清水理史の「イニシャルB」

後出しジャンケンなんだからカッチリ勝とうぜ Windows 10(Build9860)のマルチデスクトップ

 10月21日、Windows 10 Technical Previewのビルドが9860へとアップデートされた。アクションセンターと呼ばれる通知機能が追加されたのが大きな注目だが、個人的にはマルチデスクトップ周りの改善に注目したい。着々と機能が改善されていけば、この機能はビジネスシーンで生産性向上に大きく寄与するはずだ。

しっかり反映されたフィードバック

 これは、とても喜ばしいことだ。

 Windows 10 Technical Previewの最新版となるBuild 9860で、マルチデスクトップ関連の機能が改善され、「Win+Ctrl+←/→」でデスクトップ間を移動する際のアニメーション表示が追加された。

 Windows 10 Technical Previewでは、タスクバーに新たに設置された「Task View」ボタンをクリックすることで、いわゆる仮想デスクトップを追加し、各デスクトップにアプリを配置して、切り替えながら利用できるようになっている。

 この際、「Win+Ctrl+←/→」を使って各デスクトップ間を移動すると、デスクトップが左右にスライドするようにアニメーションしながら切り替えることが可能となったわけだ。

Build 9860から、マルチデスクトップ環境でデスクトップ間の切り替えにアニメーション効果が適用された

 新機能と呼ぶには地味なものかもしれないが、これが興味深いのは、ユーザーの声によって追加された機能であることだ。

 マイクロソフトの「Blogging Windows(http://blogs.windows.com)」によると、Windows Feedback経由で寄せられた「デスクトップを切り替えたことがわかりにくい」という声を反映しての追加とコメントされており、Technical Previewの評価に参加したユーザーの声がしっかりと反映されたことになる。

 もちろん、少し意地悪な見方をすれば、内部的に以前から準備されていた機能が、このタイミングでお目見えしただけと想像することもできる。

 しかし、もし、そうであったとしても、内部的に評価されていた数々の機能の中から、どれを一般のユーザーのベータテストに供すか、さらに最終的な製品版に搭載するかを検討する際に、ユーザーのフィードバックも1つの判断基準になっていることが想像できる。

 もちろん、それがベータテストなのだから、当たり前とも言えるが、実際の機能として、しかもこんなにも早く、フィードバックが反映されたことは、とても喜ばしいことだ。

今回、追加された機能は、ユーザーからのフィードバックが多かったことが同社のWebサイトに記載されている

×デスクトップの切り替え、○仕事の切り替え

 それにしても、このマルチデスクトップは、なかなか可能性を秘めた機能と言える。

 LinuxユーザーやMac OS Xユーザーからすれば、「何を今さら……」といったところで、アイデアとしてはむしろ古くさいし、機能的にもまだまだ改善の余地はあるが、PCの用途によっては、この機能はとても役立つ可能性がある。

 具体的には、複数のプロジェクトを同時に進行させるような場合だ。筆者でさえ、連載原稿を書きながら、書籍の校正をしつつ、請求書などの事務処理をするといったように、並行的に複数の仕事を実行しなければならないことがあるが、ユーザーによっては、相互に関連性の薄い個別の案件をさらに多く進行させなければならないこともあるだろう。

 このような場合に、プロジェクトごとに用意した個別のデスクトップに、必要なフォルダー、必要なブラウザーのウィンドウ、必要なアプリを配置しておけば、「Win+Ctrl+←/→」で、スイスイとデスクトップを行き来しつつ、それぞれの仕事を処理できることになる。

 例えば、あなたが翌日の会議の資料を作っている最中に、顧客からの問い合わせがあり、緊急で以前の案件についての細かな数値の問い合わせがあったとしよう。

 現状のWindowsであれば、会議資料作成用のブラウザーやエクスプローラー、PowerPointなどをデスクトップに広げたまま、さらにエクスプローラーを開いて、ファイルからExcelを起動したり、ブラウザーで社内の業務アプリでデータを参照したりして、問い合わせに回答することになる。

 新たに開いたウィンドウを閉じれば、元の仕事に戻れるが、間違って必要なウィンドウを閉じてしまうなんてミスは、日常茶飯事だ。顧客からの問い合わせが、五月雨的に何度も繰り返されれば、もはやデスクトップは混沌(こんとん)となり、マウスとキーボードを窓から投げ捨てたくなるだろう。

複数のタスクが集中すると、デスクトップがウィンドウであふれかえることも

 しかし、Windows 10であれば、マルチデスクトップによって、タスクごとにデスクトップを割り当てられる。

 顧客からの問い合わせがあったら、慌てず「Task View」ボタンをクリックして、新しいデスクトップを作成。

 会議資料用のデスクトップは、中断したときの状態を保持したまま、新しいデスクトップ上にエクスプローラーやブラウザー、アプリのウィンドウを新たに開いて、問い合わせに回答すればいい。

 電話を切った後、「Win+Ctrl+←」で、元のデスクトップに戻れば、今までの仕事にすぐに戻れるし、問い合わせのデスクトップをそのまま保持しておけば、再び問い合わせがあったときでも、「Win+Ctrl+→」で問い合わせ用のデスクトップにサッと切り替えることができる。

Task Viewからデスクトップを追加可能。起動中のアプリを右クリックして特定のデスクトップに移動することもできる
資料作成用(左)と問い合わせ対応用(右)のデスクトップで、別々に作業。必要に応じて切り替えながら利用できる

