清水理史の「イニシャルB」

ヤマハならアクセスポイントもスイッチもルーターからまとめて管理
「LANマップ」ではかどるオフィスの無線LAN環境とは

 担当者の手間は半減、いや、もしかすると数分の一にまで軽減されるのではないだろうか。ヤマハのルーター「RTX1210」と無線LANアクセスポイント「WLX302」を組み合わせると、ルーターのGUI画面から、オフィスに点在するアクセスポイントやスイッチをまとめて設定・管理することができる。果たして、中小規模のオフィスにを導入する際の救世主となるのか? その実態に迫ってみた。

オフィスのネットワークを手の内に

 箱から機器を出したらまずコンソールにつなぐ、機器によって違うコマンドを勉強する、設置したアクセスポイントのIPアドレスを片っ端から頭にたたき込む、機器同士の接続状況を表にしたり図形にしたりして管理する……。

 社内のネットワーク担当者は、もう、こんな手間に日々の時間と労力を消費しなくて済むかもしれない。

 ヤマハから発売されている中小規模拠点向けVPNルーター「RTX1210」に搭載された「LANマップ」機能を利用すると、ネットワーク上に配置されたアクセスポイントやスイッチを、実際の接続状況に合わせてグラフィカルに表示し、一画面から複数の機器をまとめて管理することが可能だ。

LANマップ機能を搭載したヤマハ RTX1210を中心にネットワークを構築すれば、スイッチやアクセスポイントを一画面から管理可能となる

 近年、オフィスのフリーアドレス化やスマートフォン/タブレット端末の普及によって、企業が無線LANを導入することは当たり前の状況になりつつあるが、その導入は意外に考慮すべき点が多い。

 コンシューマ向け製品と異なり、安定性や信頼性が求められる法人向けのアクセスポイントは、製品によっては設定が難しく、コマンドベースで初期設定をしたり、複数の機器を設置することを前提にネットワーク全体を把握し、各機器の設定を調整したりしなければならない。

 無計画に導入を進めれば、さまざまなベンダーの機器を管理しなければならなくなったり、トラブルの切り分けや解消に手間取ったりすることにもなりかねないわけだ。

 しかし、前述したヤマハのルーターとアクセスポイントを組み合わせれば、こういった導入時や運用後の悩みを解消することができる。具体的に、どれほど簡単に設置したり、効率的に管理できるのか、実際の手順を見ながら検証していこう。

「設置」→「設定」のシンプルな流れで設定可能

 今回、構築した環境は以下の通りだ。小規模なワンフロアの構成を想定し、インターネット接続のためのルーターの「RTX1210」を中心として、アクセスポイントの「WLX302」を1台配置している。WLX302はRTX1210に直接接続することも可能だが、今回はPoEによる給電でWLX302を動作させることを目的として、スマートL2スイッチ「SWX2200-8PoE」を経由して接続することにした。

ネットワーク構成図

 なお、各製品の主な仕様だが、ルーターのRTX1210は僚誌クラウド Watchの「ヤマハの新VPNルーター『RTX1210』を徹底レビュー! グラフィカルになったWeb GUI(http://cloud.watch.impress.co.jp/docs/special/yamaha/20141211_678846.html」を参考にしていただきたい。

高い性能が魅力のヤマハ「RTX1210」
正面
背面

 一方、WLX302は、2.4GHzのIEEE 802.11b/g/nと5GHzのIEEE 802.11n/aに対応した製品となっており、本体にはLAN接続用の10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T対応ポートとコンソール(設定)用のRJ-45ポートを搭載。企業向けのタグVLAN(IEEE 802.1Q)やSNMP(V1)、簡易型のRADIUSサーバー機能なども搭載している。

2.4GHzのIEEE 802.11b/g/nと5GHzのIEEE 802.11n/aに対応したアクセスポイント「WLX302」
正面
背面

 接続端末数は、2.4GHz帯、5GHz帯それぞれ最大50台の合計100台が目安とされているので、小規模なオフィスや拠点、店舗などでは、1台で十分にカバーできる性能を誇る。スケジューリング機能によって時間を区切って動作させることもできるので、オフィスや店舗の稼働状況に合わせた運用も可能な製品となっている。

