清水理史の「イニシャルB」

NASでも追求された“ASUSらしさ” 2万円台で買えるHDMI付きAtom搭載NAS ASUSTOR「AS202TE」

 「AS202TE」は、ASUSTeKから誕生したNASメーカーASUSTORが発売する2ベイのNASだ。エントリーモデルながらIntel CPUを搭載したコストパフォーマンスの高いモデルで、2万円台で豊富な機能と高い性能を手に入れることができる。その実力を検証してみた。

ASUSらしい

 良い意味で、ユーザーを甘やかさないあたりは、さすがASUS由来だ。ASUSTORから発売された「AS202TE」を使って、そう感じた。

 いや、使いにくいと言っているのではない。素材として提供された豊富な機能とそれを支える高性能ハードウェアをどう取捨選択し、どう料理するのかが完全にユーザーに任されている。いわば、そんな印象だ。

 AS202TEは、同社のラインアップの中では個人・家庭向けに分類される2ベイのエントリーモデル。一般的なNASに照らし合わせると、このクラスなら、CPUはARM系でメモリも512MBがいいところ。HDMI接続が欲しければ5万円前後の上位モデルまで背伸びするのが普通だし、動画のトランスコードだって無理してこのクラスには乗せてこない。

 しかし、このAS202TEは、Amazon.co.jpの実売価格(2015年8月調べ)で2万7800円という個人でも手の届く価格帯でありながら、CPUはIntel Atom 1.2GHz Dual-Coreで、メモリも1GBを搭載。テレビやディスプレイに接続可能なHDMIポートまでも搭載している。

 機能的にも豊富で、一般的なNASの機能はもちろんのこと、App Centralと呼ばれるアプリダウンロードサービスを利用することで、バックアップやコンテンツ管理、データベース、メディアサーバー、セキュリティなど、多種多様なアプリを追加することが可能となっている。

 最近のNASは、基本的なファームウェアは各モデルで共通となっている場合が多いが、ASUSTORで採用されているADMも同様で、仮想化のVirtual Boxなど一部ハードウェアに依存する機能を除き、基本的にはエントリー、ハイエンド問わず同じ機能が使えるようになっている。

 ASUSのルーターもそうだが、実際に必要かどうかは別にして、てんこ盛りの機能と過剰とも思えるスペックを手にする喜びは何物にも代えがたいところだ。

ASUSTORの2ベイNAS「AS202TE」。エントリーモデルながら充実のハードウェアスペックと豊富な機能を備えている

外見は思いのほかシンプル

 それでは、実際の製品を見ていこう。まずは、外観だが、中身と違って飛び抜けたところはなく、思いのほかシンプルだ。デザインは黒がベースのシンプルなもので、縦に2つ並んだHDDベイ、本体左側に並んだLEDやスイッチ類と、特に変わったところはない。

 ケースは、前面こそ樹脂製となるものの側面などは金属製となっており、作りもしっかりしている。

正面
側面
背面

 もちろん、放熱を考慮しての金属筐体の採用だが、こちらも2万円台のエントリーモデルとしては異例と言える。一部例外もあるが、通常、このクラスであれば、コストの問題で、前面、側面すべて樹脂製となるのが一般的となる。安定動作に大きく寄与するのはもちろんだが、何より高級感があり、安っぽく感じないのは大きなメリットだ。

 HDDのベイは前面に縦2列に配置されており、下部のボタンを押すとレバーが跳ね上がり、それを引いて取り外す方式となっている。残念ながら、HDDの固定はネジ式で、最近流行のネジレスではないが、ネジレス方式は長期間の使用で樹脂が劣化すると、固定用の突起などが折れるケースもあり、手軽さと引き換えに信頼性が落ちるケースもある。そういった意味では、ネジによるオーソドックスな方式を採用しているメリットもあると言えそうだ。

