清水理史の「イニシャルB」

現場力をアップさせるクラウド型ファイル共有ソリューション Connected Data「Transporter for Groups」

 クラウドストレージのような使い勝手の良さを、セキュアな自社の設備で、しかも管理の手間をかけずに実現したい――。そんな環境を実現可能にするのが、Connected Data社の提供する「Transporter」シリーズだ。その正体に迫ってみた。

難しい課題を両立させ得る

 Dropboxのような手軽なクラウドストレージを業務に使わせてほしい――。

 グローバルでスピーディな情報共有のしくみを低コストかつ高いセキュリティレベルで実現せよ――。

 そんな現場からの声、そして相反する経営層からの通達に、頭を悩ませているIT担当者も少なくないのではないだろうか?

 企業にとって、業務に必要な文書などの情報共有は、今や生命線と言えるほど重要だが、国内外への拠点の増加、企業間の連携、外部リソースの活用など、企業の活動範囲が広がってきた今、これまでのような単純な社内設置型のファイルサーバーによるソリューションは限界を迎えつつある。

 もちろん、その1つの解となるのは、クラウドサービスの活用だろう。DropboxやBox、OneDrive for Businessなど、法人向けのクラウドストレージサービスを利用することで、遠隔地での利用や外部との連携は不可能ではない。

 しかし、その一方で、課題になるのがセキュリティとコストだ。企業にとって重要な機密データを外部に保存しても本当に安全なのか? スタートはわずかでも利用者と利用料が増すごとに積み上げられていく毎月のコストは本当に割安なのか? という疑問が湧いてくる。

 このような課題に目を付けたのが、米Connected Data社だ。ストレージ製品で有名なDrobo社から枝分かれした企業で、クラウドストレージの使い勝手の良いファイル共有ソリューションを、オンプレミスで実現する「Transporter」シリーズを販売している(国内正規代理店はプリンストン)。

 クラウドストレージのように、どこからでもどんな端末からでも手軽に利用でき、社内だけでなく外部とのデータ共有も可能にしながら、大切なデータを自社で管理したり、データを暗号化して保護しながら、しかも初期導入費用のみの月額コストなしで、テラバイト級のデータを取り扱うことができるという、相反する課題を見事に解決するソリューションと言えるだろう。

Connected Dataの「Transporter 15」。オンプレミス型の機器ながら、使い勝手はクラウドストレージサービスに近い、新しいタイプのソリューション

設置後わずかなセットアップで利用可能

 それでは、実際の製品を見ていこう。本製品には、利用する企業の規模やユーザー数に応じて、以下のような複数のモデルがラインアップされるが、今回利用したのは中小規模の企業や組織に適した「Transporter for Groups」の「Transporter 15(PDR-TP15/C)」となる。

Transporter For Groups デスクトップ型
名称型番組織ユーザーの最大数物理容量CPU/メモリ
Transporter 30PDR-TP30/C30人まで12TBAtom C2750,8GB
Transporter 15PDR-TP15/C15人まで8TBCeleron J1900,4GB
Transporter For Business ラックマウント型(2U)
名称型番組織ユーザーの最大数物理容量CPU/メモリ
Transporter 150PDR-TP150/C150人まで24TBXeon,32GB
Transporter 75PDR-TP75/C75人まで12TBXeon,16GB

 見た目は、フロア設置型の小型のファイルサーバーやNASといったところで、サイズは幅216×奥行き285×高さ242mmとなっている。

 前面のカバーを開けると登場するのが、HDD搭載用の4つのベイで、今回のTransporter 15では、2TB×4で8TB(RAID5相当で保護されるため実際に利用可能な容量は約5TB)の容量となっている。CPUやメモリもモデルごとに異なるが、今回の製品ではCPUがCeleron J1900、メモリが4GBとなる。

 なお、ラックマウントのFor Businessでは、高いパフォーマンスを実現するためのSSDキャッシュ(60GB SSD×2)が搭載されるほか、電源ユニットがホットスワップ可能となるなど、より高い性能と冗長性が確保されている。

