清水理史の「イニシャルB」

デュアルWANなどの充実機能はIEEE802.11nでも健在
ASUS多機能無線LANルーター「RT-N66U」

 ASUSの無線LANルーターにIEEE802.11n対応の「RT-N66U」が登場した。昨年末に発売されたRT-AC68Uの兄弟機だ。弟分とは言え、その機能は上位機種とほぼ共通となるお買い得モデルだ。その実力を検証してみた。

ASUS RTシリーズの性能がより身近に

 「RT-N66U Dark Knight」。同梱のマニュアルにしか記載されていないが、こういったニックネームが製品に付けられるあたりは、いかにもPCパーツメーカーらしい発想で、個人的には決して嫌いじゃない。

 実際、RT-N66Uは、IEEE802.11n準拠の普及価格帯のモデルながら、機能的には、本コラムで昨年末に取り上げた上位モデルの「RT-AC68U」とほぼ共通となっており、非常に多機能かつ高性能な製品に仕上がっている。

ASUSのIEEE802.11n準拠無線LANルーター「RT-N66U」

 すでに海外では多数のラインナップが展開され、ネットワーク機器メーカーとしての認知度も高いASUSだが、Draft 11ac対応のRT-AC68Uと今回登場したIEEE802.11n準拠のRT-N66Uで、国内のラインナップも徐々に充実してきた印象だ(RT-N66Uの前モデルとなるRT-N56Uも国内販売あり)。

 では、今回登場したRT-N66Uは、どのような機能を搭載した製品なのだろうか? 上位モデルのRT-AC68Uとの違いを簡単にまとめると以下の表のようになる。

 

【RT-N66U/RT-AC68U機能比較】
RT-N66URT-AC68U
対応規格IEEE802.11n/a/b/gIEE802.11n/a/b/g,Draft 11ac
最大速度(2.4GHz+5GHz)450Mbps+450Mbps600Mbps+1300Mbps
アンテナ3本3本
WAN1000BASE-T×11000BASE-T×1
LAN1000BASE-T×41000BASE-T×4
USBUSB2.0×2USB2.0x1/USB3.0x1
サイズ207 x 148.8 x 35.5 mm (WxDxH)220 x 83.3 x 160 mm (WxDxH)
重量450g640g
無線LAN関連AiRader
ゲストネットワーク
WDS
RADIUS認証
スケジュール機能
TxPower調整
動作モード変更
ワイヤレスON/OFFスイッチ×
ネットワーク関連ネットワークマップ
QoS
トラフィックモニター
H/Wアクセラレータ
デュアルWAN
NATパススルー
IPv6
セキュリティ関連ペアレンタルコントロール
リモートアクセスの保護
ファイアウォール
USB関連メディアサーバー
Network Neighborhood共有
FTP共有
ネットワークプリンタサーバー
3G/4G
TimeMachine×
リモートアクセス関連ダイナミックDNS
CloudDisk
SmartAccess
SmartSync
SyncServer
VPNサーバーPPTPPPTP/Open VPN
VPNクライアント×PPTP/Open VPN/L2TP
その他システムログ
診断ツール
WoL

 無線LAN部分の違いのほか、ハードウェア面ではUSB 3.0が削られている。ソフトウェア面では、TimeMachineに対応していないこと、VPNサーバー機能がPPTPサーバーのみに限定される点が異なる。しかし、そのほかの機能については上位モデルとまったく同じとなっている。

 中でも、LANポートのうち1つをWANポートとして設定し、2回線のWANでロードバランスさせるデュアルWAN機能、USB接続した3G/LTE通信アダプタをWAN回線に利用できる機能、さらにはASUSの各種オンラインサービスとの連携によって外出先からUSB接続したストレージやLAN内のPCにアクセスできるAiCloudなどが搭載されているのは注目で、一般的な無線LANルーターでは考えられないほど多機能な製品となっている。

 正直、ユーザー層を考えると、下位モデルにここまで機能を搭載する必要はないとも思えるのだが、こういった点で妥協をしないあたりがASUSらしいと言えそうだ。

少し控えめになった本体サイズ

 では、実機を見ていこう。本体デザインは、ハイエンドモデルのRT-AC68Uと共通で、ブラックを基調とした精悍なイメージに仕上がっている。

 写真では少しわかりづらいが、表面に入っている斜めの格子状の模様は、印刷ではなく、本体の微妙な凹凸によって構成されており、触ると凹凸を感じることができるようになっている。どちらかと言えば裏方の周辺機器である無線LANルーターに、ここまで凝ったデザインをするのもASUSらしいところだ。