 インターフェイスは、前面にUSB 3.0×1、背面にUSB 3.0×1、HDMI×1、USB 2.0×2、LAN(1000BASE-T)×1が用意される。最大の特徴はHDMIだが、これは後ほど詳しく触れるとして、ほかは一般的な構成と言えるだろう。

HDDベイは前面に2列。下部のボタンを押すとレバーが跳ね上がって取り外すことができる
HDDはネジ固定式
HDMIポートを備えているのが最大の特徴

古典的だがわかりやすいセットアップ

 セットアップに関しては、今となっては古典的だが、わかりやすさとしては悪くない印象だ。

 最近のNASは、ブラウザで特定のURLにアクセスすることでインターネット経由でセットアップを進めることが多いが、本製品は付属のCDに収録されているユーティリティでIPアドレスを確認し、そこから設定画面にアクセスして初期設定を実行する方式となる。

 もちろん、インターネット経由でユーティリティをダウンロードすることもできるので、CDレスで設定することも可能だ。

付属のユーティリティでセットアップ
インターネット上からもセットアップ可能だが、最終的にはユーティリティをダウンロードする

 ウィザードに従って進めるだけでセットアップは簡単に済ませることができるが、注意すべきはストレージの設定だろう。ウィザードで設定する際に、「次のうちどれがあなたのデータストレージ要件をもっともよく説明しますか?」という質問があり、選択肢として「最大容量」と「バランスが取れている」の2つが表示される。

 NASの設定をしたことがあるユーザーであれば、前者がRAID0、後者がRAID1であることがわかるが、そういった説明はないので、少々戸惑うかもしれない。

ディスクの構成。「バランスが取れている」を選ぶとRAID1になる

 なお、ASUSTORのNASには、他社製のNASではあまり見られない「MyArchive」という機能を搭載している。

 これは、装着可能なHDDのうちの1台を取り外し可能なアーカイブ用として利用できる機能だ。データの種類や期間など、使い方はいろいろ考えられるが、例えば、今年1年間データを保存したら、そのHDDを取り外して2015年アーカイブとして保管し、2016年用に新しいHDDを装着したり、映像制作の現場などでプロジェクトごとにHDDを用意し、その都度、必要な素材が保存されたHDDを装着して利用する、などといった使い方ができるようになっている。

 この機能を利用する場合、1台分、アーカイブ用にベイを開けておく必要がある。このため、初期設定を「ワンクリックセットアップ」ではなく、「カスタムセットアップ」で進め、アーカイブ用の空きを確保しておく必要がある(もちろんデータを消してもかまわないなら後から構成変更も可能)。

 とは言え、今回のAS202TEのように2ベイのモデルで、1ベイをアーカイブに使うというのは少々もったいない。既存のストレージの安全性も考慮すれば、2ベイ両方を使ってRAID1で構成しておくべきなので、4ベイモデル以上で使うための機能と言えそうだ。

MyArchiveを利用すると、1ベイのHDDを入れ替えながら利用できる。大容量のビデオなどカテゴリごとに保存したり、デザイン事務所などでクライアントごとにデータを分けておくなどといった使い方に便利

どう料理するかを考えよう

 初期設定が完了すると、標準で作成された「Public」などのフォルダーでファイル共有が可能になる。とは言え、最低限の機能しかセットアップされないので、用途に応じた機能の追加などは自分で実行する必要がある。

 ユーザーの追加などは仕方がないにしても、エントリーモデルなら、メディア共有機能など、よく使う機能を標準で有効化しておいてくれてもよさそうに思えるかもしれないが、こういったあたりが自由度を重視するあたりは実にASUSTORらしい。

 豊富な機能は用意する。その中のどれを組み合わせて、どんなNASに仕上げるかは、あくまでもユーザーに任せというスタイルとなる。

 このため、必要に応じて、いくつかの機能をApp Centralからダウンロードするのが最初の仕事となる。

標準ではファイル共有機能など最低限の機能のみとなる。用途に併せて機能を追加していく
最初の仕事はApp Centralからアプリを追加すること

 面白そうな機能を片っ端からダウンロードするのも悪くないが、せっかく標準で無駄なリソースを消費しない軽量な状態を保ってくれたのだから、ダウンロードするアプリは本当に必要なもののみを厳選すべきだろう。