 スイッチの「SWX2200-8PoE」は、150Wクラスの高出力電源を搭載したPoE(1、3、5、7ポートはPoE Plus)対応の製品だ。今回は、WLX302をPoEで動作させるためだけに利用しているが、もちろんVLANなどの設定に利用可能だ。

PoE対応のL2スイッチ「SWX2200-8PoE」
正面
背面

 基本的な設定の流れは、「設置」→「設定」という流れになる。当たり前じゃないかと言われそうだが、実は、この単純な流れができないことも多い。

 冒頭でも少し触れたが、企業向けのネットワーク機器の場合、箱をから取り出して最初にするのはコンソールでの接続というパターンが少なくない。実際に機器を設置する前に、少なくとも機器のIPアドレスを設定しておかないと、その後の管理ができないからだ。

 しかし、今回の構成では、事前の設定は必要ない。WLX302を箱から取り出したら、オフィス内のしかるべき場所にいきなり設置し、SWX2200-8PoEに接続して電源をオンにすればいい。

 ネットワーク上でWLX302を見失ってしまうのではないか? と心配する必要はない。設置後、RTX1210のWeb GUI設定画面を開き、LAN1インターフェイスでLANマップを有効化後、「LANマップ」というタブをクリックすれば、RTX1210の配下に接続されたSWX220-8PoE、そしてその配下に接続されたWLX302と、ネットワーク上の機器がグラフィカルなツリー形式で表示される。

LANマップを有効化
RTX1210のLAN1(ポート1~8)に接続された端末がグラフィカルに表示される

 今回は、単純な構成としているが、これを実際に運用しているネットワーク上で目の当たりにすると、何やら目の前が急に開けたような印象さえある。さほど厳密に管理されていない中小規模の企業では、ネットワーク構成がはっきりと頭に思い浮かべることが難しいことがあるが、それがスッキリと整理された状態で、目の前に表示されるからだ。

 もちろん、単に表示されるだけではない。IPアドレスを設定せずに、いきなり設置したWLX302の初期設定もここから可能となる。

 RTX1210を選択した状態で「スレーブの管理」をクリックすると、ネットワーク上のスイッチ、無線アクセスポイントの基本的な管理を実行できる。どうやらWLX302にDHCPでIPアドレスが割り当てられているので、「設定」ボタンをクリックして、管理しやすいように固定IPアドレスを割り当てておけばいい。

スレーブの管理から対応機器の設定を変更可能

 今回はWLX302が1台のみだが、フロアに複数台の無線アクセスポイントが存在する場合、ここに並んで表示されるので、ひとつずつ選んで簡単にIPアドレスを割り当てることができる。

 「初期設定」→「設置」→「詳細設定」(もしくは「初期設定」→「詳細設定」→「設置」)という3ステップが、「設置」→「設定」というシンプルな2ステップで完了することになる。

まるでネットワークを支配している気分

 当然、設定できるのはIPアドレスだけではない。ツリーを展開して、IPアドレスを設定したWLX302を選択し、「無線APの設定」をクリックすると、WXL302の設定画面がポップアップ表示される。

RTX1210のLANマップから「無線APの設定」をクリックすると、WLX302の設定画面を表示できる

 このため、WLX302に設定したIPアドレスを担当者が覚えておく必要もない。複数台設置した場合はどの機器をどこに設置したのかは管理する必要があるが、設定画面からランプを点灯させることもできるので、厳密に管理しなくても差し支えない。極端な話、WLX302のIPアドレスを固定せずに、DHCPクライアントのまま利用しても問題なく運用できそうなほどだ。