正面
側面
背面

 サイズは、巨大だったRT-AC68Uに比べると、一回り以上小さくなっている。とは言え、アンテナは相変わらずの外付けとなるため、実際に部屋に設置すると、存在感はそれなりにある。

 ちなみに、標準では横置きとなっているが、付属のスタンドを背面に装着することで縦置きも可能となっている。ただし、この場合、レイアウトの関係で、LANやUSB、電源などの配線がすべて上部になってしまう。実際にケーブルを接続すると、少し不格好なうえ、接続するケーブルによっては少し不安定になるので、基本的に横置きで使うべきだろう。

 スイッチ類は、背面に電源ボタンが配置されているが、上位モデルのRT-AC68Uにあった無線LANのオン/オフスイッチとLEDを消灯するためのボタンは省略されている。無線LANのオン/オフスイッチは日常ではあまり使うシーンはなさそうだが、LEDの消灯スイッチは、夜の寝室をビカビカと照らす青い光から解放される非常に有効な機能だったので、本製品で省略されたのは少々残念だ。

付属のスタンドで縦置きも可能だが、その場合はケーブル類を上につなぐことになる

スマートフォンからセットアップしてみる

 セットアップは、PCからももちろん可能だが、スマートフォンからも実行可能だ。実際に、Android端末(GALAXY Note 3)、およびiPhone 5sで実行してみたが、PC版の設定ページが表示されたため、若干、ページが見にくかったものの問題なく設定することができた。

 出荷時に設定されている暗号化なしのSSID(ASUSもしくはASUS_5G)に接続し、Webブラウザーで「http://www.asusnetwork.net」にアクセスすると、自動的に初期設定のウィザードが実行されるので、管理者アカウントのパスワード、無線LANのSSIDおよびネットワークキーを設定すればいい(WAN側がPPPoEの場合はWANの設定が必要)。

 設定後、新しく登録したSSIDとネットワークキーで無線LANに繋ぎ直せば、インターネットに接続することができる。

初期設定では暗号化なしのSSIDが登録されているので、端末から接続
Webブラウザーで「http:www.asusnetwork.net」にアクセスして設定開始
まずは管理者パスワードを登録
無線LANのSSIDとネットワークキーを設定する
設定したSSIDとネットワークキーで接続すればインターネット接続が可能に。他の設定もスマートフォンから可能

 工場出荷時のSSIDが暗号化なしとなっている点を懸念する人もいるかもしれないが、本製品の場合、初期設定で必ずパスワードの設定が強要されるので、初期設定時のみ第三者が意図せず接続しないように注意しておけば問題ないだろう。

 なお、本製品は、前述したように豊富な機能を搭載している。特に、ASUSのクラウドサービスと連携した「Cloud Disk」や「Smart Access」は非常に便利な機能で、設定や使い方については、RT-AC68Uレビューの回に詳しく取り上げている。両機能についてはRT-AC68Uレビュー(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/column/shimizu/20131217_627549.html)を合わせて参照してほしい。

450Mbpsながら優秀なパフォーマンス

 気になるパフォーマンスについてだが、IEEE802.11n準拠の450Mbps対応製品としては、なかなか優秀だ。以下は、木造三階建ての筆者宅にて、1FにRT-N66Uを設置し、各フロアでiPerfによる速度を計測した結果となる。

 今回は、Panasonic Let's note CF-AX2に、NECアクセステクニカの450Mbps対応USB無線LANアダプタ「AtermWL450-AG」を装着したクライアントと、Draft 11ac(867Mbps)対応の無線LANを内蔵したMacBook Air 11 2013を利用して速度を計測。比較対象として、Draft 11ac対応のRT-AC68Uでも同クライアントから速度を計測してある。

 