 基本的には、後述するスマートフォン向けアプリの連携に必要な「LooksGood」などのASUSTOR製アプリ、「UPnP Media Server」や「Twonky」などのメディアサーバーをインストールしておくことをオススメする。

 なお、App Centralからアプリをダウンロードするには、ASUS IDが必要になる。メールアドレスを使って無料で登録できるので、初期設定時、もしくはダウンロード時に設定しておこう。

App CentralからのダウンロードにはASUS IDが必要

HDMI接続で利用する

 さて、基本的な設定ができたら、本製品の特徴でもあるHDMI接続でも使えるようにしてみよう。

 HDMI接続で利用するには以下の条件が必要になる。ディスプレイへの接続は当たり前だが、後者は標準では設定されないので、ユーザーの操作が必要だ。

・HDMIケーブルでテレビやディスプレイに接続する
・本体の動作モードをメディアモードに変更する
・必要なアプリ(ASUSTOR Portalなど)をインストールする

 まずは、動作モードだがブラウザで設定画面にアクセスし、[設定]の[一般]にある[メディアモード]をオンにする。これは、システムメモリの一部をメディアの再生などに予約する機能となる。有効にしないと使えないので、設定を変更しておこう。

HDMI接続で画面を表示するにはメディアモードにする必要がある

 続いて、App Centralから「ASUSTOR Portal」をインストールする。この機能をインストールすると、関連するアプリ(X.OrgやChrome)なども自動的にインストールされるが、メディアを再生するためのアプリはインストールされない。そのままだと、HDMI出力された画面でChromeを起動したり、AS202TEの設定ページにアクセスできるだけなので、一緒にメディア再生用のアプリ(XBMC)もインストールしておこう。

続いて必要なアプリ(ASUSTOR PortalやXBMC)をインストールする

 各種アプリをインストールすると、HDMI接続したディスプレイに画面が表示される。別売りのリモコン「AS-RC10」(Remote Centerアプリも必要)を利用するか、USBポートにキーボードやマウスを接続することで、直接、画面を見ながらNASを操作することが可能だ。

 実際にメディアを再生するには、XMBCに参照先のフォルダーを登録するなどの作業が必要になるが、ネットワークの帯域を考慮することなく、テレビなどの大きな画面で動画を再生できるのは快適だ。

 最近では、デジタルカメラの写真やビデオカメラの映像などを保管し、テレビで手軽に再生できるようにするための機器(バッファローのおもいで箱など)も存在するが、若干、設定に手間がかかるうえ、操作性もコンシューマー機ほど手軽ではないものの、これと同じような使い方にAS202TEを活用することも可能だ。

準備が完了するとHDMI経由で画面が表示される
キーボードやマウスに加え、別売りのリモコン(AS-RC10)でも操作可能
HDMI接続時の画面。各アプリを起動して操作する
XBMCを利用すると写真やビデオなどのメディアを再生可能
ChromeでWebページを表示したり、ADM(設定画面)にアクセスできる

スマートフォン用アプリの完成度も高い

 スマートフォンからの利用も快適だ。ASUSTORでは、モバイルアプリとして以下の8つをiOSとAndroid用に提供している(AiVideosはAndroidのみ)。

・AiMaster
 NASの初期設定、設定変更、電源管理、ほかのアプリの起動などが可能
・AiDownload
 Webサイトなどからのファイルダウンロードが可能
・AiSecure
 カメラによる監視が可能
・AiFoto
 写真の閲覧が可能
・AiData
 ファイルアクセスが可能
・AiMusic
 音楽の再生が可能
・AiVideos(Androidのみ)
 動画の再生が可能
・AiRemote
 HDMI接続時のリモコンとして利用可能

