清水理史の「イニシャルB」
スマホから使うことにフォーカスした パーソナルクラウドストレージ「WD Cloud」
(2015/8/17 06:00)
ウェスタンデジタルジャパンから、パーソナルクラウドストレージと呼ばれる新製品「WD Cloud」が発売された。“手軽さ”を特徴としたストレージではあるが、プライバシーへの配慮やモバイル環境での使い勝手に注力した製品となっている。その実力を検証してみた。
ハード、ソフト、サービスがうまく融合している
個人向け、スマホ向けとうたいつつシンプルなUIやスマホ向けのアプリを提供しただけの製品が多い中、プライバシーへの配慮や管理の軽減といった点にまで踏み込んで、しっかりと日常の使い勝手まで考慮されているー。
ウェスタンデジタルジャパンの「WD Cloud」は、そんな高い完成度を持った「パーソナルクラウドストレージ」だ。
製品としては、シングルドライブのNASだが、ハードウェア単体ではなく、ソリューションとして完成されているのが、本製品の最大の特徴となる。
ベースとなるNASのハードウェアに加え、「WDcloud.jp」として提供されるクラウドサービスによって初期設定やストレージへのアクセス環境が提供されるうえ、WindowsやMacはもちろんのことAndroidやiOS向けのクライアントアプリが提供されており、その仕組みを意識することなくアプリからファイルの参照やメディア配信、同期などの機能を利用できるようになっている。
もちろん、同様の取り組みは他の製品でも実現されているが、こういった裏方の仕組みや設定をあまりユーザーが考慮しなくて済むのが、本製品の良いところだ。
例えば、代表的なのはアカウントの管理。
一般的なNASであれば、ローカルアクセスに加え外出先からのアクセスを可能にするには、本体の設定画面を利用して、ローカルアカウントを追加し、クラウドサービスとの連携をセットアップするというように、全体的な仕組みを理解する必要があるうえ、本体、もしくは本体とクラウドで2段階の設定が必要になる。
もちろん、WD Cloudでも、NASの作法に慣れた人のために、同様に本体側にローカルアカウントを設定し、そのアカウントでクラウドアクセスを有効にするという設定も可能となっている。
しかし、その一方で、ローカルの設定画面に、ほとんどアクセスしない設定も可能となっている。と、言うより、ローカルの設定画面に触れない設定が標準となっている。
初期設定の際、本体の設置後、「http://WDcloud.jp/setup」にアクセスして設定をするのだが、ここでクラウドサービスのアカウントを作成すると同時にローカルのアカウントも同時に作成できる。
最初のアカウントだけでなく、家族など、他のユーザーの追加作業も同じだ。「http://wdcloud.jp」から、さらに他のユーザーを追加することも可能となっており、この際もクラウド側とローカルのユーザーを同時に作成できる。
つまり、基本的な使い方をするだけなら、極端な話、ローカルの設定画面にアクセスする必要がないわけだ。
前述したように、同社では、本製品を「パーソナルクラウドストレージ」と位置付けているが、基本的な設定やファイルへのアクセスがクラウドで完結するようになっており、名前だけでなく、使い勝手まできちんと「クラウド」していることになる。こういったあたりは、実にうまく作り込まれている印象だ。
意外に高性能で多機能
話題が前後してしまったが、基本的な部分についてチェックしていこう。本体は、辞書のような厚めの本をイメージさせるデザインで、サイズもちょうと同じくらいになっている。
構成はシンプルで、前面は動作状況を示すLEDがあるのみで、背面もUSB3.0ポートと1Gbps対応のLANポート、電源ポートがあるのみとなっている。基本的に電源オンのまま使うという発想なので、電源スイッチも搭載されない。
冒頭でも触れたように、ストレージは3.5インチHDDが1台内蔵されたシングル構成となっており、RAIDなどの障害対策は利用できない。データの保護を目的とするのであれば、USBポートを利用して定期的に本体のデータをバックアップするという使い方になるだろう。
CPUは公開されていないが、ベンチマークテストを実施した限りでは、以下のようになかなか性能は高く、実際にファイルをコピーしたり、各種設定を実行したり、動画をストリーミング配信したりしても、ストレスを感じるようなことは一切なかった。
機能的には、一般的なファイル共有やユーザー管理(グループ管理可)に加えて、DLNAサーバー、iTunesサーバー機能、USBバックアップ、リモートバックアップ(WD Cloud同士でのバックアップ)、カメラバックアップ(USB接続したカメラからのデータの転送)、HTTPやFTPダウンロード機能などを搭載する。
また、クラウドアクセスとして、前述したWDcloud.jp経由でのアクセスが可能となっており、PCからブラウザでファイルを参照したり、スマートフォンアプリからファイルを参照・アップロードしたりすることができる。
このほか、PC向けのソフトウェアとして、データバックアップ用の「WD SmartWare」、データアクセス用(リモートも対応)の「WD Cloud Desktop」、データ同期用の「WD Sync」なども提供される。
興味深いのは、このクラスの製品としては珍しく「アプリ」と呼ばれる機能追加にも対応している点だ。WordPressなど数が少ないうえ、家庭であまり使うものは用意されていないが、高性能なNASと同様にアプリの追加によって機能を拡張することも可能となっている。
家庭向けということで、当初あなどっていた部分もあったが、実力としてはかなり高いレベルにある製品と言えそうだ。