【IEEE802.11ac速度(iPerf)】
親機子機1F2F3F
RT-AC68UAtermWL450-AG(450Mbps)5GHz279174117
2.4GHz2368664.5
MacBook Air 11(867Mbps/300Mbps)5GHz623433232
2.4GHz10797.994.8
RT-N66UAtermWL450-AG(450Mbps)5GHz246182123
2.4GHz19581.752.5
MacBook Air 11(300Mbps)5GHz238181175
2.4GHz91.169.251.2
  • サーバー:Intel NUC DC3217IYE
  • サーバー側:iperf -s、クライアント側:iperf -c [IP] -t10 -i1 -P3
  • 2.4GHz帯は1Fでのみ40MHz幅で接続された

 結果を見ると、Draft 11acの867MbpsでリンクするRT-AC68U+MacBook Airの値が突出しているのは当然としても、RT-N66U+AtermWL450-AGの5GHz時で、1Fで246Mbps、3Fでも実効で100Mbpsオーバーを実現しているため、十分な速度を実現できていることがわかる。上位モデルのRT-AC68U+AtermWL450-AGでも同等の速度となるため(上限は同じく450Mbpsまで)、性能的には廉価版と侮ることはできない印象だ。

 注目すべきは、RT-N68U+MacBook Airの5GHzの結果がなかなか良好な点だ。MacBook Air 11に搭載されている無線LAN機能は2ストリームMIMO対応(アンテナ2本)なので、IEEE802.11nでの接続時の速度が上限300Mbpsとなってしまうのだが、それでも3ストリームMIMOで最大450MbpsのAtermWL450-AGと同等、2F、3Fではむしろこれを上回る速度を実現できている。

 これは、おそらくビームフォーミングの効果だと考えられる。RT-N66Uには、同社でAiRaderと呼ぶビームフォーミング技術に対応している。MacBook Airで採用されているBroadcomチップでも同様にビームフォーミングに対応しているため、長距離時の電波の特性が現れたのではないかと推測される(QualcommチップのAtermWL450-AGはビームフォーミングは未対応)。

 なお、2.4GHzに関しては、筆者宅では親機と子機が同一フロアにある場合のみ40MHz幅で接続可能で、フロアを変更したり、壁で仕切られた場所からでは、20MHzでしか接続できなかった。RT-N66Uの設定で40MHz固定に設定することも可能だが(標準設定は20/40MHz自動判別)、40MHz固定では長距離で明らかに20MHz時よりも速度が落ちてしまった。

 2.4GHzの電波状況がよほどクリアな環境であれば問題ないが、近くに複数のアクセスポイントが常に見えているような状況では、上限の実効速度は100Mbps前後に落ちてしまうが20MHzで利用した方が快適だろう。

 続いて、有線LANのスループットも計測してみた。1GbpsのauひかりをWAN側に接続し、有線LANで接続したPCから、Radishの速度計測を実行したのが以下の画面だ。上り側ではあるが実効で800Mbpsオーバーが実現できているので、ギガビットクラスの回線への接続も問題ないだろう。

 最後に、USBポートにSSDを接続し、ファイル共有の速度も計測してみた。こちらは、USB2.0の影響か、本体の処理性能の影響か、実効で30MB/sを越えるRT-AC68Uに比べると、見劣りする結果となった。これでも簡易的なファイル共有であれば可能だが、本格的なNASとして使いたいのであれば、やはり上位モデルのRT-AC68Uをおすすめしたいところだ。

450Mbpsで十分という人に

 以上、ASUSから新たに登場したRT-N66Uを実際にテストしてみたが、無線LANは450Mbpsが上限となるものの、クラウド連携や簡易NAS、VPNなど、豊富な機能を搭載した魅力的な製品だ。

 今回は誌面の都合もあって詳しくご紹介できなかったが、インターネット上からUSB接続したストレージを利用できるCloudDiskや、自宅のPCにアクセスできるSmartAccessは非常に便利な機能で、小規模な企業やSOHOでの利用にも適している。

 無線LANのスピードにこだわるのであれば、上位モデルのRT-AC68Uがおすすめだが、Draft 11ac対応のクライアントは、スマートフォンでは対応が進んできたものの、ノートPCなどでは対応機がさほど多くないため、450Mbpsでも実用上は問題ないケースも多い。価格を考えても、こちらを選ぶのも良い選択だ。古くなった無線LAN機器の入れ替えを検討している場合などは、ぜひ検討してみてほしい一台だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。