清水理史の「イニシャルB」

もはや有線LAN超えは夢ではない NASの無線化も視野に入る1734Mbps対応無線メディアブリッジ

 ASUSから、最大1734Mbpsの通信に対応したIEEE 802.11ac準拠の無線LANメディアブリッジ兼アクセスポイント「EA-AC87」が登場した。超高速な無線通信によって、テレビやレコーダー、ゲーム機などの有線LAN対応機器を無線化することができるうえ、既存の無線LANルーターとの組み合わせで無線LAN環境を強化することも可能な製品だ。その実力を検証してみた。

より多くの機器をより速く

 もちろん、トータルで考えれば、まだまだぜいたくではあるが、これまでに比べれば、ほんの少しだけ家計にやさしい。

 ASUSから登場した「EA-AC87」は、ようやく登場した最大1734MbpsのIEEE 802.11ac環境で利用できる数少ない「子機」だ。

 無線LANの通信速度は、年々向上し、現在は4ストリームMIMOの1734Mbpsにまで達したが、これまでこの速度で通信させるためには、その規格に対応した無線LANルーター2台が必要だった。

 ASUSで言えば、1734Mbps対応機は、現時点での実売価格が2万3000円(税込)前後となる「RT-AC87U」だ。この2台持ちともなれば、予算的にももちろんだが、片方のルーター機能を使わないという非常にぜいたくな使い方を強いられることになり、なかなか手を出すことができなかった。

 そんな中、登場したのが、この「EA-AC87」だ。「無線LAN子機」と名付けられているが、他社製品で言うところのイーサネットコンバーター、無線ブリッジなどと同じ用途の製品で、テレビやレコーダー、ゲーム機、デスクトップPCなど、有線LAN接続の機器を無線化することが可能となっている。

 価格は店頭予想価格1万7000円(税込)と、RT-AC87Uの約3割引きといったところ。RT-AC87U×2台よりはリーズナブルだが、若干の割高感は否めない。ASUS製品の価格には、いつも「もう一声」と言いたくなるところではあるが、それに見合う性能を備えているところが、いまひとつ批判しきれない点だ。

 今回のEA-AC87も、メディアコンバーターとは言え、中身はルーター機能を省いた無線LANアクセスポイントで、これを標準でメディアコンバーターモードで動作させているにすぎない。

 このため、従来の単純なコンバーター/ブリッジ製品と比べると、はるかに高性能な製品となっており、たくさんの機器(本体のLANポートは5つ)を接続したり、ビデオ伝送なども余裕でこなせる実効速度を実現するなど、ASUSらしい性能へのコダワリが見える製品となっている。

 今やリビングのテレビやレコーダーで録画した番組を別の部屋で見るといったことは当たり前だが、次第に、このような使い方を複数の機器で同時に実行したり、4Kなどのより高品質な映像を伝送できるだけの帯域が求められるようになってきている。

 1734Mbpsに対応したメディアブリッジが登場したというだけでも朗報だが、このような製品の登場によってホームネットワークの新たな形が示されたことも、個人的には評価したいところだ。

ASUSのIEEE 802.11ac(1734Mbps)対応無線LAN子機「EA-AC87」
パッケージ内容

ちょっとクラシカル

 最近の無線LANルーターの派手な形に比べると、EA-AC87のデザインはちょっとクラシカルな雰囲気がある。

 もちろん、表面に格子状に入ったラインなど今風な部分もあるが、弁当箱タイプの四角い形状は、今や懐かしいとさえ感じさせられるデザインだ。

 サイズとしても4ストリームMIMO対応製品としては控えめで、側面からL字型に伸びたアンテナを考慮しても、かつてのIEEE 802.11n対応ルーターとさほど変わらない印象だ。

 メディアブリッジとして使うことを考えると、リビングのテレビの近くなどに設置するケースが多いと考えられるが、これくらいのサイズならテレビ台や棚などに無理なく設置できるうえ、壁掛けにしても邪魔になることはなさそうだ。

正面
側面
背面
縦型に配置した場合の正面と底面

 インターフェイスは、シンプルで、背面(壁掛けの場合は上側)に5つのLANポート(1000BASE-T対応)と電源ボタン、左側面にメディアブリッジ/アクセスポイントモード切替用のスイッチ、WPS設定用ボタン、LED ON/OFF、リセットボタンが配置されている。

 前述したように、リビングには、テレビ、レコーダー、ゲーム機など、ネットワークに接続可能な複数台の機器が存在している場合が多い。小型のイーサネットコンバーターではLANポートが少なく、つなぎきれずに、別途、ハブを使うようなことも珍しくないが、本製品であれば単体で5台の機器を接続できるのはメリットだ。

LANポートが5つありたくさんの機器を接続可能

 使い方もシンプルだ。メディアコンバーターとして使うのであれば、基本的に、側面のボタンを使ってWPSで既存の無線LANルーターに接続するだけでいい。

 もちろん、PC経由での設定も可能だ。無線LANで接続されていない場合、自動的にDHCPサーバーが有効になるので、LANポートにPCを接続後、「http://findasus.local」か「http://192.168.1.1」にアクセスすることで、EA-AC87の設定画面を表示できる。

 ウィザードでの初期設定が起動するので、接続先のアクセスポイントを選択し、暗号キーなどを設定すれば接続は完了だ。なお、設定完了後はDHCPサーバーなどは自動的に無効になり上位ルーターのDHCPサーバーを利用できるようになる。