フロントパネルを開けると4台のHDDが装着されている。Transporter 15では、2TB×4で8TBだが、RAID5相当で利用可能な実容量は5TBほどとなる

 法人向けのソリューションということで、セットアップが難しそうなイメージがあるかもしれないが、そこはさまざまな仕掛けが施されている。

 既存のネットワークにTransporter 15を設置して、電源とLANケーブルを接続して電源をオンにして起動するまで待つ。タイミングによっては、この時に自動的にファームウェアの更新が実行される場合もあるので、10分ほど待つことが推奨されている。

 起動が完了したら、同一ネットワーク上のPCから「https://secure.connecteddata.com」にアクセスし、「組織管理者アカウント(以下、管理者ユーザー)」の作成と、機器の登録を実行する。登録と言っても、ネットワーク上のTransporter 15が自動的に認識されるので、基本的にはセットアップウィザードを進めていくだけで完了する。企業向けとは思えないほどの手軽さだ。

 なお、詳しくは後述するが、初期設定で登録する「管理者ユーザー」は、Transporter 15本体やその下の「組織ユーザー」アカウントを作成するための管理専用アカウントとなる。「管理者ユーザー」は、後述するデスクトップアプリなどを利用してファイルを共有することができないので、自分が管理者権限利用者となる場合は、アカウントとして登録するメールアドレスを使い分ける必要がある。

設置後、Web経由でセットアップを実行。最初は「管理者ユーザー」と呼ばれる全体の管理者を登録する
管理者ユーザーの登録後、管理する機器としてネットワーク上のTransporter 15が自動的に認識される

管理の委譲によって実現する柔軟な運用体系

 続いて初期設定を実行する。最初に必要なのは組織ユーザーアカウントの登録だ。

 Transporterでは、一般的なNASなどと異なり、独特の階層構造を持った管理体系が採用されており、これが柔軟な外部との情報共有やスピーディな意志決定につながるポイントとなっている。

 具体的には、以下の3種類のアカウントによる階層的な管理体系が採用されている。

アカウントの種類

・管理者ユーザー
 Transporterの登録や組織ユーザーの追加をする全体管理専用アカウント

・組織ユーザー
 ファイルを共有して利用できるほかに、Transporterに共有フォルダーを作成したり、外部のユーザーをゲストユーザーとして招待できるアカウント

・ゲストユーザー
 ファイルを共有するのみの利用者アカウント

 このうち、組織ユーザー(管理画面では「企業ユーザー」)を追加するのが最初の設定になる。メールアドレスを入力して、部門長やプロジェクトリーダーなど、共有フォルダーを作成・管理するし、権限を有するユーザーを招待し、招待された側は、届く招待メールの指示に従い名前とパスワードを自分で登録してもらう。

組織管理アカウントでの最初の仕事は、組織ユーザーを登録すること。メールアドレスだけで簡単に招待できる

 通常のNASなどでは、管理権限を持ったアカウントがすべての管理権限を有するが、Transporterでは、アカウントごとに役割が定められており、上位のアカウントが直下のアカウントのみを管理する方式となる。

 このため、前述したように管理者ユーザーはユーザーとしてファイルを共有することができなかったり、ゲストユーザーを招待できるのは組織ユーザーのみであり、管理者ユーザーはゲストユーザーを招待できないなど、きっちりと役割が分けられている。

 この方式のメリットは、管理の手間とスピーディな運用に一役買う点だ。例えば、上位のアカウントが管理できるのは直下のアカウントなので、最上位のアカウントにかかる負担が軽減される。いわゆる、“1人admin”として、すべての労力と責任を負う必要はないのだ。設置するTransporterが1台なら、極端な話、全体管理者としての作業は、この組織ユーザーの登録だけで済む。

 また、階層的な承認にとらわれずに済む。通常のNASなどであれば、特定のプロジェクトのリーダーが外部のユーザーを招待したいとなった場合に、管理者へのアカウント追加や共有フォルダー作成の申請が行われるので、その処理に膨大な時間と手間がかかってしまう。

