清水理史の「イニシャルB」

ルーターは「ホームサーバー」の夢を見るか? Huawei「honor cube」

 モバイル端末で有名なHuaweiから、IEEE 802.11acに対応した据え置き型の無線LANルーター「honor cube」が発売された。2.5インチのHDDを搭載可能な、ホーム向けのサーバーとしても使える同製品の実力を検証してみた。

コンセプトのちゃんぽん

 ホーム向けのサーバーというコンセプトも懐かしいし、同梱されるマニュアルが、この業界ではそこそこ有名な某絵本(こちらを参照)をほうふつとさせるのも、昔を思い出させる。

 Huaweiから発売された「honor cube」は、基本的にはIEEE 802.11ac(867Mbps)に対応した無線LANルーターだが、HDDスロットとHDMI出力を搭載することで、PCやスマートフォンから保存した写真や動画、音楽をリビングで手軽に楽しめる家庭向けのサーバーとしても使える製品だ。

Huaweiの「honor cube」。2.5インチHDDを搭載可能なIEEE 802.11ac対応の無線LANルーター
通信機器としては珍しく、やわらか系のマニュアルが同梱される

 前回、本連載でも採り上げたが、家庭内のデータの保存先としてNASではなく、ルーターのNAS機能を選ぶ人も珍しくなくなってきた。価格も安いし機器の1台で済むので、NASほど高度な機能が必要ないなら、ルーターでも十分という発想だ。

 このhonor cubeは、これをもう一歩進めた製品で、であれば「いっそのことルーターにHDDを内蔵してしまえ」という発想の製品となっている。

 もちろん、これはすでに存在するアノ製品と同じ発想だ。というか、このhonor cubeは、いろいろな製品から面白いアイデアを集めた「ちゃんぽん」的な製品となっている。

 意図してか、意図せずにかはわからないが、前述したようにホーム向けサーバーというコンセプトやマニュアルはWindows Home Serverを思い起こさせるし、デザインや機能はAppleのAirMac Extremeを意識せざるを得ない、詳しくは後述するがHDMIでテレビに接続してリモコンで写真を見るといった使い方に至ってはバッファローの「おもいで箱」に通じるものがある。

 いやもちろん、Windows Home Serverが復活すれば……、AirMac Extremeのストレージをもっと汎用的に使えれば……、おもいで箱にファイル共有機能が搭載されれば……、と筆者も常々思ってはいたが、まさかそれをほかのメーカーが別の製品として実現してくるとは考えもしなかった。

 そういった意味では、この製品のコンセプトはとてもいい。ユーザーが欲しいと感じていつつも、今までの製品に足りなかった機能を埋めるのだから、素直にその登場を歓迎すべきだろう。

 しかしながら、個人的に人に勧めるか? と言われると、おそらく条件付きで、と注文を付けたくなる。

 税込みで1万3824円(HDDなし、同社公式オンラインショップにて)という価格を考えれば、ぜいたくと言われるかもしれないが、日本のネットワーク事情を考えると、がまんを強いられる部分がいくつか見えてくる。

2チップセット2システム

 それでは製品を見ていこう。外観は、先にも述べた通り、AirMac Extremeに近い。サイズ的には一回り小さく、重量も軽いが、色も角を丸めた四角柱である点も同じだ。このため、既存のルーターやNASと比べると、家庭に設置しても違和感がない。

 前面には電源ボタンがあるのみで、各種インターフェイスは背面に集中している。WPSやクイック転送ボタン、音声出力用のスピーカー端子、ストレージやマウスを接続可能なUSBポート、画面出力のHDMIポート、データ取り込み用のSDカードスロット、そしてLAN×2/WAN×1のネットワークポートとなる。

正面
背面
上部のカバーを取り外すとHDDを装着可能。2.5インチのHDDを、ネジを使わずにマウントできる

 残念なのはネットワークポートだ。LAN×2、WAN×1という数は、ガマンできるとしても、対応する規格が10BASE-T/100BASE-TXとなっている。

 確かにIEEE 802.11ac対応の無線LANルーターでも、普及価格帯のモデルであれば有線LANが100Mbps止まりという製品は少なくないが、Gigabitが当たり前となっている家庭のブロードバンド事情を考えると、ここが速度のボトルネックになってしまうのは、惜しい印象だ。

 その一方で、ユニークなのがCPUなどのコア部分とOSの構成だ。本製品は、無線LANルーターの機能と、HDMI接続でテレビの画面を見ながらリモコンで操作するSTB機能の両方を1台で実現しているが、それぞれの機能を別のチップセット、別のOSで制御する2チップセット2システム構成となっている。

 具体的には、ルーター部分はDual Core 1.0GHzのプロセッサでOSはLinux、STB部分は1.5GHzのDual CoreプロセッサでOSはAndroid(4.2 Jelly Bean)となっている。

 何と複雑な、と言いたくなるところだが、このような構成にすることで、HDMI接続で動画を再生しながら、無線LANの通信をさばくなど、異なる用途での同時利用を快適に実現できるように工夫している。