PCからも初期設定が可能。ウィザードで簡単に設定できる

3台のnasneを無線化してクローゼットに押し込める

 無線に接続できれば、あとは有線で機器を接続していくだけでかまわない。

 試しに筆者宅の3階に設置してあるDLNA対応のテレビに接続し(無線LANルーターは1階)、NAS上に保存されている動画(MPEG2TS)を再生してみたが、映像や音声が途切れることなく、非常にスムーズに再生することができた。

 続いて、nasneを接続してみた。筆者宅では、家族用も含め3台のnasneを利用しているのだが、小さな製品とは言え、3台集まると場所を占有するうえ、それぞれUSB HDDを増設すると配線もごちゃごちゃとする。

 そこで、これをEA-AC87を使って無線化し、仕事部屋のクローゼットに押し込めてみることにした。

 これから本格的な夏を迎えることを考えると、熱対策は考える必要があるが、少なくとも通信に関しては、まったく問題なさそうだ。アクセスポイントが同じ部屋にあるため、遮へい物がクローゼットの扉だけということもあるが、PS3を接続したテレビからtorneを使って問題なくnasneを認識でき、録画した番組も一切途切れることなく再生できた。

3台のnasneをつないでクローゼットに押し込めてみた

 それもそのはずで、このEA-AC87は、かなり無線の性能が高い。以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にアクセスポイントを設置し、ほかの階でiPerfによる速度を計測した結果だ。

 4ストリームMIMO対応で1734Mbpsを実現するRT-AC87Uと、3ストリームで1300MbpsのRT-AC68Uのそれぞれを使ってテストしてみたが、1階(同一フロア)での結果は917Mbpsと有線と同等、というより1000MbpsのLANポートが完全にボトルネックになってしまっているようで、ほぼ上限のスピードが実現できている。

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EA-AC87RT-AC87U917721494
 RT-AC68U529351296
  • (単位:Mbps)
  • ※サーバー:Intel NUC DC3217IYE
  • ※クライアント:Apple Mac Book Air 11 2013
  • ※サーバー側:iperf -s、クライアント側:iperf -c [IP] -t10 -i1 -P3

 1300MbpsのRT-AC68Uが529Mbpsだったことを考慮すると、もはや規格上の速度だけでなく、実効速度的にも有線LANに負けない速度と言えそうだ。

 遠距離の通信速度も驚異的で、今回のテストでは2階で721Mbps、3階で494Mbpsと、離れた地点でも1階の3ストリームMIMO環境に匹敵する速度で通信できた。正直、ここまで速いとは思わなかったので、驚きだ。

 これまで、メディアブリッジのような機器は、どちらかというとクライアント側に接続することが多かったが、EA-AC87ほどの実力があると、nasneの例のように、もはやサーバー側に接続しても十分に実用になる。

 サーバーやNASを無線化して、離れた部屋に置くといった使い方も、これでようやく現実的になりそうだ。

RT-AC87Uと接続した際のEA-AC87の画面。通信速度は1560Mbpsでリンクしている
同一フロアでのテスト状況。有線と同等の速度で通信できる

アクセスポイントモードで既存の無線LAN環境を強化

 このように、有線機器を無線化するための有効な手段となるEA-AC87だが、前述したように基本的にはアクセスポイントなので、いわゆる無線LANの親機として使うことも可能だ。

 本体側面のスイッチを「Access Point」側へと移動させると、自動的にアクセスポイントモードに変更される。標準設定では、「ASUS_5G」というSSIDが暗号化なしで表示されるので、ここに接続してウィザードによって設定を進めることで、アクセスポイントとして利用可能になる。

アクセスポイントモードでも利用可能

 現状、IEEE 802.11n対応の無線LANルーターを利用しているユーザーも少なくないと思われるが、こういった機器にEA-AC87を接続することで、手軽に無線LAN環境をIEEE 802.11acにアップグレード可能だ。

 ルーター側はそのまま利用できるので、機器が無駄にならないうえ、インターネット接続の設定も変更せずに、そのまま利用できる。

 IEEE 802.11nの無線LANもそのまま継続して利用すれば、あまり速度が必要ない機器はIEEE 802.11n、高速に接続したい機器はIEEE 802.11acと、使い分けることもでき、無線LAN環境をより快適化できる。

 最近の無線LANルーターに搭載されている外出先からのアクセスやUSBストレージの共有といった付加機能は、EA-AC87では利用できないが、純粋に無線LAN環境だけを整備したい場合には、むしろ余計な機能がなく、コストも押さえられるメリットが大きいだろう。

一家に一台あっていい

 以上、ASUSのEA-AC87を実際に使ってみたが、手軽に1734Mbpsの無線LANを利用できるお買い得な製品と言えそうだ。機能はシンプルだが、無線の性能は非常に高く、メディアブリッジとしても、アクセスポイントとしても使えるお得な製品となっている。

 特に、複数の機器が存在する部屋と部屋を接続したい場合、映像などの高い速度が求められる無線環境を構築したい場合、さらにはNASやサーバーなどを無線化したい場合に便利なので、ぜひ導入を検討するといいだろう。

 無線LANに接続する機器が増えてきた状況を考えると、もはや一家に一台あってもよさそうな製品と言える。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。