 これに対して、Transporterでは、上記アカウントの「組織ユーザー」がプロジェクトリーダーに相当するため、自らの権限と操作によって、共有フォルダーを作成したり、外部のユーザーを招待したりすることができる。

 もちろん、実際のユーザー招待などに、社内の手続きが皆無ということはあり得ないが、組織ユーザーが管理作業を自らの手で実行できるため、少なくとも申請から実際の作業が行われるまでの待ち時間は省略できる。

 つまり、全体管理者の管理の手間が軽減され、実際に共有フォルダーを使う部門長やプロジェクトリーダーは意のままに作成したり、スピーディに外部ユーザーを招待できる情報基盤を手に入れられることになる。

 なお、今回利用したTransporter 15では、モデル名の通り、15人までの組織ユーザーを登録できる。リーダークラスのメンバーが多い組織や、ユーザー全員に共有フォルダー作成の権限を持たせ、より柔軟な体系で運用したいなど、さらに多くの組織ユーザーが必要な場合は、上位モデルの利用を検討するといいだろう。

管理というより“利用”に近い組織ユーザーとしての作業

 もちろん、組織ユーザーにある程度の権限が委譲されるということは、それに任命された部課長やプロジェクトリーダーの負担が増えることも意味する。

 しかし、その点を過度に心配する必要はない。もちろん、組織ユーザーへの管理作業の最低限の教育は必要だが、Transporterではクラウドストレージ感覚で使える管理画面や、通常のエクスプローラーと同じ感覚で使えるデスクトップユーティリティが提供されているため、フォルダーを追加したり、ユーザーをメールで招待するといった操作は、決して難しくない。

 おそらく、クラウドストレージを利用している人ならすぐに理解できるうえ、そうでなくても通常のファイル操作の延長線上の感覚で、気軽にファイルを共有することができる。

 例えば、組織ユーザーとして特定のプロジェクト用に外部の人も参加可能なフォルダーを作成してみよう。

ステップ1:クライアントインストール

 組織ユーザーとして、Transporterを利用するには、まずソフトウェアをインストールする必要がある。アカウントの登録時にインストール済みの場合はそのままでかまわないが、もしもインストールしていない場合は管理画面から「Transporter Desktop」をダウンロードしてインストールしておこう。

ステップ2:アカウントを指定してサインイン

 Transporter Desktopが起動したら、招待後に作成した自分の組織ユーザーアカウントでサインインする。メールアドレスとパスワードを入力してサインイン後、同期先のローカルフォルダーなどを指定してインストールしておこう。

ステップ3:共有フォルダーを確認

 サインインが完了すると、エクスプローラーに「Transporter」が追加され、ここから共有フォルダーにアクセス可能になる。標準では、「Transporter Library」が登録されているが、これはローカルと同期しないTransporter上のフォルダーとなる。PCのストレージ容量を消費したくないデータは、こちらに保存する。

ステップ4:共有フォルダーを作成

 プロジェクトで共有するフォルダーを作成する。エクスプローラーで、通常のフォルダーと同様に新規にフォルダーを作成すれば、自動的にTransporterとの同期が実行される。

ステップ5:フォルダーを共有する

 共有フォルダーが作成できたら、共有相手を招待する。作成したフォルダーを右クリックして「Transporter」から「Share This Folder」を選択する。

ステップ6:共有相手を招待する

 フォルダーを共有すると、自動的にブラウザーが起動し、共有相手の入力画面が表示される。外部のユーザーを招待する時は、画面下の「Search all Transporter users」にチェックを入れてから、招待したい人のメールアドレスを入力する。アクセス権として、読み書き、もしくは読み取りのみのどちらかを設定すれば招待は完了だ。

 以上で、自分が管理者ユーザーから招待された時と同様に、招待した相手にメールが届くので、相手が自分の名前やパスワードを設定してアカウントを作成し、同様にTransporter Desktopをインストールすれば、エクスプローラー上で共有フォルダーが使えるようになる。