 機能的にも、ニコイチ、サンコイチといった印象の製品ではあるが、ハードウェア的にも本当にニコイチの構成というわけだ。

おぜん立て通りに使う分には簡単

 使いやすさという点でもよく考えられている。「トム」と「スー」という登場人物の紹介から始まるマニュアルもわかりやすいが、HDMI接続が可能なことでテレビの画面を見ながら、リモコンで簡単に設定することができる。

 インターネット接続を自動検出するので、基本的には設定画面の管理者パスワードも兼ねる無線LANのパスワードを設定し、必要に応じてHDDのフォーマット(初回は画面にメッセージが表示される)を実行すれば、すぐに利用可能になる。

HDMI出力を利用すれば画面を見ながら簡単に初期設定が可能
付属のリモコン

 試しに、メモリカードから写真を取り込んでみた。デジタルカメラのメモリカードを背面に装着後、「クイック転送」ボタンを押せば自動的に写真や動画が取り込まれ、リモコンを使って写真を表示したり、動画を再生することができた。

 筆者宅では家族用(主に子供用)のデジタルカメラとして、ソニーのDSC-WX220を利用しているのだが、このデジタルカメラでは、標準では動画をAVCHD 60i 17Mで保存する設定になっている。この動画は、バッファローのおもいで箱(PD-1000)ではなめらかに再生することができないのだが(当初はインターレース動画の再生に問題があり、ファームウェアがアップデートされたが、それでもなめらかさに欠ける)、本製品では非常にスムーズに再生することができた。

 おもいで箱ほど、手軽さや優しさは感じられないが、ネットワーク経由でファイルを読み書きできるというアドバンテージがあり、テレビにつなぐメディアプレーヤー兼ストレージという用途としては、なかなか優秀だ。

写真の取り込みなども簡単にできる
写真は日付ごとに整理される
動画の再生もスムーズ

 ただし、この手軽さは、あくまでもhonor cubeをメインのルーターとして利用する場合の話だ。

 例えば、すでに無線LANルーターを所有している場合は、本背品を無線で接続可能なストレージ兼STBとしてのみ使いたいというケースもあるだろう(要するにルーター機能を使わない)。

 一般的な無線LANルーターであれば、本体のスイッチをアクセスポイントモードに切り替えれば、すぐにルーター機能やDHCPサーバーが無効になるが、本製品ではそういったスイッチも設定もない。

 PCから設定ページにアクセスし、手動でNATを無効にしたり、LAN側ポートのIPアドレスを固定で設定したり、DHCPサーバーを無効化したりすれば、アクセスポイント的に使うことも可能だ。しかし、WANポートはLANポートして使うことはできなかったり、後述するスマートフォン用のアプリ(HiLink)からhonor cubeの認識できなくなってしまう(アプリの接続先がデフォルトゲートウェイ固定)。

 このため、別のルーターを生かしたまま、本製品を使う場合、いわゆる二重ルーターの構成が避けられない。しかも、100Mbps制限。という困った状況になる。

 PCやネットワーク機器に不慣れな層をターゲットとした製品である以上、わかりやすさを重視したり、サポートの負荷を軽減するために、あらかじめネットワーク構成を決め打ちし、決められた環境の中で使わせるというは、よくある手法ではあるが、そこから外れる可能性があるユーザーをまったく想定しないのは、少々、乱暴だ。

手動で設定すれば、完全にではないが、アクセスポイント的に使うことも可能
honor cube以外の無線LANやルーターに接続した場合、同一ネットワーク上にhonor cubeが存在したとしても、スマートフォン用のアプリは使えない

PCやDLNA対応機器からもアクセス可能

 PCからのファイル共有に関しては、一般的なルーターのNAS機能とほぼ同等だ。「\\mediarouter.home」やIPアドレスでアクセスすると、「HonorCube」という共有名から本体に装着したHDDにアクセスできる。

 一般的な無線LANルーターのファイル共有機能は、NASと異なり、共有フォルダーなどが自動的に設定されるが、本製品も同様に自動的のHDDが共有され、その共有名を変更したり、新しい共有フォルダーを作成することはできない。

 HDMI接続のユーザーインターフェイスを利用すれば、ネットワーク共有に対してユーザーとパスワードを設定して認証を求めることもできるが、設定できるユーザーは1人のみで、全共有フォルダーに共通の設定となる。

 このため、あくまでも用途はアクセス制限が必要ない家庭向けであり、SOHOなどでの利用には適していない。

共有フォルダーは自動マウントのみ。アクセス権も1ユーザーのみ設定可能

 なお、ファイル共有のパフォーマンスについてだが、共有フォルダーの設定が特殊なため(読み書き可能なフォルダーがHonorCube共有配下の「ハードディスク」フォルダーからになる)、今回はCrystalDiskMarkを利用した計測ができなかった。

