標準ではかんたんモードとなる
スケジュール設定など高度な機能は詳細モードから設定可能。機能的にはシンプルでわかりやすい

スマートフォンには十分なパフォーマンス

 気になるパフォーマンスだが、木造3階建ての筆者宅にて、Draft11ac対応のMac Book Air 11(2013)を利用してiPerfで計測した値は以下の通りだ。

【表1】iPerf速度(TCP Windows Size 256K, Parallel 3)
製品名使用周波数帯・速度DOWN(Mbps)
AtermWF800HP5GHz(433Mbps)1F94.6
2F94.1
3F38.4
AtermWG1800HP5GHz(867Mbps)1F476
2F325
3F168
  • いずれも子機はMacBook Air 11
  • サーバー:Synology DS1512+
  • サーバー側:iperf -s -w256k、クライアント側:iperf -c [IP] -w256k -t10 -i1 -P3

 上限速度が433Mbpsとなるものの、有線が100Mbpsに制限されていることの方が響いている印象だ。1階、2階ともに実効94Mbps前後を実現しており、明らかに有線がボトルネックになっている。90Mbps台なら実用上は十分だが、少々、もったいない印象だ。一方、3階では、若干、値が落ちて38.4Mbpsとなったが、実効で30Mbpsを超える速度を実現できており、ウェブの閲覧などはもちろんのこと、ストリーミングなどでも問題ない速度が確保できていると言えそうだ。

 参考として掲載したAtermWG1800HPの値と比較しても、3ストリームMIMOのAtermWG1800HPが3Fで168Mbpsなので、シングルストリームのAtermWF800HPの38.4Mbpsという値も妥当なところだろう。

 もともと製品の特性として、ハイエンド機のような最大速度や長距離伝送で勝負する製品ではないので、パフォーマンスはあまり期待すべきではないが、家中のいろいろな場所に設置されているDraft 11ac端末から、必要十分な速度で通信できるので、実用性としては十分と言えそうだ。Draft 11acによって、混雑している2.4GHz帯から5GHz帯へと退避できるだけでも、得られる恩恵は大きいだろう。

 以上、NECアクセステクニカの433Mbps対応Draft 11ac無線LANルーター「AtermWF800HP」を実際にテストしてみたが、スマートフォン向けと割り切れば、むしろ少ない出費で快適な無線LAN環境が整えられるため、良い選択肢と言えそうだ。

 もちろん、物足りないと感じる人も少なくないと思われるが、その場合はAtermWG1800HPの出番となる。個人的には、とにかく2.4GHz帯と150Mbps以下の環境からの脱却を強くおすすめしたいので、そのきっかけになってくれることを期待したい製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。