 あとは、ほぼローカルと同じ使い方をすればいい。ファイルを保存すれば、適宜同期され、相手も同じファイルが参照できるようになるし、誰かがファイルを更新すれば自分も新しいファイルに更新されることになる。このあたりは、Dropboxなどの一般的なオンラインストレージと同じだ。

 なおゲストユーザーは、さらなる共有フォルダーを作成したり、新しいメンバーを追加することはできない。

 組織の形態によっては、IT関連の事務処理を担当する人が組織ユーザーになり、部門長やプロジェクトリーダーをゲストメンバーとして共有フォルダーに招待してもかまわないが、その場合、プロジェクトリーダーはメンバーの変更などに柔軟に対応できない。やはり実組織のリーダーと組織ユーザーを同一にしておいた方が柔軟性の高い運用が可能となるだろう。

Transporter同士の同期やスマートフォンからの利用も可能

 ここまで、主にPCでの利用方法について紹介してきたが、もちろんモバイル環境を想定したスマートフォンでの利用も可能になっている。

 組織ユーザーやゲストユーザーは、PC用のソフトウェアだけでなく、AndroidやiOS向けのアプリからも共有フォルダーを利用できる。

 なお、スマートフォン向けのアプリの場合は、PCのような同期のソリューションではなく、Transporter上の共有フォルダーへの通常のアクセスになる。このため、ファイルを利用する場合はダウンロードなどが必要になるが、メンバーの誰かがファイルを追加したり、更新すれば、それが即座に手元のスマートフォンで確認できるのは非常に便利だ。

スマートフォンからもアプリを利用することで共有フォルダーにアクセス可能。こちらは同期ではなく、通常のアクセス(ダウンロードは手動)
スマートフォンの写真を自動的にアップロードする機能も搭載される

 このほか、Transporter同士でのファイルの同期も可能になっている。小規模な拠点や店舗などに設置して全社のデータを同期させることはもちろん、特定のプロジェクトや業務に協力してもらっている協力会社に設置して必要なデータのみ同期させるといったことが可能だ。

 もちろん、ネットワークでやり取りされるデータはすべて暗号化(AES-256bit)されるうえ、同期のデータはP2Pでストレージ同士直接やり取りされる。これまでのVPNのように手間をかけなくても、暗号化された安全な経路を確保可能というわけだ。

 なお、設定画面など、サービスにはConnected Date社のセントラルサーバーも利用されるが、このサーバーにはユーザーアカウントの情報、フォルダー同士の共有関係の設定などの情報のみが保存され、データそのものは保存されない。

 冒頭でも触れたように、企業で利用する場合、セキュリティは重要な要件の1つだが、データの保存場所が自社で管理できるだけでなく、きちんと暗号化された上で、第三者のサーバーを介することなく自社内で直接データがやり取りされる点もTransporterのメリットだ。

新しい情報共有のスタイル

 以上、Connected DataのTransporterを実際に使ってみたが、従来のファイルサーバーと考え方が異なるため、最初は、そのしくみや使い方に慣れる必要があるが、使い始めてしまえば、そのシンプルさに感心させられる。

 Webページからの操作も可能だが、基本的にはエクスプローラーを使って、普通のデータと同じように、フォルダーで管理しておけば、自動的にあらかじめ設定しておいたメンバー全員が同じデータを参照できるようになる。

 ファイルの更新も通知で表示されるので、わざわざメールでファイルの更新を知らせる手間も省くことができる。これまでは、情報を共有すること、それ自体がプロジェクトやチームの仕事の1つだったが、Transporterを使えば、情報は当たり前のように共有され、全員が同じデータを参照していることを前提に仕事を進めることができる。

 情報共有の新しいスタイルと言っても過言ではなく、まさにビジネスプロセスの最適化と言えるだろう。

 なお、クライアントソフトウェアをインストールしていないユーザー向けに、いわゆる共有リンクを作成してファイルを転送することもできる。グループの構成や管理の仕方なども、工夫次第でかなり柔軟にできるので、さまざまな企業、組織で活用できるだろう。

 社内だけでなく、外部や拠点間の情報共有に悩んでいる場合は、ぜひ導入を検討してみたい製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。