清水理史の「イニシャルB」

ヤマハなら別フロアや会議室の無線LAN APも一括で設定 「無線LANコントローラー」ではかどるこれからの無線LAN構築術

 あちこちに設置した無線LANアクセスポイントの設定に頭を悩ませる時代は、どうやらもう終わりそうだ。ヤマハのアクセスポイント「WLX302」を利用すれば、「コントローラー」の役割に設定した1台のアクセスポイントから、共通設定をほかのアクセスポイントに配布したり、動作状況をまとめて確認したりすることができる。中小オフィスへの無線LAN導入を劇的にラクにする、ヤマハ無線LAN製品の実態に迫ってみた。

要員から「設定の手間」を排除

 新年度を迎えるにあたって、オフィスのレイアウト変更に伴ったインフラ整備で頭を悩ませているIT担当者も少なくないのではないだろうか?

 人事異動やレイアウト変更が実施されるこの時期は、それに伴ってネットワークの再設計や設定変更も頻繁に発生することが多い。

 中でも、無線LANの設定は悩みの種だろう。フロア内のレイアウトに従ってアクセスポイントの設置場所や設定を変更したり、事業規模の拡大に伴って新設されたフロアや会議室に新たにアクセスポイントを設置したりするのは、言うのは簡単だが、実際にやるとなるとかなり手間がかかる。

 PCの設置と設定、有線LANの設計など、タスクばかりが積み上がる中、既存のアクセスポイントの設置場所まで出向いてコンソールからIPアドレスを変更したり、新設するアクセスポイントの1台1台にSSIDや暗号キーなどを設定していく作業は、かなりの負担になるはずだ。

 1~2台の設定なら手動でも乗り切れるかもしれないが、台数が多くなるほど、手間は増え、ミスも発生しやすくなるだろう。

 そんな中、注目したいのがヤマハから発売されているアクセスポイント「WLX302」だ。5GHz帯のIEEE 802.11a/nと2.4GHz帯のIEEE 802.11b/g/nに対応したデュアルバンド対応のアクセスポイントで、バンドごとに最大50台、合計100台の端末を実際に接続して十分なパフォーマンスを発揮できることを実証した製品となっている。

WLX302

 もともと、同社製のルーター「RTX1210」と組み合わせることで、一元的な管理や設定ができるのが特徴だが(こちらの記事を参照)、「コントローラー」と呼ばれる役割を設定した1台のWLX302から、ネットワーク上の複数のWLX302をまとめて設定したり、それぞれの動作状況をまとめて確認したりすることも可能で、複数台のアクセスポイントの設定や管理が手軽にできるようになっている。

 いわば、無線LANの設置や運用から、設定の手間の一部を取り除くことができるソリューションと言える。

 「無線LANコントローラー」機能によって、実際にどれくらい設定と管理の手間が軽減されるのか、実際の設定を見ながらチェックしていこう。

無線LANコントローラー機能とは?

 実際の設定をする前に、まずは機能の概要を確認しておこう。WLX302に搭載されている無線LANコントローラー機能は、いわば設定の配信機能だ。

 社内に設置されたWLX302を最大16台までグループ化することが可能となっており、その中の1台をコントローラーAP(Controller-AP)として設定し、SSIDや簡易RADUISといった全アクセスポイント共通の設定や、IPアドレスや使用チャンネルなど個別の設定をメンバーAPに配信することができる。

 また、各メンバーAPの情報をコントローラーAPから確認することも可能で、各メンバーAPの状態を把握したり、トラブルシューティングする際の参考にすることが可能だ。

 このほか、コントローラーAPに指定したWLX302にトラブルが発生した際のことなどを考慮して、メンバーAPの中から1台を代替コントローラーAPに指定しておくことも可能だ。

 もともとWLX302は、1台で多くの端末の接続をカバーできる製品だが、オフィスの構造やレイアウトによって、複数台のアクセスポイントを設置せざるを得ないケースは多い。そういった場合でも、設置の手間を軽減し、運用後の管理を楽にできるというわけだ。

無線LANコントローラーを設定してみよう

 それでは、実際に無線LANコントローラー機能を使って、複数台のWLX302を実際に設定してみよう。

 今回用意したのは以下のような環境だ。ルーターにRTX1210を利用し、そこに同社製のL2スイッチ「SWX2200-8PoE」を接続。SWX2200-8PoEのPoEで給電するかたちでWLX302を合計4台接続してある。

1.WLX302の確認
 まずは、RTX1210のLANマップから接続を確認する。RTX1210には、ネットワーク上の機器(対応するヤマハ製品)を自動的にマップ形式で表示する機能が搭載されている。このため、SWX2200-8PoEやその配下の4台のWLX302を簡単に管理することができる。

2.コントローラーの設定
 LANマップでWLX302を確認できたら、このうちの1台をコントローラーAPに設定する。「無線LANコントローラー」の項目を表示すると、機能自体は標準で有効になっているので、「役割」を「Member-AP」から「Controller-AP」に変更すればいい。