「スマートフォン=プライベート」を理解している
機能の中でも注目したいのは、やはりスマートフォン向けの機能だろう。冒頭でも触れたWDcloud.jpにアカウント(メールアドレスとパスワード)を登録すると、そのアカウントを使って、スマートフォン用のアプリ「WD Cloud」から本体のストレージにアクセスできるようになる。
便利なのは、標準で、誰もがアクセス可能な「Public」と自分専用のホームフォルダーが用意され、用途によって使い分けができる点だ。
スマートフォンの場合、写真など、保存されているデータはプライベートなものであることが一般的だ。他のNASやクラウドサービスと同様に、本製品でもアプリの自動アップロードの機能を使って、スマートフォンの写真や動画を自動的にバックアップすることが可能だが、その保存先として、自分しかアクセスできないホームフォルダーをきちんと指定できるようになっている。これなら、自宅に設置して家族で共有してもプライバシーの心配をせずに済むだろう。
また、本製品には、DLNAサーバー機能も搭載されているが、この設定もきちんとプライバシーに配慮されており、Publicは標準でDLNA共有オン、ホームフォルダーは当然DLNA共有オフとなっている。
当たり前のように思えるかもしれないが、こういったプライバシーを考慮していない製品も世の中には少なくなく、保存した写真が、意図せずリビングのテレビから丸見えという場合も少なくない。プライベートなデータをきちんと保護しつつ保管するという当たり前のことが意識せずにできる安心の製品と言っていいだろう。
このほか、スマートフォン向けの機能で特徴的なのは、キャッシュをうまく活用している点だ。標準ではAndroidで1GB、iPhoneで2GBが割り当てられているが、いったんアクセスしたデータはキャッシュに保存されるため、とにかく表示が軽快だ。LTE経由などでも、文書や写真など、一度、表示したデータをサクサク表示できる。
さすがに通信できない状況では、キャッシュがあったとしても、データにアクセスできないが、この手のアプリの中ではかなり軽快感が高いと言って良さそうだ。
動画のストリーミングも快適だ。動画のトランスコードには対応していないため、容量の大きな動画は転送量と回線速度に注意が必要だが、LTE経由でもファイルをタップ後、早く再生が開始されるうえ、タイムライン上を指定して再生しても反応が素早く、快適に再生できた(Androidは外部アプリで再生するためアプリ次第)。
キャッシュをうまく活用しているとされているが、そうは言っても、前述したようにオフラインでデータにアクセスできるわけではないので、最終的には動画のサイズと回線速度や契約プランを考慮しながらの利用となるだろう。
このほか、Google DriveやOneDrive、Dropboxなどもアプリから利用可能で、アカウントを登録することで、WD Cloud上のデータと各種クラウドストレージをまとめて管理できるようになる。さまざまなアプリを使い分けなくても済むのも、本製品ならではのメリットだろう。
ローカル登録なしに第三者にフォルダーを公開
本製品では、他社製品で不満に感じていた部分が改善されている点が目立つが、外部のユーザーを自分と相手の両方の負担なく招待できるのも、本製品の特徴と言えるだろう。
例えば、仕事などで、外部の協力者を交えてファイルを共有したいとしよう。この場合、従来のNASでは、アクセス制限のない公開用URLを渡すか、ローカルに外部ユーザーを作成しなければならなかったが、本製品ではそういった作業は不要だ。
まず、WDcloud.jpのWebインターフェイスから、外部ユーザーと共有したいファイルやフォルダーを指定し、「プライベートリンク」を指定してメールアドレスで招待する。その後、招待を受け取った相手が、WDcloud.jpに自分のアカウントを作成すれば、そのアカウントでファイルやフォルダーを共有できることになる。
いわばOneDriveなどに近い使い方だ。クラウドサービスでは、共有する際に、相手にサインインを求めることができるが、それと同様に、WDcloud.jpでのアカウントで認証されたユーザーにのみデータを公開することができる。
このため、認証付きのフォルダー共有を簡単に実現できるうえ、ローカル側に余計なユーザーを登録しなくて済み、シンプルな運用が可能になる(パスワード管理も招待した人自身に任せられる)。
相手にWDcloud.jpに登録してもらう必要はあるものの、名前とメールアドレス、パスワードの登録だけと簡単なので、相手を招待する際に手間を心配する必要がないのもメリットだ。
欲を言えば、通常の公開用リンクを作成した際に、パスワードやダウンロード期限を設定できるようにしたり、アクセスの履歴をログで参照できるようにしてほしかったが、外部とのデータのやり取りに使うのも現実的と言えそうだ。
2TBモデルで十分
以上、ウェスタンデジタルジャパンのWD Cloudを実際に試してみたが、ハードウェアとソフトウェア、サービスが、互いに機能を補完しながら、うまく融合しており、個人向けとしてはかなり完成度が高い製品となっている。パフォーマンスも良好で、このクラスのNASとしてはかなり充実した製品だ。
価格は2TBモデルが2TBモデルが2万5800円、3TBモデルが3万4800円、4TBモデルが4万4800円、6TBモデルが6万2800円となっている。一般的な用途を考えると、手ごろな2TBモデルがやはりお買い得と言えるだろう。
NASの入門用としては、手軽さ、使いやすさともに、現時点でかなり高いレベルにあり、個人的にもおすすめできる製品と言える。