 WLX302側の設定も簡単だ。無線LAN機能は標準で有効になっているので、端末から接続できるようにするためのSSIDを登録するだけでいい。

 コンシューマー向けの無線LANルーターでは、通常、2.4GHz帯が「xxxxx-24」、5GHz帯が「xxxxx-5」などと、標準で帯域ごとに個別のSSIDが設定されているが、WLX302では用途に合わせて柔軟に設定できる。

SSIDを設定すれば無線LANでの接続が可能

 同様に2.4GHz帯と5GHz帯でひとつずつSSIDを設定してもかまわないし、ひとつのSSIDを2.4GHz帯と5GHz帯に設定することもできる(接続する端末に合わせて自動的に接続先が変わる)。

 もちろん、2.4GHz帯を2つ、5GHz帯を3つといったように、複数のSSIDを設定することも可能だ。一般的な暗号キー(Pre-Shared Key)を使ったWPA2-PSKと、RADIUSによる認証を利用した企業向けのWPA2-EAPを使い分けたり、SSIDごとにVLANを設定するなど、さまざまなニーズに対応可能だ。

 このように、RTX1210から、ツリー上の各機器をクリックして状況を見たり、設定していると、まるで自分の手の内ですべての機器を転がしているような感覚さえあるから不思議だ。普段、振り回されているネットワーク管理の煩雑さを考えると、いきなり立場が逆転したかのような気分になる。

RADIUSサーバーによる認証も利用可能

本当に100台接続してテストしたヤマハの本気度

 コンシューマ向けの無線LANルーターでは、通信速度の速さがひとつの購入基準となることが多いが、企業向けの製品で重視すべきなのは、むしろ安定性だ。

 前述したように、WLX302は2.4GHz帯で最大50台、5GHz帯で最大50台の計100台の接続に対応できるように設計されている。複数の端末が同時に通信する企業ネットワークでは、このような1台のアクセスポイントが処理可能な台数が安定性を図るひとつの目安になる。

 と言っても、通常、このような数値は目安にすぎないことが多いのだが、ヤマハはカタログに値を掲載するために本当に検証したというのだから驚きだ。

 以下は、ヤマハが実際に行った検証テスト結果の一例だ。2.4GHz、5GHzの各帯域で、最大50台の端末を接続し、各端末で一定の負荷(UDP 4Mbps)をかけた際に、接続台数によってスループットがどれくらい変化するかを計測した値となる。

ヤマハが行った検証テストの結果。左図が2.4GHz、右図が5GHzとなる(資料提供:ヤマハ)

 15台、25台、35台と、台数が増えるに従ってスループットの低下が見られる他社製品に対して、WLX302はアクセスポイント→端末方向で45台以上になると、若干の低下が見られるものの、ほぼ各端末をほぼ一定のスループットで通信させ続けることに成功している。

 4Mbpsの帯域があれば、サーバー上のファイルを編集したり、クラウド上の業務アプリケーションを利用したりするのには十分な帯域で、ストリーミングにも対応できるほどだ。このような業務に支障のないレベルのスループットを50台まで処理できるのは、大きな魅力と言えるだろう。

 しかも、ここまではっきりとしたデータが出ていることで、導入する際の基準が明確になるメリットも大きい。通常は、フロア内に何台のアクセスポイントを設置するかの判断が難しく、通常はSIerまかせになりがちだが、フロア内の端末台数を計算することで、設置すべきアクセスポイントの台数も明確になる。

 事前の稟議が通しやすく、設置後も速度や安定性の面で不満が出にくいのは、非常に魅力的と言えるだろう。

見える化ツールで無線LAN APの設置も手助け

 また、WLX302には、無線LANの状態を把握し、適切な配置や設定をできるようにするための機能が「見える化ツール」として搭載されている。こういったツールを駆使して設定や設置場所を工夫することでも安定性を向上させることが可能だ。

 例えば、「無線LAN情報」の「状態表示」では、設置場所の周囲で、どのチャネルが無線LANの通信に使用しているかをグラフィカルに表示できる。

見える化ツールで周囲のアクセスポイントをグラフィカルに表示できる

 無線LANでは、同一の周波数帯を使っているアクセスポイントが周囲に存在すると、電波干渉によって速度が低下する可能性がある。利用できる周波数帯が狭い2.4GHz帯では、この問題が深刻で、速度の低下や通信エラーなどを避けるためには、できるだけ周囲で使われていないチャネルを選択する必要がある。