 最近では、同様に用途ごとに複数のアプリを提供するメーカーが増えてきたが、今回の製品では、「AiMaster」からほかのアプリを呼び出せるようになっており(未インストールの場合はダウンロードも可能)、1つの入り口から複数のアプリを活用できるようになっている。アプリそのものの操作性も良好だが、こういった工夫がわかりやすさにつながっている印象だ。

スマートフォン向けアプリのAiMaster。ほかのアプリを起動する入り口にもなる

 インターネット経由での接続も可能で、UPnPに対応したルーターを利用している場合であれば、設定画面がから「EZ-Router」、および「クラウド接続」を有効にすることで、スマートフォンから簡単にインターネット経由で自宅のNASにアクセスすることができる。

 AiFotoを利用することで、スマートフォンのカメラロールから自動的に写真をアップロードすることも可能になっており、写真のバックアップ先としても活用することができる。

 写真に関しては、フォルダーとは別にアルバムとして写真を管理する方式で、アルバムごとにアクセス権が設定できるなど、細かな制御が可能だ。もちろん、自動バックアップ先のアルバムをプライベートに設定しておけば、写真をほかの人に見られる心配はない。

 ただし、アルバムの正体は「PhotoGallery」共有内のフォルダーとなるため、管理権限があれば、アルバムのアクセス権とは別に写真にアクセスできる。ユーザーにアクセス権を与えない必要はあるうえ、管理者のモラルが問われるところだろう。

写真の自動アップロードも可能。アップロードを充電中などに制限することもできる
写真はアルバムで管理。プライベートなアルバムも設定可能
管理者(admin)は、アルバム側のアクセス権と関係なくファイルを参照可能。ユーザーにアクセス権を与えた場合も見えてしまうので、運用とモラルに注意

 なお、動画もAiVideosで再生することが可能だが、再生は外部アプリに頼る必要があるため、再生できるフォーマットは再生アプリに左右される。

 AS202TEにインストールした「LooksGood」により、NAS上の動画をトランスコードすることも可能だが、AS202TE搭載のAtomでは変換に長い時間がかかるケース(30分動画で数時間)もあるため、あまり現実的とは言えない。

 通常、ハードウェアアクセラレーションに対応しないハードウェアでは、トランスコード機能自体が搭載されないことが多いだけに、機能そのものを利用できるようにしている点は高く評価したいが、現実的には常用は難しい。やはり、上位モデル向けの機能と言えるだろう。

AiVideoで動画の再生も可能。ただし、Androidは外部アプリで再生となる
LooksGoodアプリをインストールするとトランスコードも可能
Atomモデルではトランスコードに時間がかかるうえ、CPU負荷も高くなるので、現実的ではない

いろいろ使ってステップアップできるNAS

 以上、ASUSTORの2ベイNAS「AS202TE」を実際に使ってみたが、価格のわりに高い性能を持っているうえ、機能的にも豊富で、お買い得感のある製品と言えそうだ。NASでいろいろやってみたいという人には、とても遊べるNASとなっているので、購入を検討してみるといいだろう。

 パフォーマンスも良好で、以下のようにエントリー向けの2ベイモデルとは思えないほどのアクセス速度を誇る。かなり優秀な製品と言っていいだろう。

RAID1の状態でCrystalDiskMarkを実行した際の速度。シーケンシャル100MB/s越えなので、ほぼネットワークの上限となる速度を実現

 初心者でも使いこなせないことはないが、いろいろな機能を使おうとすると、関連する設定が複数必要になる場合もあるので、多少、NASについて勉強するつもりで購入することをおすすめする。

 もともと海外製の多機能なNASということで、いろいろな用途に使ってみたいというユーザーが多いはずだが、とにかく機能が豊富で自由度も高いため、試行錯誤しながら自分もステップアップするくらいの気持ちで使うことをおすすめする。自ら望めば、それにきちんと応えてくれる。そんなNASと言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。