3.グループAPの登録
 続いて、「グループ定義」画面を表示し、ネットワーク上のほかのWLX302をグループに登録する。ネットワーク上のWLX302が自動的に検索され、「発見されたAP一覧」に表示されるので、選択肢してグループに追加する。

 これで、1台のコントローラーAP(Controller-AP)と3台のメンバーAP(Member-AP)から構成されるグループが構成されたことになる。以後、コントローラーAPから、メンバーAPに設定を配信したり、メンバーAPの状況をコントローラーAP上で確認することが可能となる。

4.共通設定の登録
 実際にアクセスポイントを設定していこう。まずは、全アクセスポイントで共通の設定を適用する。コントローラーAPに指定したWLX302で、「無線設定」の画面からSSIDを登録したり、VLAN IDを設定したりと、共通で適用する設定を登録しておけばいい。

 ちなみに、企業などではセキュリティのために定期的に暗号キーを変更することがあるが、その場合も、WLX302なら、コントローラーAP側で設定して配信するだけでいい。わざわざ各メンバーAPで、個別に設定を変更する必要はない。

5.名称やIPアドレスの設定
 続いてメンバーAPごとの個別設定を適用する。「AP情報設定」画面を表示すると、メンバーAPごとの個別の設定を変更できる。各メンバーAPを識別しやすいように、名称や設置場所を指定したり、IPアドレスを設定することができる。

 この機能は、一括設定できるだけでなく、機器の管理にも役立つ。機器がどこに設置されているか、IPアドレスは何かが、一覧表示されるため、これまでExcelなどで管理してきた台帳的な管理をしなくて済む。こういった副次的なメリットがあるのも実用性を重視するヤマハ製品ならではのメリットだろう。

6.チャンネルや送信出力の設定
 オフィスのフロアに複数台のアクセスポイントを設置する場合、干渉を避けるため、各アクセスポイントでチャンネルを変更したり、送信出力を調整するのが一般的だ。

 もちろん、WLX302には自動設定機能が搭載されているため、標準のまま運用することも可能だが、手動で設定したい場合は「無線設定」から、複数台のアクセスポイントを一括設定することが可能だ。

 アクセスポイントごとに個別に設定する場合、どのアクセスポイントにどのチャンネルを設定したのかを忘れ、誤って重複させてしまうこともあるが、一覧画面で設定できるため、間違えることなく、確実に設定できる。

 会議室に設置するアクセスポイントは、出力を抑えて、電波が届く範囲をできるだけ狭めるなど、設置場所と照らし合わせながら送信出力を調整することもできる。設置場所や機器の名前、用途など、これまで頭の中で整理しながら設定してきた項目が、きちんと目に見える形で設定できるのは大きなメリットだ。

7.設定の送信
 最後に、ここまで設定した情報を各メンバーAPに送信する。「設定送信」から、送信先のメンバーAPを選択し、[設定]をクリックすれば、4で設定した名称やIPアドレス、5で設定したチャンネルや送信出力、そしてコントローラーAPに設定されているSSIDやRADIUSなどの全アクセスポイントに共通の設定が実際に送信される。

各アクセスポイントの情報も一目瞭然

 このように、簡単に複数のアクセスポイントを設定できるWLX302の無線LANコントローラー機能だが、設定だけでなく、アクセスポイントの情報を表示することも可能だ。

 WLX302には、「見える化ツール」と呼ばれる無線LANの可視化機能が搭載されおり、周囲のアクセスポイントの電波状況や接続中のクライアントの状況などに加えて、複数設置したWLX302の状況もグラフィカルに表示できる。

 「端末情報」の「グループ内端末情報」を表示すると、グループとして設定したアクセスポイントが一覧表示され、アクセスポイントごとに、接続されているクライアントが表示される。

 どのアクセスポイントに、どの端末が接続されているかを把握できるのは、トラブルシューティングの際などに非常に便利だ。

 特定のユーザーから無線LANに接続できないなどのトラブルが報告されたとしても、どこに接続されているのかがひと目で分かるうえ、その端末が実際にどれくらいの再送率で、どれくらい無線断が発生しているのかを数値で確認することができる。

 設置だけでなく、設置後の運用管理やトラブルシューティングが楽になるのも、本製品ならではの特徴と言えるだろう。

後々の設定変更や拡張に苦労しないために

 以上、ヤマハのアクセスポイント「WLX302」を実際に使ってみたが、複数台のアクセスポイントを一括設定できる「無線LANコントローラー機能」、グループ内のアクセスポイントとそれぞれに接続されているクライアントを可視化できる「見える化ツール」など、実際に設定する人、管理する立場の人の苦労が考慮された、非常に完成度の高い製品となっている。

 すでに無線LANを導入している場合のリプレースにも適しているが、スタートアップ企業など、最初は小規模ながら早い成長が期待できる企業の、最初の無線LAN環境としてもおすすめだ。本製品を最初から導入しておけば、後々、企業規模が大きくなっても、容易に設定変更や拡張に対応できる。

 年々高速化が進む無線LANは、どうしても単体でのスループットに目が行ってしまいがちだが、企業ユースで本当に必要な性能や機能が何なのかをあらためて気づかせてくれる製品と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。