 とは言え、この判断はなかなか難しい。例えば、チャネルが重なるアクセスポイントが周囲にあったとしても、電波強度が低かったり、衝突検知のしくみ(CSMA/CA)が正常に機能していたり、その稼働率が低ければ問題にならない可能性がある。

 そこで、WLX302では、ヤマハ独自の基準で電波干渉の度合いを色分けして表示するようになっている。緑色は電波干渉なし、黄色なら干渉はあるがフレーム破損やスループットへの影響が小さい場合、赤だった場合は電波干渉によってフレーム破損やスループットに大きな影響がある場合といった具合だ。

 前述した画像で言えば、使用チャネルの部分に、黄色いアクセスポイントが2つほど重なるが、黄色で表示されているため、影響が小さいことがわかる。

 実際に、影響がありそうな周辺のアクセスポイントは、グラフからSSIDをクリックすることで詳細を確認することもできる。電波干渉やアクティブ時間のレベルを数値、およびレーダーチャートで確認できる。もともと、WLX302は、干渉の少ないチャネルを自動的に選択する設定になっているが、この情報を参考にしながら、WLX302で使用するチャネルや設置場所を決めるといいだろう。

周囲のアクセスポイントの詳細を表示可能

 また、アクセスポイントだけでなく、クライアントが安定して接続されているかも確認可能だ。

 見える化ツールの「端末情報」から一覧を表示すると、実際に接続されているクライアントのMACアドレス一覧が表示されるのだが、伝送速度や信号強度だけでなく、再送率や無線断回数まで表示される。

端末の情報も確認可能
伝送速度やスループット、再創立、切断回数なども表示され品質が評価される

 例えば、再送率が高いということは、電波干渉が発生している可能性が高いことになる。こちらも評価によって色分けで表示されるため、赤い色になっている場合は、チャネルを変更したり、アクセスポイントの設置場所を変えたり、といった対処が可能になる。

 要するに、論理的な判断ができるということだ。目に見えない無線LANの場合、なんとなく遅い、なんとなく不安定、といった悩みを抱えているケースも少なくない。不安定さの訴えが、特定のPCやユーザーのみからの場合だと、それも黙殺されがちになる。

 しかし、WLX302であれば、そういったユーザーの声から、接続先のアクセスポイントがどういう状況なのか、クライアントの接続が実際に不安定になっているかどうかをきちんとした数値で把握することができる。

 環境を改善するためのチャネル変更や設置場所変更といった対処も、その後の結果を数値で追えば、改善されているかどうかの判断も一目瞭然(りょうぜん)だ。こういった論理的な対処ができることこそ、ヤマハの無線LANアクセスポイントならではのメリットだ。

設定も運用もトラブル対応もすべて安心

 以上、ヤマハのルーター「RTX1210」、スイッチ「SWX2200-8PoE」、そしてアクセスポイントの「WLX302」を組み合わせたソリューションを実際に試してみたが、初期設定は簡単だし、運用後の管理も楽だし、最適化やトラブル対応も論理的にできると、まさに三拍子そろった環境と言えそうだ。

 これから無線LANを導入しようと考えているオフィスではもちろんだが、ここまで管理やトラブル対応が楽になるのであれば、既存の無線LAN環境を置き替えるメリットも十分に見えてくる。

 詳しくは次回紹介する予定だが、複数のWLX302を設置して一元管理することも可能となっており、小規模な環境だけでなく、大規模な環境でも活用できる。

 ルーターのRTXシリーズの品質の高さと手厚いサポートで、国内では高い支持を集めているヤマハだが、無線LAN製品でも、そのDNAは健在と言えそうだ。これから無線LANを導入する際の選択肢のひとつとして、ぜひ検討したい製品と言えるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。