 そこで、4GBのISOファイルをWindows 10から手動でコピーし、そのときのダイアログの転送速度を読み取ったが、読み込み、書き込みともに11MB/s前後となった。明らかに100Mbpsの壁に当たっており、ネットワークがボトルネックになってしまっている。せっかくのSATA接続、高速なプロセッサも生かされていないのは、実にもったいないところだ。

有線接続時のファイル転送速度は11MB/s。100Mbpsがボトルネックになる

 このほか、個人的に気になったのは、ファイル共有に関する設定がHDMI接続でしか設定できない点だ。

 本製品は、HDMI接続時の設定画面とブラウザからアクセスした設定画面の両方から機能を設定することが可能となっているが、ファイル共有時のパスワード設定の項目はブラウザの設定画面では表示されない。

 ネットワーク設定など、一部、共通の設定項目もあるが、前述した通り、本製品では2チップセット2システムの構成が採用されていることから、機能ごとに設定も使い分ける必要がある。

 実際、無線LANやルーター関連の設定は、ブラウザからのみ可能でHDMI接続時の設定画面には表示されない。2システムという構成はユニークだが、その分、設定も2つに分かれてしまうため、どちらで設定すればいいのかに迷ってしまうことがあるのは難点だ。

HDMI接続での設定とブラウザでの設定を使い分ける必要がある。2システムである以上、ある程度は仕方がないが、混乱しがち

スマートフォンのバックアップも可能

 最後に、スマートフォン向けの機能だが、同社製のルーターなどでも採用されているHiLinkというアプリを利用することで、スマートフォンからhonor cubeに接続できる。

 転送速度をリアルタイムで確認したり、ゲストWi-Fiを有効にすることなどができるが、このアプリのリンクから「MyTime」というアプリをダウンロード(Android版はGoogle Playからのダウンロードではないため、提供元不明のアプリのインストール許可設定が必要)することで、honor cube上の写真などを参照したり、スマートフォンの写真、音楽、動画を自動的にhonor cubeにバックアップしたり、付属のリモコンの代わりにスマートフォンの画面上でhonor cubeを操作できたりする。

HiLinkを利用することで通信速度を確認したり、ゲストネットワークを有効化できる
MyTimeを利用するとhonor cubeのデータを参照可能
写真なども表示できる

 手元のAndroid環境では、手動でのファイルアップロードは問題ないものの、自動バックアップを設定しても自動的にバックアップが実行されない場合があったが(別のバックアップアプリと競合していた可能性がある)、iPhoneからは問題なく利用できた。

 スマートフォンからバックアップする際は、端末ごとにユーザー名を指定することが可能となっており、ユーザーごとに「\\honorcube\ハードディスク\public\ユーザー名」というフォルダーが作成され、そこに個別にデータが保存される。

 このあたりは、一見、家族での利用なども想定しているように見えるが、端末ごとに作成されたアカウントは、アクセス制限がないため、ほかの端末からも見えてしまう。

 例えば、お父さんのAndroidから写真をバックアップ後、お母さんのiPhoneからMyTimeを起動し、ユーザー切り替え画面でお父さんのアカウントを選択すると、その写真をお母さんの端末から参照できることになる。

 何と恐ろしいことか!

 もちろん、ファイル共有に関してもアクセス制限はかからないため、PCから「\\192.168.3.1\HonorCube\ハードディスク\public\ユーザー名」にアクセスすれば、家族の端末からバックアップされた写真を見放題だ。

 ホームサーバーと名乗るのであれば、少なくとも複数ユーザーでの利用は想定すべきだろう。それができないのであれば、スマートフォンのようなプライベートな情報が満載された端末から利用できるようにすべきではない。

自動的に写真をアップロードすることもできる
複数端末で利用することも可能。アカウントごとにデータは保存されるが、参照は各端末から自由に可能なので、プライバシーには注意が必要

惜しい製品

 以上、Huaweiから発売されたhonor cubeを実際に使ってみたが、コンセプトはいいものの、細かなツメが甘い印象だ。

 100Mbpsであることはコストの問題だからと納得できなくもないが、ユーザーの環境を固定しすぎている点、ホーム向けと言いながら複数ユーザーでの利用を想定していない点は、個人的には納得できない。

 ルーターのUSBポートに自分でHDDを接続するケースであれば、あくまで簡易的な機能、オマケの機能と割り切ることもできるが、本体にHDDを内蔵し、「ホームデバイス」と名乗るのであれば、家族それぞれが個別に使える方法も研究すべきだ。

 もしも購入するのであれば、ネットワーク経由でファイルを転送可能なSTBとして割り切って使うべきだろう。前述したように、デジタルカメラなどからのデータの取り込みは簡単だし、動画の再生などもスムーズなので、使い勝手はとてもいい。保存するデータは、みんなでテレビで見るための家族共有の資産のみと意識して使えば問題ない。

 価格も手ごろで面白い製品ではあるが、いろいろな意味で「惜しい」製品と言える。今後のブラッシュアップに期待したいところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。