 要するに、単純に表示領域を拡張する機能だと考えると、さほど有り難みを感じないが、平行するタスクを処理する機能と考えると、そのメリットが見えてくるわけだ。

 そう思ってタスクバー上のボタンをあらためて眺め、だから「Task View」という名前なのかと納得した。

マルチデスクトップ利用時の注意点

 ただし、このような使い方をする場合、いくつかの注意点がある。

 まずは、同一アプリの複数デスクトップへの配置だ。例えば、デスクトップ1でブラウザーを起動した状態で、デスクトップ2を新たに作成し、こちらでもブラウザーを起動したいとしよう。

 しかし、デスクトップ2を表示し、単にタスクバーのIEのアイコンを単にクリックするだけでは、デスクトップ1に切り替わり、そちらのIEがアクティブになるだけとなる。デスクトップごとに個別のアプリを起動している場合はタスクバーのアイコン一発でデスクトップが切り替えられるので便利なのだが、同一アプリを起動したい場合は、この機能がアダとなる。

 もしも、同一アプリを複数のデスクトップで起動したいのであれば、「Shift」キーを押しながらタスクバーのアイコンをクリックするか、右クリックしてメニューからアプリ名をクリックし、別ウィンドウで起動する必要がある。

デスクトップ1(左)でIEを起動中の場合、デスクトップ2(右)で単にタスクバーのIEをクリックするだけでは、単にデスクトップ1(左)に切り替わるだけ。個別にアプリを起動したいときは「Shift」キーを押しながら起動する

 続いて、追加したデスクトップを閉じるときの動作だ。上記の例で、デスクトップ1とデスクトップ2の両方でIEを起動した状態で、「Task View」ボタンからデスクトップ2の右上にある「×」をクリックして、デスクトップ2を閉じたとしよう。

 この場合、デスクトップ2で起動していたIEは、自動的に終了されるわけではなく、デスクトップ1へと自動的に移動する。

 閉じるデスクトップ上のアプリが1~2個なら問題ないが、多数のアプリを起動している状態でデスクトップを閉じると、別のデスクトップに一気にウィンドウが散乱し、お手上げの状態となる。

 デスクトップを閉じる際に、表示していたアプリを移動するか、閉じるのかをダイアログボックスで表示してくれても良さそうなものだ。

Task Viewからデスクトップ2を閉じると、開いていたウィンドウをデスクトップ1に移動する

 また、作成したデスクトップは、Windowsからサインアウトしたり、再起動したりすると、きれいさっぱり消えてなくなる。Mac OS Xは、OS終了時に「再ログイン時にウィンドウを再度開く」にチェックを付けておくと、次回起動時に追加したデスクトップ、およびそこに配置されていたウィンドウが自動的に再現される。

 Windowsもエクスプローラーのウィンドウであれば、フォルダーオプションで記憶させることができるが、仮想デスクトップは再現されないため、最初のデスクトップに元のウィンドウがまとめて表示されるだけだ。

 冒頭で紹介したBuild9860で追加されたアニメーション効果もMac OS Xの動きに似ているが、この機能だけ比較しても先行するMac OS Xの方が洗練されている。

 後出しジャンケンなんだから、カッチリ勝とうぜ。

Mac OS XのMission Control。Build 9860の動作はとても似ている
ウィンドウの状態を保存しておくと再起動しても仮想デスクトップ環境が再現される

「タスク」ではなく「プロジェクト」を

 さて、ここからは「たられば」の話をしよう。

 上記の注意点もそうだが、この機能は、磨けば、生産性の向上に役立つ可能性を秘めており、実際に使っていると、「これができればいいのに……」と思える点がいくつかある。

 全体的な方向性としては、「Task」という短期的な発想ではなく、長期的な「プロジェクト」という発想に転換した方がいい。

 先にも触れた通り、この機能を利用すると、複数の仕事を効率よく切り替えることができる。

 しかし、再起動すると、せっかく仕事ごとに分けたデスクトップとそこに配置されたウィンドウまでもリセットされてしまう。通常、仕事は長期間にわたって続くものなので、長期的なプロジェクトに対応できるようになるとありがたい。OSをスリープさせておけば済む話ではあるが、メンテナンスなども考えると、デスクトップごとに保存できるようになるのが理想だろう。

 各デスクトップのウィンドウの配置だけでは、Mac OS Xとの同じで面白くないので、データやアプリの状態も含めてスナップショットのように保存できるようになってくれると面白い。

 その場合、業務アプリ上のデータの不整合などをどうするのかが大きな課題になりそうだが、こうなれば、年次処理などで1年以上前のプロジェクトのデスクトップを呼び出して、前の作業を再開するといったことすら可能になる。

 また、細かな話をすれば、デスクトップごとに名前を付けたり、数字キーなどのショートカットでデスクトップを一発で呼び出せるようにもなってほしい。1~2つなら、「Win+Ctrl+矢印」での切り替えも苦ではないが、多くなると(解像度の問題で物理的に追加ボタンがクリックできなくなるデスクトップ11まで追加できることを確認できた)、切り替えがおっくうになる。

 名前を付ければ、何の用途のデスクトップなのかもすぐにわかるうえ、うまくキーを割り当てれば一発で切り替えられるようになる。

 将来的には、カレンダーやToDoアプリと連携できるようになるのも理想だ。デスクトップ=プロジェクトごとの期限や進ちょくを管理できるようになれば、計画と実際のアクションをより密接に連携させることもできるだろう。

 とまあ、この機能を使っていると、妄想が尽きない。仮想デスクトップなんて、もはや過去の機能。そう思い込んでいたが、実際には、まだまだ磨けば光る余地はありそうだ。

 いつか、このような機能が実装されることを願って、Windows Feedbackでリクエストしておくことにしよう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。